
年末調整の際、多くの企業では従業員の源泉所得税が給与からの天引き額を下回るため、差額の還付手続きが必要になります。
ですが、給与計算の担当になってから日が浅く、「源泉所得税の還付手続きが複雑そうでよく分からない」と悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
本記事では、源泉所得税の還付が発生した際に、企業側が行う手続きを詳しく解説します。
記事を読んで、ミスなく還付手続きを終えられるようにしましょう。
1.源泉所得税の還付に必要な4つのステップ
年末調整で確定した源泉所得税の金額が、1年間に源泉徴収した金額を下回る場合は、その分を従業員に還付する必要があります。
源泉所得税の還付に伴う手続きの一般的なスケジュールは、次の通りです。
| 時期 | 企業が行うこと |
|---|---|
| 12月中 | 12月の給与支給とあわせて、源泉所得税の過納額を従業員に還付する ・12月支給分の給与明細に、源泉所得税の過納額を記載する ・12月の給与とあわせて、過納額を従業員の銀行口座に振り込む |
| 1月10日まで | 12月分の源泉所得税に、過納額を充当する ・源泉所得税の残額をe-Taxまたは金融機関・税務署窓口で納める ・源泉所得税の残額がない場合、納付書(所得税徴収高計算書)のみ直接または郵送で税務署に提出する |
| 2月10日まで | 1月分の源泉所得税に、先月充当しきれなかった過納分を充当する ・源泉所得税の残額をe-Taxまたは金融機関・税務署窓口で納める ・源泉所得税の残額がない場合、納付書(所得税徴収高計算書)のみ直接または郵送で税務署に提出する |
| 2月以降 | 1月分源泉所得税に充当した後も過納分が残っている場合は、税務署に還付請求する (e-Taxまたは紙で還付請求書などの必要書類を提出する) |
また、源泉所得税の納期の特例を利用している場合(源泉所得税を半年分ずつ年2回に分けて納付する場合)のスケジュールは次の通りです。
| 時期 | 企業が行うこと |
|---|---|
| 12月中 | 12月の給与支給とあわせて、源泉所得税の過納額を従業員に還付する |
| 1月20日まで | 7~12月分の源泉所得税に、過納額を充当する ・源泉所得税の残額をe-Taxまたは金融機関・税務署窓口で納める ・源泉所得税の残額がない場合、納付書(所得税徴収高計算書)のみ直接または郵送で税務署に提出する |
| 7月10日まで | 1~6月分の源泉所得税に、先月充当しきれなかった過納分を充当する ・源泉所得税の残額をe-Taxまたは金融機関・税務署窓口で納める ・源泉所得税の残額がない場合、納付書(所得税徴収高計算書)のみ直接または郵送で税務署に提出する |
| 7月以降 | 1~6月分源泉所得税に充当した後も過納分が残っている場合は、税務署に還付請求する(e-Taxまたは紙で還付請求書などの必要書類を提出する) |
年末調整によって源泉所得税の過納分が発生した場合、従業員だけでなく、税務署との間でも精算が必要です。
それでは、以下でそれぞれの手続きを詳しく見ていきましょう。
STEP1:12月の給与支給とあわせて、源泉所得税の過納額を従業員に還付する
一般的に、源泉所得税の過納額がある従業員に対しては、12月に支給する給与に上乗せして過納額の還付を行います。
具体的には、次のような作業を行います。
- 12月支給分の給与明細を作成する際に、源泉所得税の過納額を記載する
(例:過納額が5,000円の場合、「年末調整還付金 5,000円」) - 12月の給与と一緒に、過納額を従業員の銀行口座に振り込む
各従業員の過納額は、給与計算システムで出力できる「年末調整 過不足一覧表」の「過納税額」欄で確認できます。(表や項目の名称はシステムにより若干異なります)

(出典:一般社団法人東京実業連合会の給与計算代行ページに掲載の「年末調整 過不足一覧表」https://www.tojituren.or.jp/service/kyuyokeisan/file/sample_012.pdfを一部編集・加工)
