大企業の定義と特徴は?中小企業との違いも含めて解説します

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監修者 宇都宮健太

大企業のイメージはあっても、正確な定義が分からない方も多いでしょう。しかし大企業になることで法人税の税率が変わることや、補助金や助成金の取り扱いが変わるとがあります。また企業規模が大きくなることで、経営施策の変更が求められることもあります。企業の成長に備えて、正確な定義と特徴を知っておくといいでしょう。大企業の定義と、中小企業との違いを丁寧にご紹介します。


1.大企業の定義

大企業の定義は厳密に定められているわけではなく、法律・制度ごとに線引きが異なります。そこで代表的な定義を5つ挙げます。

【代表的な大企業の定義】

決定要素
会社法資本金/負債
税法(法人税法)資本金(もしくは出資金)
中小企業基本法業種分類ごとの従業員数/資本金の額又は出資の総額
厚生労働省常用労働者の数
社会的認識当事者の主観

1-1.会社法における「大企業」

会社法における大企業(※)の定義は次の通りです。

  • 最終事業年度の資本金が5億円以上または負債が200億円以上(会社法第2条6項より)

※会社法の条文では「大会社」と表記されています

貸借対照表の数字を根拠とします。例えば決算により該当事業年度の資本金が5億円以上の場合、翌事業年度は大企業です。もしも翌事業年度の資本金が5億円未満、かつ負債も200億円未であれば、翌々年は大企業ではなくなります。

なお、会社法による大会社の適用範囲は株式会社のみであり、合同会社、合名会社、合資会社は定義されていません。

同法では、利害関係人保護のため大会社に対し次のような規律も定めています。

  • 会計監査人の設置義務
  • 内部統制システム決定義務
  • 損益計算書の公告規制

出典 e-Gov 法令検索「会社法

1-2.税法(法人税法)における「大企業」

法人税法における大企業の定義は次の通りです。

  • 資本金(もしくは出資金)が1億円超

資本金(出資金)がそれ以下の企業は原則として中小法人等に分類されます。ただし、資本金が5億円以上でも大法人の100%子会社である場合等は中小法人から除かれます。

なお、税法上で「大企業」という名称が使用されているわけではありません。本記事では便宜上そのように表記していますが、実際には以下のような表記がなされています。

  • 資本金1億円以下の普通法人
  • 上記以外の普通法人(※)

※本記事では大企業として表記

出典 国税庁「No.5759 法人税の税率

1-3.中小企業基本法における「大企業」

中小企業基本法では、業種分類ごとに「従業員数」「資本金の額又は出資の総額」を示して中小企業を定義しています。相対的な判断ですが、その定義に当てはまらないのが「大企業」になるとされます。

【中小企業基本法における「中小企業」の定義】

業種分類業種分類
製造業その他資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社
又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人
卸売業資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社
又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人
小売業資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社
又は常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人
サービス業資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社
又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人

上図の通り、「資本金の額又は出資の総額」と「常時使用する従業員の数」のいずれかを満たせば、中小企業者に該当します。

なお上記は、中小企業政策の対象となる企業規模の原則的な水準です。個別の政策ごとに、上記とは異なる基準が設けられていることもあるので注意します。

出典 中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義

1-4.厚生労働省における「大企業」

厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」では、次の常用労働者によって企業を区分しています。

【賃金構造基本統計調査の調査区分】

常用労働者の数
大企業1,000人以上
中企業100〜999人
小企業10〜99人

ただし、上記は法的な定義ではありません。統計をとる際や、各種申請・手続きなどに必要な区分としての役割が強いようです。

なお、ここでの常用労働者とは次の要件を満たした労働者です。

  • 期間を定めずに雇われている労働者
  • 1ヶ月以上の期間を定めて雇われている労働者

出典 厚生労働省「賃金構造基本統計調査

1-5.社会的認識による「大企業」

事業規模が大きくなったり、知名度の高い商品を多数販売していたりすると、取引先や消費者から「大企業」と認識されることがあります。相手方の主観的判断ではありますが、取引先や金融機関からそのような評価を受ければ、事業で有利に働くかもしれません。

また、上場企業であれば「大企業」と考える方も多いようです。本来大企業と上場企業はイコールではありませんが、上場企業は流通株式数や利益額など、厳しい基準をクリアしているため、上場企業イコール「大企業」という印象を与えるのでしょう。


