バリュエーションの仕事内容を解説|業務を擬似体験してみよう

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監修者 山田翔吾

企業価値を評価する「バリュエーション」という言葉について、耳にしたことはあっても、実際にどのような仕事を指すのかは意外と知られていないのではないでしょうか。

バリュエーションは、M&Aや投資判断の現場では欠かせないプロセスであり、会計やファイナンスの知識を土台にして企業の将来性を数値化する重要な業務です。

この記事では、バリュエーションの仕事内容を具体的に紹介します。

これから業務に関わる方や転職を考えている方にとって、実務イメージをつかむきっかけとなる内容です。ぜひご一読ください。


1.バリュエーションの主な仕事内容は、企業価値の評価である

バリュエーションの仕事とは、一言で言うと企業価値評価、つまり「会社や事業の本当の価値を見極める仕事」です。

あなたがこの業界に転職したら、経営者や投資家が「この会社はいくらの価値があるのか」「この買収金額は妥当なのか」と判断するための材料を作ることになります。

例えば、ある会社が別の会社を買収しようとしているとき、いくらで買うのが妥当なのかを決める必要があります。あるいは、会社が投資を受けるときや、経営の一部を整理するときにも「会社の値段」をはっきりさせる必要があります。あなたが行うのは、そのための「根拠づくり」です。

仕事の流れとしては、次のようになります。

・会社の財務データ(決算書など)や今後の事業計画を読み込み、どんな特徴があるのかを分析する。

・過去のデータや将来の見通しから「この会社がどのくらい利益を出せるのか」「資産にはどんな価値があるのか」を考え、最終的に「今の会社の価値」を数字で示す。

・案件によっては、特許やブランド、商標など、目に見えない価値を評価することもある。

海外企業が関わる場合は、外国の会計ルールや為替の影響も考えなければなりません。まさに、数字の裏にある「会社の本当の姿」を読み解く仕事です。

代表的な実務内容としては、次のような場面であなたの力が求められます。

主にバリュエーションを用いる場面

①M&A関連の企業価値評価(買収・合併時の価格交渉・判断支援)
②グループ再編や借入時の企業価値評価(金融機関や株主への説明材料)
③財務報告目的の企業価値評価(減損テスト・公正価値算定)
④PPA(パーチェス・プライス・アロケーション)における資産・無形資産・負債の価値の評価
⑤ストックオプションや債権などの金融商品の評価

バリュエーション業務のやりがいは、自分の分析がそのまま経営判断に直結するところにあります。あなたの出す数字ひとつで、企業の未来が動くこともあるのです。数字を扱う仕事の中でも、非常に責任が大きく、同時に高い達成感を味わえる分野といえます。

一方で、最初のうちは会計や財務の知識が必要になり、数字を読む力が求められます。入社前に、決算書の読み方やExcelの使い方、簡単な企業分析(売上や利益の増減など)を勉強しておくとスムーズに仕事に入れるでしょう。特に、論理的に考えながら物事を整理する力は非常に重要です。

つまり、バリュエーションの仕事は「数字で会社の本質を見抜くプロ」になる第一歩です。あなたがバリュエーション業務に就くことを選ぶなら、経営の裏側を覗き、ビジネスの動きを理解する貴重な経験ができるはずです。


2.バリュエーションの仕事内容の流れ

バリュエーションの仕事は、ただ電卓を叩いて数字を出すだけではありません。

あなたが担当するのは、「この会社はいくらの価値があるのか?」という問いに、根拠をもって答えを導くことです。

そのためには、目的の確認から情報収集、分析、報告まで、一つひとつのプロセスを丁寧に積み重ねていく必要があります。

この章では、あなたが実際にこの仕事に携わったときにどのように進めるのかを、擬似体験するようなかたちでご紹介します。

2-1.目的確認・評価スコープの設定

バリュエーションの仕事は、最初に「なぜ、何のために会社の価値を出すのか」を確認するところから始まります。

あなたがこの仕事に就いたら、最初の打ち合わせで、例えばクライアントにこのように尋ねることになります。

「今回バリュエーションを行うのは、会社を売却するためですか? それとも、投資家への説明資料に使うためですか?」

なぜこのような質問をするのかというと、目的によって評価のやり方や必要な正確さが大きく変わるためです。

例えば、M&Aの交渉のために使う場合は「交渉で説得力を持たせるための根拠づくり」が重視されますが、会計処理のための評価では「数字の一貫性」や「監査に耐えられる正確さ」が求められます。

あなたが設定する「スコープ(評価の範囲)」も、この時点で決まります。会社全体を評価するのか、それとも特定の事業や資産だけを対象にするのか、この判断を誤ると、せっかく作った評価が使えない資料になってしまうこともあります。

