IFRSとは?日本基準との違いや導入のメリットデメリットを解説

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監修者 宇都宮健太

「IFRS(イファース/アイファース)」という言葉を聞いたことはあっても、内容まで説明できる方は多くないかもしれません。

IFRSは、国や地域が違っても企業の決算情報を同じ目線で読み取れるようにするための会計ルールです。

本記事では、IFRSと日本基準の主な違い、導入によるメリット・デメリット、IFRS導入を検討時に確認すべきポイントまで、わかりやすく解説します。


1.IFRSとは、世界共通の会計ルール

IFRSは、「国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards)」の略称です。
読み方は「イファース」または「アイファース」がよく使われ、アルファベットで「アイ・エフ・アール・エス」と読むこともあります。

IFRSの会計基準は、IFRS財団のもとにある国際会計基準審議会(IASB)が策定しており、いまではIFRSは、140を超える国・地域(法域)で広く使われる国際的な会計ルールとなっています。

ここで注意しておきたいのは、IFRSは税金を計算するためのルールではなく、企業の取引を決算書にどう反映するかを定める会計基準だという点です。
法人税などの税額は、税法に基づいて計算されます。
IFRSの導入で主に変わるのは、決算書への反映の仕方です。

会計(IFRSなど)税務
目的企業の取引を決算書にどう反映するかを定める税額を計算し、申告する
根拠となるルールIFRSなどの会計基準税法
主に変わるもの決算書への反映の仕方納める税額

日本において、IFRSの導入は強制ではありません。
ですが、海外投資家への説明や国際的な比較を意識する企業にとっては、導入を検討すべき会計ルールと言えます。

一方で日本基準とは考え方や表示のしかたが異なる部分もあるため、企業によってはメリットだけでなく、デメリットや注意点も生じます。

次章では、IFRSと日本の会計基準の違いについて、確認していきましょう。


2.IFRSと日本の会計基準の違い

日本でも、収益認識やリースなど、IFRSの考え方を取り入れる形で会計基準の見直しが進んでいます。

ただし、すべてが同じになったわけではありません。改正が進行中のものもあれば、強制適用が大企業のみに限られるものもあります。

本章では、IFRSの基本的な考え方を踏まえたうえで、のれん・リース・売上認識など、日本基準との違いが大きい項目を解説します。

2-1.主義が異なる

IFRSは「原則主義」といわれます。
原則主義とは、細かな例外ルールを並べるよりも、まず「この取引は何を表しているのか」という原則を押さえ、その原則に沿って会計処理を決めていく考え方です。

一方、日本の会計基準(日本基準/J-GAAP)は、一般に「細則主義」と説明されます。
これは、あらかじめ細かいルールや基準が定められており、それに沿って会計処理を進めていく考え方です。

つまり、日本の会計基準と比べて、IFRSでは取引の実態に照らして判断が必要な場面が多くなります。

IFRS日本基準
主義原則主義細則主義
特徴原則を示し、実態に応じて判断する詳細なルールや実務指針を踏まえて処理する

この考え方の違いが、以降で説明するのれんやリース、売上認識など、ほかの会計処理の違いにもつながっています。

2-2.のれんの償却方法が異なる

IFRSと日本の会計基準で最も大きな違いといえるものが、のれんの償却方法です。

IFRS日本基準
基本の考え方のれんは原則償却しないのれんは基本的に償却する
損益への反映毎期決まった償却費は出ない
テストをして必要なら減損損失を計上
毎期、償却費として継続的に損益へ反映
資産価値の
チェック方法
年1回以上減損テスト(詳細は2-7で解説)を行う兆候がある場合のみ減損の検討を行う

IFRSでは、のれんは毎期の償却(定期的な費用計上)をせず、代わりに年一回以上の減損テストで資産価値に変化がないかをチェックします。

それに対し、日本基準ではのれんは20年以内の期間で規則的に償却を行います。

「のれん」とは?

