
「キャッシュフローが悪化している」
「3期連続で営業利益が赤字になった」
そんな状態に危機感を覚えつつも、「今はまだ、大丈夫」と思っていませんか?
すぐに危機感の正体と向き合うことをおすすめします。
もし、中小企業に事業再生が必要となった場合、早期に対応するほど、期間が短く、成功率が高くなります。
一方で、長期間放置し、問題が根深く複雑になっていくほど、回復に長い期間がかかる上に、成功率は下がると考えていいでしょう。
問題が表面化したときには、手遅れかもしれません。
そうは言っても、事業再生でどんなことをすればいいのか、どのような状態になったら事業再生を意識すべきなのか、悩ましいものです。
本記事では、中小企業が事業再生を意識すべき危険な兆候とともに、事業再生の具体的な手法について解説しています。
目次
1.中小企業にとって「事業再生」とは?
中小企業において事業再生は、会社の存続に直結します。
危機的な状態にあり、破綻する可能性がある事業に対策を講じ、収益を改善していくことを事業再生といいます。
中小企業の場合は、一つの事業で経営が成り立っているケースが少なくありません。また、複数の事業を展開している場合でも、主力の事業の状況が悪化すれば、経営の継続に大きな打撃となるはずです。
事業再生のタイミングは、遅れるほど会社の信用に影響を与えるだけでなく、事業再生成功のハードルが上がるため、早期に着手することが重要となります。
中小企業が会社を守っていくためには、いち早く事業再生が必要となる兆候に気づき、手を打つことが必要です。
事業再生を意識すべきタイミングについては、「第3章 事業再生が必要な中小企業に見られる7つの兆候」をご覧ください。
2.事業再生が必要な中小企業に見られる7つの兆候
事業再生は、早期に兆候に気づき、取り組むことが必要です。
次の状況に心当たりがある場合、まずは現状を把握することをおすすめします。
□ 営業利益が3期連続で赤字である
□ 売上の低迷が続いているが、回復する要素がない
□ 資金繰りが悪化しており、仕入れ先への支払いに不安がある
□ 金融機関から融資を断られた
□ 売上で固定費が占める割合が高くなってきている
□ 離職が相次いでおり、残った従業員の負担が大きい
□ 取引先が減少した
危険な7つの兆候について、くわしく解説しましょう。
2-1.慢性的な赤字経営
営業利益が3期連続で赤字など、長期におよぶ赤字経営が続いている場合、事業の見直しが必要かもしれません。
経営が赤字であっても、事業の継続は可能です。手元の資金に余裕があったり、売却できる価値が高い資産を保有している場合、経営赤字でも当面は大きな問題にならないでしょう。
しかし、赤字が長期化している場合は、少しずつ資金繰りが悪化していく可能性が高くなります。早めに対策を検討する必要ことが必要です。
2-2.売上回復の見通しが立たない
売上が落ち込んでおり、回復の見通しが立たない場合は、冷静な状況判断が必要です。
どんな事業であっても、一時的な売上の落ち込みはあるものです。事業の未来を見据え、売上の落ち込みが一時的であり、回復する目途が立っている場合はそれほど心配はありません。しかし、売上の回復が見込めない場合は、このまま悪化していくことが予想されます。
何らかの手立てを打つことを検討しましょう。
2-3.資金繰りの悪化
売上が黒字であっても、資金繰りが悪化している場合は、注意しましょう。
資金繰りは、会社の収入と支出を管理し、入出金のタイミングを調整することです。
売上があっても、入金時期に時差があることで仕入れの支払いが滞ってしまえば、黒字であっても事業継続が困難になりかねません。
常に3か月程度先の資金繰りは、管理しておくことが必要です。資金繰りの悪化を感じたら、早めに対策を講じましょう。
2-4.金融機関から融資を断られた
金融機関から融資を断られるのは、返済能力に問題があると判断されている可能性があります。
金融機関は、融資に関する明確な基準は公表していないことが一般的です。必ずしも経営状態だけが基準とは限りませんが、大きく影響することは否定できません。
2-5.固定費の割合が高くなり、重荷に感じるようになった
