建設業決算で迷わない!未成工事支出金・未成工事受入金の処理を解説

author-avatar
監修者 宇都宮健太

建設業の決算や月次処理を行う中で、「未成工事支出金」「未成工事受入金」という言葉に戸惑った経験はないでしょうか。

税理士から指摘されたものの、違いがよく分からないまま処理している、あるいは毎年なんとなく同じやり方を踏襲しているという方も少なくありません。

この二つの勘定科目は、工事途中の状態をどう捉えるかという建設業特有の考え方が凝縮された重要なポイントであり、理解が曖昧なままだと、決算数値のブレや税務調査での指摘につながる可能性があります。

この記事では、未成工事支出金と未成工事受入金について、専門用語を極力使わず、「結局これは何のお金なのか」「なぜ分けて考える必要があるのか」といった根本的な内容から、わかりやすく解説していきます。


目次

1.未成工事支出金・未成工事受入金とは

未成工事支出金と未成工事受入金の定義は次の通りです。

未成工事支出金:工事完成前に発生した工事原価を、完成まで資産として計上する勘定科目

未成工事受入金:工事完成前に受け取った対価を、完成まで負債として計上する勘定科目

順番に見ていきましょう。

1-1.未成工事支出金とは

未成工事支出金とは、工事が完成するまでの間に発生した材料費や外注費などを、費用として確定させずに一時的に集計しておくための勘定科目です。

建設業では、工事が完成して初めて、その工事に対応する売上と費用を確定させるのが原則です。工事の完成前に発生した支出をその都度費用計上してしまうと、売上が立っていないにもかかわらず費用だけが先行し、利益が不自然に圧縮されてしまいます。そのため、工事が完成するまでは費用化せず、いったん「未成工事支出金」として蓄積します。

例えば、材料費400万円の支払時には、以下のように仕訳します。

借方金額貸方金額
未成工事支出金4,000,000現預金4,000,000

未成工事支出金は、まだ成果が完成していない工事に対する原価のストックであり、工事が完成するまで利益計算に影響させないための重要な調整科目です。

1-2.未成工事受入金とは

未成工事受入金とは、工事が完成する前に受け取った工事代金を、売上として計上せずに一時的に預かるための勘定科目です。

建設業では、着工金や中間金など、工事の進行途中で代金を受領することが一般的です。しかし、工事が完成していない段階では、まだ役務の提供が完了したとはいえないため、会計上は売上として確定させることができません。そのため、工事の完成までは未成工事受入金として処理します。

例えば、着工後、発注者から中間金として300万円が普通預金に入金されたケースでは、以下のように仕訳します。

借方金額貸方金額
現預金3,000,000未成工事受入金3,000,000

工事代金1,000万円のうち、着工時に300万円を受け取った場合、この300万円は売上ではなく、未成工事受入金として負債に計上されます。工事が完成したタイミングで、初めて売上へ振り替えられます。

未成工事受入金は、まだ売上として認められない工事代金の預かり分であり、工事完成まで売上計上を遅らせるための調整科目です。


2.未成工事支出金の費用の取り扱い

まずは、未成工事支出金について詳しく解説していきます。

未成工事支出金を理解するうえで重要なのは、「どの費用までが未成工事支出金に該当するのか」と「決算でどこに表示されるのか」を具体的に把握することです。

ここが曖昧なままだと、工事原価が不正確になり、利益や税額にも影響が出ます。

この章では、未成工事支出金に含まれる費用の範囲と、決算書上での位置づけを整理します。

2-1.未成工事支出金に該当する費用

未成工事支出金に該当するのは、工事の完成に直接必要となる原価であり、材料費・外注費・労務費・経費といった工事原価を構成する費用です。

未成工事支出金は「将来完成する工事のためにすでに支出した原価」を一時的に集計する勘定科目です。そのため、工事と直接関係のある支出のみが対象となり、会社全体の管理費や営業活動にかかる費用は含まれません。どこまでが工事原価で、どこからが期間費用なのかを区別する必要があります。

工事現場で使用する建設資材の購入代金は材料費として未成工事支出金に含まれます。また、下請業者への工事代金は外注費として該当します。自社作業員が現場で作業した場合の賃金は労務費となり、現場で発生した交通費や仮設費用などは経費として未成工事支出金に集計されます。一方で、事務所の家賃や事務スタッフの給与など、工事に直接結びつかない支出は未成工事支出金には含まれません。