企業買収・合併の際などに、買収額が買収先の純資産(時価)を上回るとき、その差額をのれんと呼びます。

例:時価1000万円の企業を2000万円で買収した場合、差額の1000万円がのれんとして計上されます。

のれんは、ブランド力・顧客基盤・人材・ノウハウなど、「この会社には将来稼ぐ力がある」と見込んで支払った上乗せ分にあたるものです。

IFRSでは、のれんの定期的な償却を行わない分、買収後の業績が好調な間は利益が高く見えやすい面があります。

一方で、買収先の業績悪化などによりのれんの価値が下がったと判断されれば、減損損失として一度に損益へ反映され、利益が大きく落ちる可能性があります。

2-3.リースの扱いが異なる

IFRSと日本基準におけるリースの違いは、主に「貸借対照表に載るかどうか」と「損益計算書での見え方」です。

IFRSでは、原則としてリースを貸借対照表(B/S)に載せます。
これを「オンバランス」といいます。

オンバランス資産や負債を、貸借対照表(B/S)に計上すること  

オフバランス資産や負債を、貸借対照表(B/S)に計上せずに、支払額を主に費用として処理すること

IFRSと現行の日本基準でのリースの違いを表にまとめると以下のようになります。

IRFS日本基準(現行)
貸借対照表
(B/S)
「使用権資産」と「リース負債」として計上する
一部の例外を除く)
リースの種類によって分かれる
ファイナンシャル・リースはオンバランス
オペレーティング・リースはオフバランス
損益計算書
(P/L)
費用を分解して計上
「減価償却費」+「利息費用」として処理

一括で計上
(オペレーティング・リースの場合)
「リース料」として費用処理

まず貸借対照表(B/S)の違いです。

IFRSでは、原則としてリースを貸借対照表(B/S)に載せます。
これを「オンバランス」といいます。

オンバランス:資産や負債を、貸借対照表(B/S)に計上すること  

オフバランス資産や負債を、貸借対照表(B/S)に計上しないこと

IFRSは「原則主義」の考え方にもとづき、リースについても「実態」に着目します。
そのため、「形式がリース契約であっても、その資産を自由に使える権利(使用権資産)があり、お金を払う義務(リース負債)があるなら、それは資産と負債である」と考えます。

これにより、オフィス賃貸や車両リースなど、これまで日本基準でオフバランスにしていたものもB/Sに載るため、見かけ上の負債比率が上がるなどの影響が出ます。

日本基準では、
・ファイナンシャル・リースはオンバランス
・オペレーティング・リースはオフバランス
と処理が分かれます。

ファイナンシャル・リースは「実質的に資産を使い切る、購入に近いリース」、オペレーティング・リースは「通常のレンタルに近いリース」と考えるとイメージしやすいでしょう。

次に、損益計算書(P/L)の違いです。

現行の日本基準では、オペレーティング・リースについては、毎月のリース料を費用として計上する処理が一般的です。
これに対し、IFRSでは、使用権資産の減価償却費とリース負債に係る利息費用に分けて計上します。

これにより実際の支払総額が変わるわけではありませんが、営業利益など、損益計算書上の見え方に変化があります。

日本でも2024年に公表された企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」により、短期リースや少額リースなど一部を除くすべてのリースについて原則オンバランス化することになりました。
原則適用時期は2027年4月1日以後開始する事業年度です。
そのため、IFRSとの違いを知ることは、将来的な制度対応を考えるうえでも参考になると言えるでしょう。

2-4.売上を計上するタイミングが異なる

売上の計上時期は、従来の日本基準では明確な基準は存在せず、「商品を出荷した日」など売り手目線で判断される傾向がありました。
しかしIFRSでは、「顧客が財サービスを自由に使えるようになったか」、つまり買い手目線で売上の計上を判断します。

IFRS日本基準
売上計上の判断軸顧客が財・サービスを自由に使える状態になったか商品を出荷したか、代金をもらう権利が確定したか
実際の計上タイミング契約条件により、引渡し・検収・使用開始など出荷時・引渡し時・検収時など取引慣行によりさまざま

IFRSでは、売上を考える際、次の5ステップにそって判断をします。

1. 契約の識別:顧客とどんな契約を結んだか? 

2. 履行義務の識別:契約の中に「約束」(履行すべきモノ・サービス)はいくつあるか?

3. 取引価格の算定:全部でいくらもらうのか?  

4. 価格の配分:個々の「約束」にいくらずつ配分するか?