2.補助金・助成金における「大企業」

国や地方公共団体等が実施する補助金・助成金は、「大企業」が対象外となるケースがあります。ただし、対象企業は各助成金・補助金の運営団体やよって異なりますので、ここでは厚生労働省と経済産業省の補助金・助成金から具体例をご紹介します。

2-1.厚生労働省の各雇用関係助成金

厚生労働省の雇用関係の助成金については、共通の要件が示されています。

【中小企業の範囲】

産業分類資本または出資額常時雇用する労働者数
小売業(飲食店を含む) 5,000万円以下50人以下
サービス業5,000万円以下100人以下
卸売業1億円以下 100人以下
その他の業種3億円以下300人以下

上記の「資本または出資額」か「常時雇用する労働者数」のいずれかを満たす企業が「中小企業」に該当します。ただし上記の範囲はあくまで原則として示されています。

出典 厚生労働省「厚生労働省の各雇用関係助成金(PDF)」

2-2.経済産業省の補助金

「1-3. 中小企業基本法」における「大企業」で述べた、中小企業基本法の定義を用いる補助金が多いです。なお、中小企業基本法での「会社」には株式会社だけでなく合名会社・合資会社・合同会社も含まれます。

中小企業庁の補助金では中小企業とは別に「小規模事業者」「中堅企業」といったより細分化された分類がなされていることも少なくありません。

2-3.みなし大企業とは

助成金や補助金では単独では要件を満たしていても、大企業と密接な関係にあることで、「みなし大企業」として対象外となるケースがあります。

みなし大企業は、一般的には次のような企業が該当します。

  • 発行済株式の総数又は出資金額の総額の2分の1以上を同一の大企業が所有している中小企業
  • 発行済株式の総数又は出資金額の総額の3分の2以上を大企業が所有している中小企業
  • 大企業の役員又は職員を兼ねている者が、役員総数の2分の1以上を占めている中小企業
  • 過半数の議決権を保持を大企業が持つといった、実質的に大企業が経営権をもっている中小企業

3.「大企業」と「中小企業」の比較

大企業と中小企業を、「会計・税務上」「法令上」の2軸から比較します。

3-1.大企業と中小企業の比較【会計・税務上の違い】

中小企業から大企業になることで、会計・税務上では次のような違いが生じます。

法人税の適用税率の違い

大企業と中小企業は法人税の適用税率が異なります。というのも、中小企業者等は「法人税率の特例」が受けられるためです。税率の違いは次の通りです。

資本金が1億円以上23.20%
中小企業(資本金が1億円未満所得が800万円以下の部分 15%
800万円超の部分 19%

出典 国税庁「No.5759 法人税の税率

事業規模に応じた会計基準の選択

大企業は、​国際的な会計基準に沿って決算書等を作成することが望まし​いとされています。本来、会計のルールはそれぞれの国の法令や商習慣に基づいて作られていましたが、事業が国外にも及ぶ大企業の場合、国際ルールに沿った国際会計基準(IFRS)等を採用することが重要となるためです。

会計監査の設置義務

既述の通り、大企業は会社法で会計監査人の設置が義務化されます。
会計監査人の設置とは、公認会計士または監査法人による監査を受けることです。具体的には会社法の規定により作成される計算書類の適法性を監査します。監査人はその独立性が求められ、株式会社の決議によって選任されます。

開示義務の強化

例えば金融商品取引所に上場している大企業は、有価証券届出書等の提出開示義務があります。さらに2023年3月以降は「人材育成」「人材の多様性」「労働慣行」などの人的資本情報について、有価証券報告書への記載が義務化されました。

3-2.大企業と中小企業の比較【法令上の違い】

大企業と比較して中小企業は、法令の適用が猶予されることがあります。例えば、次の法令は全て猶予措置があり、大企業の方が早く適用されました。

  • 60時間を超える時間外労働に対する、法定割増賃金率の引上げ
  • パート・アルバイト等、社会保険の加入対象の拡大
  • 労働施策総合推進法にもとづく、パワーハラスメント防止措置の義務化

中小企業なら時間をかけて準備できるところを、大企業は迅速に対応しなければならないケースが生じます。


4.大企業としての責務と義務

税務や法令に関わらず事業規模の大きな大企業は、社内外において相応の責務や義務を負うことになります。

4-1.社会的責任(CSR)の強化

経済や環境への影響力が大きい分、持続可能な社会への配慮が求められます。自社の利益のみを追い求めるのではなく、地域社会や消費者、環境等に対して責任ある行動をしなければなりません。

