
出張にまつわる費用を不正に申請する「カラ出張」は、税務調査においても注目される項目のひとつであることをご存知でしょうか。税務調査において「カラ出張」の発覚は避けたい事態です。
カラ出張が指摘されると、企業は様々なリスクを負うことになります。例えば、旅費交通費が否認されることによる納税額の増加や不正行為によるペナルティ、消費税や源泉所得税への影響なども生じます。
万が一の時のために、税務調査において「カラ出張」が発覚した場合のリスクと対応方法を確認しておきましょう。そして、「カラ出張」を防止するための対策まで本記事ではご紹介します。
目次
1.カラ出張は不正行為
カラ出張とは、出張において実際には発生していない費用を「発生した」と偽ったり、水増しして経費を請求する不正行為です。特に、交通費や交際費を不正に請求するケースが多く見られます。
もともと、公共交通機関の領収書は発行してもらうのが難しいことが多いです。また、出張時の交通費や交際費の正当性を、経理が個別に判断するのも簡単ではありません。そういった背景により、出張は不正行為が行われやすい側面があります。当然、税務調査では細かく確認されることになるでしょう。
会社がカラ出張を見抜けないまま税務調査に至ると、調査において発覚してしまう可能性があります。調査でカラ出張が指摘された場合、会社は「見抜けなかった」では済みません。自社で責任を負わなければならない形となります。
2.カラ出張の具体例3つ
代表的なカラ出張の手口は、次の3つです。
2-1.往路・帰路における特急券等の払い戻し
2-2.出張先での交通費を水増し
2-3.プライベートの飲食費を接待交際費として計上
2-1.往路・帰路における特急券等の払い戻し
支給された特急券等を従業員が払い戻し、格安チケットや夜行バスにて出張を行うケースです。従業員は、新幹線や特急列車の乗車券との差額を不正に受け取る形となります。航空券やフェリー乗車券などでの不正受給も考えられます。
また、従業員自らが正規の価格でチケットを取得し、会社に経費申請をした後で払い戻す手口もあります。
2-2.出張先での交通費を水増し
出張先で交通機関を利用する際、実際に利用した経路よりも高い経路の交通費を申請し、差額を不正に受け取るケースです。実際には徒歩で移動したのに、交通機関を利用したかのように見せかける手口もあります。
経路の適正や移動の真偽を本社等の経理担当が確認することは難しく、実行されると見抜くのは難しいでしょう。
2-3.プライベートの飲食費を接待交際費として計上
出張先で取引先を接待した場合、飲食費用は接待交際費として申請できます。これを利用し、実際にはプライベートな飲食費であるにもかかわらず、接待交際費として申請して現金を受け取るケースがあります。例えば、出張先でプライベートの友人と食事した場合の飲食代、従業員自身の飲食代(※)などを経費として不正に受け取ります。
※日当手当がないなどの理由で、従業員自身の飲食代を経費として認める会社もあります。
3.税務調査でカラ出張が指摘された場合のペナルティ
税務調査においてカラ出張が指摘された場合、本来費用にしてはならない支出を交際費や交通費として計上していたとみなされます。それによって、次のようなペナルティが科される恐れがあります。
3-1.延滞税
納付が定められた期限から遅れた場合に課されるペナルティです。
【計算方法】
納付すべき税額×延滞税率×日数
延滞税率は次の通りです。
- 申告納期の期限から2ヶ月以内は年率「7.3%」と「延滞税特例基準割合+1%(※1)」のいずれか低い方
- 2ヶ月を過ぎた期間については年率「14.6%」と「延滞税特例基準割合+7.3%(※2)」のいずれか低い方
※1令和7年の特例基準割合 年「2.4%」
※2令和7年の特例基準割合 年「8.7%」
3-2.過少申告加算税
定められた期限に確定申告をしたが、納税額が不足していた場合に課されるペナルティです。
【過少申告加算税の税率】
本来納付する額との差額に対して「10%」
ただし、新たに納めることとなった金額が、当初の納税額と50万円のいずれか多い金額を超えている場合は、超過部分は「15%」が課されます。
3-3.重加算税
