事業承継でのM&Aの可能性|現状・メリット・注意点・流れを解説

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監修者 松浦真義

「身内に後継者候補がおらず、M&Aの方向性も考え出したが不安」

「事業承継においてM&Aの選択肢はアリだろうか?」

とお悩みの経営者は多いのではないでしょうか。

 

ご存知の通り、昨今では「親族内承継」の割合が減り、親族でも従業員・役員でもない「第三者への事業承継」が増えています。M&Aは、第三者承継のひとつであり、メインの手法となります。

しかしながら、依然として「M&Aに良いイメージがない」という方が多いのも事実でしょう。

 

この記事では、事業承継におけるM&Aのメリットとデメリット・注意点を解説した上で、事業承継でM&Aを選ぶべきかどうかの指針を示していきます。

後半では、事業承継でM&Aを進める流れや、M&Aを成功させるためのポイントも解説します。

M&Aについての基本知識からしっかり理解していきたい、という方にぴったりの記事となっています。ぜひ最後までご覧ください。


目次

1. 事業承継におけるM&Aとは?知っておきたい基礎知識

「事業承継においてM&Aは有効なのか?」を理解するために、まずは「M&Aとは何か?」など最初に知っておくべき知識を解説していきます。

 

ご存知の方も多いと思いますので、もし「基礎知識は理解している」という方は、次の章の「2. 事業承継におけるM&Aの現状(事業承継でのM&Aはかなり増えている)」からお読みいただいても構いません。

1-1. そもそも「M&A」とは

M&A(エムアンドエー)とは、英語の「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略で、企業の合併・買収を指す言葉です。つまり、企業が他の会社と1つになったり、他の会社を買って自分の会社にしたりすることを指します。

M&Aの手法としてはいくつかありますが、事業承継に使われる手法としては以下の4つの手法が代表的です。

 

【事業承継におけるM&Aの代表的な4つの手法】

合併新設合併新しく設立された会社が、消滅する会社が持っている権利や義務を引き継ぐ手法
吸収合併既存の会社が、消滅する会社から権利や義務を引き継ぐ手法
買収株式譲渡保有する株式を買い手企業に譲渡することで、経営権を買い手に承継させる手法
事業譲渡事業の全部または一部の部門や資産などを、買い手企業に譲渡する手法

ただし事業承継の文脈で「M&A」が語られる際には、もう少し広い意味で、親族や従業員、役員ではない第三者(外部の候補者)に事業を引き継ぐことを指すことが多いでしょう。

 

定義にもよりますが、「外部招聘(がいぶしょうもん)」(経営者を外部から受け入れること)も含めた「第三者承継」も含めて「M&Aなど」と括って説明されることも多くあります。

1-2. 事業承継での「M&A」以外の選択肢

事業承継において「M&A」以外の選択肢となるものが何かも今一度確認しておきましょう。

 

事業承継をする場合の主な選択肢には、以下の3つがあります。

 

【事業承継をする場合の3つの選択肢】

親族内承継

経営者の子孫など、家族や親族に事業を引き継ぐ方法

【メリット】従業員や関係者から受け入れられやすい

【デメリット】適任な後継者が育たない可能性がある

従業員への承継

会社の従業員や役員の中から後継者を選ぶ方法

【メリット】実力がある人を選ぶことができ、企業文化や社風も引き継げる

【デメリット】資金面や精神面など、後継者の負担が大きい

M&Aなど

第三者承継

他の会社と合併、または他の会社に買収してもらう方法

【メリット】経営者の個人保証がなくなるケースが多い

【デメリット】適切な買い手が見つからないことがある

※事業承継におけるM&Aのメリット・デメリットについては、後ほど3章・4章でさらに詳しく解説します。

 

親族内や従業員に後継者がいれば、親族内承継や従業員への承継を選ぶ経営者が多いでしょう。しかしながら、適切な後継者が見つからなければ、M&Aするか廃業するかを選ぶしかありません。

 

