
資金繰りが思うように回らず、毎月の銀行融資の返済に不安を感じている経営者の方は少なくありません。
そのような状況で耳にすることが多い、銀行融資の「リスケジュール(リスケ)」という言葉があります。
リスケジュールとは、銀行融資においては、返済条件を見直し、返済額や返済期間を調整することを指すことが多いです。企業が資金繰りの最終手段として活用する、一時的に資金繰りを楽にするための方法を指します。
しかし「リスケジュールを申し込むと銀行からの信用は落ちるのではないか」「手続きは難しいのではないか」といった不安から、具体的な行動に踏み出せずにいる経営者も多いのが実情です。
この記事では、銀行融資のリスケジュールの基本的な仕組みから、実際の手続きの流れ、メリット・デメリット、さらにリスケジュールの交渉の際のポイントまでをわかりやすく解説します。
目次
1.銀行融資のリスケジュールとは?
銀行融資のリスケジュールとは「融資の返済条件を変更すること」です。
なぜそれが必要かというと、事業者が資金繰りに行き詰まったときに、従来の返済条件では経営が立ち行かなくなる可能性があるからです。リスケジュールを行うことで、返済負担を軽減し、事業の継続や再建に必要な資金を確保する狙いがあります。
具体的には、以下のような内容があります。
リスケジュールで行う主な変更内容
・月額返済額を一定期間、減額する
・返済期間を延長する
・利息の見直しや損害金のカットなども場合によって検討される
したがって、銀行融資のリスケジュールは単なる「返済の先送り」ではなく、金融機関と協力しながら資金繰りを安定させ、事業を立て直すための重要な選択肢といえます。
2.銀行融資のリスケジュールのメリット
リスケジュールは「返済を遅らせる苦肉の策」と思われがちですが、実際には経営者にとって複数の利点があります。特に資金繰りが切迫しているときには、ただ返済を続けて行き詰まるよりも、早めに銀行と交渉して条件を見直すことが事業存続の助けになります。
この章では、リスケジュールの代表的なメリットを見ていきましょう。
2-1.コスト負担が少なく済む
リスケジュールは借り換えよりもコスト負担が少ない方法です。
なぜなら、借り換えを行う場合には既存借入の全額返済に伴う繰上返済手数料や、新たな融資を組むための事務手数料が発生するためです。これらの費用は数十万円単位になることも珍しくありません。
一方で、リスケジュールは既存の融資契約を前提に条件を変更する仕組みであるため、数万円程度の条件変更手数料や、信用保証協会への保証料、また、契約条件によっては違約金に近いものが発生することはありますが、それ以外には余計な手数料がかからず、資金を事業運営に残すことができます。
したがって、費用を抑えて資金繰りを改善したい場合には、借り換えよりもリスケジュールの方が合理的といえるのです。
2-2.経営改善のための時間的猶予を確保できる
リスケジュールによって経営再建のための時間を稼ぐことができます。
理由は、返済額を減額したり返済期間を延ばしたりすることで、当面の資金流出を抑えられるためです。その間に新規顧客の獲得やコスト削減など、経営改善に必要な取り組みを進める余裕が生まれます。
例えば、毎月100万円の返済を50万円に減額できれば、半年間で300万円の資金を改善活動に充てられます。
このように、リスケジュールは単なる延命策ではなく、再建に取り組むための「準備期間」を確保する効果を持っています。
2-3.倒産リスクの一時的な回避ができる
リスケジュールは資金ショート(手元の資金が足りず、支払いができないこと)による倒産を避ける有効な手段です。
返済額を下げることで当座の資金繰りに余裕が生まれ、仕入れや給与の支払いが滞るリスクを減らせるためです。もし支払いが滞れば、取引先や従業員からの信頼を失い、最悪の場合は事業継続そのものが難しくなってしまいます。
リスケジュールを行えば、一時的に資金ショートを免れ、事業を継続する選択肢を残すことができます。
したがって、危機を回避し再建の糸口をつかむうえで、リスケジュールは重要な役割を果たします。
2-4.一時的に利息のみの返済などとすることで資金を事業運営に回せる