所得の隠ぺい・仮装などがあった場合のペナルティです。なお、税務調査官は隠ぺい・仮装を立証する必要はなく、隠ぺい・仮装があるとみなされると重加算税発生の恐れが生じます。
【重加算税の税率】
本来納付する額との差額に対して、次の税率が課されます。
過少申告加算税に代えて「35%」
ただし、申告をしていない場合は無申告加算税に代えて「40%」が課されます。
4.税務調査でカラ出張が指摘された場合に必要な修正申告
カラ出張が指摘された場合に必要な修正申告をご紹介します。適切に修正することが重要となるため、不安があれば専門家のサポートを受けましょう。
法人税の修正申告
交際費や旅費交通費が否認されることによって課税所得が増えるため、法人税の修正申告が必要となります。なお、最初から申告をやり直すわけではなく、当初の申告との修正部分を税務署に申告します。
消費税の修正申告
交際費や旅費交通費は仕入税額控除の対象です。そのため、それらが否認された場合は消費税の修正も必要です。
源泉所得税の追加納付
カラ出張だと判断されると、会社が従業員に経費として支給した費用が「給与」とみなされる可能性があります。給与が増加すると、源泉所得税の追加納付が必要となるでしょう。
法人事業税・法人住民税の修正申告
税務署へ修正申告をしても、修正されるのは国税のみです。そのため、法人事業税や法人住民税の修正申告は、別途自治体へ提出する必要があります。
5.税務調査でカラ出張が指摘された場合の社内対応ステップ
税務調査で「カラ出張」が指摘された場合は、迅速な対応が求められます。必要な対応を粛々と進められるよう、ステップごとの社内フローを整えておくとよいでしょう。
【税務調査でカラ出張が指摘された場合の社内対応ステップ】
ステップ1:社内調査と証拠の保全
ステップ2:本人への事実確認と処分
ステップ3:専門家と連携した修正
ステップ4:内部統制の見直し
ステップ5:経営陣・関係部署での情報共有
5-1.ステップ1:社内調査と証拠の保全
税務調査における指摘事項の詳細を確認し、問題視されている処理を明確にします。そのうえで、社内調査と証拠の保全を行います。
【社内調査】
- 関係部署へのヒアリング
- 記録や事実関係の再検証
経理、総務、出張管理担当などの関係部署に対して事実確認を行い、カラ出張の実態を把握します。
また、記録や資料の再検証を実施します。
【証拠の保全】
- 関連書類の確保と保全
出張申請書、経費精算書、領収書など、指摘に関連する証憑を速やかに保全し、後の調査や対応に備えます。デジタルデータの保存、会計システムや経費申請ツールのパスワード変更・権限付与の見直しなど、関連情報の改ざん防止策を講じることも重要です。
5-2.ステップ2:本人への事実確認と処分
証拠をもとに、カラ出張を行った本人への事実確認を行います。今後のために重要なのは、不正行為であること、それによって会社が損害を被ったことを認識させることです。また、原因究明のために不正に至った心情・背景までヒアリングしましょう。
被害額や悪質性、社内規定を踏まえ、人事処分や返還請求の有無等を検討します。
5-3.ステップ3:専門家と連携した修正
税理士に代表される専門家と連携し、法人税や消費税の修正対応を行います。例えば、税理士と連携することで、正確な修正申告を実現することができます。過少申告加算税や重加算税といった、普段の会計では扱わない税務処理が発生するため、専門家の助言は特に有用です。
また、専門家の指南を受けることで、指摘内容に関わる法的・会計上の懸念点について理解が深まるでしょう。現状の会計処理について問題点や課題が把握できれば、理にかなった再発防止策につながります。
5-4.ステップ4:内部統制の見直し
社内規定を点検します。具体的には経費精算のルールや出張申請のプロセスを再確認し、チェック体制が適切に働いているか確認します。チェック体制の形骸化や穴があれば、再発防止のために体制を見直ししなければなりません。
また、調査結果や専門家の意見をもとに今後の対応方針を決定します。場合によっては、教育・研修の実施も検討しましょう。従業員へのコンプライアンス教育や経費精算に関する研修を行うことで、社内の意識改善を計ることができます。