つまり「M&A」は、事業を継続させたいものの内部に後継者が見つからない場合に有効な選択肢となるものといえます。


2. 事業承継におけるM&Aの現状(事業承継でのM&Aはかなり増えている)

ここからは、事業承継でM&Aを選択する企業は増えているのかどうか、現状についてお伝えしていきます。

 

日本の行政機関のひとつである「中小企業庁」によると、国内の中小M&Aの実施件数は増加しており、2022年度の実施件数は、事業承継・引継ぎ支援センターを通じたものが1,681件、民間M&A支援機関を通じたものが4,036件でした。

 

10年前である2014年の実施件数と比べると、かなりの勢いで伸びていることが分かります。

出典:中小企業庁「事業承継を知る

上記の中小M&Aの実施件数は事業承継に限った数字ではありませんが、経営者の高齢化や後継者不在率の高さを考えると、事業承継においてM&Aを実施する企業が上記の数字を伸ばしていると考えることができるでしょう。

 

以下は、同じ中小企業庁のデータで、事業承継にかかわる数字です。

中小企業庁が公表している事業承継の現状

  • 2023年の経営者年齢は平均60.5歳であり、過去最高を更新した
  • 2023年における「高齢の経営者における後継者不在率」は、60代で38%と高い水準にある(帝国データバンクの調査では、後継者不在率は2021年で61.5%
  • 新型コロナウイルス感染症の影響もあって、「休廃業・解散件数」は年々増加傾向にある
  • 廃業理由(廃業予定企業、2023年)の3割が、後継者不在による廃業

経営者の年齢が高齢であるケースや後継者が見つからないケースが増えている中、廃業を免れるにはやはりM&Aが有力な選択肢になると言ってよいでしょう。


3. 事業承継でM&Aを選ぶメリット

ここからは、事業承継時にM&Aを利用するメリットについてさらに詳しく解説していきます。

 

後継者問題を解決できるという大きなメリット以外にも、実は、さまざまな利点があるのがM&Aです。

事業承継でM&Aを選ぶメリット

  • メリット1: 親族・従業員に最適な後継者がいなくても事業を継続できる
  • メリット2:廃業を免れることで従業員の雇用や取引先との取引を維持できる
  • メリット3:自社では実現できなかった規模で事業を拡大できる可能性がある
  • メリット4:M&Aの対価として現金を受け取ることができる

なお、デメリットについても次章できちんと紹介するので安心してください。まずはメリットを見ていきましょう。

3-1. メリット1:親族・従業員に最適な後継者がいなくても事業を継続できる

事業承継でM&Aを選択する最大のメリットは、親族・従業員に最適な後継者がいなくても事業を継続できることです。

 

事業を誰かに引き継ぎたくても、親族にも従業員にも最適な後継者が見つからなければ、事業を継続することはできず廃業を選ぶしかなくなります。M&Aを選択して第三者に事業承継することで、事業を存続することが可能となります。

 

さらに、限られた親族や従業員の中から後継者を選ぶよりも、既にノウハウや経験を持つ企業や事業主に事業を任せることで、優秀な後継者を見つけられる可能性も高まります。

3-2. メリット2:廃業を免れることで従業員の雇用や取引先との取引を維持できる

M&Aを選択して廃業を免れることで、従業員の雇用や取引先との取引も維持できます。M&Aの形態にもよりますが、自社がそのまま他の会社に吸収されたり買い取られたりすることになり、従業員や取引先との関係は守られます。

 

廃業となれば従業員は職を失いますが、M&Aではその後も働き続けることができ、本人や家族の生活や収入を守ることが可能です。場合によっては現在よりも良い労働条件で働くことができる可能性もあります。

 

また、取引先との関係性も継続でき、培ってきた技術やノウハウを途絶えさせずに済みます。

 