未成工事支出金に含めるべき費用は「工事そのものを完成させるために使った原価」に限定される点を押さえることが重要です。

2-2.貸借対照表上の区分

未成工事支出金は、決算時点で工事が未完成である限り、貸借対照表の資産の部に計上されます。

未成工事支出金は、すでに支出しているものの、工事が完成していないため費用として確定していない原価です。将来、その工事が完成すれば売上の獲得に結びつくため、会計上は「将来の収益を生む可能性のある資産」として扱われます。そのため、損益計算書ではなく、貸借対照表に残ります。

決算時に複数の工事が進行中で、そのうち一部の工事が期中に完成していれば、完成した工事分の未成工事支出金は工事原価へ振り替えられ、損益計算書に計上されます。一方、翌期に持ち越される工事については、その原価が未成工事支出金として資産の部に残り、翌期へ繰り越されます。

未成工事支出金は「費用になる前の原価」であり、完成するまでは資産として管理される点が、決算処理における最大のポイントです。

2-3.未成工事支出金の仕訳方法

未成工事支出金は、工事の進め方や採用している収益認識の方法によって、損益計算書へ振り替えられるタイミングが異なります。「①工事完成基準」と「②工事進行基準」では、未成工事支出金の扱いが大きく変わるため、仕訳の考え方を正しく理解しておくことが重要です。

① 「工事完成基準」による仕訳の場合

工事完成基準では、未成工事支出金は工事が完成するまで費用化されず、完成時にまとめて工事原価へ振り替えられます。

工事完成基準は、工事が完成し引渡しが行われた時点で、初めて工事の成果が確定するという考え方に基づいています。そのため、完成前に発生した材料費や外注費、労務費などは、期間損益に影響させず、未成工事支出金として一時的に集計されます。

期中に材料費や外注費を支払った場合、その都度、材料費や外注費として費用計上せず、未成工事支出金として仕訳します。そして工事が完成したタイミングで、それまで積み上げてきた未成工事支出金を工事原価へ振り替え、同時に工事売上高を計上することで、損益が確定します。

工事完成基準では、完成するまでは原価は資産として扱い、完成した瞬間に費用になるという点が未成工事支出金の最大の特徴です。

② 「工事進行基準」による仕訳の場合

工事進行基準では、工事の進捗度に応じて、未成工事支出金の一部を工事原価として費用化します。

工期が長く、工事の進捗状況や原価総額を合理的に見積もることができる場合、完成を待たずに収益と費用を対応させたほうが、各期の損益を適切に表すことができます。そのため、このような場合では、工事の進行に合わせて段階的に費用化する「工事進行基準」が用いられます。

例えば、決算日時点で工事全体の進捗度が50%と判断できる場合、工事原価総額の50%相当額を工事原価として損益計算書に計上します。その際、これまで計上されていた未成工事支出金のうち、対応する部分が工事原価へ振り替えられ、残りは引き続き未成工事支出金として貸借対照表に残ります。

工事進行基準では、未成工事支出金はすべてを完成まで貯めるものではなく、「進捗に応じて徐々に費用化される原価」として扱われます。


3.未成工事受入金の費用の取り扱い

次に、未成工事受入金について解説していきます。

未成工事受入金は、未成工事支出金と対になる勘定科目ですが、入金があるにもかかわらず売上に計上できない点や、負債として扱われる点は、直感的に理解しにくく、誤処理が生じやすい部分でもあります。

この章では、未成工事受入金に該当する金銭の範囲から、貸借対照表上の位置づけ、仕訳方法、消費税の取扱いまでを解説します。

3-1.未成工事受入金に該当する費用(手付金・中間金など)  

未成工事受入金に該当するのは、工事が完成・引渡しされる前に受け取った手付金や中間金などの工事代金です。

建設業では、工事の着手時や進行途中で代金の一部を受領することが一般的ですが、工事が未完成である以上、会計上は役務の提供が完了したとはいえません。そのため、これらの入金は売上ではなく、あくまで「完成前に預かっている金銭」として扱う必要があります。