売上における固定費の割合が高くなってきており、支払いが負担に感じるようになったら、事業再生を考えるタイミングなのかもしれません。
固定費は、人件費や家賃、減価償却費など、売上の増減に関係なく、一定の期間に常に発生する費用です。業界・業種により売上における適切な固定費の割合は異なりますが、売上における固定費の割合が上がるほどリスクが高い状態といえます。
固定費の支払いが負担に感じるようになってきている場合は、売上の減少や資金繰りの悪化など、経営上の問題が生じていることを自覚しましょう。
2-6.従業員の離職が増えた
従業員数が限られている中小企業では、人員不足が事業に深刻な影響を与える可能性があります。
中小企業の場合、人員不足は各従業員の業務負担増加に直結します。その結果、さらなる離職につながりかねません。慢性的な人員不足の結果、事業が回らなくなるということも考えられます。
最近は、人員不足が原因で事業の継続が困難になり、倒産するケースが増えています。特に中小企業においては、人員不足は深刻な問題といえるでしょう。
2-7.取引先が減少した
取引先が減ると、売上が減少し、業績の悪化につながります。
まずは、取引先が離れてしまった原因を探ることが必要です。業績が悪化しているとみなされると、取引先はリスクを回避するために取引の縮小や停止をすることがあります。
また、取引先が競合会社に流れている場合は、取引先を取り戻す、もしくは新規開拓をするための対策をとることが必要です。
3.中小企業が選べる事業再生の選択肢とその特徴
債務の負担が大きく、事業の改善だけでは事業再生が難しい場合、中小企業では、次の3つの方法が選択肢になります。
| メリット | デメリット | |
| 私的整理 | ・各債権者に応じた柔軟な解決が可能 ・情報が非公開であり、倒産のイメージがつかない ・コストを抑えやすい | ・全債権者の合意が必要 ・債権者間に不平等が生じる可能性がある ・新規融資が難しくなる ・法的強制力がない |
| 法的整理 | ・法的強制力がある ・すべての債務者に平等 ・裁判所が主導 ・多数決による決議が可能 ・私的整理では難しいケースも対応できる | ・情報が公開され、社会的な信用に影響する ・法的な制限がある ・コスト負担が大きい |
| 再生型M&A | ・事業を継続できる ・財務状況が安定しやすい | ・経営の主導権を失う可能性がある ・手続きが煩雑である |
私的整理や法的整理で事業再生を前提とした手法では、リスケジュール(返済条件の変更)や債務免除が行われるほか、私的整理では融資が行なわれることがあります。
また、再生型M&Aでは、事業譲渡や新規に会社を立ち上げるなどの方法により、再生を図ります。
3-1.私的整理
債務者である会社が、債権者の金融機関などと直接交渉を行うのが私的整理です。
中小企業が私的整理により事業再生を行う場合、次の6つの方法が考えられます。
| 秘匿性 | コスト | 強制力 | 期間 | 対象 | |
| 任意整理 | ◎ | ◎ | ✖ | △ | 制限なし |
| 中小企業活性化協議会 | 〇 | ◎ | △ | 〇 | 中小企業 |
| 中小企業の事業再生等に関するガイドライン | 〇 | 〇 | △ | 〇 | 中小企業等 |
| 事業再生ADR | 〇 | △ | △ | 〇 | 会社は制限なし 個人事業主不可 |
| 地域経済活性化支援機構 | 〇 | △ | 〇 | △ | 条件あり |
| 特定調停 | △ | 〇 | 〇 | 〇 | 主に中小企業 |
①任意整理(純粋私的整理)
任意整理とは、会社と金融機関の間の任意の交渉により、債権免除やリスケジュールなどの合意を得る方法です。
任意整理では、ルールや手続き上の条件がなく、金融機関に交渉を申し入れることで行われます。取引先に知られる可能性が低いため、自社の信用に悪影響を及ぼす可能性が低いのが大きなメリットです。
ただし、金融機関が交渉に応じない場合は、難航する可能性が高くなります。
任意整理は、外部コンサルタントや弁護士などの専門家の支援を受けながら、金融機関との交渉に臨むのが一般的です。
