
企業や個人事業主にとって、税務調査で「使途不明金」を指摘されることは大きなリスクとなります。
使途不明金とは、帳簿上で支出が記録されているにもかかわらず、その具体的な使途や証拠書類が確認できない資金のことを指します。
税務署はこれを「事業に関係のない支出」と判断しやすく、損金(法人税法上認められている経費)として認められない場合は課税所得に加算され、追加の税負担が発生します。
さらに、悪質とみなされれば、重加算税や延滞税などの厳しいペナルティが科される可能性もあります。
そのため、事業の支出に関する記録は、金額・支出先・使途(目的)の3点を明確に残し、適切な勘定科目で計上することが重要です。書類の紛失や記録の不備があると、使途不明金と判断されるリスクが高まるため、慎重な管理が求められます。
この記事では、税務調査で使途不明金を指摘された場合の影響や、具体的な対処法について詳しく解説します。今後の税務リスクを軽減するための予防策も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
1.税務調査で使途不明金と判断されやすい2つの勘定科目
税務調査において「使途不明金」と判断されやすい勘定科目は、「接待交際費」と「雑費」です。
これらの科目は、支出の具体的な内容や目的が不明瞭になりやすく、税務署から疑義を持たれやすいため、適切な管理が求められます。
この章では、それぞれの勘定科目が使途不明金と判断される理由や、リスク回避のためのポイントについて解説します。
1-1.接待交際費
接待交際費は、税務調査で最も使途不明金として指摘を受けやすい勘定科目の一つです。
その理由は、支出の記録が不十分なケースが多いためです。
例えば、飲食店の領収書が残っていても、「どの取引先の誰を接待したのか」「何の目的で行われたのか」が明記されていないと、税務署から「事業に関係のない支出」とみなされる可能性があります。
接待の際に利用した店名と金額が分かっていても、接待相手が明記されていないと、結果的に使途不明金と判断されることがあります。特に高額な飲食費が頻繁に発生している場合は、より厳しく調査されやすくなります。
接待交際費を経費として認められるためには、「誰と・どこで・何の目的で」支出したのかを明確に記録し、領収書や会食記録を適切に管理することが重要です。
1-2.雑費
雑費は、接待交際費に次いで使途不明金と判断されやすい勘定科目です。
雑費は他の勘定科目に当てはまらない支出をまとめて処理できるため、経理上は便利ですが、その分、使用用途が不明瞭になりやすいという欠点があります。税務調査では、支出の詳細が確認できないことが問題視され、使途不明金として指摘されるケースが多くなります。
例えば、業務に関連する文房具や消耗品の購入費を雑費として処理することがありますが、領収書に具体的な品目が記載されていなかったり、支出の目的が明確でない場合、税務調査で「事業に関係ない支出ではないか」と疑われることがあります。
特に、金額が大きい雑費が頻繁に計上されている場合は、税務署から詳しく調査される可能性が高まります。
そのため、雑費の使用は必要最小限にとどめ、できる限り適切な勘定科目(消耗品費、通信費など)を選択することが重要です。また、領収書や支出の記録をしっかり残し、税務調査時に説明できるようにしておくことがリスク回避につながります。
2.使途不明金が税務調査で指摘されたときの3つの対処法
税務調査で使途不明金を指摘された場合、適切に対応しなければ、追加の税負担やペナルティが発生する可能性があります。
しかし、事前の準備と適切な説明によって、税務署の疑念を払拭し、最悪の事態を回避することは可能です。
この章では、使途不明金を指摘された際の具体的な対処法について、重要なポイントを3つ解説します。
2-1.領収書や請求書の代わりになるメモ書きなどがあった場合には、用意しておく
領収書や請求書がなくても、支出の記録を補完できる資料があれば、税務署の指摘を回避できる可能性があります。
領収書や請求書などの証憑類の管理は、日々の経理においては基本中の基本ですが、何らかの理由でこれらを紛失してしまうこともあります。しかしその場合でも、支出の目的や詳細を示すメモ書きや記録があれば、一定の証拠として認められる場合があります。
例えば、取引先との会食費用を証明する領収書を失くしてしまった場合でも、会食当時のスケジュール帳や社内の経費精算書、取引先とのメールのやり取りなどがあれば、接待の事実を裏付ける材料になります。
領収書や請求書がない場合でも、支出の証拠となるメモや記録を残しておくことで、税務署に適切な説明ができるように備えましょう。
※ただし、保存義務のある書類が適切に保存されていなかった場合は、追徴課税などが生じる可能性があります。
※メモ書きなどがなかった場合に偽造してしまうと、発覚したときの追徴課税による税負担が非常に重くなります。偽造は絶対にしないようにしましょう。
2-2.会社で支払うべき費用であったことや、何を目的にした費用だったのかを説明できるようにしておく