工事契約金額が1,000万円で、着工時に200万円、中間時に300万円を受け取った場合、これらの合計500万円は、工事が完成するまでは未成工事受入金として処理されます。請求書を発行しているかどうかにかかわらず、完成前であれば売上にはなりません。

未成工事受入金とは、「完成前に受け取った工事代金」を指す概念であると理解することが重要です。

3-2.貸借対照表上の区分(負債科目として扱われる)

未成工事受入金は、貸借対照表では資産ではなく、負債の部に計上されます。

未成工事受入金は、工事が完成し引き渡されるまでは、発注者に対して工事を完成させる義務、あるいは場合によっては返金義務を負っている状態にあります。つまり、会計上は「預かっているお金」であり、自社の自由に使える収益ではありません。

工事の途中で発注がキャンセルされた場合、未成工事受入金として受け取っていた金額を返還しなければならないケースがあります。このように返還義務がある以上、未成工事受入金は発注者からの預り金と同じ性質を持つと考えられ、流動負債として処理されます。

未成工事受入金が負債として扱われるのは、「未完の工事に対する返還義務付きの入金」であるためです。

3-3.未成工事受入金の仕訳方法

未成工事受入金の仕訳は、①工事完成基準と②工事進行基準の2パターンの方法のどちらを採用しているかにより、計上時期が異なります。2つの方法について見ていきましょう。

①「工事完成基準」による仕訳の場合

工事完成基準では、工事が完成し引渡しが行われた時点で、未成工事受入金を売上へ振り替えます。

工事完成基準とは、成果物が完成して初めて工事の価値が確定するという考え方に基づいた方法です。そのため、完成前に受け取った金額はすべて未成工事受入金として管理し、完成時に一括して工事売上高として認識します。

工事完成時に、これまで未成工事受入金として計上していた着手金や中間金を取り崩し、工事売上高へ振り替えます。同時に、未成工事支出金も工事原価へ振り替えられ、損益が確定します。

工事完成基準では、完成までは売上はゼロにしておき、完成時にまとめて売上計上をすることが原則です。

②「工事進行基準」による仕訳の場合

工事進行基準では、工事の進捗度に応じて、未成工事受入金の一部を売上として計上します。費用化するタイミングも、期末ごとに進捗度に応じて一部ずつ振替することになります。

工期が長く、進捗状況を合理的に見積もることができる工事では、完成を待たずに収益を段階的に認識したほうが、期間損益を適切に表すことができます。そのため、そのようなケースでは、工事過程で段階的に収益を計上する工事進行基準という方法が採用されます。

例えば、決算日において工事が全体の50%まで進んでいると合理的に判断できる場合、工事進行基準では、工事収益総額の50%を工事完成高として計上します。このとき、対応する原価も同時に計上されます。

工事進行基準では、工事が進んだ分だけ売上になるという考え方で未成工事受入金が処理されます。

3-4.未成工事受入金の消費税の取り扱い

未成工事受入金は、工事完成基準の場合、入金時点では消費税の課税対象とはならず、売上計上時に消費税を認識します。

消費税は、資産の譲渡や役務の提供が行われた時点で課税されます。未成工事受入金は、工事完成基準の場合、工事の引渡しが完了していない段階での前受金にすぎないため、消費税上は不課税取引として扱われます。

工事完成前に着手金や中間金を受け取っても、工事完成基準の場合、その時点では仮受消費税を計上しません。工事が完成し、工事売上高を計上したタイミングで、初めて仮受消費税を認識します。なお、工事進行基準を採用している場合には、進行基準により計上した収益について、仮受消費税として処理することが認められています。

未成工事受入金として仕訳した段階では消費税は発生せず、売上として認識されたタイミングで初めて課税されます。


4.工事開始から完成までの典型的な仕訳の流れ

未成工事支出金と未成工事受入金について、工事の開始から完成までの一連の流れの中でどのように扱われるのか、把握しておく必要があります。

建設業で典型的な工事を想定し、契約締結から完成・引渡しまでの各場面で、どのような仕訳が行われるのかを時系列で解説します。

この章では、以下の条件の工事を想定します。

・請負金額:1,000万円

・工期:4か月

・中間金:300万円受領

・発生原価合計:700万円

 (材料費400万円、外注費200万円、労務費100万円)

