デューデリジェンス(DD)の目的とは?種類や手順、注意点まで

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監修者 山田翔吾

デューデリジェンス(DD)は中小M&Aガイドラインにおいて、譲り渡し側・譲り受け側双方にとって重要なプロセスであるとされています。予算等の制約がある場合であっても、検討対象を絞るなどの工夫をして、実施する調査の内容を検討することが望ましいと明記されており、M&Aにおいて必須プロセスと言えるでしょう。

しかし、
「そもそも何のためにやるのか理解しきれていない」
「デューデリジェンスの種類が多くてどれを実施すればいいのか分からない」
という方も多いかもしれません。

M&Aにおけるデューデリジェンスは、最適な意思決定をするためのものです。とはいえ、デューデリジェンスの種類は多く、種類ごとに目的は細分化されます。そのため本記事ではデューデリジェンスの主目的と種類ごとの目的をご紹介します。デューデリジェンスはM&Aの成功に欠かせないプロセスですので、確実に理解してM&Aに臨んでください。


1.デューデリジェンスの主目的

前述のとおり、M&Aにおいて最適な意思決定をするために行うのがデューデリジェンスです。ただし、漠然と行うのではなく、何を得たいかを明確にして行う必要があります。まずはデューデリジェンス全体の主目的をご紹介します。

目的調査・分析の対象得られる効果・判断項目
重大な懸念材料の有無を確認する

・コンプライアンス違反の有無
・統合困難な問題の有無などを調査

・買収の是非の判断
・買収対象の決定(会社全体か事業単位か)
・適切なM&A手法(株式譲渡・事業譲渡等)の選択

簿外債務や正常収益力、税務リスクを含む調査を行う

・簿外債務や税務リスクを含む調査
・財務諸表以外の情報を含む総合的な分析

・適正な買収価格の設定
・交渉の円滑化(納得感のある価格提示)

買収契約の適正化につなげる・潜在的リスクの洗い出し
・契約内容への反映(解除権、違約金条項など)

・価格調整を含む契約条件の適正化
・リスク回避手段の導入

買収後の事業統合計画の立案に役立てる

・買収企業の契約、人事制度、評価制度などの調査
・自社との相違点の把握

・経営統合(PMI)の方向性決定
・PMI効果の最大化
・理念共有と信頼構築による統合成功への貢献

1-1.重大な懸念材料の有無を確認する

深刻なコンプライアンス違反や企業統合において容易には解決できない問題など、重大な懸念材料がないかを調査・分析します。具体的には、次のような判断に役立ちます。

  • 買収をすべきかどうかの判断
  • 買収対象の決定(会社買収、特定事業のみ買収など)
  • 最適なM&Aの手法の選択(株式譲渡や事業譲渡など)

1-2.簿外債務や正常収益力、税務リスクを含む調査を行う

財務諸表のみならず、財務諸表以外の債務(簿外債務)や税務リスク等の調査・分析を行います。具体的には、次のような判断に役立ちます。

  • 適正な買収価格の決定
  • 公正で納得感のある買収価格を提示することで売り手側と交渉がスムーズになる

買い手側が適切と考える買収価格が、売り手側にとって納得できる価格であるとは限りません。M&Aでは双方の合意点を見出さなければなりませんが、意見の食い違いが大きいと合意までの交渉が難航します。精度の高い調査は互いに歩み寄るための材料としても有用です。

1-3.買収契約の適正化につなげる

潜在的なリスクが見つかった場合に、リスクを契約書に反映させることもデューデリジェンスの目的のひとつです。それによって次のような効果を得られます。

  • リスクを織り込んだ買収契約を結ぶことで、買収価格の調整が実現
  • 解除権や違約金条項などを契約書に盛り込むことで、リスク回避ができる

企業価値評価は「適正な価格」を目指しますが、それだけでなく「適切な条件」で契約を結ぶことも重要だといえます。

1-4.買収後の事業統合計画の立案に役立てる

買収対象企業の事業契約や人事・評価制度等を調査し、自社との差分を把握することもデューデリジェンスの目的のひとつです。それによって、次のような効果を得られます。

  • 経営統合(PMI)の方向性の決定
  • 経営統合(PMI)の効率化、成果の最大化

本当の意味でM&Aを成功させるためには、企業理念の共有や相互理解といった信頼関係の構築が重要です。統合前から情報を収集することで、経営統合の方向性や手法の最適解を見極めやすくなります。