5. 売上の計上:「約束」を果たした分から、売上に計上する

特に「価格の配分(ステップ4)」をしてから「売上の計上(ステップ5)」をすることによって、売上計上タイミングが大きく変わる典型例を紹介します。

例1)クラウドサービスを年額12万円で契約し、初日に一括で受け取った場合

サブスク(年額一括払い)は、「契約時に全額」ではなく「期間に分けて」計上します。

従来の日本基準では、受け取った時点で一括計上するケースもありました。

ですがIFRSでは、12万円を12ヶ月に配分し、サービスを提供し続ける期間に合わせて、毎月1万円ずつ売上を計上していきます。

 

例2)「機械の販売」と「2年間のメンテナンス」をセットで売った場合

セット販売(モノ + サービス)は、「モノ」と「サービス」を別々の商品として扱います。

従来の日本基準では、契約時点で一括計上するケースもありました。

ですがIFRSでは、機械本体は顧客に引き渡したときに売上計上します。そしてメンテナンスは2年間にわたって、分割で売上計上をします。

なお、日本でも2021年4月から「収益認識に関する会計基準」がスタートしており、上場企業などはすでにIFRSと同じルールが適用されています。
中小企業は引き続き従来の出荷基準等も認められています。

2-5.開発費の扱いが異なる

IFRSでは、研究開発に関する支出を「研究」と「開発」に分けて考えます。

研究費は発生時に費用処理しますが、開発費は一定の要件をすべて満たす場合、無形資産として資産計上が求められます。

これに対し、日本基準では、研究開発費は原則としてすべて発生時に費用処理します。

IFRS日本基準(現行)
研究費発生時に費用処理発生時に費用処理
開発費一定の要件を満たした場合に資産計上発生時に費用処理
B/Sへの影響無形資産として計上される場合がある原則として資産計上されない
P/Lへの影響資産計上した場合は償却期間にわたって費用化支出した期に費用化

「研究」と「開発」は、以下のように区分されます。

・研究(Research):新しい知見の獲得や探索の段階。将来の成果が不確実なため、支出は原則として発生時に費用処理します。  
・開発(Development):具体的に製品化・実用化へ進める段階。次の6要件をすべて満たす支出は、将来の便益を生む無形資産(資産)として認識します。

<開発費を資産計上する6つの要件>

1. 技術的に完成させられること  

2. 完成させて使用または販売する意思があること  

3. 使用または販売できる能力があること  

4. 将来の経済的便益が見込めること(市場の存在など)  

5. 完成に必要な技術的・財務的・その他資源があること  

6. 支出を信頼性をもって測定できること  

研究段階か開発段階かを区分できない場合は、当該支出を研究段階として扱い、費用処理します。
一方、日本基準では、研究開発費はすべて発生時に費用処理することが原則です。

そのため、IFRSを採用している企業は、日本基準に比べて開発段階での利益が押し上げられやすく、資産も大きくなる傾向にあります。
ただし、資産計上した開発費は後で償却する必要があり、収益が見込めなくなった場合には減損処理も必要です。

2-6.減価償却の考え方が異なる

減価償却は、資産を「何年で、どう費用にするか」というルールです。
IFRSと日本基準では、同じ減価償却でも、以下のような違いがあります。

IFRS日本基準
分け方コンポーネント(部品)ごと資産(建物、機械など)ごと
見直しの頻度毎年必ず(耐用年数など)変更があった時のみ
計算法実態に則したもの税法の耐用年数など

に大きな違いが、コンポーネント(部品)ごとに償却を行う点です。
IFRSでは、1つの大きな資産でも、部品ごとに分けて償却します。

例)航空機の場合

日本基準では、全体を同じ期間で償却します。

ですがIFRSでは、機体は20年で償却、エンジンは10年で償却というように、実際の耐用年数が違うものは別々に計算を行います。

またIFRSでは、耐用年数や残存価額などの見積りを毎期見直し、実際の使用状況に変化があれば、その後の減価償却費に反映させます。

つまり、形式的に償却方法を固定せず、資産の利用実態に合わせて毎期調整をする点が大きな違いであると言えます。

2-7.固定資産の減損が異なる

減損とは、資産の帳簿価額(B/Sに載っている金額)が、その資産から回収できると見込まれる金額(回収可能価額)を上回ったときに、差額を減損損失として計上し、帳簿価額を引き下げる会計処理です。

