
一般的に、税務調査において現金取引は厳しくチェックされると言われています。税務調査が入ったときに現金取引が指摘されないか、不安を抱えている方も少なくないでしょう。不安を解消するためには、現金取引でチェックされるポイントを知り、日頃から対策を立てておくことです。本記事を参考にして、税務調査に備えてください。
目次
1.税務調査で現金取引が厳しくチェックされるのは隠ぺいや改ざんがしやすいから
現金取引は履歴が残りにくいため、税務調査ではその事実を念入りにチェックされます。振り込みや引き落としであれば金融機関による通帳で、クレジット決済であればクレジット会社の発行する利用明細等で履歴が確認できます。しかし現金の場合は、第三者機関による履歴が残りません。そのため、現金取引では本来ない取引を捏造したり、本来よりも多額の(もしくは少額)の取引金額を仮装したりすることが比較的容易です。
税務調査においてひとたび現金取引が疑われると、隠ぺいや改ざんがないか厳しく確認されることになります。税務調査に時間を取られてしまい、本来の業務時間が圧迫されることも考えられます。そのような事態を避けるためにも、税務調査において現金取引を疑われないための対策が必要でしょう。
【実際に税務調査で現金取引が否認・指摘された例】
- 建築業において、外注費を現金で支払っており支払いの証拠を出せなかった
「証拠がない=否認」とされてしまった例です。支払いがあったとしても、証拠を出せないと反論が難しくなります。 - 会社の口座から経費を引き出したが、未使用分が給与とされ源泉所得税の対象となった
例えば会社の口座から経費として100万円を引き出し、実際に使用したのが98万円だとします。未使用分の2万円は、口座に入金しなければなりませんが、それを怠ったために未使用分が給与とみなされました
2.税務調査は原則として事前通知が行われる
税務調査は原則として、事前に通知がきます。事前通知のポイントは次の2点です。
- 事前通知の段階で日程調整が可能
税務署からの事前通知は、主に電話です。税務調査の日程を決める重要な連絡ですので、電話の着信に気が付いたときはきちんと折り返しましょう。またその際、自社の都合に合わせて日時を相談することも可能です。 - 事前通知によって、準備期間が得られる
税務調査は日頃からの対策が重要です。しかし、日頃の対策が不十分だからといってあきらめることはありません。税務調査が入る場合も「事前通知から税務調査までの間」にできることも少なくないためです。税務調査までの期間に税務調査に強い税理士にアドバイスを求める、伝票や帳簿を整えるなどの対応が可能ですので、慌てず対処しましょう。
【いきなり税務調査が入ることはあるのか】
税務調査の原則は、上述の通り「事前通知」が来ます。しかし一部では、現金取引が多い会社や店舗について「いきなり税務調査が入る可能性がある」とも言われているようです。
事前通知なしで税務調査ができるのは、事前通知によって不正の証拠隠滅を計る疑いがあるケースです。つまり、現金取引が多く不正を疑われる場合は、いきなり税務調査が入ることも考えられます。
現金取引が多いと不正を疑われやすい傾向があるので、現金取引が多い小売業や飲食店は念のため注意しておくといいでしょう。
【いきなり税務調査が入った事例】
「社長が海外旅行に行く前日」という、心理的・時間的余裕がない日を狙って、いきなり税務調査が入った事例があります。まれなケースではありますが、疑いの目を向けられると不利なタイミングで「いきなり」税務調査が入る可能性があります。そういった事態に備えるためにも、本記事を参考になさってください。
上記のような「いきなり」の税務調査に備えるためにも、本記事を参考になさってください。
3.現金取引が多いなら現金監査に注意
「現金監査」とは税務調査の一部で、帳簿上の現金と実際の現金額が合っているかを調査するものです。現金取引が多い会社や店舗においては、現金監査が行われる可能性が高いです。
現金監査でチェックされる点
例えば飲食店であれば、次のような点がチェックされます。
- レジの控えからの「売上」
- レジ内の現金、店内の金庫の現金
例えば、レジが混んでいるので現金をピッタリもらい、後でレジで入金するつもりで入金を忘れていた場合、レジの売上に対して現金が多くなります。また金庫の現金をATMで入金して通帳記入をしていない、他店舗で現金が不足したので現金を一時的に移動させた、といったケースでは現金が不足してしまいます。
故意でなくとも不正が疑われると、税務調査が厳しくなってしまいます。
現金監査では現金管理もチェックされる
現金監査では、帳簿上と現金と実際の現金額が合っていればよいわけではなく、現金管理もチェックされます。現金管理では、次のような点がチェックされます。
