
「この支払いは立替金として計上してもよいのだろうか」
「仮払金や貸付金との違いは?」「どのように仕訳すれば正しいのだろうか」
このような疑問を持ち、経理業務が滞ってしまう方は多いのではないでしょうか。
適切な処理ができていないために、税務上のリスクを負ってしまう不安もあると思います。
立替金とは「本来他人が支払うべきお金を、会社が一時的に立て替えたときに使用する勘定科目」です。しかし、会社の費用と区別がつきにくかったり、似た性質の勘定科目が存在するため、混同しやすい勘定科目でもあります。
本記事では、立替金の扱いについて、判断ポイントや具体例を挙げながらわかりやすく解説します。
立替金の正しい処理方法を理解し、経理業務をスムーズに進めることにお役立てください。
目次
1.勘定科目「立替金」とは
勘定科目「立替金」を一言で表すと、以下の通りです。
会社が他人(社内・社外問わず)の代わりに一時的に立て替えて支払ったお金を記録する勘定科目
本来、従業員や取引先が支払うべきお金を、会社側が立て替えたときに使用する勘定科目と言えます。具体的なケースは3章をご覧ください。
ここで重要なのは、「立替金」は経費にはならないという点です。この点で、会社の業務遂行のために負担すべき経費である「立替経費」とは異なります。違いについては5章を参考にしてください。
勘定科目「立替金」を使用することで、以下のようなメリットがあります。
- 会社の負担すべき費用と他人のために立て替えた費用を区別できる
- 立替分の管理・回収がしやすくなる
- 経理の透明性が高まり、税務上の誤認リスクを減らせる
立替金として適切に処理するためには、3つの判断ポイントがあるので、次で解説します。
2.「立替金」として計上できる判断ポイント3点
「立替金」として計上するときは、以下の3つのポイント全てを満たしているかを判断基準にしてください。「立替金」が発生する具体的なケースについては、3章をご参照ください。
1 | 会社が他人に代わり支払ったものである |
2 | 短期間のうちに返金されることが前提である |
3 | 金額・内容・相手が明確である |
2-1.会社が他人に代わり支払ったものである
「本来他人が支払うべき金銭を、会社が一時的に立て替えて支払ったもの」であることがポイントの1つです。ここで言う「他人」とは、社内外を問わず、従業員や取引先などのあらゆる第三者を指します。
なお、会社の事業活動に必要な経費を、自社の費用として支払ったものは「立替金」に該当しません。例えば、出張時の交通費や宿泊費などを従業員が一時的に負担し、後日会社が精算するケースなどです。
2-2.短期間のうちに返金されることが前提である
「立替金」はあくまで「一時的な支出」であるため、短期間のうちに返金されることが前提です。
返済期間としては、1年以内、または営業サイクルの範囲内での返済が見込まれることが一つの目安となっています。
この返済期間を大幅に超える場合は、内容に応じて「貸付金」や「未収金」など、別勘定への振替を行う必要があります。7-2、8-2も参考にしてください。
2-3.金額・内容・相手が明確である
「立替金」として計上するには、「支払った費用の金額」「支出の内容」「誰に対する立替なのか」という情報が明確に記録されていることが不可欠です。具体的には、以下の点を記録しておく必要があります。
- 「金額」:領収書や請求書に基づく正確な金額
- 「内容」:何の目的で立て替えた支出なのか
- 「相手」:誰に代わって支払ったのか
これらを明確にしておくことで、会計監査や税務調査の時にもスムーズに説明することができます。
3.「立替金」が発生するケース
具体的にどのようなケースで、勘定科目「立替金」を使用する必要があるのかを解説します。
「立替金」が発生するケースは多岐に渡りますが、代表的なケースを挙げてみました。
立替先を「社内」と「社外」の場合に分けて紹介します。
3-1.「社内」従業員や役員が対象のケース
従業員や役員など、社内の人が本来支払うべき費用を会社側が立て替えたケースの一例です。
- 従業員の社会保険料 (退職・休職時などの保険料調整)
- 役員や従業員の旅費 ※
- 社員旅行などのイベント費用 ※
- 従業員が購入した書籍代 ※
