
たくさんの取引やお問い合わせなどが含まれる電子メールに税務調査が入ると、
「大量のメールの中でどの部分が調査の対象になるのだろう?」
「今まで電子メールの保存の仕方で大丈夫なのだろうか?」と不安に思うかもしれません。
実際、税務調査で電子メールが調査の対象となる事はありますし、問題となるケースも存在します。この記事では電子メールが税務調査で対象となるケースや問題となり得るメール、そしてそれらに対する対策について詳しく解説します。この記事を読み、税務調査で電子メールがどのように扱われるか理解していただくことで、不安を解消し適切な対策をしましょう。それでは、具体的なケーススタディや対策について詳しく見ていきます。
目次
1.税務調査で電子メールが調査対象となるケース
税務調査では、取引が正確に行われたのか確かめるために、電子メールが重要な証拠として調査対象となることがあります。通常、税務調査は帳簿や決算書、契約書や領収書など紙媒体やデータ記録を基に進められますが、それだけで確認できない事項が発生した場合には、より詳細な調査として電子メールを確認することがあります。
電子メールが調査対象となる具体的なケースは以下の通りです。
・売上の隠蔽や記帳漏れがある
・架空の取引の疑いがある
・個人支出を会社経費として計上している
・その他の不正もしくは税務上の問題がある
1-1.売上の隠蔽や記帳漏れがある
売上が銀行口座に入金されているのに帳簿に記載されていない場合、税務署はこの不自然な動きに注目し、売上を隠しているのではないかと疑います。そのため、税務署は関連するメールの確認を行うことがあります。例えば、「売上データを添付します」とのメールが見つかり、その添付ファイルを確認すると、実際の売上額や取引内容が帳簿と異なっている場合には、隠された取引なのではと問題視されます。
1-2.架空の取引の疑いがある
実態のない取引先と契約し、経費として計上している場合、税務署はその取引先の存在を確認します。例えば、ある会社が架空の仕入れ先から商品を仕入れたことにして経費を水増ししていた場合、税務署は仕入れ先の住所や電話番号を調べ、不明な点が多い場合には、仕入れ先とのメールを確認します。
1-3.個人支出を会社経費として計上している
個人のプライベートな支出を会社の経費として計上している場合、その経費が正当なものかどうかを調べるためにメールが確認されます。例えば、経営者が家族旅行の費用を「出張費」としていた場合、その支払いに対する領収書や取引先とのやりとりが調査されます。旅行の予約確認メールが見つかると、それが会社の経費ではなく個人の支出であったことが明らかになります。
1-4.その他不正取引もしくは税務上の問題がある
帳簿や経費に不審な点が見つかると、その詳細を確認するためにメールが調査されます。例えば、会社の経費に不正な支出が多く、税務署がその経費の正当性を疑った場合、関係者のとのメールのやり取りが調査されます。例えば「この費用はあとで補填するので、今は経費に計上しておいて」といった内容のメールが見つかると、不正経費の証拠として使われます。
2.税務調査で対象となるメールの種類
税務調査では、企業が適正に税務処理を行っているかどうかを確認するため、さまざまな記録や情報が調査されます。その中でも、メールは取引や経費の内容、さらには企業内での意思決定に関する重要な情報を確認するための手段です。ここでは、税務調査で特に注目されるメールの種類について、以下の3つの種類に分け具体的に説明します。
・取引に関する記録
・経費に関する記録
・その他重要な情報
2-1.取引に関する記録
税務調査では企業の取引が正当であるかを確認するために、取引に関するメールが調査されます。取引先とのやりとりにおいて、取引内容や契約条件、価格交渉などが記載されているメールは税務署にとって非常に重要な証拠となります。メールを通じ、実際に取引が行われたか、取引条件が適切であるかを確認することがあります。
2-2.経費に関する記録
経費の計上についても、税務調査で注目される点です。企業が経費として計上した支出が適正であるかを確認するため、経費に関連するメールが調査対象となります。例えば、高額な経費に関するメールや架空の経費が計上されていないか確認するためのメールは実際に業務に関連しているか、また架空の経費が計上されていないかをチェックするために使います。
2-3.その他重要な情報
税務調査では、取引や経費に関するメールだけでなく、その他の重要な情報が含まれるメールも調査の対象となります。例えば、特定の税務上の問題を避けるための社内戦略や、会社の経営方針に関するやり取りがこれに当たります。例えば、「次年度の税負担を軽減するために、特定の経費を見直すことを決定しました」といったメールや、「新しい市場に進出するための経営計画について役員会議で話し合いました」などのやり取りです。これらのメールは、企業がどのようにして税務リスクを避け、経営の方向性を決定しているかを示します。税務署はこれらを手掛かりに、企業が適切な税務処理を行っているかどうかを確認します。