②中小企業活性化協議会の支援を受ける
中小企業であれば、中小企業活性化協議会から事業再生支援を受けることができます。
中小企業活性化協議会は、中小企業の活性化を目的とした公的機関で、経営改善計画の策定支援や金融機関などの債権者との交渉のサポートなどが行われています。
商工会議所などに設置されており、中小企業活性化協議会から選任された公認会計士や税理士などの専門家の支援を受けることが可能です。
ただし、中小企業活性化協議会を利用できるのは、中小企業基本法で定められている中小企業に該当することが必要です。
申請や問い合わせは、各自治体に設置されている中小企業活性化協議会か、中小企業活性化全国本部から行うことができます。
③中小企業の事業再生等に関するガイドラインを利用
中小企業の事業再生等に関するガイドラインでは、中小企業の事業再生を支援するために私的整理についてまとめられています。
本ガイドラインを利用することで、中小企業活性化協議会を利用した場合とほぼ同様の流れで、私的整理を行うことが可能です。
特徴としては、中立的な立場の第三者支援専門家を選出し、手続きや事業再生計画の支援を受けることができます。
第三者支援専門家とは、「弁護士、公認会計士等の専門家であって、再生型私的整理手続及び廃業型私的整理手続を遂行する適格性を有し、その適格認定を得たものをいう」と規定されており、候補者リストは、中小機構のホームページで確認が可能です。
「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」は、一般社団法人 全国銀行協会のホームページからダウンロードすることができます。
参考:中小企業事業再生等ガイドライン|一般社団法人 全国銀行協会
④事業再生ADRを利用
事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)は、経済産業大臣の認定を受けた中立的な第三者により、金融機関と会社の間の調整を行い、事業再生を促す方法です。
裁判所を介さない私的整理の手法のひとつですが、事業再生ADRにより解決しなかった場合は、法的整理に移行します。
本制度の利用には、会社の規模や業種による制限はありませんが、比較的規模が大きい会社が利用する傾向が多くなっています。
なお個人事業主は、利用の対象外です。
⑤地域経済活性化支援機構(REVIC)
株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)は、有用な経営資源を持っているものの、過大な債務を負ってしまった中小企業の事業再生を行っています。
株式会社地域経済活性化支援機構は、地域活性化や事業再生の支援を行う官民が共同出資する企業です。金融機関や地方公共団体などと連携して、有用な経営資源を持っているものの、過大な債務を負ってしまった中小企業と金融機関の調整を行なったり、債権の買い取りなどによる事業再生支援を行っています。
地域経済活性化支援機構は時限措置であり、設置期限は2046年となっています。(2025年6月現在)
⑥特定調停
特定調停は、裁判所の調停手続きを利用して、債権の返済条件を調整し、事業再生を目指す手続きです。
特定調停は、中小企業や小規模事業者を対象とした制度で、簡易裁判所に申し立てることにより、特定調停を行うことができます。法的整理の場合は、すべての債権者が対象ですが、特定調停の場合は、対象となる債権者を限定できるため、取引先などの関係先に事業再生の事実を知られる可能性が低くなります。
※特定調停は、裁判所を利用しますが、強制力がなく、双方が合意することが前提となるため、私的整理に分類されることが一般的です。
3-2.法的整理
法的整理は、裁判所の管轄下において債務整理を行う手法です。
一般的に、私的整理では事業再生が難しい場合に法的整理を検討します。
中小企業が事業再生を目指し、法的整理を行う場合は、民事再生を利用します。
民事再生の特徴は、以下の通りです。
| 秘匿性 | コスト | 強制力 | 期間 | 対象 | |
| 民事再生 | ✖ | ✖ | ◎ | ✖ | 制限なし |