これは譲渡先の企業(買い手)のメリットでもあり、譲渡先の企業からすると、他社のノウハウや技術、人材を獲得して競争力の強化を効率的に図ることに繋がります。

3-3. メリット3:自社では実現できなかった規模で事業を拡大できる可能性がある

M&Aによる事業承継では、今まで育てた事業を存続できるだけでなく、さらに自社では実現できなかった規模で事業を拡大できる可能性もあります。

 

特に、譲渡先の企業が同じ分野の競合である場合には、事業同士のシナジー効果を生み出して飛躍的に業界が成長する可能性を秘めています。また、譲渡先が大規模な企業である場合や大きな投資を行った場合にも、自社では実現が難しかった事業拡大を期待できるでしょう。

 

経営難であっても大手企業の傘下に入れば経営状態の安定が期待できますし、安心して事業の行く末を見守ることができるでしょう。

3-4. メリット4:M&Aの対価として現金を受け取ることができる

事業承継でM&Aを実行した場合、対価として現金を受け取ることができるのもメリットのひとつです。株式譲渡の場合も事業譲渡の場合も、会社を第三者に譲渡する対価として現金を手にすることが可能です。

 

中小企業の事業承継としてM&Aが行われる場合には、純資産やM&A後に見込まれる利益、企業の市場価値、技術や人材・ノウハウの価値などを考慮して、譲渡先企業との交渉で価格が決まります。

 

ケースバイケースで変わるためM&Aの価格相場というのは存在しませんが、零細企業の場合の売却価格は数百万円から数千万円程度になることが多いでしょう。

 

株式譲渡所得は税制面での優遇があり、会社を解散して清算するよりも手元に多く残すことができるメリットもあります。


4. 事業承継でM&Aを選ぶデメリット・注意点

ここからは反対に、事業承継でM&Aを選択することのデメリットについて解説していきます。

 

ただしデメリットといっても、M&Aを選ぶか廃業を選ぶかの瀬戸際ではM&Aに進むしか選択肢がないケースもあります。そのため、M&Aで事業承継する場合の注意点としてお読みいただいても良いかもしれません。

 

事業承継したい企業がM&A(企業の合併・買収)を選ぶデメリット・注意点は以下です。

事業承継でM&Aを選ぶデメリット・注意点

  • デメリット1:M&Aをしても必ず良い承継先が見つかる訳ではない
  • デメリット2:企業文化や経営方針が従来のものから逸脱する可能性がある
  • デメリット3:悪質なM&Aトラブルが発生する可能性がある

事業承継でM&Aを視野に入れている方は、これらのデメリット・注意点もしっかりと理解した上で進めるようにしてください。一つずつ詳しく説明していきます。

4-1. デメリット1:M&Aをしても必ず良い承継先が見つかる訳ではない

M&Aは事業承継において有力な手段ではありますが、必ずしも希望通りの引き継ぎ先が見つかるとは限りません。希望する条件で買い取ってくれる相手が見つからなければ、M&Aは実現しません。

 

特に中小企業の場合、事業を承継する側(買り手)の熱い想いとは裏腹に、買い手側は利益を重視してM&Aを実施する傾向にあるため、事業承継の希望と買い手の意向が一致しないケースが考えられます。

 

希望する売却価格では合意が得られなかったり、従業員の雇用保証や事業の継続など売り手側の希望が受け入れられなかったりすることも大いに考えられます。

4-2. デメリット2:企業文化や経営方針が従来のものから逸脱する可能性がある

企業文化や経営方針が従来のものから逸脱する可能性があるのも、M&Aによる事業承継で起こり得るデメリット・注意点の一つです。

 

今まで大切に育ててきた企業文化や経営方針をそのまま継続してほしくても、買い手企業の傘下に入れば、新しいやり方に従うしかなくなることがあるでしょう。これによって戸惑うのは従業員や顧客、取引先であり、今まで育ててきたビジネスのブランド価値や信頼感を失う可能性があります。

 

例えば、従来は顧客や取引先とのコミュニケーションを最重要に考えていたものが、M&A後に効率化を重視してコミュニケーションを減らすとなれば、顧客や取引先から不満が生まれるかもしれません。