要するに、「この資産、帳簿の金額ほどは回収できなさそうだな」と分かった時点で、帳簿上の金額を実態に合わせて引き下げる処理のことです。

減損について、IFRSと日本の違いをまとめた表が以下になります。

IFRS日本基準
減損の兆候の識別方法明確な基準はない具体的な数値基準あり
減損損失の認識及び判定方法回収可能価額<帳簿価額となる場合に、その差額を減損損失とする ①割引前将来キャッシュ・フロー(将来入ってくる現金の合計額)と帳簿価額を比較して減損の有無を判定

②減損有と判定された場合に、帳簿価額を回収可能価額まで引き下げて減損損失を計算する

減損の戻入れ戻入れできる場合がある戻入れはできない
減損の計上方法営業損益に含める原則特別損失として計上
減損テストの頻度年一回以上兆候がある場合のみ

最も大きな違いと言えるのが、減損の「戻し入れ(戻入れ)」の有無です。

IFRSではのれん以外の資産について、回収可能価額に影響する変化があった時場合などに、過去の減損損失を「戻し入れ」できることがあります

要するに、「前に価値が下がった”として値下げをしたけれど、その後の状況が良くなって“そこまで下げる必要がなかった”と分かったら、一定の範囲で帳簿上の金額を戻せる」という意味です。
ただし、戻し入れは「減損で下げた分を元に戻す」処理であり、減損がなかった場合の帳簿価額を上回って上乗せすることはできません。

それに対し日本基準では、減損損失の戻入れは行いません

減損テストとは?

減損テストとは、資産の帳簿価額が回収可能価額を上回っていないかを確認する手続です。

簡単にいうと、「その資産は帳簿上の金額どおりに回収できるか」を確かめるチェックを指します。

・回収可能価額(Recoverable Amount)
その資産から「結局いくら取り戻せるか」という金額のことです。
以下2つのいずれか高い方を採用します。

①処分コスト控除後の公正価値(日本基準では近い概念として正味売却価額)
「いま売却したらいくら?」という金額から、売却にかかる費用を引いた手残り。

②使用価値
「このまま使い続け、最後に処分するまでに将来どれだけキャッシュを生むか」を見積もり、現在の価値に直したもの。

2-8.特別損益の区分が異なる

日本基準の損益計算書では、営業損益・経常損益の後に「特別損益(特別利益・特別損失)」の区分を設ける形式が一般的です。
たとえば固定資産を売却した場合の損益などが、特別損益にあたります。
一方、IFRSでは特別項目としての特別損益の区分はありません。

