税務調査で運送業がチェックされるポイントや対策を詳しく解説!

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監修者 宇都宮健太

運送業は、国税庁が発表する申告漏れ所得金額が高額な上位10業種の中に入るほど申告漏れが多く、税務調査が入りやすい業種の一つです。

運送業の税務調査では、運送業特有の指摘されやすいポイントがあります。この記事では運送業が税務調査でチェックされるポイントから税務調査で指摘されないための対策まで詳しく解説しています。

運送業の税務調査のポイントを正しく理解し、いざという時にもすぐに対応できるよう準備しておけば、急な税務調査にも適切に対応できます。ぜひご一読ください。

国税庁|事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種 


1.運送業が税務調査で注意すべきポイント

運送業の税務調査では、運送業特有の経費構造や業務実態のために指摘されやすいポイントがいくつかあります。まずは個人事業主・法人ともに税務調査で特に注意すべきポイントから見ていきます。

1-1.売上の計上額は適正か

どんな業種でも、売上金額の間違いや計上漏れがないかは税務調査で必ず調べられます

運送業では、一般貨物自動車運送事業者として貨物輸送の安全確保の観点から運転日報や運行指示書など様々な業務資料の作成及び保管が法令上義務付けられているため、税務調査ではこれらの業務資料を確認することにより収入金額が適正に処理されているかがチェックされます。

これらの法令上義務付けられている業務資料と売上の整合性が取れるようにする必要があります。

1-2.車両関連の経費処理がきちんとされているか

運送業では、車両関連の経費処理は税務調査のポイントになります。以下の2点が特に気を付けるポイントです。

①車両購入時の減価償却や消費税の処理が正しく行われているか

運送業では、車両を購入した際に車両本体や付属品、その他にも多くの諸費用が発生しています。これらの諸費用の経費処理が誤っていると減価償却の計算や消費税の申告も正しく行うことができませ。税務調査では、減価償却や消費税の処理が正しく行われているかが確認されます

車両の減価償却では、車両購入に関連した費用をどこまで車両の取得価格に含めたらいいかが間違いやすいところです。車両購入に関連した費用は取得価額に計上するものと、取得価額に含まなくてもよいもの、経費処理するもの、資産計上するものに分けられます

車両の取得価額に含まれるもの自動車本体価格
付属品
納車費用
中古車の未経過自動車税
中古車の未経過自賠責保険料
取得価額に含まなくてよいもの自動車環境性能割
検査登録、車庫証明などの法定費用
経費処理するもの自動車税
自動車重量税
自賠責保険料
資産計上するものリサイクル預託金

減価償却についてもっと詳しく知りたい方はこちら↓
辻・本郷Navi|減価償却の仕訳とは?基礎知識を具体例で丁寧に解説

また車両購入時の取引には、消費税の課税取引になるもの、非課税取引になるものは以下のように分かれます。

課税取引になるもの

自動車両本体、付属品
各種費用(納車費用、検査登録代行費用、車庫証明代行費用、下取車査定料、資金管理料金など)

非課税取引になるもの自賠責保険料
自動車税、自動車取得税、自動車重量税
検査登録、車庫証明などの法定費用

②燃料費・メンテナンス費の走行実績や運行記録との整合性がとれているか

運送業では、業務用車両の燃料費は運行に必要な経費として計上できます。車両の修理やメンテナンスにかかる費用も経費として認められます。税務調査では、燃料費や修理・点検費用などは実際の走行実績や運行記録と突合し、不正な経費計上がないか確認されます。

1-3.軽油引取税は正しく処理されているか

運送業では、トラックにはガソリンの代わりに軽油を使用している場合が多くあります。

トラックの燃料で軽油を使用している場合、請求書に軽油取引税が含まれていないか確認が必要です。軽油引取税には消費税が課されないため、軽油代全額を課税仕入れとして処理することはできません。

税務調査では、原則課税を選択している場合、仕入税額控除をする際に軽油取引税を除外して計算しているかが確認されます。

1-4.保険金収入と対応する損失との計上時期の整合性はとれているか

運送業では、配送をおこなっている荷物に損害が発生した場合に備えて、損害保険を契約している場合が多くあります。実際に損害が発生した際に、損害額の損金計上時期と給付される保険金の益金計上時期にズレが生じると税務調査の対象となります。