- レジを締めたあとの現金をどのように管理しているか
- 現金売上は毎日正確に計上しているか
- 金庫の開閉管理は厳格にになされているか
- 店舗や事業所の戸締り、鍵の管理は厳格になされているか
現金管理の手順について、調査官から質問されたときは、経営者や経理担当者は明確に返答できなくてはなりません。「都度対応」ではなく、社内で定めた手順に沿って現金を管理していることも重要です。
4.税務調査で疑われないための対策
税務調査が入った時に疑われないためには、日頃から次のような対策を実践しておくことが求められます。飲食店を例に具体的な対策をご紹介します。
4-1.売上管理の厳格化
現金受け取り・計上・保管・入金・までの一連の手順を明確にします。入金に関しては、金庫に保管する現金の上限を決め上限近くなったら入金する方法もありますが、上限にいかなくとも「毎日入金しにいく」のように決めたほうがより厳格でしょう。
管理責任者や実行者といった役割も決めます。可能であれば、お金の取り扱いは複数人が担当し、複数の目でチェックすることが望ましいです。役割を担う責任者・実行者が不在時の対応も決めておきます。
4-2.正確な会計処理
証憑・帳簿・金庫・残高に差分を出さないことが重要です。
レジのレシート控え、領収書、伝票などを整理し、お金の動きに疑問が生じたときは即座にチェックできるようにします。レジのレシート控えや伝票と、現金が合わない場合は、その日にうちに原因を突き止めることも徹底します。アルバイト従業員が多い飲食店の場合は、レジを定期的に締めることで、従業員の意識も向上させていきましょう。
4-3.現金取引以外の取引も正確に
現金取引は会計の一部なので、それ以外の取引の正確性も必要です。当然、売掛金の計上漏れや買掛金の回収漏れ等に留意します。
また、以下も重要です。
- 在庫処分
仕入れと売上から逆算すれば適切な在庫数が予測できます。予測と比較して極端に在庫が少ないと、説明を求められるでしょう。例えば、古い在庫を処分した記録が残っていない場合に、指摘を受ける可能性があります。
また他店舗(他事務所)と在庫のやり取りがあるときは、他店舗とのやりとりも記録しておきます。 - 従業員へのまかない
飲食店でのまかないは、経費ではなく現物給与です。福利厚生として処理することも可能ですが、所定の要件があります。正確な会計処理を行いましょう。 - 社内販売
飲食店や小売店では従業員への社内販売で割引を行うケースも多いですが、原則として差分(割引分)は経済的利益とみなされます。そのためこちらも、原則として現物給与です。
現物給与としての所得税課税を免れるためには、販売価格を「原価割れしない」「割引率を3割以上としない」などの対応が必要となるので注意します。
4-4.現金取引を減らす方法も検討
キャッシュレス決済・クレジット決済等を活用して現金取引を減らすことも有効です。これらは第三者機関による取引履歴が残ることから、取引の透明性を高めることにつながります。
飲食店や小売店においては、客側の支払いの選択肢も増やせるため、営業上の利点も生じます。
5.税務調査対策は税理士との連携も重要
現金取引が多い場合でも、税務調査への対策は複数あります。とはいえ、日々の業務に追われてついつい現金管理がおろそかになってしまうとお悩みのこともあるかもしれません。そういった場合は税務署から評価され、かつ実行が容易な管理方法を相談できる顧問税理士を探すことをおすすめします。
また、自社の実情を理解している顧問税理士ならば、税務調査の際も適切なサポートが受けられます。
顧問税理士を選ぶ際は、自社にとって実行しやすい手順や実行案のポイントを提案してくれることや税務調査に強いことが重要です。また、キャッシュレス化を推進するならば、ITに強いことも必須でしょう。
国税庁OBが90名以上在籍する辻・本郷 税理士法人は、税務調査に強いだけでなく、ほかにもさまざまな強みがあります。
経営のパートナーとして辻・本郷 税理士法人との顧問契約をご検討ください。
6.まとめ
税務調査において現金取引が厳しくチェックされる理由は、隠ぺいや改ざんがしやすいからです。税務調査で現金取引が指摘されないための対策は複数ありますので、できるものは確実に実施して税務調査に備えるといいでしょう。
【税務調査で疑われないための対策4つ】
- 売上管理の厳格化
- 正確な会計処理
- 現金取引以外の取引も正確に
- 現金取引を減らす方法も検討
※対策の内容は「4.税務調査で疑われないための対策」をご覧ください。
それでもなお税務調査に不安がある場合は、税務調査に強い税理士に相談するといいでしょう。