あなたに向いているのはどちらか?融資と出資の違いを徹底解説

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監修者 篠田 佳希

「自分で会社を起こしたい」「そろそろ独立したい」

起業を考えたときにまず重要になるのは開業資金や運転資金など資金の調達です。資金の調達方法として融資や出資という言葉がぱっと思い浮かぶ方も多いと思います。

では実際に、融資と出資では何が違うかわかりますか?あいまいな方もいらっしゃるのではないでしょうか。

簡単に言うと、融資とは資金を借りること、出資とは資金を提供してもらうことです。どちらも資金を調達する手段ではありますが、その仕組みやメリット・デメリットは違うため、どちらが有利ということはなく、自社の目的や状況に合った資金の調達方法を選択することが重要です。

この記事では、融資と出資の違いを、仕組み、メリットデメリット、どんな人がどちらに向いているか、受けるために準備しておきたいことまで詳しく解説していきます。


1.融資と出資は何が違うのか?

融資とは金融機関から資金を借りること、出資とは投資家やベンチャーキャピタルから資金を提供してもらうことです。融資には返済の義務があり、借りた元金に利子を加えて返さなければいけません。出資には返済の義務がない代わりに、利益が出れば出資者に利益を還元する必要があります。
その他にも、融資と出資には様々な違いがあります。まずは比較表で見てみましょう。

融資出資
返済義務返済義務あり返済義務なし
資金提供者金融機関投資家やベンチャーキャピタル
資金提供の目的利息株式の売却益
資金提供者が重視するポイント信用力や返済力事業の成長性や将来性
経営の自由度経営には干渉されない株主の意向に左右される
貸借対象表上の仕訳負債純資産
信用情報の影響経営者個人の信用情報に融資の可否が左右される経営者個人の信用情報に左右されず出資が受けられる
メリット・経営の自由度が高い
信用力次第で多額の融資を受けられる
・計画的に返済できる
・返済の必要がない
・融資よりも多額の資金を調達できる可能性がある
・経営のアドバイスも受けられる可能性がある

デメリット・利子を上乗せして返済する義務がある
・審査に多くの書類が必要になる
・財務諸表上で負債が増加する

・会社の経営権を奪われてしまうリスクがある
・利益の分配が必要になる

向いている人・経営権を保持したい人
・安定して返済ができる人
・売上や利益が安定するまで時間がかかる人
・返済リスクを減らしたい
・成長スピードを重視したい

受けるために必要なこと・事業計画を明確にする
・資金使途をはっきりさせる
・自己資金を確保する
・財務資料を整備する
・信用情報・実績を確認する
・担保や保証人を検討する
・資金調達の目的を明確にする
・ビジネスモデルを明確にする
・経営陣の信頼性を示せるようにしておく
・出口戦略を提示する

ではひとつずつ見ていきましょう。

1-1.返済義務の違い

融資は資金を借りることです。金融機関が資金を貸し出します。融資は負債(借金)になるため、原則として返済義務が生じます

出資は資金を提供してもらうことです。出資者が出資先の株式や経営権の一部と引き換えに資金を提供します。出資は自己資金になるため、原則として返済義務はありません

1-2.資金提供者の違い

融資における資金提供者は主に銀行、信用金庫、信用組合、ノンバンク、日本政策金融公庫などの政府系金融機関です。融資は負債(借金)になるため、融資での資金提供者の立場は債権者となります。

出資における資金提供者は主に個人投資家やベンチャーキャピタル、クラウドファンディングを利用する個人です。出資は自己資金になるため、出資での資金提供者の立場は出資者(株主)となります。

1-3.資金提供目的の違い

融資における資金提供の目的は、貸し付けた元金に対しての利息収入を得ることです。契約時に金利と返済期間があらかじめ定められているため、融資した側は安定的に元金の返済や利息を受け取ることができます。

出資における資金提供の目的は、出資者が所有する株式への配当や値上がりした株式の売却益を得ることです。企業が成長すれば株式の配当金が出たり株式の価値が上がって売却益を得られるものの、事業が失敗すれば投資した資金がゼロになる可能性もあるため、出資した側は事業が成功すれば大きな利益を手にしますが、失敗すれば損失を被ります。

1-4.資金提供者が重視するポイントの違い

融資で資金提供者が重視するポイントは信用力や返済力です。貸し付けた元金に対しての利息収入を目的として融資しているため、毎月しっかり返済してもらうための返済能力が重視されます。

出資で資金提供者が重視するポイントは事業の成長性や将来性です。出資者が所有する株式への配当や値上がりした株式の売却益を得ることを目的として出資しているため、事業の成長や将来性が重視されます。