1-5.ステークホルダーへの説明責任を果たす

デューデリジェンスはM&Aにおける意思決定の根拠を示せるほか、M&Aにおけるリスクの開示も可能です。それによって、次のような効果を得られます。

  • 資金調達を有利に運ぶ(金融機関へのアピールにより信頼性向上)
  • 下請けや取引先の不信感や不安感を払拭する

「なぜこのM&Aをするのか」「買収対象企業にどんな価値があるのか」といった疑問は、M&Aへの疑念に発展しかねません。客観的なデータと分析結果に基づく説明が重要です。


2.デューデリジェンスの種類ごとの目的

デューデリジェンスはM&Aをしないという選択肢も含めた、意思決定の「判断材料」です。調査・分析の対象は多方面にわたるため、通常は複数の分野に分かれて各分野の専門家が実施します。主なデューデリジェンスの種類と目的は次の通りです。

種類目的
1.事業(ビジネス)デューデリジェンス買収対象企業の事業性の評価とリスク把握
2.財務デューデリジェンス正常収益力や財務リスクの把握
3.税務デューデリジェンス税務リスクの把握
4.法務デューデリジェンス社内外の法的なリスクを把握
5.ITデューデリジェンス既存システムのセキュリティや統合リスクを把握

2-1.事業(ビジネス)デューデリジェンスの目的

事業デューデリジェンスの主な目的は、「買収対象企業の事業性の評価」と「事業リスクの把握」、そして、事業計画の作成に資する情報を把握することです。です。買収後に事業が失速したり、統合によって本来持っていた強みが生かされなくなるといった事態は避けなければなりません。そこで、買収対象企業の事業を調査・分析することで買収後の収益性や成長性、統合後のシナジー効果を把握します。

【チェック項目の例】

・買収対象企業のビジネスモデル、事業計画書

・買収対象企業の競争力、主力商品

・業界や市場、取引先との関りなど、周辺環境の調査

・統合後のオペレーション上の懸念点

事業デューデリジェンスはデューデリジェンスの中で最も重要なデューデリジェンスであるとされます。というのも、財務デューデリジェンスや税務デューデリジェンスでリスクが少ない優良な会社だったとしても事業自体に今後の収益性がない、もしくはオペレーションの乖離が大きく統合が困難であるといったケースでは、M&Aの意義がないからです。

2-2.財務デューデリジェンスの目的

財務デューデリジェンスの主な目的は、「正常収益力」「実態純資産」「財務リスク」の把握です。財務諸表から収益力や資産、帳簿外のリスクなどを見極めます。また、実績から将来の損益予測も行います。財務諸表と実態に乖離があることも踏まえて、調査を行います。

【チェック項目の例】

・定款や組織図、株主名簿などの基礎情報

・財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)

・事業計画書

・簿外債務や偶発債務など

2-3.税務デューデリジェンスの目的

税務デューデリジェンスの主な目的「税務リスク」の把握です。過去の税務申告書や税務調査の状況、そして進行事業年度を調査し、未納税金の有無や追徴課税の可能性を探ります。
また、買収対象企業の税務体制についても調査し、統合時の難易度を計ることも重要です。それまでの税務リスクが低くとも、経営統合で両社の税務フローが整わないと買収後の納税において税務リスクが高くなる可能性が生じます。

【チェック項目の例】

・決算報告書・税務報告書

・過去の税務調査の資料(指摘事項、提出資料など)