したがって、クライアントの意図を正しく理解するための最初の目的確認は非常に重要です。

2-2.会社・事業の情報収集とヒアリング

バリュエーションの目的が定まったら、次は会社の実態をつかむための情報収集です。

あなたは、決算書や財務データを読み込むだけでなく、経営者や現場担当者へのヒアリングも行います。数字だけを見ても、会社の本当の強みやリスクは見えてこないためです。

例えば、あなたがある製造業の案件を担当したとしましょう。資料には売上が10億円、利益が2億円と書かれていますが、それだけではこの会社がどんな力を持っているのか分かりません。実際に社長に話を聞くと、「主要な取引先が業界大手で、毎年新製品の共同開発をしている」といった強みが見えてくることもあります。逆に、「原材料の仕入れ価格が急に上がると利益が出なくなる」といったリスクも、現場の声からしか分からないことがあります。あなたが集める情報は、数字でありながら、会社全体の物語の一部でもあります。その物語を正確に理解してこそ、次の段階で作る評価モデル(将来の収益やリスクを見積もるための計算の枠組み)が現実的なものになります。

この段階では、「どこまで聞くか」「どこまで調べるか」のバランス感覚も重要です。

限られた時間の中で、必要な情報を的確に引き出すことができるようになる必要があります。

2-3.評価手法の選定

あなたが情報を集め終えたら、次にやるのは「どのような方法で会社の価値を計算するか」を決めることです。

バリュエーションの仕事では、この手法選びがとても重要です。なぜなら、同じ会社でも使う手法によって見える価値が変わるからです。

例えば、あなたがカメラマンだと想像してください。ポートレートを撮るとき、レンズの種類や角度によって写真の印象がまったく違ってきます。バリュエーションも同じで、「どのレンズ(評価手法)で会社を見るか」によって、評価の結果が変わります。

具体的には、評価手法は大きく3つの考え方に分かれます。

「コストアプローチ(その会社が持っている資産の価値を足し上げて求める)」:もしあなたが清算前の会社を評価するなら、「土地・建物・設備などを全部売ったらいくらになるか」をベースに考えるのがこの方法です。

「インカムアプローチ(将来の稼ぐ力を重視)」:「この会社がこれから5年後、10年後にどのくらい利益を出せるか」を予測して、それを今の価値に直して計算する手法です。M&Aや投資の場面では、この方法がよく使われます。

「マーケットアプローチ(似たような会社の実際の取引価格や株価をもとに算出する)」:「この会社に似たA社やB社がいくらで買われたか」「株価がどのくらいの倍率で動いているか」などを参考に、相場感を取り入れます。

あなたが実際にこの段階を担当した場合、「なぜこの手法を選んだのか」を説明できることも大切になります。なぜなら、経営者や投資家は結果だけでなく、「その数字にどんな考え方が込められているのか」を重視するからです。バリュエーションでは計算や数字が重要に見えますが、実は論理と思考も非常に重要な分野なのです。

経験を重ねていくうちに、あなたは数字の裏にあるビジネスの構造を見抜く目を養っていくことになるでしょう。

2-4.財務分析・将来収益予測

評価手法を決めたら、次にあなたが取り組むのは「実際に数字を読み解き、未来を予測する」作業です。

このステップで作る将来の予測は、そのまま企業価値の根拠になります。

あなたが実際に行うのは、会社の過去数年分の決算書を分析して、利益の変化やコストの傾向をつかむことです。しかし、ただ数字を並べるだけではありません。

例えば、財務分析や将来収益予測が必要なケースには、次のようなものがあります。

・会社について「この年だけ利益が急に増えている」と気づいた場合:「新しい取引先ができたのか?」「一時的な補助金があったのか?」といった背景を一つひとつ整理して、会社の本当の実力を見抜くのがあなたの仕事です。

・経営者から事業計画をもらった場合:もらった事業計画をそのまま信じることはしません。「この売上の伸び率は、過去の実績と比べて現実的か?」「市場の成長スピードと合っているか?」といった疑問を持ちながら、慎重に数字を調整していきます。

・会社の将来のキャッシュフロー(お金の流れ)を予測したい場合:会社が5年後、10年後にどのくらいお金を生み出せるかを見積もり、それをもとに価値を算出します。

こうしたプロセスの積み重ねによって、経営者に「この数字なら納得できる」と言われるとき、あなたはきっと、バリュエーションの面白さを実感するはずです。

2-5.バリュエーション算定

次に、集めたデータや分析をもとに「この会社はいくらの価値があるのか」を数字で出す段階に入ります。

この過程は、テストの本番のようなものです。今までの情報整理や分析が、すべてこの数字を出すための準備であったと言えます。

例えば、現場で非常によく用いられる「DCF法」に基づいて、バリュエーション算定をするとします。

あなたが上司から「この会社を買収するとしたら、いくらまでなら妥当か?」と聞かれたとして、感覚で「おそらく3億円くらいです」と答えても根拠がありません。そこで、将来の利益を予測し、それを「今の価値」に直すことで計算する必要が生じます。これがDCF法となります。

もし、その会社が新しくて、まだ将来の利益を正確に読めない場合は、同じ業界で似た会社の株価を参考にするマルチプル法を使います。逆に、不動産や設備のように資産を多く持つ会社なら、持っているものの「今の値段」を足し合わせる純資産法が向いています。こうした手法については、2-3の段階で精査しておきます。

算定の段階における実際の作業は、数字を入れて終わりではありません。計算の正確さだけではなく、「どのような前提でこの数字にたどり着いたのか」を明確に説明できるように考えながら算定することが、評価の信頼性を高めるのです。