1-5.経営の自由度の違い

融資の場合、経営の自由度は保たれたままです。金融機関は返済を求めるだけで経営に介入しないため、経営者は自らの意思で事業を進められます。

出資の場合、経営の自由度は低くなります。出資者には経営権の一部や、出資比率に応じた株主総会での議決権を譲渡することになるため、会社を成長させてリターンを得たいと考える株主は経営に積極的に関与し、リターンを最大化しようとする場合があります。

1-6.貸借対照表での仕訳の違い

融資の場合、貸借対照表では負債として計上されます。融資を受けると負債が増えることになるため、自己資本比率の低下につながり、金融機関や取引先からの財務状況のチェックやが厳しくなる可能性があります。

出資の場合、貸借対照表では純資産として計上されます。出資を受けると自己資本が増えることになるため、 自己資本比率が上昇し、金融機関や取引先から安定性が高いと評価されやすくなります。

1-7.信用情報の影響の違い

融資を受ける際には、経営者個人の信用情報は融資審査に大きく影響します。融資は返済義務がある契約のため、延滞や債務整理などの事故情報があると信用力が低いと判断され融資審査の通過は難しくなります。

出資を受ける際には、経営者個人の信用情報は影響しません。出資では返済義務がなく成長性や将来性が評価されるため、現在の信用力が低くても資金調達が可能です。

1-8.メリットの違い

次は、融資と出資のメリットの違いを見ていきます。

融資のメリット

①経営の自由度が高い
②信用力次第で多額の融資を受けられる
③計画的に返済できる

融資のメリット①経営の自由度が高い

融資では、経営の自由度を保ったまま資金調達ができます。金融機関は返済を求めるだけで経営に介入しないため、きちんと返済さえできていれば、経営者は自社の経営判断を柔軟に行うことができます。

融資のメリット②信用力次第で多額の融資を受けられる

融資では、信用力次第で多額の融資を受けられます。金融機関は企業の経営状況、過去の取引実績、返済能力などを総合的に評価して信用力を判断します。信用力が融資審査の基準になるため、信用力の高い企業であれば、金融機関側にとってもリスクが少なく、積極的に融資を行えます。

融資のメリット③計画的に返済できる

融資では、計画的に借り入れた資金を返済をすることができます。金融機関から借り入れた資金は月々の返済額や返済期間が明確に定められており、高額な資金でも計画的に分割して返済できるため、資金計画を立てやすくなります。

出資のメリット

①返済の必要がない
②融資よりも多額の資金を調達できる可能性がある
③経営のアドバイスも受けられる

出資のメリット①返済の必要がない

出資では、借金ではないので返済の必要がありません。調達した資金を返済に充てる必要がないため、事業の成長に集中して活用できます。

出資のメリット②融資よりも多額の資金を調達できる可能性がある

出資では、融資よりも多額の資金を調達できる可能性があります。出資者は事業の成長性や将来性を評価するため、新しい技術やアイデアなどがある魅力的な事業であれば、融資よりも多額の資金を調達することも可能です。

出資のメリット③経営のアドバイスも受けられる

出資では、経営のアドバイスも受けられます。投資家やベンチャーキャピタルは事業が成功することを望んでいるため、多くの企業に出資した経験から得られる豊富な知見やノウハウを生かし、経営のサポートを積極的に行います。

1-9.デメリットの違い

融資と出資のデメリットについても見ていきましょう。

融資のデメリット

①利子を上乗せして返済する義務がある
②審査に多くの書類が必要になる
③財務諸表上で負債が増加する

融資のデメリット①利子を上乗せして返済する義務がある

融資では、利子を上乗せして返済する義務があります。借りた元金に利子を加えて返済するため、資金繰りの負担は大きくなります。融資の金利が高かったり借入期間が長くなるほど、支払う金額の総額は増えます。

融資のデメリット②審査があるため多くの書類が必要になる

融資では、審査に多くの書類が必要になります。金融機関は融資審査で借り手の信用力、事業の状況、返済能力を細かく確認するため、決算書や事業計画書、登記簿謄本、申告書、営業許可書など、財務状況や事業の将来性を裏付ける書類が求められます。

融資のデメリット③財務諸表上で負債が増加する

融資では、借り入れた資金は貸借対照表で負債の増加として計上されます。融資を受けて負債が増加すると負債比率等の財務指標が悪化するため、銀行や取引先からの評価が下がってしまいます。

出資のデメリット

①会社の経営権を奪われてしまうリスクがある
②利益の分配が必要になる

出資のデメリット①会社の経営権を奪われてしまうリスクがある

出資では、会社の経営権を奪われてしまうリスクがあります。出資者は出資先の株式や経営権の一部と引き換えに資金を提供するため、経営に干渉したり口をだしたりする可能性があります。株式の持株比率によっては出資者に経営権を譲ることになる可能性もあるため注意が必要です。