1-5.廃車に伴う部品売買や廃材・スクラップの売却収入などの雑収入がきちんと計上されているか

運送業で使用している事業用車両を廃車にする際には、廃車に伴う部品売買や廃材・スクラップを専門業者に買い取ってもらう売却代金は雑収入として計上しなければなりません。税務署もこのような本業以外での雑収入は計上が漏れることをよくわかっており、スクラップ関連の取引は税務調査で重点的に調べられます


2.(運送業)税務調査でチェックされるポイント【個人事業主の場合】

ここからは、運送業の税務調査で個人事業主が特にチェックされやすいポイントについて見ていきます。

2-1.事業用車両の下取りは正しく処理されているか

個人事業主が事業用車両を売却し利益が出た場合、個人から買取業者などの法人へ車を譲渡したことになるため、売却ではなく譲渡扱いになります。売却益を得た場合には、事業所得ではなく譲渡所得として扱われ、課税対象になります。ここの認識の漏れが税務調査の対象となります。

なお、法人では対応が異なり、利益があるときに固定資産売却益、損失が出たときに固定資産売却損になります。

2-2.自宅兼事務所としての経費計上は適正か

個人事業主として自宅兼事務所で運送業を営んでいる場合、事務所部分の家賃や光熱費などを経費として計上することができますが、税務調査ではその割合が問題となります。運送業の場合、自宅で仕事をすることはほとんどないと考えられます。合理的に説明できないような割合での経費計上は税務調査で指摘され、否認となるケースが多いです。


3.(運送業)税務調査でチェックされるポイント【法人の場合】

次に、運送業の税務調査で法人が特にチェックされやすいポイントについて見ていきます。

3-1.ドライバーとの契約は業務委託契約(庸車費用)か、雇用関係か

運送業では、ドライバーとの契約が業務委託契約(庸車費用)か、雇用関係(給与)のいずれになるのかが税務調査で問題となります。ドライバーへの報酬をドライバーとの業務委託契約で外注費として扱う方が、ドライバーへの給与として扱うより、納めるべき税金(消費税・社会保険料等)を少なくすることができるためです。給与として計上すべきものを外注費(庸車費用)として計上している場合、税務調査で指摘されます。

ドライバーへの報酬が給与か外注費かの区別は、次の4つ基準を元に総合的に判断する必要があります。

①その仕事の内容が他の人でもできるか。

他の人ではできない仕事は給与、他の人でもできる仕事は外注費

②その仕事は事業者の指揮監督を受けるかどうか。

事業者の指揮監督命令を受ける場合は給与、事業者の指揮監督命令を受けず自由にできる場合は外注費

③まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合でも、報酬が支払われるか。

報酬が支払われる場合は給与、報酬が支払われない場合は外注費

④業務上必要な材料や道具を供与されているかどうか。

業務上必要な材料や道具を事業者が用意する場合は給与、作業者が自ら用意している場合は外注費

国税庁|個人事業者と給与所得者の区分より要約

3-2.車両の売買は適正に税務処理されているか

2-1.事業用車両の下取りは正しく処理されているかでも触れましたが、法人が事業用車両を売買した場合には、利益があるときに固定資産売却益、損失が出たときに固定資産売却損として計上します。

3-3.自動車任意保険は正しく処理されているか

自動車任意保険の契約は、契約期間が1年のものであれば短期前払費用として処理し経費算入が可能ですが、契約期間が1年を超える場合には、保険料を期間ごとに按分して計上する必要があります。

特に多くの車両を所有している法人は、経費節減のために長期で自動車任意保険に加入している場合があるため注意が必要です。保険料を事業年度ごとに期間按分して、翌期以降の分は前払費用に計上し、翌期以降は前払費用を取り崩して損害保険料として費用計上します。前払費用のうち、翌々期以降に費用計上する部分については長期前払費用に計上します。

保険料の期間按分がきちんとされているか税務調査の対象となります。


4.運送業の税務調査で指摘されないための対策

ここまで税務調査で運送業がチェックされるポイントを見てきました。ここからは税務調査で指摘されないようにするために日ごろからどんな対策をすればいいのか見ていきます。

4-1.帳簿記帳と証憑の保存をきちんと行う

日々の記帳が適正か、領収書や契約書などの証憑が整然と保存されているかどうかは、税務調査で最も重点的に確認される部分です。

運送業の主要な売上は運賃です。売上が発生した日付や運行内容(目的地、荷物の種類など)を正確に記録し、運送契約書や納品書などと照らし合わせて記帳します。また、車両関連の経費(ガソリン代、修理費、リース料など)や事務所の賃料についても記帳が必要です。運送業の場合の証憑は、運賃請求書や委託契約書、車両にかかる経費に関する領収書などになります。帳簿と照らし合わせてきちんと保存しておきましょう。