民事再生
民事再生とは、民事再生法に基づいて、裁判所の監督下で再生計画の策定を行い、事業再生を実行する方法です。
中小企業が事業再生において法的整理を行う場合、民事再生を用いるのが一般的です。債務者(会社)もしくは、債権者(金融機関など)の申し立てにより、手続きを開始します。
民事再生の申請を行なうと、官報などによりその事実が公表されるため、取引先などの関係先にも知られる可能性が高まることに注意が必要です。
なお、民事再生が成立しなかった場合は、破産手続きに移行します。
3-3.再生型M&Aの実施
事業を譲渡することで事業再生を目指すのが再生型M&Aです。
再生型M&Aを行うことで、資金提供を受けられたり、倒産を回避し、事業の継続ができる可能性が高まるというメリットがあります。
再生型M&Aの特徴は、以下の通りです。
| 秘匿性 | コスト | 強制力 | 期間 | 対象 | |
| 再生型M&A | △ | △ | 〇 | △ | 制限なし |
再生型M&Aは、私的整理と組み合わせて行われることもあります。
3-3-1.再生型M&Aの3つの種類
事業譲渡や新規に会社を立ち上げるなどの方法により、再生を図るのが再生型M&Aです。
再生型M&Aには、次の3つの種類があります。
- 事業譲渡方式
- 会社分割方式
- 第二会社方式
- 事業譲渡方式
事業譲渡方式は、事業の全部、もしくは一部を他社(他者)に移転する方法です。会社間の契約に基づく売買取引になります。
資産や契約、負債などの譲渡する内容は、個別に協議し決定します。
原則として事業の売却益が現金で得られるため、事業資金や債券の返済に充てることができるというメリットがあります。 - 会社分割方式
会社分割方式は、事業の全部、もしくは一部を他社(他者)に移転する方法で、会社法の組織再編に則って行われます。
対象となる事業の権利・義務のすべてを承継する包括承継です。
原則として、事業承継の対価は、株式により支払われます。 - 第二会社方式
第二会社方式は、複数の事業を行っている場合に行われる手法で、新しく会社を設立し、その会社に採算性がある事業を譲渡する方法です。
事業を譲渡した後は、既存の会社を清算します。
4.緊急度別・中小企業の事業再生の手法の選び方
中小企業の事業再生の手法は、自社の状況に合わせて最適な方法を選択することが大切です。
ここでは、緊急度を3段階に分けて事業再生の手法の選び方の一例を紹介しましょう。
なお、実際に手法を選択する際は、事業再生の専門家の助言を受けることをおすすめします。
緊急度:高(3か月以内に対応が必要)

3か月以内に資金がショートする可能性が高いなど、緊急度が高い場合は、そもそも事業を継続できる見込みがあるか否かを厳しく判断する必要があります。
事業継続の見込みがある場合、債権者が協力的であれば、特定調停もしくは民事再生を協力的でない場合は、民事再生一択となります。
事業の継続が難しいと考えられる場合は、優良部門を譲渡する再生型M&Aを検討する余地があります。譲渡できる事業がない場合は、事業継続を諦める破産も視野に入れることが必要です。
緊急度:中(1年以内に対応が必要)

1年以内の事業再生を考えている場合は、債権者が協力的か否かにより大きく2つのパターンに分かれます。
①債権者が協力的である
債権者が協力的な場合、自社が何を重視するかによって事業再生の手法を選択します。
できるだけ周囲に事業再生を知られたくない場合は、個別に債権者と交渉ができる任意整理が適しています。一方で、公的サービスを利用し、費用を抑えたい場合は、中小企業活性化協議会や中小企業ガイドラインが選択肢となるでしょう。
専門家による中立的な調停を求めており、特例措置・優遇処置を受けたい場合は、事業再生ADRの利用、
有用な経営資源を持っている場合は、地域経済活性化支援機構(REVIC)も視野に入ります。
②債権者が協力的ではない
債権者の協力を得ることが難しい場合は、今後の対応の方法によって選択肢が異なります。
できるだけ交渉によって解決したい場合は特定調停、法的強制力が必要な場合は、民事再生が検討されます。事業譲渡を考えている場合は、再生型M&Aを選択します。