なお、還付時期に決まりはないため、自社の都合に合わせて1月以降の給与支給時などに還付を実施することもできます。
STEP2:12月分源泉所得税に過納額を充当する
年末調整を行った月(12月)の給与から天引きした源泉所得税に、1年分の過納額を充当します。
12月分の源泉所得税と過納額の金額によって、手続きの内容が異なります。
- 12月分の源泉所得税額より過納額が少ない場合:12月分の源泉所得税の差額を税務署に納める
(例)12月分源泉所得税が5,000円、過納額が3,000円の場合
12月分の源泉所得税額:5,000円-3,000円=2,000円 - 12月分の源泉所得税額と過納額が同じか、過納額の方が多い場合:12月分の源泉所得税はなし。納付書だけを税務署に提出する
(例)12月分源泉所得税が5,000円、過納額が7,000円の場合
12月分源泉所得税の納付額:5,000円-7,000円=▲2,000円(12月分の納付額はなし)
※過納額の残り2,000円は、1月分源泉所得税に充当
それぞれの場合について、具体的な作業を解説します。
12月分源泉所得税>過納額の場合:12月分の源泉所得税の差額を税務署に納める
12月分の源泉所得税が過納額より大きい場合は、12月分の源泉所得税の差額を納税する必要があります。
支払い方法に応じて、次のような手続きを行いましょう。
【紙の納付書を使って支払う場合】
・納付書(所得税徴収高計算書)に、納税額などの必要事項を記入する
・金融機関または税務署の窓口に納付書を持参して納税する
【e-Taxで支払う場合】
・e-Taxにログインして納付書のデータを作成し、税務署に送信する
・インターネットバンキングなど、都合のよい方法で納税する
原則として、12月分の源泉所得税の支払いは1月10日までに行う必要があります。
ただし、源泉所得税の納期を年2回とする特例を受けている企業の場合は、7~12月分の源泉所得税に過納額を充当し、残額があれば1月20日までに支払います。
12月分源泉所得税≦過納額の場合:12月分の源泉所得税はなし。納付書だけを税務署に提出する
12月分(7~12月分)源泉所得税と過納額が同額か、または過納額の方が大きい場合は、12月分の源泉所得税はゼロになります。
源泉所得税の納税額がゼロ円の場合も、納付書だけは必ず税務署に提出しなければなりません。
納付書の提出手続きは、次のように行います。
【紙の納付書を提出する場合】
税務署に納付書を持参するか、または郵送する
【e-Taxで提出する場合】
e-Taxで納付書のデータを作成し、税務署に送信する
なお、納付書を記入する際は、次のポイントに気をつけましょう。
- 「年末調整による超過税額」の欄に過納額を記入する
- 「本税」の欄に「0」と記入する
- 「合計額」の欄に「\0」と記入する
STEP3:まだ過納額がある場合は、1月分源泉所得税に充当する
12月分源泉所得税に過納額を充当し切れなかった場合は、1月分の源泉所得税に過納額の残りを充当し、残額を納税します。
- 1月分の源泉所得税額より過納額の残りが少ない場合:1月分の源泉所得税の差額を税務署に納める
(例)12月分、1月分の源泉所得税が各5,000円、過納額が7,000円の場合
- 12月分源泉所得税の納付額:5,000円-7,000円=▲2,000円
(12月分はゼロ。残り2,000円は1月分に充当) - 1月分源泉所得税の納付額:5,000円-2,000円=3,000円
- 12月分源泉所得税の納付額:5,000円-7,000円=▲2,000円
- 1月分の源泉所得税額と過納額の残りが同じか、過納額の残りの方が多い場合:1月分の源泉所得税はなし。納付書だけを税務署に提出する
(例)12月分、1月分の源泉所得税が各5,000円、過納額が12,000円の場合
- 12月分源泉所得税の納付額:5,000円-12,000円=▲7,000円
- 1月分源泉所得税の納付額:5,000円-7,000円=2,000円
(12月分、1月分ともに納税額はゼロ。残り2,000円は税務署に還付請求が必要)