4-2.法令上義務付けられている業務資料と整合性のある会計処理を行う

一般貨物自動車運送事業者が法令上義務付けられている様々な業務資料は税務調査で必ずチェックされます。点呼記録簿、運転日報、タコグラフ、運行指示書など、法令上作成義務がある資料と売上の整合性が取れるよう、日々の会計処理で確認しておきましょう。

4-3.車両関連経費を適正に処理する

車両購入時の減価償却や消費税の処理、車両売却時の利益の計上など、車両関連経費は税務調査で指摘されやすいポイントです。減価償却や消費税の処理を適正に行いましょう。

4-4.仕事とプライベートをきちんと分けておく

車両の業務利用と私的利用が混在する場合、税務調査ではどの割合で経費として計上しているかがチェックされます。日頃から車両の使用状況が明確に分かるように走行距離などを記録し、その比率をもとに燃料費や修理費を按分します。

自宅を自宅兼事務所として経費計上している場合は、経費として計上している割合を合理的に説明できるようにしておきましょう。

4-5.給与や手当、外注費を正確に計上する

税務調査では、従業員に支払った賃金や給与が経費として適正に計上されているかが調査対象になります。従業員に支払う賃金や給与には、基本給、時間外手当、休日手当などが含まれます。支給額、控除額、支払い日などの詳細が記載された給与明細書が重要な証拠書類とになるため、きちんと保管しておきましょう。

また外部への委託費用や下請け取引に関しても、契約内容や支払いの実態が適切に処理されているかがが税務調査の対象になります。外注契約を結んでいる場合、その契約内容を記載した書類や支払証明書きちんと保管しておきましょう。

4-6.消費税関連の処理を徹底する

税務調査では、仕入税額控除を適用するために必要事項がインボイスに記載されているかがチェックされます。運送業では、車両購入や維持管理にかかる経費(ガソリン代、修理費、車両リース料、保険料など)や、事務所の賃借料、事務用品などに消費税がかかります。これらの消費税は、仕入税額控除が適用できます。仕入れにかかる消費税を控除するには、仕入れの際に発行される「適格請求書(インボイス)」が必要です。適切に管理し、税務調査時に提示できるように保管しておくことが大切です。

また、仕入税額控除をする際には必ず軽油取引税を除外して計算しましょう。


5.お困りの際は辻・本郷 税理士法人にご相談を

ここまで、運送業が税務調査でチェックされやすいポイントや税務調査で指摘されないための対策について見てきました。

運送業は、税務調査が入りやすい業種の一つです。「税務調査への対策はどこから手を付けたらいいんだろう」「自分だけできちんと対応できるだろうか」など不安に思われた方はぜひ一度、辻・本郷 税理士法人にご相談ください。

辻・本郷 税理士法人なら、急な税務調査にも確固たる対応が可能です。


6.まとめ

ではもう一度、運送業が税務調査でチェックされるポイントや税務調査で指摘されないための対策についてまとめます。

個人事業主・法人ともに税務調査で注意すべきポイント

・売上の計上額は適正か
・車両関連の経費処理がきちんとされているか
・軽油引取税は正しく処理されているか
・保険金収入と対応する損失との計上時期の整合性はとれているか
・廃車に伴う部品売買や廃材・スクラップの売却収入などの雑収入がきちんと計上されているか

個人事業主が税務調査でチェックされやすいポイント

・事業用車両の下取りは正しく処理されているか
・自宅兼事務所としての経費計上は適正か

法人が税務調査でチェックされやすいポイント

・ドライバーとの契約は業務委託契約(庸車費用)か、雇用関係か
・車両の売買は適正に税務処理されているか
・自動車任意保険は正しく処理されているか

運送業の税務調査で指摘されないための対策

・帳簿記帳と証憑の保存をきちんと行う
・法令上義務付けられている業務資料と整合性のある会計処理を行う
・車両関連経費を適正に処理する
・仕事とプライベートをきちんと分けておく
・給与や手当、外注費を正確に計上する
・消費税関連の処理を徹底する

運送業が税務調査で指摘されないためには、日頃からの適正な税務処理を心がけましょう。