 

また、M&Aを行った買い手が効率化を重視する企業であれば、今までのやり方とのギャップで従業員の離職が進む可能性もあります。

 

こうしたデメリットが生まれないよう、M&Aで事業を統合する先や売却先を探す際には、譲渡する相手をしっかりと見極めることが重要になります。

4-3. デメリット3:悪質なM&Aトラブルが発生する可能性がある

M&Aにより後継者問題を解消して事業承継できるケースが増える一方で、悪質なM&Aトラブルも発生しているので注意が必要です。

事業承継におけるM&Aでのトラブル事例

  1. M&A後に売り手側の経営者の個人保証を外す契約を結んでいたが、何度依頼しても契約に基づいた移行がなされなかった。その上で、買い手が売り手の現預金などの資産を回収したが、必要な事業資金の送金がなされず、売り手企業は倒産。この結果、経営者保証が残っていた売手経営者が債務を負うこととなり、個人破産に至ってしまった。
  2. M&Aの成立時点での譲渡対価は低額であったものの、成立後一定期間後に相当程度の退職慰労金が支払われる契約を結んでいた。しかし、契約に定める期日が訪れても退職慰労金が一向に支払われなかった。

中小企業庁では、経営者保証の扱いが重要になるケースや、低額の譲渡対価でクロージング後に追加で対価を支払うような条件提示をされたケースなどで特に注意が必要と喚起しています。

 

参考:中小企業庁「M&Aに関するトラブルにご注意ください」

 

こうしたM&Aトラブルに合わないためには、デューデリジェンス(企業調査)の徹底や適正な買収価格の設定、明確な契約書の作成、企業文化の統合など、さまざまな点に気を配る必要があります。

 

できればM&Aや事業承継全体についての相談先を見つけて、相談しながら進めていくことをおすすめします。


5. 事業承継でのM&Aは他の選択肢も視野に入れつつ慎重に進めていこう

事業承継の方法としてM&Aを活用する場合、後継者問題を解決できる有効な選択肢である一方で、第三者に大切な事業を任せることになるため慎重に進めていく必要があります。

 

M&Aによる事業承継を進める場合でも、可能であれば「本当に内部承継の選択肢はないのか」「親族や従業員の育成はできないのか」「外部から経営者を招く方法はどうだろうか」など、他の事業承継の選択肢についても十分に議論を尽くすことをおすすめします。

 

事業承継を進めるなかで法務・財務・税務などの専門的な知識が必要となるため、できれば事業承継の全体について相談できる事業承継コンサルティングを受けて、第三者の視点からアドバイスを受けると良いでしょう。


6. 事業承継でM&Aを進める場合の具体的な流れ

ここからは、事業承継でM&Aを進める場合の流れについて説明していきます。

事業承継でM&Aを進める場合の具体的な流れ

STEP1:M&A以外の選択肢も含めた事業承継方法を検討する

STEP2:M&Aで譲渡する場合の手法や条件などを決める

STEP3:譲渡する企業の候補を探す

STEP4:候補企業に企業情報を提示して検討してもらう

STEP5:こちらも譲渡先の企業の調査をしっかり行う

STEP6:トップ面談を経て「最終合意契約書」を取り交わす

STEP7:クロージング(経営権の移転)が完了する

6-1. ステップ1:M&A以外の選択肢も含めた事業承継方法を検討する

まずは、M&A以外の選択肢も含めて、事業承継をどのように行うのか全体についての検討をしっかりと行いましょう。

 

具体的には、事業承継の目的と優先事項を明確にして、事業承継を通じて何を実現したいのかをはっきりさせていくことが大切です。検討する際は、以下のような視点で整理しておくと分かりやすいでしょう。

事業承継の目的と優先事項を検討する時のポイント

  1. 事業の存続や成長の確保を重視するかどうか
  2. 従業員の雇用継続を重要視するかどうか
  3. 家族へ財産を残すことを希望するかどうか
  4. 承継候補者を、親族や従業員から育てることが難しいのかどうか
  5. 事業承継はいつまでにやらなければならないのか

