
「自社だけ税務調査が何度も行なわれるのはおかしい。不公平だ!」
そう感じている人もいるのではないでしょうか。
税務調査は平等に行われるわけではありません。業界による頻度の違いはあるものの、同じ業界の法人であっても1~2年おきに対象になることもあれば、10年以上税務調査が行われないこともあります。
税務調査の対象となるのは、運が悪いからなのか、それとも何らかの理由で税務署から動向を注視されていることが原因なのでしょうか。
実は、「税務調査をすべき対象」の選定には、KSKシステムの情報も影響を与えているのです。
本記事では、KSKシステムの仕組みとともに、税務調査の対象として選ばれやすい状況について解説しています。
目次
1.KSKシステムは、税務調査の必要度が高い納税者を抽出するために活用されている
KSKシステム(国税総合管理システム)は、客観的に税務調査の必要度が高い納税者を抽出するために活用されています。
KSKシステムには、個人・法人にかかわらず、税金に関する申告書や納税の情報が記録され、全国の国税局や税務署で共有されています。税務署では、これらの記録を分析することで、滞納整理などのさまざまな業務に利用しています。
もし納税者が申告した内容に不自然な数値があった場合は、KSKシステムは異常値として検出します。そのため、KSKシステムは多くの納税者の中から「税務調査の必要度が高い納税者」を抽出する上で、大きな役割を果たしているのです。
調査官は、税務調査の対象者の選定する際、過去の申告書や決算書など、さまざまな情報と照らし合わせ、その必要性の有無を判断します。
調査の対象者を選定の情報源のひとつがKSKシステムであり、税務調査の対象者の選定に大きな影響を与えることは否定できません。
1-1.KSKが相続税で使われる代表例 ― 「相続についてのお尋ね」が届くまで
相続税を負担する可能性がある相続人に「相続についてのお尋ね」が届くのは、KSKシステムを利用していることが理由です。
「相続税についてのお尋ね」は、以下の4つのステップを経て届けられます。
①死亡届を提出→税務署に情報通知
②KSKシステムにより、被相続人の資産を把握
③相続税の対象者の絞り込み、「相続税についてのお尋ね」を送付
税務署から届く相続人(相続で故人の財産を受け継ぐ人)宛の「相続についてのお尋ね」は、すべての相続人に届くわけではありません。「相続税が発生する可能性が高い人」に届く書類です。
①死亡届を提出→税務署に情報通知
市区町村役場に死亡届が提出されると、死亡の事実とともに故人が所有していた固定資産(土地・建物)などの情報も併せて税務署に通知されます。
②KSKシステムにより、被相続人の資産を把握
税務署は、KSKシステムを使って被相続人(財産を残して亡くなった人)の所得税や固定資産税などの過去の申告データから財産を把握します。
③相続税の対象者の絞り込み、「相続税についてのお尋ね」を送付
相続税が発生する可能性がある相続人に対し、「相続についてのお尋ね」を送付します。
なお、被相続人の資産を鑑みて、相続人が申告した相続税額が明らかに低い場合には、税務調査の対象になる可能性が高くなります。
KSKシステムにより税務署は、相続税を納めた相続人だけでなく、被相続人の情報から細かく把握・調査することができるのです。
2.KSKシステムの仕組み
KSKシステムは、全国12か所の国税局と524か所の税務署を専用ネットワークでつなげ、国民の申告や納税に関する情報をデータベース化し、一元で管理しているコンピューターシステムです。
出典:国税総合管理(KSK)システム 参考資料|e-Govポータル
KSKシステムには、個人・会社に関わらず、提出された申告書や納税したデータなど、さまざまな情報が送られ、管理されています。その情報は、すべての国税局や税務署で利用が可能です。
自ら申告していなくても、大きな資産を購入するなどお金が動く場合、何らかの形で税金を負担していることが多々あります。そのため税務署では、お金の動きの多くを確認できるといっても過言ではありません。
KSKシステムは、平成7年から導入が始まり、平成13年からは全国で運用を開始しました。つまり、税務署では過去20年以上前の税金の流れを遡れるということになります。
また、KSKシステムを利用することで、税金に関する手続きの迅速化や簡略化につながるため、納税者にとってもメリットが大きいといえるでしょう。
3.KSKシステムで、税務調査の候補になりやすい会社とは?