リスケジュールによって「元本据え置き・利息のみ返済」に切り替えれば、その分、資金を事業運営に充てられます。
元本の返済を一時的に止めるなどすることにより、毎月の資金流出を大幅に抑制できるためです。例えば、元本返済が80万円、利息が20万円の場合、リスケジュールにより利息のみの返済になれば80万円を従業員の給与や仕入れの支払いに回せます。
このように、事業を止めないための「資金の余裕」を確保できるのが、リスケジュールの大きな強みです。
したがって、当面の事業継続を最優先したい経営者にとって、利息のみ返済という選択肢は大きな助けになります。
3.銀行融資のリスケジュールのデメリット
リスケジュールは資金繰りを一時的に楽にする有効な手段ですが、その反面、長期的には大きなデメリットも抱えています。安易に利用すると将来の資金調達に影響が及ぶため、メリットと合わせて理解しておくことが重要です。
この章では、リスケジュールの代表的なデメリットを解説します。
3-1.融資のハードルが高くなる
リスケジュールを行うと、新規融資を受けることは極めて難しくなります。
なぜなら、リスケジュールをしている間は「返済能力に不安がある」と金融機関に見なされるためです。原則としてリスケジュール中は追加融資が認められず、仮に他行へ申し込んでも、決算書を見れば現状が把握されてしまい、厳しい審査が課されるため、実質的に融資を受けることは不可能です。
ただし、正常化(リスケジュール状態からの復帰)がもしできた場合には、その後、融資を受けることは可能となります。
したがって、リスケジュールは資金を増やす手段ではなく、あくまで出ていく資金を減らすための応急処置と理解すべきです。
3-2.返済が長期化する
リスケジュールは、融資の返済期間を延ばすことにつながります。
月々の返済額を減らす代わりに、返済総額を完済するまでの期間を延長する仕組みであるためです。返済期間が長引けば、その分だけ負担は続き、心理的な重荷にもなります。
例えば、毎月100万円を返済していた契約を50万円に減らせば、返済期間は単純計算で2倍に伸びます。
したがって、リスケジュールは「時間を稼ぐ」手段である一方で、借り入れとの付き合いが長期化する現実も受け止める必要があります。
3-3.抜本的な財務改善にはならない
リスケジュールは事業改善の根本的な解決策にはなりません。
リスケジュールで一時的に返済負担を軽くしても、売上低下や固定費の高さといった経営課題そのものが解決されるわけではないためです。むしろ、改善努力を先送りしてしまう危険性もあります。
例えば、売上が下がったままの状態で返済を先延ばしにしても、時間切れになれば再び資金繰りは行き詰まります。
したがって、リスケジュールを行うと同時に、売上回復やコスト削減などの抜本的な改善策に取り組むことが不可欠です。
4.リスケジュールを申し込む流れ
リスケジュールは「銀行にお願いすればすぐ通る」という単純なものではありません。
相談から契約、そして改善の実行・報告まで、一定の流れを踏む必要があります。
この手順を理解しておくことで、スムーズに交渉を進められ、銀行からの信頼を保ちつつ支援を受けやすくなります。この章では、リスケジュールを行うまでの代表的な流れを解説します。
4-1.金融機関への相談・意思表示
リスケジュールでは、まずは金融機関に対して「返済条件を見直したい」という意思を正直に伝えることが第一歩です。
銀行側も事業者の現状を把握していなければ、適切な支援を検討できないためです。資金繰りの悪化や返済困難な状況を隠してしまうと、後に発覚した際に信頼を大きく損ねます。
例えば、返済日直前に「払えません」と連絡するのではなく、余裕を持って「今後の返済が難しくなる見込みがある」と早めに伝える方が、交渉は進めやすくなります。
したがって、リスケジュールのスタートには、誠実に現状を共有する姿勢が欠かせません。
4-2.必要書類の準備
リスケジュールでは経営状況を具体的に示す書類が必須です。
銀行が返済条件の見直しを検討する際に、数字と計画に基づいて判断するためです。「苦しいから助けてほしい」というだけの訴えでは、説得力を欠きます。
