
「融資の面談では何を聞かれるのか」「圧迫面接のような雰囲気だったらどうしよう」。日本政策金融公庫や銀行に融資を申し込んだ後、面談日が近づくにつれ、こうした不安を感じる方も多いでしょう。特に、事業計画書を自分で作成した方であれば、数字の根拠を適切に説明できるか心配になるものです。
ただし、過度に心配する必要はありません。面談担当者はあなたを落とそうとしているわけではなく、「融資した資金が確実に返済されるか」を確認したいだけです。本記事では、面談で「よく聞かれる質問」とその「意図」、審査担当者が納得する「回答のポイント」を詳しく解説します。読み終える頃には、面談への不安が自信に変わり、落ち着いて当日を迎えられるようになっているはずです。
目次
- 1.融資面談でよく出る質問30選!回答のポイントを解説
- 1-1.なぜ独立し、この事業を始めようと思ったのですか?
- 1-2.なぜ、今このタイミングで融資が必要なのですか?
- 1-3.事業の経験はトータルで何年くらいありますか?
- 1-4.あなたの事業の強みは何ですか?
- 1-5.最近の受注状況や、主な実績を教えてください
- 1-6.競合他社と比較して、あなたのサービスが優れている点は何ですか?
- 1-7.集客はどのように行っていますか?
- 1-8.現在の取引先はどのように確保されましたか?
- 1-9.主な取引先(顧客)はどのようなところですか?
- 1-10.融資希望額の具体的な使途はなんですか?
- 1-11.なぜ自己資金ではなく、融資を希望されるのですか?
- 1-12.設備投資の場合、具体的にどのような機材を購入する予定ですか?
- 1-13.なぜその機材が必要なのですか?
- 1-14.運転資金はどのような費用に充てる計画ですか?
- 1-15.前期が赤字の場合、どのように資金補填をされましたか?
- 1-16.事業拡大を検討している場合、今回の事業拡大でどのような顧客層をターゲットにする予定ですか?
- 1-17.今後の売上予測の根拠を具体的に説明してもらえますか?
- 1-18.売上予測が達成できなかった場合、どのように対応する計画ですか?
- 1-19.借入金の返済は、具体的にいつから、どのように行う予定ですか?
- 1-20.借入金以外に、個人で抱えている借入金はありますか?
- 1-21.自己資金として提示された〇〇万円は、どのように貯められたものですか?
- 1-22.融資が否決された場合、事業計画は自己資金で実行できますか?
- 1-23.家族はあなたの事業拡大計画について、どのように考えていますか?
- 1-24.事業とは別に生活費は毎月どのくらい必要で、どのようにやりくりしていますか?
- 1-25.事業の最も懸念すべき点はどこだと思いますか?それに対しどのような対策を検討していますか
- 1-26.事業の将来性について、どのように考えていますか?
- 1-27.事業計画書に記載されている原価率、変動費率の根拠はなんですか?
- 1-28.資金繰り表を作成されていますか?作成している場合、内容を説明してください
- 1-29.希望されている返済期間と据置期間の理由を教えてください
- 1-30.当公庫(銀行)を志望された理由は何ですか?
- 2.まとめ 質問の意図を理解し、十分な準備をもって面談に臨みましょう
1.融資面談でよく出る質問30選!回答のポイントを解説
融資面談において担当者が最も確認したいことは、「返済の確実性」です。担当者は、あなたの人柄や事業の実現可能性、資金繰りの理解度を通じて貸してもよいかを判断しようとします。 質問の内容は、提出した「創業計画書」や「企業概要書」に沿ったものになります。この際重要なのは、提出書類と口頭での説明に矛盾がないこと、嘘をつかないことです。
本章では、よく聞かれる質問を30個紹介しながら、担当者の意図と効果的な回答を解説します。
1-1.なぜ独立し、この事業を始めようと思ったのですか?