3.電子メールが税務調査で問題となるケース
税務調査において、電子メールは重要な証拠となりますが、その取扱いや保存方法に不備があると、課税の誤りや重加算税の適用を招くリスクがあります。以下に、電子メールが税務調査で問題となる代表的なケースについて説明します。
・虚偽の記載や改ざんがある
・不適切な保存方法である
・問題となるメールを削除している
3-1.虚偽の記載や改ざんがある
税務調査の過程で、企業や個人が電子メールに虚偽の記載をしたり、内容を改ざんした事実が判明した場合、重加算税が課される可能性があります。例えば、日用品販売業者が取引先から商品を仕入れる際、実際には「15%引きで翌月末支払い」と約束していたメールがありました。しかし、この業者はそのメールを「通常価格で即時支払い」という内容に改ざんしました。これにより、仕入れ価格を実際よりも高く見せようとしたのです。ところが、税務署が取引先にもメールを提出させた結果、取引先の側には元の値引き内容が残っていたため、改ざんが発覚しました。このように、虚偽の内容が明らかになると、税務署は虚偽申告と判断し、重加算税が課されることがあります。
3-2.不適切な保存方法である
電子メールの保存方法に問題がある場合、税務調査時にその内容が証拠として認められないことがあります。電子メールでの取引は保存が義務付けられており、保存期間は原則7年です。また、法人で赤字になった際に翌年以降に赤字を繰り越す欠損金の繰越控除を受ける場合、保存期間は10年となります。電子帳簿保存法で定められた電子メールの保存方法は以下の通りです。
・検索すればいつでも見られる状態にする
・データの改ざん防止をしている
3-2-1.検索すればいつでも見られる状態にする
保存する際、ファイル名に「年月日・金額・取引先」をつけることで検索しやすく整理します。またはExcelなどで索引簿を作成し、一覧にして管理することで、いつでも内容を確認できる状態にします。
ただ、以下の条件を満たす場合はこれらの検索条件が不要になります。
・2年前の売上が5000万以下
・書類がきちんと整理されている(電子データもあり、プリントアウトし、取引先年月日ごとに整理されている)
3-2-2.データの改ざん防止をしている
データの改ざん防止も義務になりました。以下のいずれかを導入することで、「データの改ざん防止策をきちんと行っている」と見なされます。
・タイムスタンプ導入
・メールの削除に関する社内規定がある
・訂正や削除の履歴がある
これらの要件を満たさず適切な保存方法がとられていない場合は、証拠として認められず申告が不適切と判断され、重加算税が課せられることがあります。
3-3.問題となるメールを削除している
問題となるメールを削除することは、その事実を隠そうとしていると見なされ、結果的に重加算税がかかるリスクがあります。メールを適切な証拠として保存していないと、税務当局から不利な推定課税を受ける可能性も高まります。ただしメールを削除したとしても、デジタルフォレンジック技術を使うことで復元できる場合があります。デジタルフォレンジックとは、コンピュータや携帯電話、ハードディスクなどの保存媒体を調査・解析して証拠を集める技術です。不適切な支出や横領などの問題が起こった場合、この技術を利用して必要な証拠を集めることができます。ですので、企業や個人はメールを削除せず、適切に保存する体制を整えることが大切です。
4.税務調査でメールの開示要求の拒否はできない
税務調査では企業や個人の税務申告の正確性を確認する一環として、電子メールの開示を求められることがあります。この場合、基本的に開示要求を拒否することはできません。なぜなら、税務当局には法律に基づく調査権があり、必要な情報を確認する権限が認められているからです。
4-1.税務調査のメール開示要求には応じるべき理由
税務署の調査官は、国税通則法第74条の2に基づく「質問検査権」を有しており、納税者や関係者に対して必要な質問をしたり、帳簿・書類の提示を求めたりする権限を持っています。この権限に基づき、税務調査では取引の実態や申告内容確認のために、電子メールの開示が求められることがあります。
開示を拒否すると、税務当局は「必要な情報を隠している」と判断することがあります。また正当な理由なく質問検査権の行使に協力しない場合、税務当局は「推計課税」を適用し、納税者にとって不利な形で課税所得を計算することがあります。