それぞれの場合における具体的な手続きの内容は、12月分と同様です。
なお、1月分の源泉所得税の支払は、2月10日までです。
源泉所得税の納期の特例を受けている場合は、1~6月分の源泉所得税から過納額を引いた額を7月10日までに支払います。
STEP4:充当しきれなかった過納額は税務署に還付請求する
ここまで、2ヶ月分の源泉所得税に充当してもなお過納額の残りがある場合は、税務署に対して源泉所得税の還付請求を行い、残額を返還してもらいましょう。
還付請求を行うには、次の書類をデータ(e-Tax経由)、または紙(郵送または窓口)で税務署に提出します。
- 還付請求書(源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額還付請求書 兼残存過納額明細書)
- 過納額がある従業員全員の源泉徴収簿の写し(過納額が生じた年分と過納額を還付する年との2年分)
- 国税還付金支払内訳書
- 過納額の請求及び受領に関する委任状
源泉徴収簿の写し以外の書類は、国税庁ホームページや税務署の窓口で入手することができます。
各書類のポイントについて、順番に見ていきましょう。
還付請求書
還付請求書(源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額還付請求書 兼残存過納額明細書)には、主に次のような内容を記入します。
- 還付金の支払先(企業または本人)と振込先
- 還付対象となる各従業員の住所・氏名
- 還付対象者ごとの過納額
- 当初の過納額
- 源泉所得税へ充当済みの額
- 本人へ還付済みの額
- 充当や還付が未済の額(税務署に還付請求する額)
- 年末調整を行った日付
なお、還付対象者が退職した場合などに、還付金の支払先を本人に指定することもできます。
その場合、その対象者の分の還付請求書は個別に作成する必要があります。
過納額がある従業員全員の源泉徴収簿の写し
還付請求書に記載した対象の従業員全員について、源泉徴収簿の写しを提出する必要があります。
源泉徴収簿の内容は、還付請求書に記入した過納額や、充当・還付済みの額の根拠書類になります。
そのため、源泉徴収簿の写しは、年末調整で過納額があった年の分と、その過納額を充当・還付した年の分が必要です。
国税還付金支払内訳書
国税還付金支払内訳書は、税務署から源泉所得税が還付される際、税務署長名で還付対象者ごとの還付額を通知するための書類です。
還付請求書と同様に、還付対象者ごとの住所・氏名や過納額などを記入して提出します。
税務署から直接還付金を受け取る還付対象者については提出不要です。
委任状
委任状は、税務署に対する還付請求の手続きを従業員に代わって企業が行うために作成するものです。
委任状には、還付対象者となる従業員の住所・氏名の記入が必要です。
元従業員の場合など、税務署から直接還付を受ける対象者がいる場合、その対象者の情報は記入不要です。
2.税務署に対する源泉所得税の還付請求の時効は5年
年末調整の結果、源泉所得税の過納額を税務署に還付請求する場合の時効は5年です。
具体的には、年末調整を行った月(通常は12月)の翌年の1月1日から5年間であれば、税務署に還付請求ができます。
例えば、2025年12月に行った年末調整で源泉所得税の過納額が発生した場合、税務署に還付請求ができるのは、2026年1月1日から2030年12月31日までです。
3.源泉所得税の還付に関するFAQ
ここでは、源泉所得税の還付に関するよくある質問に回答します。
3-1.源泉所得税の還付金は、いつ従業員に支払うべき?
企業から従業員に対する源泉所得税の還付は、12月支給分の給与に上乗せする形で行われるケースが多いです。
ですが、還付金の支払時期は特に定められていないため、各社の都合に合わせて1月以降に還付を行うことも法令上は問題ありません。
その場合、社内で還付時期や理由などをあらかじめ周知しておくと、従業員の理解を得やすいでしょう。
3-2.従業員に源泉所得税の還付金を支払った場合の仕訳はどうなる?