- 給与の前貸 など
※個人利用分(会社負担分ではない)
社内の立替のケースでは、個人に対する立替であることを明確にして処理することが重要です。詳しくは6章も参照してください。
3-2.「社外」取引先や顧客が対象のケース
取引先や顧客などのために、一時的に会社が費用を立て替えたケースの一例です。
- 配送料、郵送料
- 手数料
- 材料費
- イベント参加費用
- 取引先から依頼された出張旅費
- 工事費用、修繕費
- 税金、登録免許税 など
社外の立替については、相手先からの早期回収や精算がスムーズに進むよう注意が必要です。こちらも詳しくは6章を参照してください。
具体的にはどのような仕訳を行えばよいのか、次の章で解説します。
4.「立替金」における実際の仕訳例
勘定科目「立替金」を使用した仕訳例を紹介します。
今回は、「取引先の郵送費の立替を行った場合」を例に挙げて仕訳を行います。
4-1.立替払いをしたときの例
状況:取引先Aの依頼により、郵送費1,000円を銀行振込で立て替えて支払った。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
立替金 | 1,000 | 普通預金 | 1,000 | 郵送費立替 (取引先A) |
4-2.立替金を回収したときの例
状況:取引先Aより、立て替えた郵送費1,000円を銀行振込で返金してもらった。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
普通預金 | 1,000円 | 立替金 | 1,000円 | 郵送費立替金回収(取引先A) |
※回収方法により、振込は「普通預金」、給与控除は「未払金」、現金は「現金」など、会社の実務に合わせて使用します。
5.「立替金」と混同しやすい勘定科目一覧
勘定科目「立替金」と混同しやすい勘定科目を紹介します。
「立替金」との違いがわかりやすいように、目的や性質の違いごとに一覧表を作成しました。
勘定科目 | 用途・目的 | 相手先(一例) | 性質 | 処理の流れ |
---|---|---|---|---|
立替金 | 他人の費用を立替払い、後日請求・回収 | 従業員・取引先 | 資産 | 回収が前提 |
仮払金 (5-1) | 事前に渡す前渡金、使用後に精算 | 社員・従業員 | 資産 | 精算後に費用化or返金 |
貸付金 (5-2) | 資金の貸出、返済が前提 | 役員・取引先 | 資産 | 契約に基づき返済・回収 |
預り金 (5-3) | 他人から預かった金、後日返却・納付 | 従業員・取引先・外部関係者 | 負債 | 返却・納付が前提 |
立替経費 (5-4) | 他人負担分の立替だが最終的に会社が負担 | 従業員・取引先 | 費用 | 精算後は会社の経費として処理 |
1つずつ解説していきます。
5-1.仮払金
「仮払金」とは、将来発生する支出に備えて、あらかじめ概算で渡される前渡し金を処理する勘定科目です。例えば、出張前に概算で渡す旅費や、買い出し前に渡す仮の金銭などが挙げられます。
「仮払金」が支出前に目的や金額が未確定でも支払われるのに対し、「立替金」は実際に発生済みで、金額や用途が確定している費用を立て替えたものです。
5-2.貸付金
「貸付金」とは、返済を前提に、一定期間お金を貸与した場合に計上される勘定科目です。
例えば、子会社に資金援助目的で貸し付けた資金や、役員・従業員への長期貸付などがあります。
「貸付金」は、返済契約や利息が関わるものとなります。金銭そのものの貸出となるため、「立替金」のような「他人の費用の立替」とは目的が異なります。
5-3.預り金
「預り金」とは、他人から一時的に預かっている金銭を処理する負債勘定で、将来返還や納付が必要なものです。例えば、給与天引きした社会保険料や源泉所得税、顧客からの預かり保証金などです。
「預り金」は将来返却義務がある負債勘定ですが、「立替金」は資産勘定となり、立替払い後に回収されることが前提となる点が異なります。
5-4.立替経費
「立替経費」とは、他人負担分の費用を立替払いしたものの、最終的には会社が負担することとなり、経費として処理されるものです。例えば、社員が立替払した顧客接待費や出張時の旅費などを後日精算し、会社の経費に計上することが該当します。