緊急度:低(1年以上の余裕がある)
1年以上の時間的な余裕があると判断できる場合は、「第3章 中小企業が選べる事業再生の選択肢とその特徴」を参考に、会社規模や自社の事情、それぞれの方法を総合的に鑑みた上で事業再生の手法を選択しましょう。
5.中小企業が実践可能な事業再生9つのステップ
中小企業の事業再生は、次の9つのステップにより実施します。
| 内容 | 期間の目安 | |
| STEP 1 | 現状の把握し、原因を特定 | 3週間 |
| STEP 2 | 経営改善 | 4週間 |
| STEP 3 | 金融機関に相談 | 2週間 |
| STEP 4 | 専門家に相談 | 2か月 |
| STEP 5 | デューデリジェンスの実施 | |
| STEP 6 | 事業再生の方法を決定 | |
| STEP 7 | 事業再生計画の策定 | |
| STEP 8 | 金融機関との交渉 | 数か月~ |
| STEP 9 | 事業再生計画の実行 | 3~5年程度 |
それぞれにかかる期間は、あくまでも目安であり、緊急度や抱えている問題により異なります。
事業再生の成功率を上げるためには、早急に着手することが重要です。
STEP1.現状の把握し、原因を特定
事業再生を考えた場合、まずは事業の現状や財務など、状況を正確に把握し、原因を特定することが必要です。
事業の収益性や財務状況、資金繰り、銀行からの借入金などを調査し、現状に至った原因を洗い出します。
原因を特定することは、解決策を導くヒントになるはずです。
STEP2.経営改善
特定できた原因に応じて経営改善を行い、事業の再生を図ります。
売上の向上が可能か、資金繰りの改善やコストの見直し、業務の効率化など、社内において事業や経営を改善を実施します。
原因が特定できない、もしくは改善の兆しがみられない場合は、早急に次のステップにすすむことを考えましょう。
STEP3.金融機関に相談
債務の返済が負担が大きい、取引先への支払いが難しくなってきているなど、資金繰りが悪化している場合は、早めに金融機関に相談しましょう。
リスケ(リスケジュール)をすることで、当面使える資金を確保し、売上の向上やコストの削減を目指します。
また、この段階で金融機関から専門家への相談をすすめられるケースも少なくありません。
STEP4.専門家に相談
自力で事業再生が難しい場合は、早急に専門家に相談することおすすめします。
専門家とは、中小企業の経営支援に関する知識や経験を持つコンサルタントや弁護士などの士業のことで、それぞれの会社に適した事業再生の方法をサポートを受けることができます。
STEP5.デューデリジェンスの実施
事業再生の専門家によるデューデリジェンスを行います。
デューデリジェンスとは、会社や事業の状況を詳細に調査・分析することで、その会社の価値やリスクなどが明確になります。これを基盤として事業再生の方法を選択し、事業再生計画を策定する重要な調査です。
STEP6.事業再生の方法を決定
専門家の支援を受け、デューデリジェンスのほか、業界の環境や社会情勢などさまざまな事情を踏まえ、事業再生の方針を決定します。
中小企業の事業再生の手法は、「第3章 中小企業が選べる事業再生の選択肢とその特徴」で解説しています。
STEP7.事業再生計画書の策定
事業再生の改善計画を記した事業再生計画書を作成します。
事業再生計画書には、事業再生に至った現状と問題点の分析とともに、事業再生のための具体的な施策やスケジュールなどを記します。
計画書で策定する再生完了までの期間は、3~5年が目安です。
事業再生計画書は、スポンサーや金融機関から融資を受けるための説得材料になるほか、取引先や株主、従業員から理解と協力を得るためにも重要な資料となります。
STEP8.金融機関との交渉
資金の問題を解消するために、金融機関との交渉を行います。
多くの場合、資金繰りの改善のために金融機関とリスケ(リスケジュール)や債務放棄などの交渉をすることが必要です。
債務の返済負担を軽減することで、事業の再構築や収益改善を目指します。