上記のように検討していく中で、そもそもM&Aが最善の方法なのかや、M&Aの中でもどの手法で事業承継を目指すのか、M&Aで譲渡する場合の条件などが明確になってくるはずです。

 

事業承継全般について悩む場合には、公的な相談窓口「事業承継・引継ぎ支援センター」や事業承継に詳しい専門家に相談することも検討しましょう。

6-2. ステップ2:M&Aで譲渡する場合の手法や条件などを決める

ステップ1で検討した結果、M&Aによる事業承継を選択する場合には、具体的な手法や条件などを決めていきましょう。

 

中小企業が事業承継を目的にM&Aを行う場合には、「株式譲渡」や「事業譲渡」のどちらかが採用されるケースが多いでしょう。特に「株式譲渡+退職金を受け取る」という形が王道といわれています。

【事業承継で多く採用されるM&Aの手法】

株式譲渡保有する株式を買い手企業に譲渡することで、経営権を買い手に承継させる手法
事業譲渡事業の全部または一部の部門や資産などを、買い手企業に譲渡する手法

 

M&Aの手法ごとの特徴やメリット・デメリットを検討した上で、どの手法を用いた事業承継が良いか検討していきましょう。同時に、ステップ1で検討した優先事項を守るために「どのような譲渡先が適しているか」も考えていきます。

6-3. ステップ3:譲渡する企業の候補を探す

M&Aの方向性が決まったら、いよいよ譲渡する企業の候補を探していきます。

 

といっても自分だけではM&Aの相手先を探すのは非常に困難です。そのため、公的な相談窓口「事業承継・引継ぎ支援センター」やM&A仲介会社、M&Aコンサルタントなどに相談して紹介してもらうのが一般的です。

 

相談先によって仲介手数料など費用も異なってくるため、比較・検討した上で決めていきましょう。

 

事業承継に強いM&Aコンサルタントを探したい方は、別記事の「事業承継 コンサルティング 」もぜひ参考になさってください。

6-4. ステップ4:候補企業に企業情報を提示して検討してもらう

M&Aを希望する企業の中から譲渡先の候補を絞り込んだら、「ノンネームシート」というものを提示して譲り受ける意思があるかを検討してもらいます。

 

「ノンネームシート」とは、企業名が特定されないようにした上で、会社の基本情報や財務情報、譲渡理由や条件などを記載した資料です。ノンネームシートの内容を見て「さらに検討を進めたい」と思ってもらえた場合には、秘密保持契約を結んだ上で、詳細な情報が書かれた「企業概要書」を開示して検討してもらいます。

6-5. ステップ5:こちらも譲渡先の企業の調査をしっかり行う

譲渡先の候補となる企業が自社を調査するのと同じように、こちら側も譲渡先の企業についてしっかり調査を進める必要があります。

 

M&Aで重大なトラブルが発生する原因として、譲渡先企業の調査不足が挙げられるからです。

 

譲渡先企業の業態や規模、経営方針、M&A実績などを調査して、重大なトラブルが発生しないかどうかを冷静にチェックすることが大切です。

6-6. ステップ6:トップ面談を経て「最終合意契約書」を取り交わす

お互いにM&Aに前向きな場合には、トップ面談を行って、M&Aの合意に向けて調整を行っていきます。

 

トップ面談を経てM&Aスキームの確認や譲渡価格などを記載した「基本合意書」を締結します。その後は譲渡先企業が「デューデリジェンス」という財務・法務の調査を実施します。

 

事業承継をする側の企業は、正確な情報を提供してデューデリジェンスがスムーズに進むよう協力しましょう。

 

最終合意が得られれば「最終合意契約書」を締結して、M&Aの条件や期日が確定します。

6-7. ステップ7:クロージング(経営権の移転)が完了する

最後に、従業員や取引先、銀行など関係先にM&Aのディスクロージャー(公表)を行い、借入金の返済や株式譲渡・金銭決裁などを実行します。

 