「立替経費」は、会社が最終的に負担する費用であるため、従業員や取引先が負担すべき金銭を会社が立て替えている「立替金」とは異なるものです。
6.「立替金」を仕訳するときの注意点
「立替金」を仕訳するときの注意点を解説します。
「立替金」は、あくまで一時的な支出であり、最終的には回収されるべき会社の資産です。会社の資金繰りや経営判断にも影響を及ぶすため、適切な処理と管理が求められます。以下のポイントに注意して仕訳を行うことが大切です。
6-1.立替先と内容がわかるようにする
「立替金」の仕訳を記録するときは、「誰のために」「どのような内容で」立て替えたのかが後から確認できるようにしておく必要があります。
例えば、社員の出張旅費を立て替えた場合は、社員名と具体的な旅費内容(交通費・宿泊費など)を記録しておきます。これにより、後日の精算や確認作業がスムーズに進みます。
6-2.事前に回収方法と回収時期を明確にする
「立替金」は、社内・社外いずれの場合も、事前に回収方法と回収時期を明確にしておくことが重要です。
あくまで一時的な負担であるため、回収されなければ資金繰りに影響を与えることになるからです。未回収のまま長期間放置することがないように、「現金・銀行振込」などの回収方法や回収予定日を事前に決めておき、回収漏れのないような管理体制を整えておくとよいでしょう。
6-3.費用ではなく資産(流動資産)として計上する
「立替金」は事業の費用ではなく、後日回収予定の資産であり、貸借対照表上では流動資産に分類されます。
よくある間違いを挙げます。取引先の外注費を一時的に立て替えた場合など、立替時に「外注費」の費用科目で計上してしまい、そのまま決算を迎えてしまうケースなどです。費用として計上してしまうと、利益が少なく見える上、資産管理の面でも不正確になってしまいます。「立替金」の勘定科目を正しく使用して仕訳を行いましょう。
6-4.領収書・請求書などを必ず保管する
立替の根拠となる領収書や請求書を、経理処理の裏付け資料として必ず保管しておきます。
税務調査や社内監査の際に、「立替金」の正当性を証明する必要があるからです。領収書や請求書がなければ、誤って費用計上されたと疑われるリスクが高まります。税務リスクをなくすためにも、根拠となる資料を保管し、必要なときにすぐに提示できる状態にしておきましょう。
7.税務調査で「立替金」がチェックされるケース
「立替金」の経理処理が正しく行われていないと、課税所得に影響を及ぼすため、税務調査でチェックされることがあります。
このような指摘を受けないためにも、6章でまとめたポイントに注意して仕訳を行うことが重要です。
以下に、税務調査で「立替金」がチェックされる可能性があるケースについて解説します。
7-1.目的が不明確な立替であるケース
「立替金」が何のために使われたのかが不明確な場合、税務署はその立替が事業関連の支出であるかどうかを慎重に確認します。例えば、立替処理をしている領収書に「飲食代」や「雑費」とだけ書かれており、誰の費用か不明なケースなどが該当します。
その中で、会社の経費を「立替金」として計上していることがわかった場合などは、不当な損金算入とみなされることもあります。以下に一例を挙げます。
- 会社が取引先の会費を一時的に立替払いしたが、経理処理の際に「接待交際費」などの会社経費として処理してしまった。
- 従業員が私用で使った立替分を経費として処理してしまった。
これらのミスは、目的を明確に記録して処理すれば防げるものです。
7-2.長期間精算されていないケース
「立替金」は、通常一定期間内に精算されるべきものです。長期間未精算のまま残っていると「架空の立替金を計上して利益を操作しているのでは」「実態は役員への貸付ではないか」など、税務署から疑いを持たれるリスクが高まります。
以下に一例を挙げます。
- 従業員が1年以上前に立て替えた出張費が、仮払金のまま未精算となっている。
- 役員立替金として、多額の残高が何ヶ月も継続計上されている。
「立替金」は、長期間放置せずに定期的に精算・回収状況を確認することが大切です。
8.「立替金」に関するよくある質問
8-1.「立替金」は消費税の対象になりますか?