2-6.クロスチェック・相場比較

バリュエーションでは、算定した結果を見て終わり、とはなりません。ここからのクロスチェックや相場比較が非常に重要です。

なぜなら、どんなに丁寧に分析しても、数字は「前提の置き方」一つで簡単に変わってしまうためです。

例えば、あなたがDCF法でこの会社の価値は10億円だと計算したとします。しかし、同じ業界の会社の平均株価をもとにマルチプル法で計算すると7億円しか出ないとします。このとき、なぜ3億円の差が出たのかを検討することが非常に大切です。成長率の見積もりが高すぎたのか、使用した市場データが古かったのかといった点を一つずつ確認していく過程が「クロスチェック」にあたります。

この作業をしていると、自分の評価の癖が見えてくることがあります。将来の売上を楽観的に見すぎていたり、資産の価値を低く見積もりすぎていたりといった自分の癖を知ることで、さらに自身も成長することができるのです。

そして、クロスチェックを通して、「他の見方からも同じ結論が出るか」を確認できたとき、初めて自信を持って「この会社の価値は○億円です」と言えるのです。

つまり、この工程は、評価を裏付ける再確認のテストのようなものであり、自分の出した数字を社会的に通用するものに変えるための大切なステップなのです。

2-7.レポート作成・クライアント報告

最後に行うのが、結果とその根拠をまとめたレポートの作成です。

ここでは「何を、どんな考え方で、どう計算したのか」を、初めて読む人にも理解できるように整理して伝える力が求められます。

例えば、あなたがクライアントに報告する場面を想像してください。あなたの説明を聞いた経営者が、「なぜこの方法を使ったの?」「この数字の根拠はどこ?」と質問してきます。そのとき、単に「モデルに基づいて計算しました」と言うだけでは通用しません。「将来の売上を過去3年の平均成長率で予測しました」「同業他社のPERが10倍前後だったので、それに合わせています」などと、数字の裏にある考え方を言葉で伝える工夫をする必要があります。

この段階では評価の数字そのものだけでなく、「説明が筋が通っているか」「納得感があるか」も重視されます。

クライアントがあなたの説明を聞いて納得することができれば、あなたの報告書は、クライアントの意思決定の根拠となるのです。

この段階においては、自分の分析に責任を持ち、言葉でクライアントとの信頼を築くことが重要なのです。


3.バリュエーション業務に携わりたい方は、辻・本郷 FAS株式会社で一緒に働きましょう!

バリュエーションの仕事に興味を持った方に、ぜひ知ってほしいのが辻・本郷 FAS株式会社です。

辻・本郷 FAS株式会社では、主にM&Aの分野で「企業の価値をどう見抜き、どう伝えるか」というバリュエーションの実務の最前線を経験できます。

辻・本郷 FAS株式会社の強みは、M&Aに不可欠な実態調査(デューデリジェンス)、株価算定(バリュエーション)、PPA(取得価格配分)、PMI(経営統合支援)などの業務をワンストップで、M&Aの全プロセスを一括サポートしているため、幅広い案件に関われることです。

そのため、バリュエーションの専門家としてだけではなく、企業の意思決定を支えるアドバイザーとしての視点も自然と身につきます。

辻・本郷 FAS株式会社では、クライアントとともに学び、共に発展していく姿勢を持ち、単なる専門家にとどまらず、クライアントのパートナーとして寄り添うことを重視しています。

また、20年以上の経歴を持つ辻・本郷グループとして、上場企業から中小企業まで幅広いクライアント層に対応してきた豊富な実績とノウハウがあります。

数字に強いだけでなく、論理的に考え、相手を納得させる力が育つ職場です。

もしあなたが、「数字の裏にある意味を探るのが好き」「企業の価値を見えるかたちにしたい」と感じるなら、バリュエーションの仕事はきっとやりがいのある選択になるはずです。

そして、それを本気で学び、実践できる環境が、辻・本郷 FAS株式会社にはあります。

あなたもぜひ、企業の未来を価値として描くこの仕事に挑戦してみませんか。ご興味がありましたら、辻・本郷 FAS株式会社にお問合せください。


4.まとめ

バリュエーション業務は、企業や事業の本当の価値を見つめ、その「理由」を論理的に説明するという知的な仕事です。そこには、経営者の思い、事業の可能性、市場の動き、そして数字に現れない人の努力が詰まっています。この仕事を通じてあなたが学ぶのは、「価値を見抜く力」と「それを伝える力」です。

どちらも、これからのキャリアでどんな分野に進んでも役立つ普遍的なスキルです。はじめは難しく感じるかもしれませんが、正しい知識と丁寧な実務経験を積めば、数字の奥にある企業の物語が見えてくるようになります。

辻・本郷 FAS株式会社では、そうした価値の本質を理解しようとする若手を歓迎しています。

バリュエーション業務に携わると、あなたの一つひとつの分析が、経営の意思決定を支え、未来を形づくっていくことになります。バリュエーションは、経営の裏側にある真実を見つける仕事です。

あなたの目で、企業の「今」と「これから」を見極めていきましょう。