STEP9.事業再生計画の実行
充分な準備が整ったら、いよいよ事業再生計画を実行します。
事業再生は、決して平坦な道のりではありませんが、強い意志を持って遂行して行くことが大切です。
専門家のサポートを受けながら、着実に実行していきましょう。
6.中小企業が事業再生を実現する6つのポイント
中小企業が事業再生を行う場合、次の6つのポイントをしっかりと押さえることが大切です。
- 早期の現状把握
- 金融機関と連携を取る
- 経営の問題点を見える化する
- 社内外の関係者に情報共有を行う
- 将来を見据えた再生計画を立てる
- 専門家に相談する
6-1.早期の現状把握
事業再生は、早期に取り組むほど成功率が高くなります。
事業に何らかの問題を抱えている場合、時間が経つほど根深く複雑になっていくことが考えられます。
「第3章 事業再生が必要な中小企業に見られる7つの兆候」をはじめ、事業に関する不安感を持った場合は、必ず原因を追究し、早期に対応することが必要です。
6-2.金融機関と連携を取る
事業再生において金融機関としっかりと連携を図り、信頼関係を構築することは不可欠です。
金融機関から融資を受けたり、リスケなどの協力を得るためには、信用してもらうことが大切となります。都合の悪いことも含め、常に正しい情報を誠実に開示し、事業再生に対する強い意志を示すようにしましょう。
6-3.経営の問題点を可視化する
売上や資金繰り、債務の残高などの経営の実情はすべて数値にし、可視化しましょう。
可視化することにより、客観的に状況を把握できるほか、潜在的なリスクや問題点を認識しやすくなります。また、事業再生にはさまざまな判断が必要です。問題点や数値を可視化することで、常に根拠と事実に基づいた的確な判断ができるようになります。
6-4.社内外の関係者に情報共有を行う
社内外の関係者に対する情報共有は、信頼関係を構築するためには不可欠です。
経営の事情を従業員や取引先、債務者に知られたくないと思うかもしれません。しかし、透明性を保ち、適切に情報を開示することが信頼関係を構築し、協力を得ることにつながります。情報を隠蔽したり、必要に迫られ、後から開示した場合は、不信感を持たれかねません。
融資を受けたり、取引の継続、従業員のモチベーション維持など、事業再生には、信頼関係の構築は欠かせないのです。
6-5.将来を見据えた再生計画を立てる
将来を見据えた再生計画を立てることにより、さらなる成長につながります。
事業再生の目的は、単に会社の窮地を脱するためではなく、根本的な問題を改善し、将来の成長につなげていくことが重要です。予想される業界の変化や市場環境に適応できる計画を立てることが必要といえるでしょう。
将来を見据えた再生計画は、人材の流出を防ぎ、金融機関や取引先との信頼関係の構築にも役立つはずです。
6-6.専門家に相談する
事業再生に関する専門的な知識や経験を持つ、コンサルタントや弁護士、公認会計士などの士業などの専門家の支援を受けることは非常に重要です。
事業再生の専門家は、その知識と経験から優先順位を把握し、素早く的確に必要な手を打つことが可能です。また、専門家が入ることで、説得力がある事業再生計画書の作成が可能となるほか、債権者が安心感を持つため、スムーズな交渉にもつながります。
事業再生を専門家に依頼するメリットは、「第8章 中小企業が事業再生における専門家の支援を受けるメリット」で解説しています。
7.事業再生の成功事例
辻・本郷FASがサポートした事業再生の事例を紹介しましょう。
| 企業データ |
| 業種/製造業 従業員数/約100名 国内外に複数の拠点を持つ企業 |
【課題】
利益が上がっておらず資金繰りが悪化、金融機関との取引条件の見直しが必要な状況だった。
【現状分析】
利益を生んでいる製品や足かせになっている製品について把握できていなかったため、製品ごとの限界利益や固定費などについて分析を行った。
その結果、足を引っ張っている製品を特定するとともに、原価上昇、過剰設備、配送料の増加が大きな原因になっていることがわかった。
【事業再生の基本的な指針】