使途不明金を回避するためには、「その支出が会社の事業に関係している」ことを明確に説明できるようにすることが重要です。
税務署は、事業とは無関係な支出を経費(損金)として扱うことを認めません。仮に、取引先との打ち合わせ費用や業務上の支出であったとしても、その目的を明確に説明できなければ、使途不明金として扱われ課税所得に加算されてしまうおそれがあります。
例えば、従業員向けの福利厚生費としてスポーツジムの会費を会社が負担していた場合は、その支出が業務に関連していることを証明する必要があります。「従業員の健康促進のために会社で契約した」と説明できるように、社内規程や関連書類を用意しておくと良いでしょう。
税務調査では、支出の具体的な目的や事業との関連性を明確に説明できるよう、事前に準備しておくことが重要です。
2-3.書類や資料の破棄を決して行わない
使途不明金を隠すために書類や資料の破棄などが発覚すると、支出先を明らかにしない「使途秘匿金」とみなされたり、故意に脱税をしようとしたものとみなされ、重加算税などの厳しいペナルティを受ける可能性があります。
過去の税務調査事例でもこのような行為が発覚し、本来の追徴税額のほかに数百万円の加算税を課されたケースもあります。
また、1993年に発覚したゼネコン汚職事件では、支払い先を隠蔽したことから脱税が発覚し、結果、計32人が起訴され、複数人が収賄罪などで逮捕されています。
税務調査においては、正直かつ誠実に対応することが最も重要です。書類の破棄などは絶対に行わず、適切な説明と証拠の提出を心がけましょう。
3.税務調査で使途不明金と判断されたときにどうなるか
税務調査で使途不明金と判断されると、単に経費(損金)が認められなくなるだけでなく、追加の税負担やペナルティが発生する可能性があります。
過少申告による修正申告や、悪質とみなされたケースでは重加算税が科される可能性もあるため、慎重な対応が求められます。
この章では、使途不明金が税務調査で指摘された場合に起こる具体的な影響について詳しく解説します。
3-1.該当する支出は損金算入できなくなる
使途不明金と判断された支出は、損金に算入できません。
経費(損金)として税務署から認められるためには、「事業に関連する支出であること」が証明される必要がありますが、使途不明金とみなされた支出は事業関連性が証明できないものとして、税務上の損金からは除外されます。
取引先との打ち合わせのために支払った飲食費の領収書があっても、具体的な参加者や目的が記録されていなければ、その支出は損金不算入となってしまいます。
損金として計上するためには、支出の記録を詳細に残し、事業関連性を証明できるようにしておくことが重要です。
3-2.損金不算入の分支出が減り、過少申告となる
使途不明金が損金不算入となると、課税所得が増加し、結果として過少申告となる可能性があります。
企業や個人事業主は、実際の利益(所得)から損金を差し引いた額に対して税金を計算します。しかし、税務署が一部の損金算入を認めない場合、その分の所得が増加し、申告した税額が本来支払うべき税額よりも少なくなってしまいます。
例えば、雑費として計上した100万円の支出が、税務署によって使途不明金と判断され損金不算入となった場合、本来の所得が100万円増えるため、それに応じた税金が追加で発生します。
3-3.過少申告の修正申告と追加納税が発生する
税務調査で課税所得の増加が認定されると、過少申告となり、税務署から修正申告を求められます。この際、単に不足分の税金を納めるだけでなく、過少申告加算税や延滞税が発生します。
例えば、経費(損金)の計上ミスで本来の納税額よりも50万円少なく申告していた場合は、修正申告により不足分の50万円を納めるだけでなく、過少申告加算税や延滞税が追加で課される可能性があります。
修正申告のリスクを避けるためにも、日頃から帳簿や損金の管理を徹底し、税務調査で問題が発生しないように準備しておくことが重要です。
3-4.書類の偽造、証拠隠滅などをしてしまうと重加算税が課される可能性もある
税務調査で書類を偽造したり証拠を隠したりすると、通常の追徴課税に加え、重加算税が課されるリスクがあります。
重加算税は、「意図的に所得を隠蔽した」と判断された場合に適用される非常に厳しいペナルティです。損金の水増しや虚偽の証拠提出、帳簿の改ざんなどを行った場合、税務署は悪質な脱税行為とみなし、通常の税金に加えて重加算税を課します。
不正が発覚すると、多額のペナルティが発生するだけでなく、企業や事業主の信用にも大きなダメージとなってしまいます。
3-5.使途秘匿金とみなされた場合、使途秘匿金の40%を法人税として上乗せして納付するだけでなく、重加算税の可能性も高い
税務調査で使途不明金の部分について、支出先を明らかにしない「使途秘匿金」であると判断されると、通常の税負担に加えて別途40%の法人税が上乗せされ、さらに重加算税も課される可能性が高くなります。