この質問で面談担当者が見ているのは、経営者としての熱意と、それを裏付ける創業の動機です。「今の会社が嫌だった」「自由になりたかった」といった個人的な感情だけを伝えてしまうと、困難に直面した際に事業を継続できるかと疑われかねません。
回答のポイントは、これまでの経験や実績が、今回の起業にどう繋がっているかを論理的に伝えることです。「長年の経験の中で見つけた市場の課題を、自分のスキルなら解決できると確信した」という流れで話すと説得力が増します。
■回答例
「Web制作会社で10年間、企業サイトやECサイトの制作に携わる中で、動画活用による集客・ブランディングの重要性が急速に高まっていることを実感しました。これまでに培った動画編集スキルとWeb制作の経験を組み合わせ、Webと動画を一体化した提案で中小企業の発信力を高めたいと考え、独立を決意しました。」
1-2.なぜ、今このタイミングで融資が必要なのですか?
担当者がこの質問で確認したいのは、今回の資金調達が「事業を成長させるための前向きな投資」なのか、それとも「単なる赤字の穴埋め(資金繰りの悪化)」なのかという点です。もちろん、前者のほうが審査の印象は良くなります。
回答する際は、「お金が足りないから貸してほしい」という受け身な姿勢ではなく、「利益を増やすために資金が必要だ」というポジティブな理由を論理的に説明しましょう。具体的には、事業拡大のチャンスが目の前にあることを強調するのが効果的です。融資を受けることが売上アップに直結することを伝えてください。
■回答例
「既存顧客からの動画制作依頼が急増しており、現状の機材スペックでは処理速度の限界から対応件数が制約されつつあります。そのため、高性能なPCと編集環境を整えることで、制作効率を高めつつ新規案件にも対応できる体制を構築します。これにより取引拡大を図り、売上・利益の向上を実現するため、今のタイミングでの設備投資が必要と考えています。」
1-3.事業の経験はトータルで何年くらいありますか?
この質問の意図は、事業を遂行するための技術力や業界知識が十分にあるかを確認することです。一般的に、経験年数が長いほど事業が破綻するリスクは低いと判断される傾向にあります。
独立してからの期間だけでなく、会社員時代や下積み時代を含めた「通算の経験年数」を提示し、プロフェッショナルであることをアピールしましょう。経験年数が短い場合、年数を答えるだけでなく、その期間で達成した具体的な成果や、保有している資格・スキルを補足して経験の濃さなどを伝えてください。
■回答例
「個人事業主としては6年、以前の制作会社勤務が4年あり、Web業界での通算経験は10年になります。コーポレートサイトやECサイトの構築を中心に、企画・設計から納品まで一貫して担当してきました。これまでの経験を活かし、現事業でも中小企業向けに成果につながるWeb運用支援を提供しています。」
1-4.あなたの事業の強みは何ですか?
担当者は、売上が継続的に立つイメージを持つために、なぜ顧客は競合他社ではなく、あなたの商品・サービスを選ぶのかを知りたがっています。回答の際は、「一生懸命やります」といった精神論ではなく、顧客にとっての具体的なメリット(早さ、安さ、品質、専門性など)を明確に提示しましょう。自分の強みがどのようにして「売上・利益」に結びついているか、という因果関係まで説明できると、返済能力の強力な証明になります。
■回答例
「一般的なWebデザイナーとは異なり、企画から撮影・編集・納品までをワンストップで対応できる点が強みです。外注コストを避けたい中小企業に対し、他社より約2割低い価格で提供しながら、平均納期を30%短縮しています。短納期で高品質なコンテンツを求める顧客からリピート依頼が多く、安定的な売上につながっています。」
1-5.最近の受注状況や、主な実績を教えてください
提出した事業計画書に書かれた売上予測が、現実的かどうかを確認するための質問です。どれだけ優れた計画でも、裏付けとなる実績や具体的な見込みがなければ信用は得られません。
「順調です」といった抽象的な表現ではなく、取引先の名称や契約形態、金額などを挙げて、すでに売上の目処が立っていることを事実ベースで説明しましょう。また、口頭での説明に加え、注文書・契約書・見積書、通帳の入金履歴などをその場で提示できれば、担当者の不安を和らげ、審査通過の可能性を高めることができます。
■回答例
「現在、株式会社〇〇様と月額30万円の保守契約を継続しており、安定した売上基盤があります。さらに、今回の設備投資によって対応可能となる新規案件について、すでに2社から具体的な見積もり依頼をいただいており、着工後は追加の月次売上が見込める状況です。」
1-6.競合他社と比較して、あなたのサービスが優れている点は何ですか?