2-4.法務デューデリジェンスの目的

法務デューデリジェンスの主な目的は、既存契約や取引先、もしくは社内労務環境といった社内外の「法的リスク」を把握することです。訴訟リスクは企業価値に影響を与える重要情報です。また、厳しい労働環境やコンプライアンス違反などを見つけ出すことで、買収後の改善に役立ちます。

【チェック項目の例】

・組織(定款、社内規定など)

・株式関連(株主名簿、株式発行書類など)

・紛争・訴訟に関する資料

・許認可書類や契約書類

・労務関連書類(雇用契約、労働時間管理、報酬体系など)

2-5.ITデューデリジェンスの目的

ITデューデリジェンスの主な目的は、買収予定企業における既存システムの「セキュリティリスク」「統合リスク」の把握です。セキュリティリスクが高いと、情報漏洩やサイバー攻撃による事業停止といった問題点が懸念されます。
また、自社のITインフラとの親和性が低いと統合が困難となり、場合によってはシステムを刷新させるために多大なコストが発生するかもしれません。逆に同一のシステムを利用している場合は、契約を一本化することで割安なプランへの変更が叶う可能性もあります。

【チェック項目の例】

・ITシステムの運用体制・管理体制・コスト(顧客管理システム、販売管理システム、給与管理システムなど)

・サーバ、ネットワークといったデジタルインフラの状況

・システムのセキュリティ性、ITリテラシーの水準


3.デューデリジェンスの効果例3つ

デューデリジェンスがM&Aで効果を発揮した例を3つご紹介します。

1.【財務デューデリジェンス】減価償却資産の評価額を圧縮して買収価格のディスカウントにつなげる

財務デューデリジェンスによって、次のような事実が見つかることがあります。

  • 破棄された固定資産が帳簿に残っている
  • 法定耐用年数を経過している複数の固定資産について、帳簿上の価格が一定額以上ある

そのような場合はデューデリジェンスチームで固定資産を適正評価することで、買収予定企業の評価額(企業価値)を圧縮できます。定量的情報を提示することで、相手方の反発を避けながら買収価格の適正化が実現するでしょう。

2.【税務デューデリジェンス】買収スキームを株式譲渡から事業譲渡に変更

税務デューデリジェンスによって過去の税務処理に大きな誤謬が見つかり、追徴課税が予想されることがあります。事前に情報が分かれば、買収スキームの変更が可能です。例えば、株式譲渡から一部事業譲渡に変更することで、リスクの少ない特定事業だけを買収できます。

3.【ITデューデリジェンス】ITシステムの状況把握でPMIの効率化に貢献

買収予定企業がレガシーシステムを使用していると、各種ITシステムの運用性・保守性・セキュリティ性等についてリスクが予想されます。ITデューデリジェンスによりそれらのリスクが明確になった場合は、統合前にリスク低減策を講じなければなりません。

例えば、特に影響が大きい基幹システムから優先的に自社のシステムに統合し、混乱を抑えつつITリスクを抑制する方法があります。コスト調整や買収予定企業の負担も考慮するなど、弾力的なPMIの実行に貢献するでしょう。


4.デューデリジェンスで目的を達成するための3つのポイント

デューデリジェンスの最終的な目的は、M&Aで最適な意思決定をすることです。そのためのポイントは次の3点です。

1.デューデリジェンスの前に、初期方針を立てておくこと

デューデリジェンスの前に、予備的な調査を実施し買収ストラクチャーを構築しておきます。そのうえでデューデリジェンスを実施すれば、調査範囲の絞りこみができ余計なコストがかかるのを防止できます。

2.デューデリジェンスの結果を経営陣は把握すること

経営陣は複数のデューデリジェンスを把握し、総合的な判断をしていきます。事前の初期方針は、デューデリジェンスの結果をもとに修正を行わなければなりません。場合によっては買収そのものをストップすることもある重要情報であることを理解し、深く情報と向き合っていきます。