IFRS日本基準
特別損益の区分ないある

代わりに、金額が大きい固定資産売却益などは、P/Lの行を分けて単独で表示したり、金額の内訳やなぜその損益が発生したのかを注記で詳しく書くなどして対応します。


3.IFRSを導入検討すべき会社のポイント4つ

IFRS導入の必要性は会社ごとに異なります。
そのため、まずは導入を検討すべき会社のポイントを確認しておきましょう。

以下の4つのうち1つでも当てはまる会社は、IFRS導入によるメリットが期待できます。

3-1.海外からの資金調達の割合が高い

・海外投資家比率が高い、今後高めたい
・海外IRの比重が大きい
・海外市場での資金調達(海外社債等)を継続している

これらに当てはまる場合、財務情報を「国際的に比較されやすい」状態にする必要があります。

このタイプの会社では、海外投資家に会社の実態を理解してもらいやすくなる点が、IFRS導入のメリットです。この点は4-1で詳しく説明します。

3-2.海外子会社が多い

・世界各地に拠点があり、連結決算の調整に時間がかかっている
・各国の会計基準の差により、グループ全体の実態把握が難しい

このタイプの会社では、グループ全体を同じ基準で管理しやすくなることが、IFRS導入のメリットです。この点は4-2で詳しく説明します。

3-3.M&Aに対して積極的である

・M&Aを成長戦略の中心に据えている
・買収によって「のれん」が積み上がり、毎年の償却費が利益を圧迫している

IFRSでは2章で述べたように、のれんを定期償却しないのが特徴です。

そのため、このタイプの会社では、M&A戦略を進めやすくなることが、IFRS導入の効果として期待できます。この点は4-3で詳しく説明します。

3-4.リースや固定資産の比重が大きい

・多店舗展開をしている小売・外食業(リース資産が多い)
・大規模な工場や設備を持つ製造業
・航空機や車両などのリース活用が多い

これらに当てはまる会社では、IFRS導入によって、経営指標の精度と透明性を高めやすくなる点がメリットです。この点は4-4で詳しく説明します。


4.IFRSを導入するメリット

前章では、IFRS導入を優先して検討しやすい会社の特徴を確認しました。この章では、IFRSを導入することで期待できるメリットについて詳しく解説します。

4-1.海外投資家が会社を理解しやすくなる

IFRSを導入すると、海外投資家はその会社の業績を、海外の他社と比較しやすい形で理解できるようになります。
その結果、会社側は会計基準の違いを説明する負担を減らし、投資家向けの情報開示やIRの場で、経営の実態をより伝えやすくなります。

また、IFRSに基づいて財務情報を開示することで、海外投資家から財務情報の透明性に対する信頼を得やすくなる点もメリットです。

4-2.グループ全体を同じ基準で管理できる

世界各地に拠点を持つ企業では、国や子会社ごとに会計基準や会計方針が異なると、連結決算の際にそれらを整合させる負担が大きくなります。

そこで、グループ全体の会計方針をIFRSに統一できれば、子会社からの報告を連結上の基準に合わせやすくなります。

その結果、連結時の組替や調整の手間が減り、連結決算の迅速化にもつながります。

また、基準や処理が拠点ごとに異なる状態では、判断のばらつきや例外処理が生じやすく、グループ管理上の見落としが起こる余地も広がります。

会計方針を統一することは、不正リスクの低減につながる点でもメリットと言えるでしょう。

4-3.M&A戦略を推進しやすくなる

M&Aを積極的に行う企業にとって、IFRSの導入は、買収価格の検討や買収後の業績評価を行いやすくする要因の一つです。
背景にあるのは、IFRSではのれんを定期償却しないという会計処理の違いです。
この違いは、主に次の3点に表れます。

①M&A後の利益の見え方が変わる

日本基準では、大型買収を行うと、のれん償却費によって買収後の利益が継続的に押し下げられることがあります。

一方、IFRSではのれんを定期償却しないため、買収後の利益がのれん償却費によって左右されにくく、買収した事業の収益力を把握しやすくなります。

②買収価格を検討する際に、海外企業と比較しやすくなる

M&Aでは、買収後の収益性をどう見るかが、買収価格の判断に影響します。

同じ買収案件を海外企業と競う場面では、買収後にどの程度の利益を見込めるかが、買収価格の判断に影響します。
日本基準ではのれん償却費によって買収後の利益が小さく見えやすいため、海外企業と比べて買収価格の判断で不利になることがありますが、IFRSを導入することで、買収価格の判断で不利になりにくくなります。

③買収後の事業評価を行いやすくなる

IFRSでは定期的なのれん償却がないため、買収先が実際にどの程度収益を生み出しているかを把握しやすくなります。

そのため、追加投資を続けるのか、再編するのか、撤退するのかといった判断にもつなげやすくなります。

このように、IFRS導入は、買収価格の検討、買収後の業績管理、次の投資判断までを見据えて、M&A戦略を進めやすくする要素の一つといえます。

4-4.経営指標の精度と透明性が高まる

IFRSを導入することで、財務情報の透明性や比較可能性が高まる場合があります。

背景には、IFRSが法的な形式よりも実態を重視する考え方に立っていることがあります。
とくにリースでは、従来の日本基準ではオフバランスとなっていた取引についても、原則としてB/Sに反映される仕組みとなっています。

これにより、導入前と比べてリースの影響が見えやすくなり、会社がどの程度の資産を使用し、どの程度の支払義務を負っているのかを把握しやすくなります
資産効率や財務レバレッジを分析する際にも、従来より透明性の高い情報を得やすくなる点は、IFRSを導入するメリットの一つといえるでしょう。


5.IFRSを導入するデメリット

IFRSの導入にはさまざまなメリットがありますが、当然ながらデメリットもあります。
導入を検討する際は、メリットだけでなく、実務面やコスト面での負担もあわせて把握しておくことが重要です。