さらに質問検査権の拒否や妨害が悪質だと判断されると、国税通則法第128条に基づき「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」が課される可能性があります。そのため、税務調査では正当な範囲で誠実に対応し、必要な情報を適切に提供することが重要です。
4-2.電子メールの調査範囲
税務調査で対象となるメールは、取引に関する記録、経費に関する記録、その他重要な情報に関わるものです。これには契約内容の確認メール、請求書の送受信メール、経費精算の申請・承認メール、税務処理に関する社内指示メールなども含まれます。
4-2-1.原則として過去5年分のメールが対象
税務調査では、原則として過去5年分(悪質な場合は7年分)が対象となります。メールも、電子取引データとして保存義務のある書類に該当するため、最低5年分は適切に管理する必要があります。
4-2-2.税務申告や取引内容に関係するメールのみ開示
調査対象となるのは、税務申告や取引内容に関係するメールのみです。そのため、税務当局が求める範囲内で関係するメールを開示すればよく、業務に無関係な個人メールなどは対象外です。
5.電子メールが税務調査を受ける際の対策
税務調査で電子メールが調査対象となる場合、適切に管理しておくことが非常に重要です。調査の際にスムーズに必要な情報を提供できるよう、日ごろからメールを適切に管理・保管することが求められます。以下は、税務調査に備えるための具体的な対策です。
・差出人別やカテゴリ別のフォルダに分け管理を徹底する
・メールの削除に関して社内規定の整備をする
・税理士と連携して事前準備をする
5-1.差出人別やカテゴリ別のフォルダに分け管理を徹底する
必要なメールを迅速に見つけられるよう、差出人別やカテゴリ別にフォルダを作成し、メールを整理しておくことが大切です。例えば取引先ごとにフォルダを作成したり、経費、契約、請求書といったカテゴリに分類することで、必要なメールを素早く取り出せるようになります。こうすることで、税務調査の際にメールを探し回る手間が省け、必要な情報を迅速に提供できるため、調査の遅延を防ぐことができ、調査官からの信頼を得やすくなります。
5-2.メールの削除に関して社内規定の整備をする
税務調査の際に、不要なメールが削除されていた場合、それが問題視される可能性があります。そのため、メールの削除に関して明確な社内規定を整備することが重要です。具体的には、メールの保存期間や削除のタイミングを定め、必要なメールを誤って削除しないように管理します。また、メールの削除に迷った場合、削除せずにアーカイブして保存することを推奨します。これらにより、調査前に誤って必要なメールを削除してしまうリスクを避けることができ、税務調査中に不明点が生じにくくなります。
5-3.税理士と連携して事前準備をする
税務調査に備えるためには、税理士と連携し、事前に準備を進めることが大切です。税理士は税務調査のプロフェッショナルであり、調査対象となりやすいメールやデータを事前に整理しておくアドバイスをくれます。税理士と共に、メールの管理方法や保存方法について確認し、問題がないか事前チェックすることで調査官からの要求に即座に対応できる準備を整え、調査中のトラブルを最小限に抑えることができます。
6.電子メールの税務調査に強い辻・本郷 税理士法人のサポート活用をご検討ください
税務調査における電子メールの管理は、正確で迅速な対応を求められるのが重要なポイントです。
辻・本郷 税理士法人は国税庁OBが90名以上在籍しています。税務調査のプロフェッショナルが、税務調査の事前準備から調査対応までサポートし、調査中のリスクを最小限に抑えるための戦略を提供します。税務調査に不安がある場合や、メール管理において疑問がある場合は、辻・本郷 税理士法人の専門サービスを活用して、安心して調査に臨みましょう。
7.まとめ
税務調査では売上や取引などの正確性を確認するため、電子メールもチェックされることがあります。対象となるケースとしては、以下のようなものがあります。
・売上の隠蔽や記帳漏れがある
・架空の取引の疑いがある
・個人支出を会社経費として計上している
・その他の不正もしくは税務上の問題がある
また、対象となるメールは
・取引に関する記録・経費に関する記録・その他重要な情報
であり、その中でも問題視されるメールとしては
・虚偽の記載や改ざんがある・不適切な保存方法である・問題となるメールを削除している
場合です。また、税務調査では法律によりメールの開示を拒否することはできません。
電子メールの税務調査に対する対策としては
・差出人別やカテゴリ別のフォルダに分け管理を徹底する
・メールの削除に関して社内規定の整備をする
・税理士と連携して事前準備をする
をすることができます。
この記事を読み、万全の準備をして自信をもって税務調査に臨みましょう。