最終契約で決めた手続きが全て終わった時点で、クロージング(経営権の移転)が完了となり、法的にM&Aが成約したことになります。


7. 事業承継でM&Aを成功させるためのポイント

最後に、事業承継でM&Aを活用する場合に成功するためのポイントを解説します。

7-1. M&Aが完了するまでは関係者に情報が漏れないようにする

事業承継でM&Aを成功させるためには、契約が完了するまでは従業員や取引先など関係各所に「M&Aを進めていること」が漏れないようにするのがおすすめです。

 

M&Aは後継者問題の有効な解決策として近年認知されている一方、M&Aに後ろ向きなイメージを持っている方もまだ一定数いるのが実情でしょう。

 

そのため、M&Aを進めていることを知った従業員が、「自分たちは解雇されるのではないか」「社風が変わってしまうのが不安」など、ネガティブな憶測をしてしまう可能性があります。また、取引先や金融機関は、取引や融資の継続に不安を感じるかもしれません。

 

M&Aの検討段階は秘密厳守が鉄則であるため、仮に情報漏えいして反対運動などが起こってしまうと、買い手候補の企業からの信頼を下げてしまうリスクがあります。最悪の場合、交渉が決裂となってしまうかもしれません。

 

M&Aの情報は限られた範囲内にとどめて、くれぐれも情報が漏れないように徹底するようにしましょう。

7-2. M&Aの準備段階で企業の価値の「磨き上げ」をおこなう

M&Aの準備段階で自社の企業価値や事業価値をブラッシュアップして、買い手候補企業から魅力的な企業に見られるように尽力することも大切です。この工程を専門用語で「磨き上げ」といいます。

 

磨き上げを行うことで、より良い買い手が見つかるのはもちろん、売却価格が上がったり、希望の条件で売却できたりというメリットが生まれます。

 

具体的には、以下のような作業をおこないます。

  1. 法務・財務・税務・労務などの観点から会社に問題がないかをチェックして、問題がある場合には正常な状態に戻す

  2. 財務面や実務面を調査して、会社の強みを整理して資料に落とし込む

企業価値を客観的に評価したり具体的なブラッシュアップの案を考えたりするのは難しい作業となるため、事業承継やM&Aに詳しい専門家のサポートを借りるのがおすすめです。

7-3. M&Aには時間がかかることを理解してじっくり取り組む

事業承継でM&Aを行う場合、事前準備からM&Aを完了までには時間がかかることをあらかじめ理解しておき、じっくりと準備や調査に時間をかけることが大切です。

 

M&Aにかかる時間は、最低でも半年〜1年程度かかることが一般的であり、相手先が見つからない場合にはそれ以上かかることもあります。

 

時間をかけずに焦って進めてしまうと、買い手企業の調査をおろそかにしてしまい、トラブルになる可能性もあるため注意が必要です。

 

また、7-2で解説したような企業価値の向上(磨き上げ)に取り組む場合には、その工程も含めてじっくり時間をとって取り組むことが大切です。

7-4. M&Aだけでなく事業承継の全体を相談できる専門家のサポートを受ける

事業承継においてM&Aを行うと決心した場合も、M&Aのサポートだけでなく全体的なサポートや助言を受けられる専門家に依頼しておくと安心です。

 

M&A仲介会社に相談すると、M&Aの知識は豊富にあっても、親族内承継や従業員への承継に向けた育成については詳しくないケースがあります。また、M&Aが成約した時点で成功報酬を取っている企業が多いため、M&A成約がゴールになってしまいがちです。

 

成約させることがゴールになってしまうと、「本当にその相手先がベストなのか」「M&A以外の選択肢の方が良いのではないか」「売り手企業にとって売却価格は適正なのか」という視点がおざなりになりかねません。

 

M&Aの相場感や進め方、売り手企業との相性などについて「第三者の視点」を入れるために、M&A仲介会社ではなく事業承継をトータルで相談できる専門家を見つけておくのがおすすめです。