具体的には、
・返済条件変更申出書 (金融機関による)
・直近3期分の決算書
・資金繰り表(半年~1年分)
・返済計画表 (3〜5年分)
・経営改善計画書など
が求められます。さらに、取引状況や担保の一覧、資産状況を示す資料も準備が必要です。
このように、書類の準備は手間がかかりますが、銀行の信頼を得て交渉を成功させるための土台となります。
4-3.銀行との交渉・条件決定
銀行との交渉では返済可能な条件を現実的に擦り合わせることが重要です。
交渉において過大な返済条件を設定してしまうと、再び行き詰まり、銀行からの信頼をさらに損なう結果になってしまう可能性があるためです。
例えば「半年間は利息のみの返済にして、その間に経営改善を進める」といった、具体的かつ実現可能な条件を提示すると、銀行側も納得しやすくなります。
したがって、交渉では「実行可能性」と「誠実さ」の両立を意識するようにしましょう。
4-4.リスケジュール契約締結・承認決済
条件が合意されると正式な契約としてリスケジュールが承認されます。
銀行内部でも審査・決裁手続きを経て、正式に返済条件を変更する必要があります。ここで承認が下りて初めて、新しい返済スケジュールが適用されます。
この段階をもって、リスケジュールは「口約束」から「正式な取決め」へと移行します。
4-5.進捗報告・見直し・継続の検討
リスケジュールは契約して終わりではなく、改善の進捗を定期的に報告する義務が伴います。
銀行が「本当に改善に取り組んでいるか」を確認し、今後の支援方針を決めるためです。一般的には年1~2回の報告が求められ、計画どおりに進んでいれば通常返済へ復帰することも可能です。
しかし、改善が進まない場合には、追加のリスケジュール交渉や条件見直しを迫られるケースもあります。
リスケジュール後の取り組み姿勢は、次の資金繰りに直結します。誠実に対応していきましょう。
4-6.通常の返済への復帰(正常化)
リスケジュールの最終ゴールは通常の返済への復帰です。
リスケジュールはあくまで一時的な措置であり、永続的に続けられるものではないためです。改善の結果、業績が回復すれば再び通常の返済に戻ることが求められます。
例えば、売上が安定し利益が出るようになれば、銀行側も通常返済を認めやすくなり、信用の回復にもつながります。
リスケジュールを成功させるためには、リスケジュールを一時的な延命措置にとどめず、復帰に向けた改善行動を続けることが不可欠です。
5.リスケジュールの交渉のポイント
銀行融資のリスケジュールを成功させるためには、単に「返済できないので待ってほしい」と伝えるだけでは不十分です。銀行側が「この会社に猶予を与えても回収の見込みがある」と納得できるだけの材料と交渉力が必要となります。
この章では、リスケジュールの交渉を有利に進めるための具体的なポイントを解説します。
5-1.経営改善計画書に明記すべき内容を忘れない
リスケジュールは「資金繰りが厳しい」だけを理由にしても認められにくく、銀行にとって納得感のある改善計画が不可欠です。
特に、自社や業界の現状、過去3期分の決算概要、今後の経営方針、具体的な要望内容、そして改善効果を数値で示すことが重要です。
例えば「販路拡大により来期は売上を10%伸ばす」といった根拠ある見込みを数字で提示することで、銀行は「再建の見込みがある」と判断しやすくなります。
リスケジュールにおいては、計画書の充実度が交渉結果を左右するのです。
5-2.将来的な経営再建を踏まえて交渉する
リスケジュールはあくまで一時的な猶予にすぎず、銀行が求めているのは「将来の正常返済の見込み」です。
したがって、交渉の際には単に当面の資金繰りを確保するだけでなく、今後どのように経営を立て直すのかを明確に説明する必要があります。
例えば「コスト削減と新規取引先の開拓を同時に進め、2年以内に黒字転換する」といった再建ロードマップを示すことで、銀行に安心感を与えられます。
結局のところ、銀行が知りたいのは「猶予を与えれば回収できるのかどうか」であるため、その明確な答えを示すことが交渉では重要となってきます。
6.リスケジュールをする前に取るべき資金繰り改善策