従業員に源泉所得税の還付金を支払った場合の仕訳は次のとおりです。
例:12月に給与の支給とあわせて、年末調整の還付金6,000円を銀行振込で支払った。
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
| 給与(12月支給分) | 200,000 | 普通預金 | 205,000 |
| 旅費交通費(12月支給分) | 35,500 | 預り金(源泉所得税) | 5,000 |
| 預り金 (年末調整の還付金) | 6,000 | 預り金(社会保険料) | 25,000 |
| 預り金(住民税) | 6,000 | ||
| 預り金(雇用保険料) | 500 |
3-3.年末調整で計算した源泉所得税が、給与天引き額を上回った場合は?
給与から天引きした源泉所得税が、年末調整で計算した金額より大きい場合は、差額を従業員から追加徴収する必要があります。
源泉所得税の追加徴収の方法は、次の通りです。
- 年末調整をする月分(12月)の給与から徴収する
- 12月の給与から徴収しきれない分は、以降の給与から徴収する
12月の給与から源泉所得税を追加徴収する際、手取り給与がその年の手取り給与平均額の7割を下回る場合は、1月や2月に支給する給与に徴収を繰り延べることもできます。
なお、「12月はいつもより給料が増える」というイメージを持っている従業員は少なくありません。
そのため、追加徴収が発生するケースを事前に社内で周知したり、追加徴収の対象となった従業員に個別で理由を説明したりするなどの配慮をしておくとスムーズです。
3-4.源泉所得税を誤って多く支払った場合の手続きは?
源泉所得税を誤って納めすぎた場合も、正しい税額との差額(誤納額)を従業員に還付する必要があります。
誤納額の処理については、該当の従業員に意向を確認の上、次のいずれかの方法を選びます。
- 誤納額を将来の源泉所得税に充当する
- 誤納額を従業員に返金する
誤納額を将来の源泉所得税に充当する場合は、次の書類を税務署に提出した上で、書類提出以降の源泉所得税の納付額から誤納分を差し引いて調整します。
- 充当届出書(源泉所得税及び復興特別所得税の誤納額充当届出書)
- 充当対象の源泉所得税を納めた時の納付書(所得税徴収高計算書)の写し
- 誤納額が生じた事実を記載した帳簿書類の写し(例:総勘定元帳のうち、「預り金」の勘定部分)
また、従業員が誤納額の返金を希望した場合や、誤納額が2ヶ月分の源泉所得税に充当しきれない場合は、企業から税務署に対して誤納額の還付請求を行います。
還付請求を行うには、源泉所得税の誤納付から5年以内に次の書類を提出する必要があります。
- 還付請求書(源泉所得税及び復興特別所得税の誤納額還付請求書)
- 還付対象の源泉所得税を納めた時の納付書の写し
- 誤納額が生じた事実を記載した帳簿書類の写し
なお、従業員に対しては、税務署から企業に対して誤納額が支払われた後に、給与等とあわせて返金するのが一般的です。
4.まとめ
年末調整の結果、源泉所得税の還付処理が必要な場合は、一般的に次のような手続きを行う必要があります。
| 時期 | 企業が行うこと |
|---|---|
| 12月中 | 12月の給与支給とあわせて、源泉所得税の過納額を従業員に還付する ・12月支給分の給与明細に、源泉所得税の過納額を記載する ・12月の給与とあわせて、過納額を従業員の銀行口座に振り込む |
| 1月10日まで | 12月分の源泉所得税に、過納額を充当する ・源泉所得税の残額を税務署に納める ・源泉所得税の残額がない場合、納付書(所得税徴収高計算書)のみ税務署に提出する |
| 2月10日まで | 1月分の源泉所得税に、先月充当しきれなかった過納分を充当する ・源泉所得税の残額を税務署に納める ・源泉所得税の残額がない場合、納付書(所得税徴収高計算書)のみ税務署に提出する |
| 2月以降 | 1月分源泉所得税に充当した後も過納分が残っている場合は、税務署に還付請求する |
源泉所得税の還付処理と並行して、1月末には年末調整に伴う各種法定調書の作成・提出を行う必要があるため、給与計算の担当者としては非常に多忙なスケジュールとなります。
それぞれの手続きの流れやタイミングをあらかじめ把握しておき、余裕をもって業務を行いましょう。