5-5.ステップ5:経営陣・関係部署での情報共有
税務調査は会社の信用にも影響する事象であるため、経理部内だけでなく、経営陣や関係部署でも情報を共有、対応策を実行します。会社全体の問題と捉えることで、組織的な改革を実現できます。
税務調査の内容やその後の対応ではプライバシーにも配慮しつつ、必要に応じて社内通達や周知を行います。客観的事実と再発防止策を社内全体で共有し、透明性のある対応を行います。
税務調査での指摘は、ともすると浮足立ったり焦ったりしがちです。上述の一連の対応を通じて、冷静な行動を心掛けましょう。また、税務調査で指摘された箇所の修正だけを考えるのではなく、今後の内部統制強化による再発防止を目指すことも重要です。
6.カラ出張の防止策3つ
カラ出張を防止するための、3つの対策をご紹介します。
【カラ出張の防止策3つ】
1.出張旅費規程の整備と見直し
2.ICカードの履歴や領収書提出の厳格化
3.クラウド会計システムの活用
6-1.出張旅費規程の整備と見直し
出張旅費規程がなければ整備を、すでにある場合はこの機会に見直しを行います。出張旅費規程を整備するうえでのポイントは、次の通りです。
- 宿泊費や出張手当の基準を明確化する
基準が曖昧だと不正を誘引する可能性が高まります。出張旅費規程の柔軟性や使い勝手を優先してしまうと、曖昧な内容になってしまいがちです。 - 宿泊費や出張手当について、適正な金額設定を行う
金額が相場より高い場合、カラ出張を疑われる原因になりかねません。 - 定期的な見直しを行う
相場は経済状況に応じて変わるため、定期的な見直しが必須です。
6-2.ICカードの履歴や領収書提出の厳格化
公共交通機関での領収書の取得が難しい交通費は、従業員にICカードを持たせる方法があります。利用履歴を従業員側で印字できるため、経費を可視化することができます。
また、出張旅費規程に基づいて支給される日当は、領収書がなくとも経費として計上することが可能です。しかし、社内規定で領収書の提出を義務付けることで、カラ出張を行いにくい社内環境を整えられます。
6-3.クラウド会計システムの活用
クラウド会計システムであれば、オンラインで出張先からすぐに経費精算申請を提出可能です。経費精算申請の出し忘れや、領収書の紛失回避につながります。なお、電子帳簿保存では、領収書データが適切に保管されていれば、原本の保管は義務付けられていません。
さらに、日当手当の申請書もオンライン化し、帰りの新幹線等でほぼ申請が終えられるようにしておくといいでしょう。
7.正確な出張旅費規程の作成は税理士への相談がおすすめ
カラ出張を防止するために有効な出張旅費規程ですが、作成時は宿泊費や出張手当の基準を明確にしたり、適正な金額設定が求められます。迷った際は税理士に代表される専門家に相談することで、実行力のある対策とすることができます。
税理士を検討する時は、税務調査の対策から調査時の立ち会いまで相談できる税理士を選ぶことをおすすめします。頼れるパートナーを得て、カラ出張のリスクや税務調査への不安を軽減してください。
8.まとめ
カラ出張が税務調査で指摘されると、下図のようなペナルティが発生する可能性があります。
| カラ出張が指摘された場合のペナルティ |
| 延滞税 |
| 過少申告加算税 |
| 重加算税 |
税務調査の大きな対策は、平素から正しい会計処理と申告を行うことです。日々の経理処理を適正に行うために、経費に対する社内規定も整備しておくようにしましょう。
社内規定や出張旅費規程に疑問がある場合は、専門家に相談することで精度を高めていくことができます。ただし、それでもカラ出張が指摘されてしまう可能性はゼロではありません。社内対応のステップについても把握し、いざという時に備えてください。
【税務調査でカラ出張が指摘された場合の社内対応ステップ】
ステップ1:社内調査と証拠の保全
税務調査の内容把握と事前準備
ステップ2:本人への事実確認と処分
社内的な処遇・懲罰
ステップ3:専門家と連携した修正
社外的な対応
ステップ4:内部統制の見直し
原因追及・意識改善
ステップ5:経営陣・関係部署での情報共有
対策有効化のための組織改革


