退職者が出た時の特別徴収と一括徴収の違いと手続き

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監修者 宇都宮健太

従業員が退職したとき、住民税は「特別徴収」と「一括徴収」のどちらで対応すべきなのでしょうか。

この2つの違いが分からず、「結局どのケースで何を選べばいいのか分からない」と感じる経営者の方は少なくありません。

退職時の住民税対応は、退職日や転職の有無によって取り扱いが変わります。そのため、違いを曖昧なまま処理してしまうと後から修正が必要になることもあります。

本記事では特別徴収と一括徴収の違いを中心に、普通徴収も含めた全体像を整理し、退職者が出た際の判断ポイントと会社側の手続きを実務目線で解説します。


1.経営者が押さえるべき特別徴収・一括徴収・普通徴収の違い

退職者が出た際の住民税対応を理解するためには、まず「特別徴収」「一括徴収」「普通徴収」という3つの言葉の意味を整理しておく必要があります。

これらはすべて住民税の徴収方法を指していますが、いつ・誰が・どのように納めるのかという点で役割が異なります。

まずは全体像を押さえておきましょう。

  • 特別徴収:在職中、給与から毎月天引き
  • 一括徴収:退職時に、残りの住民税をまとめて天引き
  • 普通徴収:退職後、本人が納付書で支払う

以下で、それぞれについてもう少し詳しく見ていきます。

1-1.特別徴収とは

特別徴収とは、会社が従業員の給与から住民税を天引きし、市区町村へ納付する方法です。

原則として、在職中の従業員については特別徴収が適用され、会社は「特別徴収義務者」として、毎月の給与計算の中で住民税を預かり、納付します。

多くの経営者が普段行っている住民税の処理がこの特別徴収にあたります。

1-2.一括徴収とは

一括徴収とは退職時点でまだ支払いが終わっていない住民税を、最終給与や退職金からまとめて天引きする方法です。

通常、住民税は6月から翌年5月まで分割して支払いますが、途中で退職すると未徴収分が残ることになります。

この残った住民税を退職時に一度で清算するのが一括徴収です。

退職する時期によっては会社が一括徴収を行うことが原則とされているケースもあります。

1-3.普通徴収とは

普通徴収とは、会社では住民税を天引きせず、退職者本人が納付書を使って直接支払う方法です。

退職後、市区町村から本人宛に納付書が送付され、記載された期限までに金融機関やコンビニなどで支払います。

この場合、会社が住民税を預かることはありません。


2.退職時の住民税徴収は「転職の有無」と「退職時期」で決まる

退職者が出た場合の住民税の徴収方法は、退職後すぐに転職するかどうかと退職日がいつかによって決まります。

まずは退職後に転職するかを確認したうえで、退職日がいつかによって徴収方法を判断します。

以下の図で、今回のケースがどこに当てはまるかを確認してみましょう。

以下ではこのフロー図に沿って、退職日ごとにどの徴収方法になるのかを順番に解説します。

2-1.転職先が見つかっている場合│特別徴収を引き継ぐ

退職後すぐに転職し、転職先での勤務が始まる場合には、特別徴収をそのまま引き継ぐことが可能です。

この場合、住民税は引き続き給与から天引きされるため、退職者本人が納付書で支払う必要はありません。

ただし、退職から転職先での給与支払い開始までに無休の月が発生する場合や、転職先が特別徴収に対応していない場合には、普通徴収へ切り替わることもあります。

転職先が決まっているかどうかは徴収方法を判断する上で重要なポイントとなります。

2-2.退職日が1/1~4/30の場合│一括徴収が原則義務

退職日が1月1日から4月30日までの場合、未徴収となっている住民税は原則として一括徴収を行う必要があります。

住民税は前年の所得をもとに、6月から翌年5月までの期間で特別徴収されます。そのため1月~4月に退職した場合は、まだ給与から天引きされていない残りの月分(6月~翌5月までのうち未徴収分)が手元に残る状態です。

その残額を退職時の最終給与または退職金から一括徴収するのが原則的な取り扱いです。

ただし一括徴収を行う際に最終給与や退職金が徴収額に満たない場合、徴収できなかった住民税については退職者本人が後日「普通徴収」として納付書で支払うことになります。

2-3.退職日が5/1~5/31の場合│最終給与から特別徴収する

退職日が5月1日から5月31日までの場合は、5月分の住民税を、最終給与から特別徴収します。

住民税は前年の所得をもとに、6月から翌年5月までの期間で特別徴収されます。そのため5月中に退職した場合は、当年度分の最後の住民税を、通常通り給与から天引きする形になります。