原則として「立替金」自体は消費税の課税対象にはなりません。
「立替金」は、あくまで「他人のために一時的に支払った費用」であり、会社や個人が最終的に負担するものではないためです。ただし、立替払いの際に支払った消費税相当額は、立替先から回収する際に一緒に請求することになります。消費税の仕入税額控除の対象ではないので注意が必要です。
8-2.回収まで時間がかかる時はどうすればよいですか?
長期未回収の場合、貸倒れのリスクが発生したり、資金繰りに悪影響を及ぼします。
以下の対応策を考えてみてください。
定期的に立替先に催促を行う
支払条件や立替限度額を明確にし、社内ルールを整備する。
なお、長期未回収分については、内容に応じて「貸付金」や「売掛金」などの勘定科目の振り分けを検討しましょう。
8-3.「立替金」が売上になってしまうケースはありますか?
「立替金」だと思い処理しがちですが、実は売上になるケースが考えられます。
以下に一例を挙げます。
“仕入れ代行のケース”
【状況】A社がB社のために材料をまとめて仕入れ、後からB社にその代金を請求
【誤】全部まとめて「立替金」で処理してしまう
【正】代行手数料や手間賃が含まれている場合は、その部分が売上になる。
“修理業者の部品代請求”
【状況】修理業者が修理のための部品を用意し、その代金を顧客に請求
【誤】部品代は実費だから立替だと誤解し、「立替金」として計上してしまう。
【正】部品代は修理サービスの一部なので売上になる。
ポイントは、以下の2点です。
- 「相手のために支払ったもの」であり、「自社に収益性がないもの」が立替になる。
- 自社のサービスや商品提供とセットの請求は原則売上になる。
実態を正確に把握し、「立替金」と「売上」をしっかり区分して経理処理を行うことが重要です。
8-4.「立替金」がマイナスになってしまった場合はどうすればよいですか?
「立替金」がマイナスになることは本来ありません。以下の原因が考えられます。
回収済みの立替金をさらに回収処理してしまった(二重回収処理)
本来立替金でないものを誤って立替金勘定で処理した
未収の立替金を貸倒処理せずに残してしまっている
このような場合への対応策として、以下の内容が考えられます。
- 仕訳や元帳を確認して原因を特定する
- 必要に応じて修正仕訳を入れる
- 内容に応じて正しい勘定科目に振り分ける
放置すると決算書の信頼性や税務リスクに影響するため、早めの対応をおすすめします。
9.経理業務に悩んだときは、税務調査にも強い顧問税理士への相談がおすすめ
「立替金」の仕訳や経理業務に悩んだときは、税務調査にも強い顧問税理士へ相談することをおすすめします。
日々の経理業務は税務につながっており、あらかじめリスクのある処理について適切なサポートができるからです。また、将来的に税務調査を受けるときに、実務的なサポートを任せることもできます。
辻・本郷 税理士法人では、税務調査への対応において豊富な実績とノウハウを活かし、あなたの経理業務をサポートいたします。
10.まとめ
本記事では、勘定科目「立替金」について解説しました。
立替金とは、「会社が他人(社内・社外問わず)の代わりに一時的に立て替えて支払ったお金を記録する勘定科目」です。
「立替金」として計上できる判断ポイント3点は以下の通りです。
- 会社が他人に代わり支払ったものである
- 短期間のうちに返金されることが前提である
- 金額・内容・相手が明確である
実際に仕訳を行う際は、実態を正しく把握して他の勘定科目と混同しないことが重要です。また、税務調査でも立替金の内容はチェックされるため、記録や管理を徹底する必要があります。
定科目「立替金」の使い方を理解し、正しい処理を行うことで、会社の資金管理と経理の信頼性を高め、税務リスクを未然に防ぐことができます。