8. M&Aを含めた事業承継全体の相談なら辻・本郷 税理士法人にお任せください

事業承継においてM&Aなど第三者承継の道を選ぶにしても選ばないにしても、今後の会社をどうしていくべきなのかベストな選択肢を模索したい場合には、専門家への相談が不可欠となります。

 

相談先にはさまざまありますが、中でも、当事務所(辻・本郷 税理士法人)のような事業承継に強い税理士への相談をおすすめします。なぜなら、税理士は事業承継において現在の経営者から後継者へ継承する「自社株」「有形の経営資源」「ヒト」「無形の経営資源」の4種類すべてにおいて、アドバイスをすることができる存在だからです。

自社株

専門分野

有形の経営資源

(会社の所有する土地、事業用財産など)

専門分野

ヒト

(後継者の選定や育成など)

相談・コンサルティング可能

無形の経営資源

(経営理念、信用、人脈など)

相談・コンサルティング可能

特に、辻・本郷 税理士法人は、以下のように事業承継に強みを持つ税理士法人です。

辻・本郷 税理士法人が、事業承継の相談先に最適な理由

理由1:100名の専門スタッフ、累計1,000件の事業承継支援実績など、実績が業界トップレベル

理由2:全国に90拠点あり、全国どこでも事業承継についてのご相談を受け付けることが可能

理由3:グループ内の他の専門家と連携して、事業承継に関するあらゆるお悩みを解決

理由4:明確な料金体系があり、初回面談で詳細にお伝えすることが可能

理由5:税務署OB・OGによる税務調査を意識した対応も可能

辻・本郷 税理士法人は、グループ内に、弁護士法人や司法書士法人、M&A仲介会社、ビジネスコンサルティング会社などを有しています。そのため、他の専門家の力が必要になった時に、弁護士や司法書士、M&A仲介会社など他の専門家と連携して事業承継支援を行っていくことができます


まとめ

本記事では「事業承継時のM&A」について解説してきました。最後に、要点を簡単にまとめておきます。

 

▼事業承継におけるM&Aとは?

  • M&A(エムアンドエー)とは、企業の合併・買収を指す言葉
  • ただし事業承継の文脈で「M&A」が語られる際には、もう少し広い意味で、親族や従業員、役員ではない第三者(外部の候補者)に事業を引き継ぐことを指すことが多い

事業承継におけるM&Aの現状

  • 国内の中小M&Aの実施件数は増加しており、10年前の数字と比べるとかなり伸びている

事業承継でM&Aを選ぶメリット

メリット1: 親族・従業員に最適な後継者がいなくても事業を継続できる

メリット2:廃業を免れることで従業員の雇用や取引先との取引を維持できる

メリット3:自社では実現できなかった規模で事業を拡大できる可能性がある

メリット4:M&Aの対価として現金を受け取ることができる

事業承継でM&Aを選ぶデメリット・注意点

デメリット1:M&Aをしても必ず良い承継先が見つかる訳ではない

デメリット2:企業文化や経営方針が従来のものから逸脱する可能性がある

デメリット3:悪質なM&Aトラブルが発生する可能性がある

事業承継でM&Aを進める場合の具体的な流れ

STEP1:M&A以外の選択肢も含めた事業承継方法を検討する

STEP2:M&Aで譲渡する場合の手法や条件などを決める

STEP3:譲渡する企業の候補を探す

STEP4:候補企業に企業情報を提示して検討してもらう

STEP5:こちらも譲渡先の企業の調査をしっかり行う

STEP6:トップ面談を経て「最終合意契約書」を取り交わす

STEP7:クロージング(経営権の移転)が完了する

事業承継においてM&Aを行うと決心した場合も、M&Aのサポートだけでなく全体的なサポートや助言を受けられる専門家に依頼しておくと安心です。相談先に迷う場合は、ぜひ辻・本郷 税理士法人にご相談ください。