このケースでは、一括徴収や普通徴収への切り替えは不要で、通常の給与計算と同様に5月分を控除をすれば問題ありません。

2-4.退職日が6/1~12/31の場合│一括徴収または普通徴収を選択

退職日が6月1日から12月31日までの場合は、一括徴収と普通徴収のいずれかを選択することができます。

この時期は年度途中ではあるものの、退職後に納付書で分割納付できるため、退職者の負担が過度に大きくなりにくいとされています。

そのため

  • 最終給与や退職金から住民税を一括で天引きする方法
  • 退職後、本人が納付書を使って支払う方法

いずれの方法を選ぶかについて、退職者本人の希望を確認した上で対応を決定します。


3.退職者が出た時の会社側の手続き

退職者が出た場合、会社側では住民税についていくつかの確認と手続きが必要になります。スムーズに手続きを終えるために、以下の3ステップに沿って、必要な情報の確認と本人への説明を進めていきましょう。

3-1.退職者と最終給与・住民税について確認する

適切な徴収方法を判断するためには、会社側だけで考えるのではなく、本人への直接的な聞き取りが不可欠です。まずは以下のセリフを参考に、判断材料を揃えましょう。

場面退職者に伝える・確認するセリフ​​​​​
聞き取りの開始「退職後の住民税の支払い方法は、状況によって変わります。いくつか確認させてください。」
状況の確認
「正式な退職日はいつになりますか?」
「次の職場や入社予定日は決まっていますか?」
給与の確認​「最終給与や退職金の金額を確認し、住民税の扱いもあわせてご説明しますね。」

ここでの目的はどの徴収方法になるかを確定させることではなく、判断に必要な情報を揃えることです。

3-2.一括徴収、普通徴収か特別徴収かを判断する

情報が揃ったら、2章のルールに照らし合わせて徴収方法を決定します。大切なのは、決定事項を「決定した理由」とともに本人へ明確に伝えることです。

場面退職者に伝える・確認するセリフ
結論の提示「確認したところ、あなたの場合の住民税は(一括徴収/普通徴収/特別徴収)になります。」
具体的な説明

「(一括徴収の場合)未徴収分を、最終給与からまとめて差し引く形になります。」※金額が不足する場合は「差し引けない分のみ、後日届く納付書で払っていただく」と添えます。

「(特別徴収継続の場合)次の勤務先で天引きを引き継ぐ形になります。手続きはこちらで行いますね。」

退職後すぐに転職し、次の会社での勤務が連続して始まる場合には、特別徴収をそのまま引き継ぐことが可能です。ただし、転職先が決まっていても、退職から入社までに期間があく場合には、いったん普通徴収へ切り替わることがあります。

そのため、単に「転職先の有無」を確認するだけでなく、入社時期まで含めて正確に把握しておくことが、適切な判断を行うための鍵となります。

3-3.市区町村へ必要な届出を行う

徴収方法を本人に説明し合意が得られたら、速やかに役所へ書類を提出します。最後に「会社の手続きは完了したこと」を伝えることで、本人の安心感にもつながります。

場面退職者に伝える・確認するセリフ
届出の報告「住民税の手続きについては、会社から市区町村へ必要な届出を行います。」
今後の案内「(普通徴収の場合)後日、自宅に納付書が届きますので、内容を確認して支払ってください。」

徴収方法が決まったら、最後に市区町村へ「給与所得者異動届出書」を提出して完了です。


4.退職時の税務対応も含めた税制体制として、辻・本郷税理士法人の活用をご検討ください

退職者が出た際の住民税対応は退職日や転職状況によって判断が分かれるため、実務に慣れていないと迷いやすい場面でもあります。さらに、退職時には住民税だけでなく、他にも様々な税務対応が同時に発生します。

こうした対応を社内だけで判断することに不安がある場合には、税務の専門家に相談できる体制を整えておことも一つの方法です。

辻・本郷税理士法人では退職時の住民税対応を含めた税務相談や、給与・退職金に関する税務処理について、企業の実務に即したサポートを行っています。

退職時の対応を属人化させず安心して判断できる体制づくりとして、ぜひ辻・本郷税理士法人のサービス活用をご検討ください。


5.まとめ

退職者が出た場合の住民税対応は、

「特別徴収・一括徴収・普通徴収の違いを理解すること」「転職状況と退職時期を正しく確認すること」が何より重要です。

特に、

  • 退職後すぐに転職するのか
  • 退職日がいつか

といった条件によって、会社が行うべき対応は変わります。

まずは退職者から必要な情報を整理して確認し、そのうえで本記事で解説したルールに沿って徴収方法を判断し、最後に市区町村へ適切な届出を行う、という流れを押さえておきましょう。

本記事が、退職対応に迷ったときの確認用として、少しでもお役に立てば幸いです。