・決算は工事完成後(工事完成基準を採用)

4-1.契約締結時・着工時の仕訳

契約締結時や着工時点では、未成工事支出金や受入金などの仕訳は発生せず、会計処理は行われません。

契約を結んだだけ、あるいは工事に着手しただけでは、金銭の授受や原価の発生がなく、会計上の取引が成立していないためです。会計処理は、あくまでお金の動きや原価の発生があった時点で行われます。

工事請負契約を締結し、現場が始動したとしても、着工金の請求や支払い、材料の購入などがなければ、帳簿上の仕訳は行いません。契約内容は管理資料として把握しますが、会計帳簿にはまだ反映されません。

契約や着工そのものは会計処理の起点ではなく、実際の取引が発生して初めて仕訳が必要になります。

4-2.中間金受領時の仕訳(未成工事受入金の計上)

工事途中で中間金などを受領した場合、その金額は売上ではなく、未成工事受入金として計上します。

工事が未完成である以上、役務の提供は完了しておらず、売上として認識することができないためです。この段階の入金は、あくまで完成前に預かっている代金にすぎません。

発注者から中間金が振り込まれた場合、「現預金」の増加と同時に、「未成工事受入金」を計上します。請求書を発行していても、工事が完成していなければ売上計上は行いません。

着工後、発注者から中間金として300万円が普通預金に入金されたケースでは、以下のように仕訳します。

借方金額貸方金額
現預金3,000,000未成工事受入金3,000,000

この300万円は「売上」ではなく、「完成前に預かっているお金」という認識になります。そのため、貸借対照表上では流動負債として処理されます。

4-3.原価発生時の仕訳(未成工事支出金の計上)

工事に関連する原価が発生した場合、その都度、未成工事支出金として計上します。

材料費や外注費、労務費などは、工事完成前に費用化すると損益が歪むため、完成するまでは原価として確定させず、未成工事支出金として一時的に蓄積します。

建設資材を購入した場合や、下請業者へ外注費を支払った場合、それらは材料費や外注費として直接費用計上せず、未成工事支出金として処理します。これにより、工事が完成するまで損益計算書には影響しません。

例として、以下の原価が発生したとします。

・材料費:400万円

・外注費:200万円

・労務費:100万円

合計:700万円

このときの仕訳は以下のようになります。

材料費の支払時

借方金額貸方金額
未成工事支出金4,000,000現預金4,000,000

外注費の支払時

借方金額貸方金額
未成工事支出金2,000,000現預金2,000,000

労務費の支払時

借方金額貸方金額
未成工事支出金1,000,000未払金等1,000,000

ここで重要なのは、材料費・外注費・労務費を直接費用化しない点です。工事が完成するまでは、すべて「未成工事支出金」として資産計上されます。

4-4.工事完成時の振替仕訳(完成工事高・完成工事未収入金への振替)

工事が完成し引渡しが行われた時点(工事完成基準の場合であるため)で、未成工事支出金と未成工事受入金をそれぞれ損益科目へ振り替えます。

工事完成により、初めて売上と原価が確定し、損益を計算できる状態になるためです。それまで貸借対照表に滞留していた金額を、損益計算書へ反映させます。

完成時には、未成工事受入金を完成工事高へ振り替え、まだ回収していない金額があれば完成工事未収入金として計上します。同時に、未成工事支出金を完成工事原価へ振り替えることで、その工事の利益が確定します。

工事が完成し、発注者に引き渡した時点で、初めて売上と原価を認識します。このタイミングで未成工事関連の残高を一気に整理します。このとき行う仕訳は以下のようになります。

① 売上の計上(請負金額1,000万円)

すでに300万円は中間金として受領済みのため、残額700万円は未収入金となります。

借方金額貸方金額
未成工事受入金3,000,000完成工事高10,000,000
完成工事未収入金7,000,000仮受消費税1,000,000

② 原価の振替(未成工事支出金 → 完成工事原価)