税務署は、KSKシステムなどで税務調査の対象者を抽出する基準を明確にしていません。
ただし、以下のようなケースに該当する場合は、注意が必要です。
- 過去の申告と比較し、不自然な数値の変化がある
- 経営者の資産と収入がアンバランス
3-1.過去の申告と比較し、不自然な数値の変化がある
自社の過去の数値と比較し、大きく変化した場合は注意が必要です。
急な売り上げの減少や経費の急増など、KSKシステムにとって想定を越えた大きな数値の動きがあった場合、異常値として認識される可能性があります。
業務上、やむを得ない数値の変化が起こる場合もあるでしょう。特に数値に大きな動きがあったときは、税務調査の可能性を踏まえ、その背景を説明できる証拠を保管することをおすすめします。
3-2.経営者の資産と収入がアンバランス
経営者の収入がそれほど多くないにもかかわらず、高額な資産を取得している場合は、疑いをもたれるかもしれません。
KSKシステムでは、法人だけでなく個人の所得税の申告状況などを把握することも可能です。
経営者が所得や財産の状況に見合わない高額な資産を取得した場合、経営者個人や会社が税務署から調査の対象になる可能性があります。
4.令和8年9月に新システム「KSK2」の運用開始予定
令和8年9月24日に新システム「KSK2」の運用開始が予定されています。
現在運用しているKSKシステムとは、大きくは3つの違いがあります。
①事務処理が書面からデータへシフト
②税目を横断的に一元管理
③調査官が外出先からでもアクセス可能
KSK2は、以下のようなシステムイメージになっています。
出典:Ⅱ 納税者サービスの充実と行政効率化のための取組|国税庁HP
①事務処理が書面からデータへシフト
これまで税務署では、紙ベースの事務処理が中心となっていました。KSK2導入後はデータ処理が中心となり、より業務の効率化が図られます。
紙の申告書もAI-OCR(AIを取り入れたOCR技術)を採用し、より効率よくデータ化されるようになります。
②税目を横断的に一元管理
税務署では、担当の税目に限らず、横断的に情報を確認することができるようになります。
税務署は縦割りの組織になっており、現在のKSKシステムでは、担当の税目以外のデータを見ることができないシステムになっています。たとえば、法人税の担当者は、個人の申告書を見ることができないため、実情の把握に時間や手間がかかっていました。
しかし、KSK2では、税目に関係なく一元管理となり、担当外の情報も見ることができるようになります。
そのため、調査官は、より迅速、かつ詳細に問題点を把握することが可能となります。
③調査官が外出先からでもアクセス可能
KSK2の運用開始により、税務調査の現場で過去の情報を確認できるようになります。
KSKシステムは、個人情報保護の観点から厳しく管理されており、庁舎内のみアクセスが可能となっています。そのため、税務調査の現場で過去の申告や納税の状況を確認するためには、手間も時間もかかっていました。
KSK2が運用開始することで、調査官が税務調査の現場からアクセス可能となります。つまり、過去の申告状況や追徴課税など、必要な情報をその場で確認することができるようになるため、より不正や誤りの発見をしやすくなることが予想されます。
5.税務調査対策は、辻・本郷 税理士法人にご相談ください
税務署は、KSKシステムに記録された詳細で幅広いデータを持っており、税務調査の対象になれば、小さなスキも見逃しません。
国税庁はすでに税務調査にAIを活用しており、その結果、2024年6月までの追徴課税が2009年以降で最高額になったことを公表しました。
KSK2が導入されれば、さらに綿密な税務調査になることが予想されます。より慎重な税務調査対策が不可欠だといえるでしょう。
辻・本郷 税理士法人は、税務調査に圧倒的な強さがあります。
最新の税務関連の情報を把握しているのはもちろん、国税庁OBが90名以上在籍しており、税務調査の調査官側の立場から、先回りして対処することが可能です。
ぜひ、辻・本郷の税務顧問サービスにご相談ください。
辻・本郷の税務顧問サービス
6.まとめ
本記事では、税務調査におけるKSKシステム(国税総合管理システム)の役割についてまとめました。
もう一度振り返ってみましょう。
●KSKシステムは、全国の国税庁や税務署をネットワークでつなぎ、すべての確定申告や納税に関する情報などが記録されています。
●税務調査の対象者の選定には、KSKシステムも関与しています。
納税者の申告した内容に不自然な数値があれば、異常値として検出します。つまり、KSKシステムは、「税務調査の必要度が高い納税者」を抽出する上で大きな役割を果たしています。
調査員は、さまざまな情報を踏まえ、税務調査対象者を選定しますが、KSKシステムもその一つとして影響を与えることは否定できません。
●次の特徴に該当すると、KSKシステムの情報を参照して、税務調査の対象者として抽出される可能性があります。
過去の申告と比較し、不自然な数値の変化がある
経営者の資産と収入がアンバランス
●2026年9月に新システム「KSK2」の運用を開始する予定です。
次の3つの点が現在運用中のKSKシステムと大きく異なります。
事務処理が書面からデータへシフト
税目を横断的に一元管理
調査官が外出先からでもアクセス可能
以上、KSKシステムについて、理解を深める一助になれば幸いです。