出資のデメリット②利益の分配が必要になる

出資では、利益の分配も必要になります。出資者は所有する株式への配当や値上がりした株式の売却益を得ることを目的として資金を提供しているため、会社が利益を上げた際には出資者である株主に対して配当金という形で利益を分配する必要があります。配当金として株主に還元すると、会社に残る利益は減少します。株主の持分に応じて将来的にも利益を分配する必要あり、長期的な利益の流出にもつながります。

1-10.向いている人の違い

では融資が向いている人、出資が向いている人はそれぞれどのような人なのでしょうか。

融資が向いている人

①経営権を保持したい人
②安定して返済ができる人

融資が向いている人①経営権を保持したい人

融資では金融機関が経営に介入することはないため経営権を分散させることなく事業に必要な資金を調達することができます。

融資が向いている人②安定して返済ができる人

融資では金融機関は確実な返済を求めるため、信用力や返済力が高いほど評価が高く、融資を受けやすくなります融資を受けて計画的に返済することで、資金計画も立てやすくなります。

出資が向いている人

①売上や利益が安定するまで時間がかかる
②返済リスクを減らしたい人
③成長スピードを重視したい人

出資が向いている人①売上や利益が安定するまで時間がかかる人

出資では事業の成長性や将来性を評価するため創業期や新規事業など、利益が安定するまで時間がかかる場合でも資金の調達が可能です。

出資が向いている人②返済リスクを減らしたい人

出資では出資元への返済義務がないため、大規模な資金調達を行っても毎月の返済を気にかける必要がありません。

出資が向いている人③成長スピードを重視したい人

出資では調達した資金を返済に充てる必要がなく、会社が成長するために集中して使えるため、製品開発やマーケティング、事業拡大などの成長戦略に積極的に投資できます。

1-11.受けるために必要なことの違い

融資を受けるために必要なこと、出資を受けるために必要なことには、以下のようなものがあります。

融資を受けるために必要なこと出資を受けるために必要なこと
・事業計画を明確にする
・資金使途をはっきりさせる
・自己資金を確保する
・財務資料を整備する
・信用情報・実績を確認する
・担保や保証人を検討する
・資金調達の目的を明確にする
・ビジネスモデルを明確にする
・経営陣の信頼性を示せるようにしておく
・出口戦略を提示する

融資を受けるために必要なことは、信用力と返済能力を示すことです。事業計画や資金の使い道を明確にし、自己資金の確保や財務資料の整備、信用情報や実績の確認をして返済能力の根拠を示します。担保や保証人の検討も必要に応じて行います。

出資を受けるために必要なことは、事業の成長性と利益を得るための具体的な計画を示すことです。資金調達の目的とビジネスモデルを明確にし、経営陣の熱意や実行能力、実績、専門知識などをアピールして事業の成長性を示せるようにします。また、新規株式公開やM&Aを狙うなど、投資家が出資額以上のリターンを得るための現実的で具体的な出口戦略を提示することも必要です。


2.まとめ

では融資と出資は何が違うのかもう一度まとめます。

融資出資
返済義務返済義務あり返済義務なし
資金提供者金融機関投資家やベンチャーキャピタル
資金提供の目的利息株式の売却益
資金提供者が重視するポイント信用力や返済力事業の成長性や将来性
経営の自由度経営には干渉されない株主の意向に左右される
貸借対象表上の仕訳負債純資産
信用情報の影響経営者個人の信用情報に融資の可否が左右される経営者個人の信用情報に左右されず出資が受けられる
メリット・経営の自由度が高い
信用力次第で多額の融資を受けられる
・計画的に返済できる
・返済の必要がない
・融資よりも多額の資金を調達できる可能性がある
・経営のアドバイスも受けられる可能性がある

デメリット・利子を上乗せして返済する義務がある
・審査に多くの書類が必要になる
・財務諸表上で負債が増加する

・会社の経営権を奪われてしまうリスクがある
・利益の分配が必要になる

向いている人・経営権を保持したい人
・安定して返済ができる人
売上や利益が安定するまで時間がかかる人
・返済リスクを減らしたい
・成長スピードを重視したい

受けるために必要なこと・事業計画を明確にする
・資金使途をはっきりさせる
・自己資金を確保する
・財務資料を整備する
・信用情報・実績を確認する
・担保や保証人を検討する
・資金調達の目的を明確にする
・ビジネスモデルを明確にする
・経営陣の信頼性を示せるようにしておく
・出口戦略を提示する

融資と出資では何が違うのかおわかりいただけましたでしょうか。

融資と出資はどちらも資金を調達する手段ではありますが、その仕組みやメリット・デメリットは違うため、自社の目的や状況に合った資金の調達方法を選択するようにしましょう。