借方金額貸方金額
完成工事原価7,000,000未成工事支出金7,000,000

この一連の仕訳により、

・未成工事支出金:0円

・未成工事受入金:0円

・完成工事高:1,000万円

・完成工事原価:700万円

が正しく計上され、工事利益300万円が損益計算書に反映されます。

工事完成時の振替仕訳をすることで、未成工事会計の処理は、ひと段落を迎えることになります。


5.決算時の未成工事支出金・未成工事受入金の扱い

未成工事支出金と未成工事受入金は、決算時点での扱い方次第で、当期の利益や税額を大きく左右します。

決算日現在で工事がどこまで進んでいるのかをどう評価するか、当期で完了した工事と翌期に持ち越す工事をどう区分するかは、重要な判断ポイントです。

この章では、決算における未成工事の整理方法を、収益認識や消費税との関係も含めて解説します。

5-1.決算日現在の工事進捗に応じた残高の算定方法

決算日における未成工事支出金・未成工事受入金の残高は、工事ごとの進捗状況を把握したうえで算定します。

決算書は、決算日時点の財政状態と経営成績を正しく示す必要があります。工事がどこまで進んでいるのかを無視して残高を確定させてしまうと、実態とかけ離れた利益が計上されることになります。そのため、進捗度に応じた整理が不可欠です。

工事完成基準を採用している場合は、決算日時点で未完成の工事について、発生している原価をすべて未成工事支出金として残します。一方、工事進行基準を採用している場合は、進捗度に応じて売上と原価を計上し、その残りの原価や入金額のみが未成工事支出金・未成工事受入金として残高になります。

決算時の残高算定は、「工事がどこまで進んでいるか」という事実を起点に考えることが重要です。

5-2.翌期繰越工事と当期完成工事の区分

決算においては、工事を「当期中に完成した工事」と「翌期へ繰り越す工事」に明確に区分する必要があります。

当期完成工事は、その期の損益として確定させるべき対象である一方、翌期繰越工事は、まだ損益を確定させる段階にありません。

決算日直前に工事が完成し、引渡しが完了している場合は、請求や入金が翌期になったとしても当期完成工事として処理します。逆に、工事がほぼ完了していても、引渡しが決算日後になる場合は、原則として翌期繰越工事となり、未成工事として扱われます。

決算時の工事区分では、「完成・引渡しの有無」を基準に冷静に判断する必要があります。

5-3.工事進行基準・工事完成基準との関係

未成工事支出金・未成工事受入金の決算処理は、採用している収益認識基準によって大きく異なり、消費税の取扱いにも影響します。

工事完成基準では、完成時点で初めて売上と原価、消費税が認識されるのに対し、工事進行基準では、進捗に応じて段階的に売上と原価、消費税を認識します。そのため、未成工事として残る金額の意味合いが変わってきます。

工事完成基準では、決算日までに受け取った中間金はすべて未成工事受入金として負債に残り、消費税も未認識のままです。一方、工事進行基準を採用している場合、進捗に応じて計上した収益については、資産の譲渡等があったものとして仮受消費税を認識し、未成工事受入金は売上計上分だけ減少します。

決算時の未成工事の扱いは、収益認識基準と消費税の考え方を切り離さず、必ずセットで確認することが重要です。


6.よくあるミスとその防止策

未成工事支出金・未成工事受入金は、日々の処理や決算作業の中でミスが生じやすい科目です。

多くの場合、知識不足ではなく、科目の性質が似ていることや管理手法の曖昧さが原因となっています。

この章では、実務で頻発する代表的なミスと、その具体的な防止策を解説します。

6-1.仕掛品・前受金との混同による仕訳ミス

未成工事支出金・未成工事受入金は、他業種で用いられる仕掛品や前受金と性質が似ているため、科目選択の段階で誤りが生じやすい点に注意が必要です。

建設業では、仕掛品や前受金ではなく、原則として未成工事支出金・未成工事受入金を用いる必要があります。

仕掛品や前受金は、主に製造業や一般商取引を前提とした科目であり、工事契約という長期・個別性の強い取引形態には適合しません。しかし、会計ソフトの初期設定や過去の処理を踏襲してしまうことで、誤った科目が使われ続けてしまうケースが多く見られます。

例えば、工事途中で発生した材料費や外注費を、製造業の感覚で仕掛品に計上してしまう例が挙げられます。また、完成前に受領した請負代金を前受金として処理し、そのまま決算を迎えてしまうケースも典型的です。これらはいずれも、建設業としての会計処理としては不適切であり、税務調査では科目誤りとして指摘される可能性があります。