3.専門家の知見をうまく取り入れること

外部専門家の力を借りることは必須ですが、頼り切るのは避けましょう。例えば、自社にとって外せない重要論点の調査や、統合フローにおける懸念点の洗い出しなど、内部のプロジェクトチームが主導権を握るべき局面もあります。さらに、数値を分析するだけでなく、経営統合によるシナジー効果も考慮する必要がありますが、これらを判断するには自社側の視点が必要です。
単に専門家の知見を活用するだけでなく、自社にとって有益な情報を手に入れられるように留意することが大切です。


5.デューデリジェンスはM&A以外の目的で行われることもある

デューデリジェンスの目的はM&Aに関わるものだけとは限りません。例えば、次のような目的で行われることがあります。

5-1.事業再生の手法検討のため

事業再生におけるデューデリジェンスは、事業や財務を調査分析することで、最適な事業再生の手法を見極めることが目的です。

実施主体は主に次の2つです。

  • 債権者(金融機関等)による実施
  • 自社による経営立て直しを目的とした実施

具体的には、事業リスクを可視化して縮小事業と存続事業を判断することや、事業再生の障害となる法的リスクや課題等を洗い出すことなどが該当します。

また、事業再生の手法を検討するだけでなく、事業再生が可能かどうかを精査することもあります。

5-2.資金調達を有利にするため

資金調達におけるデューデリジェンスは、投資先の企業価値や成長性、リスクなどを調査分析することで、投資の是非を判断することが目的です。

実施主体は主に次の2つです。

  • 出資する側が、出資の可否を判断するために実施
  • 金融機関や投資家の信頼を得るために、自社で実施

6.辻・本郷 グループなら、多様なニーズに応えられる

なお、デューデリジェンスの専門家はデューデリジェンスの種類ごとに異なります。
第2章でご紹介したデューデリジェンスのうち、「事業デューデリジェンス」「財務デューデリジェンス」「税務デューデリジェンス」「法務デューデリジェンス」など複数のデューデリジェンスに対応できるのが多彩な分野の専門家が揃った辻・本郷 グループです。

さまざまなニーズにお応えしておりますので、デューデリジェンス実施の際は是非とも辻・本郷 税理士法人(辻・本郷 グループ)へお問い合わせください。


7.まとめ

デューデリジェンスはM&A成功のカギとなる一方で、限られた時間で成果をあげなければなりません。そのため、実績のある専門家へ依頼することが重要です。

M&Aにおけるデューデリジェンスは最適な意思決定をするためのもので、その主目的は次の通りです。

目的調査・分析の対象得られる効果・判断項目
重大な懸念材料の有無を確認する

・コンプライアンス違反の有無
・統合困難な問題の有無などを調査

・買収の是非の判断
・買収対象の決定(会社全体か事業単位か)
・適切なM&A手法(株式譲渡・事業譲渡等)の選択

簿外債務や正常収益力、税務リスクを含む調査を行う

・簿外債務や税務リスクを含む調査
・財務諸表以外の情報を含む総合的な分析

・適正な買収価格の設定
・交渉の円滑化(納得感のある価格提示)

買収契約の適正化につなげる・潜在的リスクの洗い出し
・契約内容への反映(解除権、違約金条項など)

・価格調整を含む契約条件の適正化
・リスク回避手段の導入

買収後の事業統合計画の立案に役立てる

・買収企業の契約、人事制度、評価制度などの調査
・自社との相違点の把握

・経営統合(PMI)の方向性決定
・PMI効果の最大化
・理念共有と信頼構築による統合成功への貢献

とはいえ、デューデリジェンスの種類は多く、種類ごとに目的は細分化されます。各デューデリジェンスにおいても、その目的を明確にすることが必要です。

種類目的
1.事業(ビジネス)デューデリジェンス買収対象企業の事業性の評価とリスク把握
2.財務デューデリジェンス正常収益力や財務リスクの把握
3.税務デューデリジェンス税務リスクの把握
4.法務デューデリジェンス社内外の法的なリスクを把握
5.ITデューデリジェンス既存システムのセキュリティや統合リスクを把握

デューデリジェンスの主目的と種類ごとの目的を理解して、満足できるM&Aを実施しましょう。