4-2.労働関連の整備

大企業として福利厚生の充実や、労働環境制度を整備することが求められます。多くの従業員を抱えているた大企業は中小企業の模範としての役割も期待されがちです。そのため、多様な従業員にとって働きやすい職場環境を整えることや、公正な処遇制度の確立が重要になるでしょう。

4-3.内部統制の強化

既述の通り、大企業は会社法で内部統制システム決定義務が定められています。内部統制システムとは、企業運営の健全性を保つための措置のことです。具体的には、法令遵守、情報漏洩の防止、透明性の確保などを目指すための措置について、企業の方針を明確にし、体制を整えることが該当します。

仮に会社法上の大企業に定義されない場合も、ある程度企業規模が大きくなり従業員や取引先が多くなると、内部統制の強化は必須でしょう。


5.大企業に該当する際の注意点

中小企業から大企業に該当するようになった場合に、注意すべき点を紹介します。

注意点1.税務負担の軽減を計る

大企業になると、法人税率の特例が受けられなくなり、税率が上がります。中小企業のとき以上に節税を意識すべきです。適法な節税を行うためには、顧問税理士によるサポートが重要となるでしょう。

注意点2.法改正への迅速な対応を実現する

大企業は中小企業と比較して、法改正への準備期間が短いことが多いです。また、中小企業であれば先んじて法改正に対応した大企業の動きを参考にすることもできますが、大企業は自ら対応策を切り開かなければなりません。

正確な対応のためには、法改正の動きをいち早く察知することと、改正内容を正確に把握することが必要となるため、税制や労務等、多方面での専門知識が必要です。

注意点3.コンプライアンスの確保

大企業は、単に法令を遵守するだけでなく、倫理観を持った行動をすることや公序良俗といった、社会的な規範になることも重要です。社会的な規範は時代とともに変わるため、古い考えでは世の中から受け入れられない可能性がります。時代の変化を織り込んだ行動理念が求められます。


6.大企業に関するよくある質問

Q.資本金が1億円を超えたら必ず大企業ですか?

A.資本金が1億円を超えたとしても、必ず大企業となるわけではありません。
本記事の第一章でもお伝えしているように、「資本金1億」が大企業かどうかの基準となるのは、法人税法上においてのみです。
会社法でも資本金が大企業見極めの基準のひとつですが、基準値は「5億円」です。

また、そのほかの法令等では従業員数や常用労働者の数が基準になることがあります。大企業の定義はひとつではないので、目的や状況に応じて判断することが大切でしょう。

Q.中小企業向けの継続補助金は大企業になったあとでも使えますか?

A.中小企業向けの継続補助金は、原則として「中小企業」であることが条件です。
そのため、大企業に成長した場合、その企業は「中小企業者」の要件を満たさなくなり、補助金を受ける資格を失う可能性があります。

受給資格は補助金ごとに異なるので、個別の条件を確認します。なお、資格を喪失しない場合でも、企業規模が変わったことで所定の届出が必要になるかもしれません。

Q.大企業になるメリットは何ですか?

A.仕入れ、製造、販路といった事業規模が大きくなるため、コストを削減しやすくなりますし、資金調達や人材確保にも有利に働くでしょう。
しかし一方で、中小企業向けの補助金が利用できなくなることや、コンプライアンスの遵守、体制管理等の責務が重くなる側面もあります。自社にとってより価値のある選択を見極めることが必要です。


7.大企業でも中小企業でも企業戦略や税務サポートが重要

中小企業から大企業になると、法人税率や会計処理、組織体制などにおいて違いが生じます。社会的責任が増すことや、内部統制強化も重要ですが、法人税率が高く(「法人税率の特例」が受けられなく)なることは利益に直結するのでより重要度が高いでしょう。

中小企業と大企業の双方を知る税理士事務所からサポートをうけることで、税率の違いによる影響を抑えていかなければなりません。

経験豊富な辻・本郷税理士法人なら、中小企業/大企業にかかわらず、会計・税務・法務の問題解決に寄り添うことができます。頼れる税理士事務所をお探しの際は、是非とも辻・本郷税理士法人の顧問契約をご検討ください。


8.まとめ

大企業の定義は複数あります。そのため、会社法上では中小企業だが、法人税上では大企業である、といったことも考えられます。特定の分類に固執せず、各法令上の自社の取り扱いを知ることが重要といえます。

税務や補助金の申請等において個別の判断をすることで、思わぬ法令違反や補助金申請の不備が生じないようにしましょう。