5-1.コスト負担が大きくなる

IFRSの導入では、会計基準を切り替えるだけでなく、会計システムの見直しや業務フローの再整備、社内教育、外部専門家との連携などが必要になるため、一定のコストが発生します。

また、IFRSに対応するために必要なデータを適切に収集・管理できる体制を整える必要があり、導入準備には時間と費用がかかります。

導入後も基準改定への対応や運用体制の維持が求められるため、期対応のコストだけでなく、継続的な管理コストも見込んでおくことが重要です。

5-2.事務負担が大きくなる

IFRSの導入によって、事務負担が大きくなりやすい点にも注意が必要です。

特に、導入初年度は「初度適用」と言われる追加対応が発生するため、負担がさらに大きくなります。

初めてIFRS財務諸表を作成する場合は、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」に従う必要があり、開示するすべての期間について同じ会計方針を適用したうえで、開始B/Sの作成や比較情報の整備を行わなければなりません。

<初度適用時に必要となる財務諸表の例>
・3期分の財政状態計算書
・2期分の損益計算書および包括利益計算書
・2期分のキャッシュ・フロー計算書
・2期分の持分変動計算書
・それらに対応する注記

そのため、当期の数値を作成するだけでなく、比較対象となる過去数値についてもIFRSベースで組み替えや調整を行う必要があります。

さらに、日本基準からIFRSへ移行したことによって数値がどのように変わったのかを説明する必要もあるため、移行日時点と直前期末時点の資本の調整表や、直前期の包括利益の調整も求められます。

つまり、初年度は単に会計処理を切り替えるだけでなく、過去数値を整理し、その影響を社内外に説明できる形まで整える必要があります。

監査法人への説明や監査対応も含め、実務負担が重くなりやすい点はデメリットといえるでしょう。

5-3.過去の数値や社内評価との連続性が崩れる

IFRSを導入すると、これまで日本基準で見ていた数値と、導入後の数値を単純比較しにくくなる場合があります。

そのため、社内でこれまで使ってきたKPIや目標値、投資家が見てきた収益性・財務安全性の評価軸についても、導入後は読み替えが必要になることがあります。

とくに、過去との連続比較を重視する企業では、「数値が変わった理由」を丁寧に整理しないと、業績が実態以上に改善または悪化したように見えるおそれがあります。


6.IFRSを導入する際の注意点

実際に導入や実務対応を進めるうえでは、あらかじめ押さえておきたい注意点もあります。

6-1.ステークホルダーへの丁寧な説明が必要になる

前述の通り、IFRSを導入すると、これまでの日本基準で見ていた数値が大きく変化する場合があります。そのため、投資家や金融機関、取引先、社内の経営層などに対して、数値の見え方がどのように変わるのかを丁寧に説明することが重要です。

6-2.税務申告は日本の税法に基づく

IFRSを導入しても、税務申告までIFRSベースで行うわけではありません。

決算はIFRSで作成し、申告ではその利益を出発点に、日本の税法に沿って必要な調整を行う必要があります。

したがって、会計と税務を切り分けて管理する負担が一定程度生じます。


7.まとめ IFRSは世界基準の経営管理へのアップデート

IFRSの導入は、単なる会計基準の切り替えではありません。
財務情報の透明性や比較可能性を高め、海外企業や投資家と同じ前提で経営状況を把握しやすくする取り組みです。

一方で、導入にはコストや事務負担が伴います。初年度には比較情報の整備や調整表の作成が必要になるほか、導入後もステークホルダーへの説明や、日本の税法に基づく税務申告への対応が求められます。

そのため、IFRSを導入すべきかどうかは、制度の内容だけでなく、自社の事業内容や海外展開方針、社内体制まで踏まえて判断することが重要です。
導入によるメリットと負担を整理したうえで、自社にとって本当に必要かを見極める必要があります。

IFRS導入の要否や進め方に迷う場合は、ぜひ一度、辻・本郷 税理士法人にご相談ください。
貴社の状況を踏まえながら、IFRS導入の必要性や実務上の留意点を整理し、導入準備から導入後の実務対応までご提案いたします。