銀行融資のリスケジュールは、企業の資金調達に確かに有効な手段ですが、リスケジュールはあくまで返済条件の一時的な調整にすぎません。
また、リスケジュールは、資金繰りに困窮した企業が最終的に取るべき選択肢であり、抜本的な財務改善にはつながりません。
資金繰りの安定化を図ることを考えると、他の改善策を全て実践した後に、最終手段としてリスケジュールを行うべきであると言えます。
この章ではリスケジュールの前に取り得る資金繰り改善策を紹介します。
6-1.売掛金の早期回収
資金繰りを改善する最も直接的な方法は、入金のタイミングを早めることです。
売掛金は、回収が遅れるほど資金繰りを圧迫します。取引先に対しては「支払サイトの短縮」を交渉したり、場合によってはファクタリングを利用して早期に現金化するのも一つの手です。
例えば、通常60日サイトの売掛金をファクタリングで即日現金化できれば、仕入れや人件費の支払いをスムーズに行え、資金繰りに余裕が生まれます。
つまり、売掛金の早期回収は「借入れに頼らない資金繰り改善」として効果的です。
6-2.在庫圧縮によるキャッシュ化
過剰在庫は資金を寝かせる要因となります。
不要在庫や動きの遅い在庫を早めに処分すれば、即座に現金が戻り、資金繰り改善に直結します。
例えば、シーズンを過ぎた商品やB級品を特価販売することで、キャッシュフローを改善できます。
在庫は「現金の形を変えただけの資産」であるため、圧縮すれば一時的にですが、資金を呼び戻せるのです。
6-3.経費削減の徹底
支出の見直しも資金繰り改善の基本です。
固定費の中でも、事務所家賃や人件費、通信費などは影響が大きく、削減効果も高くなります。
例えば、不要なサブスクリプション契約を解約するだけでも毎月の資金繰りが改善されます。さらに、外注業務の内製化や、逆に人件費を抑えるためのアウトソーシングなど、工夫次第で支出を抑えることが可能です。
無駄な経費の削減は資金繰り改善の即効薬となります。
6-4.資産売却による資金確保
不要な資産を売却することで、資金を一時的に確保する方法もあります。
遊休不動産や使っていない機械設備、さらには保有株式など、事業に直接必要のない資産を現金化すれば、資金繰りの改善につながります。
例えば、遊休地を売却して数千万円を現金化できれば、返済資金や運転資金に充てることが可能です。
資産売却は一時的な手段ですが、即効性の高さが魅力です。
6-5.補助金や助成金の活用
借入以外で資金を調達する手段として、国や自治体の補助金・助成金があります。
特に経営改善や事業再構築に関する補助金は、返済不要の資金として大きな効果を発揮します。
例えば「小規模事業者持続化補助金」や「事業再構築補助金」などは、販路拡大や設備投資を支援する制度です。
これらをうまく活用すれば、資金繰りの改善と事業の成長を同時に実現できます。
7.まとめ
銀行融資のリスケジュールは、資金繰りに悩む経営者にとって、最終手段として非常に有効な選択肢です。
結論から言えば、リスケジュールは「一時的に返済負担を軽減し、経営改善のための時間を確保できる」点で大きなメリットがあります。
実際、返済額の減額や返済期間の延長、場合によっては利息のみの支払いにすることで、倒産リスクを回避しつつ従業員の給与や仕入れに資金を回すことが可能です。これにより、事業の立て直しに向けた準備期間を確保できます。
しかし一方で、リスケジュールには「新規融資の制限」「返済長期化」「信用力の低下」といったデメリットも存在します。リスケジュールはあくまで延命策であり、根本的な財務改善には直結しません。
したがって、重要なのは、リスケジュールを行う前段階で他の選択肢を検討したり、リスケジュールを行う場合でも、リスケジュールを単なる時間稼ぎに終わらせず、その間に資金繰り改善や経営改善のための具体的な施策を実行することです。
リスケジュールによる理想的な状態とは「銀行との関係を保ちながら返済を継続できる体制を整え、通常返済へ復帰しつつ、事業を成長軌道に乗せること」です。
本記事がその第一歩となり、リスケジュールと並行して根本的な経営改善を進めるきっかけになれば幸いです。