税務署は、使途秘匿金を「意図的に支出の目的や相手を隠した資金」として扱い、賄賂や裏金として使われる可能性があるとして厳しい課税措置を設けています。
4.使途不明金について税務調査の前に気をつけておきたい4つの注意点
税務調査では、使途不明金が発生しやすい支出について厳しくチェックされます。特に接待交際費や雑費など、支出の目的や詳細が不明確になりがちな勘定科目は、税務署から疑われやすいため、事前に適切な管理を徹底することが重要です。
この章では、税務調査の前に気をつけておくべき4つの注意点を解説し、使途不明金と判断されないための具体的な対策を紹介します。
4-1.使途不明金と疑われる可能性のある支出は、支払いの目的や詳細をメモに残す癖をつける
支出の目的や詳細を記録する習慣をつけるようにすることで、税務調査時の説明がスムーズになり、使途不明金と疑われるリスクを減らせます。
領収書や請求書があるだけでは、必ずしも損金として認められるとは限りません。特に、支出の詳細が曖昧な場合、税務署は「本当に事業に関係する支出か?」と疑うこともあります。 そのため、具体的な支払いの目的や対象を記録しておくことが重要です。
例えば、取引先への贈答用に購入したギフト券を接待交際費として計上した場合、領収書を保管していたとしても、配布先の記録が「関係者各位」や「取引先」といった曖昧な表現しかないと、税務署から「本当に配布したのか?」と疑われる可能性があります。
曖昧な支出記録は税務署の調査対象になりやすいため、「誰に」「何のために」支払ったのかを明確に記録し、証拠として残しておくようにしましょう。
4-2.法人は特に接待交際費の額、上限、条件に注意する
法人の場合、接待交際費の金額や上限、計上条件を守らないと、税務調査で指摘される可能性が高くなります。
税法上、法人の接待交際費には一定の制限があり、特に支払先の名称・所在地・使途が帳簿に適切に記録されていない場合、経費(損金)として認められません。
また、税法上の上限が資本金や従業員数、業種、事業内容などによって決まっているので、超えないように注意しましょう。
4-3.接待交際費が飲食代の場合、必要な記載事項に気をつける
飲食代としての接待交際費を経費(損金)に計上する場合、税務署が求める記載事項を正しく記録しないと、損金として認められない可能性があります。
税務調査では、飲食費の支出が事業目的であったことを証明するために、接待相手の氏名、会社名、関係性、参加人数など、接待相手の詳細な情報が求められます。
例えば、取引先との会食で5万円の飲食代を支払った場合、「取引先A社の○○部長と商談のために利用」といった具体的な記録がなければ、税務署は「事業に関連する支出かどうか不明」と判断し、使途不明金とみなす可能性があります。
接待交際費として飲食代を計上する場合は、「誰と」「どのような目的で」「何名で」利用したのかを具体的に記録し、領収書と一緒に保管することが重要です。
4-4.領収書、請求書などを紛失しないように管理する
領収書や請求書を適切に管理し、紛失を防ぐことで、税務調査での不必要なトラブルを回避できます。
2-1でもお伝えしましたが、税務調査では経費(損金)の正当性を証明するために領収書や請求書の提示が求められます。紛失した場合、その支出が本当に発生したのかを証明できず、使途不明金として処理されるリスクがあります。
領収書や請求書は、デジタルデータとして保管するなど、紛失防止の対策を講じることが重要です。
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税務調査における使途不明金の指摘は、企業や個人事業主にとって大きなリスクとなります。適切な対策を講じなければ、追加の税負担やペナルティが発生する可能性があります。
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6.まとめ
この記事では、税務調査における使途不明金のリスクと、その対策について詳しく解説しました。
☑︎重要ポイントの振り返り
①税務調査で使途不明金と判断されやすい勘定科目
接待交際費や雑費は特に注意が必要。支出の詳細を記録することが重要。
②使途不明金を指摘された場合の対処法
・領収書やメモがあれば準備し、事業関連性を説明できるようにしておく。
・書類の破棄は絶対に避ける。
③使途不明金と判断された際の影響
・損金不算入となり、課税所得が増加する。
・過少申告加算税や延滞税、場合によっては重加算税が課される可能性がある。
④税務調査前に気をつけるべきポイント
・支出の目的を記録する習慣をつける。
・接待交際費の管理を徹底し、領収書や請求書を適切に保管する。
税務調査で不利益を被らないためには、日頃から適切な経理処理を行い、支出の記録を詳細に残しておくことが重要です。万が一、使途不明金を指摘された場合は、慌てずに適切な対策を講じましょう。
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