建設業においては、「工事に関するものは未成工事」という原則を徹底することが重要です。似ている科目で代用せず、業種特有の科目を正しく使い分けましょう。

6-2.完成工事への振替漏れ・二重計上

未成工事支出金・未成工事受入金に関するミスの中でも、決算時や工事完成時の振替処理はトラブルが起こりやすいポイントです。

特に工事完成基準に基づいて仕訳する場合、工事完成時には、未成工事残高を必ずゼロにし、完成工事へ正しく振り替える必要があります。

工事が完成したにもかかわらず、未成工事支出金が残っている場合、費用が二重に管理されることになってしまいます。逆に、振替を意識しすぎて、すでに振り替えた原価を再度完成工事原価に計上してしまうと、二重計上が発生します。いずれも、利益額を大きく歪める原因になります。

具体的には、工事台帳上では完成処理をしているものの、総勘定元帳では未成工事支出金が残ったままになっているケースがあります。また、工事進行基準の場合、月次で一部振替を行い、決算時に改めて全額振替をしてしまい、結果として原価が二重に計上される例も少なくありません。

対策としては、完成工事が発生したタイミングなどで、この工事の未成残高はゼロになっているかを必ず確認する運用をするようにしましょう。振替の有無と金額を工事単位で管理することが、漏れや二重計上を防ぐ最大の対策となります。

6-3.未成工事支出金を利用した粉飾決算の典型パターン

未成工事支出金は、本来は完成していない工事に対応する正当な資産ですが、その計上方法を誤ると、利益操作の温床になりやすい科目でもあります。

未成工事支出金は、「費用を先送りして利益を水増ししていないか」という観点で、銀行など金融機関からチェックされています。

完成していない工事に関する支出を未成工事支出金として資産計上すれば、その期の費用が減り、結果として利益が増加します。この仕組みを利用すれば、本来は当期費用とすべき支出を意図的に未成工事支出金に回すことで、利益を調整することが可能になってしまいます。

典型的なのは、すでに完成して引き渡しも終わっている工事について、関連する外注費や材料費の一部を「まだ未成」として未成工事支出金に残し続けるケースです。また、工事と直接関係のない経費、例えば、事務所の修繕費や車両費などを工事関連費として未成工事支出金に含めてしまう例も、税務調査では頻繁に指摘されます。

6-4.未成工事受入金を利用した決算の典型パターン

未成工事受入金は、「収益を先送りまたは前倒ししていないか」という視点で疑われやすい科目です。

工事完成基準や工事進行基準にかかわらず、受け取った金額と工事の進捗状況が一致していなければ、収益計上のタイミングが歪められている可能性が生じます。特に未成工事受入金が極端に少ない、あるいは不自然に多い場合、意図的な操作を疑われやすくなります。

例えば、決算直前に多額の請負代金を受領しており、工事がほぼ完成しているにもかかわらず、多額の未成工事受入金を残し続けている場合、収益の先送りを疑われ、利益調整を目的とした過少計上として指摘されることがあります。

未成工事受入金は「受け取った額と収益計上のタイミングが正しいか」という点が最大の焦点です。工事との対応関係が説明できない残高では、税務調査で指摘されるリスクが高くなります。

6-5.工事台帳と総勘定元帳の不一致を防ぐためのチェックポイント

未成工事関連のトラブルは、工事台帳と会計帳簿が一致していないことから発覚するケースが非常に多く見られます。

工事台帳と総勘定元帳は、定期的に突き合わせ、金額と内容の一致を確認する必要があります。

以下のチェックポイントについて、定期的に調べるようにしましょう。

① 工事番号・工事名が仕訳ごとに正しく紐づいているか

工事台帳は工事単位、総勘定元帳は勘定科目単位で管理されるため、仕訳時に工事番号や工事名の入力を誤ると、台帳と元帳が一致しなくなります。特に類似した工事名が並ぶ場合は、入力ミスが起こりやすいポイントです。

② 原価の計上タイミングが工事台帳と一致しているか

工事台帳では実際の発生ベースで原価を管理している一方、会計上は請求書ベースや支払ベースで仕訳しているケースがあります。このズレがあると、同じ原価でも計上月が異なり、不一致の原因になります。