収益構造を見直すとともに、問題となっている製品の製造量や配送先(納品先)の再考。
さらに事業計画の再構築、資金繰りの見直しを行うことになった。
【具体的な施策】
歩留まり改善による原価率を見直し、限界利益率を基準とした製品の製造量の適正化や配送の効率化、過剰設備については、処分・売却も含め、今後の取り扱いについて検討。
支払いサイトを見直し、資金繰りの改善を行なった。
それらを反映した事業計画を策定し、企業様とともに金融機関とのミーティングに参加した。
※歩留まり=投入した原材料に対し、実際に製品として使える割合
【結果】
金融機関から資金繰り改善策が評価され、返済スケジュールの見直しが承認される。
本事業再生の施策により、経営の安定化と財務基盤の強化につながり、長期的な事業継続への道筋となった。
8.中小企業が事業再生の専門家の支援を受ける8つのメリット
中小企業が事業再生に関する専門的な知識や経験を持つ、コンサルタントや弁護士、公認会計士などの士業などの専門家の支援を受けることで8つのメリットが考えらえます。
- スピード感を持って事業再生に臨める
- 専門家であれば客観的な判断ができる
- 金融機関や取引先が安心感を持つ
- 専門家ならではの幅広い知識でサポートが可能
- 説得力がある事業再生計画書を作成できる
- 債権者との交渉のサポートが受けられる
- 経営者の安心感につながる
- 専門家の介入により、事業再生の成功率が上がる
8-1.スピード感を持って事業再生に臨める
中小企業の事業再生は、危機が迫っている状態であり、スピード感が欠かせません。
時間をロスするほど、抱えている問題が根深く複雑になり、確実に選択肢が減っていきます。時間の経過とともに事業再生が成功するハードルは高くなっていくのです。
事業再生の専門家は、その知識と経験から解決の優先順位を把握し、素早く的確に手を打つことができます。
8-2.専門家であれば客観的な判断ができる
専門家は、問題点を客観的に分析し、判断することができます。
経営者など内部の人では気づけなかった問題点も、専門家の客観的で冷静な分析により、見えてくることがあります。また、経営者にはさまざまな事情やいきさつがあり、適切な判断ができていないこともあるかもしれません。専門家であれば、さまざまな事情を踏まえ、客観的によりよい判断をすることが可能です。
8-3.金融機関や取引先が安心感を持つ
専門家の支援は、金融機関や取引先などの関係者の安心感をにもつながります。
専門家の支援を受けることで事業再生の成功率が高くなるため、金融機関をはじめとする関係者は安心感を持つはずです。また、専門家の力を借りることは、経営者が本気で事業再生に取り組んでいる証ともいえます。
8-4.専門家ならではの幅広い知識でサポートが可能
幅広い知識と経験による判断は、これまで事業再生に携わってきた専門家でなければ持ちえないものです。
財務の分析や債務整理、法的な知識、事業に関する問題点の把握など、必要な知識は多岐に渡るため、専門家としての知見は欠かせません。さらに事業では、知識だけではカバーできないさまざまな問題も発生します。そんな場合も経験豊富な専門家であれば、適切な対応が可能です。
8-5.説得力がある事業再生計画書を作成できる
専門家であれば、プロの目から見た関係者を納得させる事業再生計画書を作成することができます。
事業再生計画書は、事業再生において、重要な役割を果たします。作成自体は、経営者であれば可能かもしれません。ただし、金融機関などの取引先に提出した場合に、相手を納得させられるか、成長する可能性を感じられるかは別の話です。
専門家であれば、金融機関や関係先から見た、納得感がある事業再生計画書の作成が可能です。
8-6.債権者との交渉のサポートが受けられる
専門家のサポートにより、債権者との交渉の場において有利な条件を得ることが可能です。
事業再生の専門家は、債権者との交渉の場においても、その知識と経験により会社にとって有利な条件を導きだすことも可能です。また、債権者側も、専門家が入っていることにより、安心感が生まれます。
8-7.経営者の安心感につながる
頼れる専門家の存在は、経営者にとっても大きな安心材料になります。
事業再生の道のりは、決して平坦ではありません。経営者の精神的な負担は非常に大きくなるでしょう。そんな場合でも、客観的で的確な助言をしてくれる頼れる専門家の存在は、経営者の心理的な負担軽減にもつながります。
8-8.専門家の介入により、事業再生の成功率が上がる
専門家に依頼することの最大のメリットは、事業再生の成功率が上がることです。
これまで申し上げてきた通り、事業再生には専門的な知識と経験、そしてスピード感が成功を左右します。
経験や知識がないままに手探りで事業再生をすすめることは、非常に難しく、リスクが高いといえるでしょう。
強い思いで事業再生を成功させたい場合は、専門家の支援を受けることをおすすめします。
9.中小企業の事業再生は辻・本郷 FAS株式会社にご相談ください
辻・本郷 FAS株式会社は、再生局面にある企業に対し経営及び財務面の安定化を図り、利益最大化のための打ち手を講じます。選択と集中により経営資源を集中させ、再生計画の策定と早期再生を図るための支援を行うことが可能です。
御社の事業再生に対し、これまでの実績や経緯を踏まえ、財務や経営など多方面から検討した早期再生を図るための最適なご提案をいたします。
辻・本郷FAS株式会社のスタッフは、税理士や会計士、金融機関出身者などのプロフェッショナルで構成されています。それぞれの分野に精通したスタッフが担当し、実態調査・株価算定・PPA・PMIなどM&Aに必要な手続きもワンストップで支援します。

ご提案できるのは、事業再生だけではありません。
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辻・本郷 FAS株式会社
10.まとめ
本記事では、中小企業の事業再生について解説しました。
中小企業において事業再生の成功の可否は、会社の存続に直結する重要な問題であり、早急に対応することが重要です。
事業再生が必要な中小企業に見られる兆候は、次の7つです。
- 慢性的な赤字経営
- 売上回復の見通しが立たない
- 資金繰りの悪化
- 金融機関から融資を断られた
- 固定費の割合が高くなり、重荷に感じるようになった
- 従業員の離職が増えた
- 取引先が減少した
中小企業が事業再生を行う場合、次の手法が選択肢となります。
- 私的整理
①任意整理(純粋私的整理)
②中小企業活性化協議会の支援を受ける
③中小企業の事業再生等に関するガイドラインを利用
④事業再生ADRを利用
⑤地域経済活性化支援機構(REVIC)
⑥特定調停 - 法的整理
民事再生 - 再生型M&A
中小企業が事業再生の手法を選択する場合、緊急度がひとつの目安になります。
緊急度:高(3か月以内に対応が必要)

緊急度:中(1年以内に対応が必要)

緊急度:低(1年以上の余裕がある)
事業再生の手法の種類を参考に、会社規模や自社の事情に応じて選択します。
中小企業の事業再生は、9つのステップで行います。
STEP1:現状の把握し、原因を特定
STEP2:経営改善
STEP3:金融機関に相談
STEP4:専門家に相談
STEP5:デューデリジェンスの実施
STEP6:事業再生の方法を決定
STEP7:事業再生計画書の策定
STEP8:金融機関との交渉
STEP9:事業再生計画の実行
中小企業が事業再生に成功するためには、押さえるべき6つのポイントがあります。
- 早期の現状把握
- 金融機関と連携を取る
- 経営の問題点を可視化する
- 社内外の関係者に情報共有を行う
- 将来を見据えた再生計画を立てる
- 専門家に相談する
中小企業が事業再生を専門家に依頼するメリットは8つあります。
- スピード感を持って事業再生に望める
- 専門家であれば客観的な判断ができる
- 金融機関や取引先が安心感を持つ
- 専門家ならではの幅広い知識でサポートが可能
- 説得力がある事業再生計画書を作成できる
- 債権者との交渉のサポートが受けられる
- 経営者の安心感につながる
- 専門家の介入により、事業再生の成功率が上がる
以上、事業再生を目指す経営者のご参考になれば幸いです。