③ 未成工事支出金への集約漏れがないか

材料費や外注費、労務費を一部だけ直接費用計上してしまうと、工事台帳上の原価合計と、元帳上の未成工事支出金残高が一致しなくなります。特に少額経費を例外扱いしていないかは要確認です。

④ 完成工事への振替が全工事分行われているか

工事完成時に、未成工事支出金から完成工事原価への振替を忘れると、工事台帳では完了しているのに、元帳上では未成工事が残り続ける状態になります。完成月ごとの振替チェックは必須です。

⑤ 中間金・追加請求の反映漏れがないか

工事台帳には反映されている中間金や追加請求が、会計仕訳では未成工事受入金として計上されていないケースがあります。特に口頭合意による追加工事は、台帳と元帳のズレを生みやすいポイントです。

⑥ 決算整理仕訳が工事台帳に反映されているか

決算時に行う原価振替や進捗度調整の仕訳は、会計帳簿上のみで処理されがちです。これを工事台帳に反映していないと、翌期以降に数字が合わなくなります。

⑦ 消費税区分の違いによる金額差を把握しているか

工事台帳は税抜管理、総勘定元帳は税込・税抜混在、という管理方法の場合、単純比較すると必ず差が出ます。消費税を含めた比較なのか、除いた比較なのかを事前に統一しておく必要があります。

 

工事台帳は現場や工事単位での管理資料であり、総勘定元帳は会計全体を集計した帳簿です。この二つは役割が異なるため、どちらか一方の更新漏れや入力ミスがあると、不一致が生じやすくなります。税務署は、この不一致を利益操作や管理不十分の兆候として捉えることがあります。

例えば、工事台帳では未成工事支出金が計上されているのに、会計帳簿では別工事に混在している場合、原価の帰属が不明確になります。また、工事台帳上の進捗率と未成工事受入金の残高が明らかに合わない場合も、収益認識の妥当性を疑われます。

工事台帳と総勘定元帳の内容は、必ず一致するようにしておくことが重要です。決算時だけでなく、月次や四半期ごとに突き合わせを行うことで、未成工事に関するミスは大幅に減らすことができます。


7.未成工事支出金・未成工事受入金などでお悩みの方は辻・本郷 税理士法人の税務顧問サービスをご検討ください

未成工事支出金や未成工事受入金の処理は、工事の進捗状況、契約内容、収益認識基準、消費税の取り扱い、そして決算時点での判断が複雑に絡み合うため、少しの認識違いが利益や税額に大きな影響を与えます。

特に建設業では、

・工事台帳と会計帳簿の整合性が取れていない

・進行基準と完成基準の使い分けが曖昧になっている

・未成工事を使った利益調整と誤解されかねない処理をしてしまっている

といったケースが少なくありません。

辻・本郷 税理士法人では、建設業に精通した専門チームが、未成工事支出金・未成工事受入金の処理を含め、日々の会計から決算、税務調査対応まで一貫してサポートしています。

単に数字を合わせるのではなく、「なぜこの処理になるのか」「税務署にどう説明できるか」という視点でのチェックが可能です。

未成工事の扱いに少しでも不安がある場合は、問題が顕在化する前に、建設業に強い税理士へ相談することが、結果的に最も安全で効率的な選択といえるでしょう。


8.まとめ

未成工事支出金と未成工事受入金は、建設業会計を理解するうえで避けて通れない重要な勘定科目です。

これらは、工事の進捗と収益認識を正しく反映させるための調整項目です。

工事が未完成の間は、発生した原価は未成工事支出金として資産に計上し、受け取った代金は未成工事受入金として負債に計上します。

そして、工事が完成し引き渡された時点、もしくは期末の時点で、初めて売上と原価を計上し、未成工事関連の残高を整理します。

​この一連の流れを正しく理解していないと、利益が不自然に変動する、決算内容を説明できない、税務調査で不要な指摘を受ける、といったリスクが高まります。​

本記事を通じて、未成工事の考え方と処理の全体像を把握し、実務や税務への不安を一つずつ解消していくきっかけになれば幸いです。

ご不安な際には税理士へのご相談も検討してみてください。