競合との差別化要因を問うことで、自社のサービスが市場の中で選ばれ続ける理由を持っているかを見ています。「情熱があります」「頑張ります」といった精神論ではなく、機能、価格、納期、専門性など、顧客にとって合理的なメリットを提示する必要があります。
自社の強みを客観的に分析できているかどうかも評価対象となります。可能であれば、競合他社との比較表や、自社の強みを整理した資料を用意し、それを示しながら説明すると、担当者にとってもイメージしやすく、説得力が高まります。
■回答例
「競合となる制作会社の多くは分業制ですが、私はディレクションからデザイン、動画編集まで一貫して対応できます。そのため、コミュニケーションロスが少なく、修正回数を抑えつつ他社より短い納期で納品できる点が評価されています。また、外注費が発生しない分、価格を抑えながらも十分な利益率を確保できるため、リピートや紹介につながりやすいビジネスモデルとなっています。」
1-7.集客はどのように行っていますか?
事業を継続させるための売り上げを生み出す仕組み(マーケティング力)があるかを確かめる質問です。技術力が高くても、顧客を獲得する手段がないと事業は継続できません。「いいものを作れば勝手に売れる」といった考え方ではなく、ターゲットとする顧客に対してどのようにアプローチし、どのような導線で受注につなげているのかを、論理的かつ具体的に説明できるようにしておきましょう。
集客手段が紹介だけだと、受動的で不安定と見られる可能性があります。紹介に加えて、WebサイトやSNS、交流会、広告など複数の集客チャネルを持ち、それぞれをどのように活用しているかを示すと、安定した集客力として評価されやすくなります。
■回答例
「現在の受注の約8割は、過去の制作実績を掲載したポートフォリオサイトからの問い合わせと、既存クライアントからの紹介によるものです。ポートフォリオサイトでは事例ページを定期的に更新し、検索経由の流入も増えています。今後は、動画制作に関するノウハウや事例をSNSで継続的に発信し、ポートフォリオサイトへの導線を強化することで、新規顧客からの直接問い合わせの比率を高めていく計画です。」
1-8.現在の取引先はどのように確保されましたか?
経営者の営業力や人脈、これまでの仕事に対する信頼度を確認するための質問です。特に創業初期においては、前職からのつながりや知人からの受注があることは、過去に誠実な仕事を積み重ねてきた証拠として評価されやすく、大きなプラス材料になります。
回答の際は、「前職で担当していたクライアント様から、独立後も継続してご指名いただいている」といった具体的な関係性や、どのような仕事ぶりが評価されたのかといった信頼の背景を添えると良いでしょう。
■回答例
「創業当初の取引先は、前職の制作会社時代に担当し、信頼関係を築いてきたクライアント様が中心です。独立のご挨拶に伺った際、『これまでの対応を評価しているので、独立後もぜひお願いしたい』とお声がけいただき、現在も継続してご依頼をいただいています。さらに、地元の商工会議所の勉強会や交流会にも積極的に参加し、そこで知り合った経営者様から新規案件を受注するなど、人脈を広げながら取引先を増やしている状況です。」
1-9.主な取引先(顧客)はどのようなところですか?
この質問では、主な取引先の属性(法人・個人、業種、規模)と、売掛金の回収リスクを確認しています。主な取引先が法人であれば、一般的には一定の信用力があると判断されやすい一方、売上の大半を特定の1社に依存している場合には、「その契約が終了した際の影響が大きい」といったリスクを指摘される可能性があります。
取引先が複数社に分散されており、売上構成が偏っていないことを示し、経営の安定性を伝えることがポイントです。可能であれば、主な取引先のリストを用意し、具体的な社名や業種、売上構成を示しながら説明すると、担当者にもイメージしてもらいやすくなります。
■回答例
「主な取引先は、都内の中小企業様が中心で、現在は約15社と継続的にお取引があります。業種はIT、小売、不動産、サービス業など複数に分かれており、特定の1社への依存度は売上全体の20%以下に抑えています。このように取引先を分散することで、特定顧客に依存しない、安定した売上基盤を確保できる体制となっています。」
1-10.融資希望額の具体的な使途はなんですか?
資金の使い道が事業計画ときちんと整合しているか、また、その金額が妥当かどうか(概算のままになっていないか)を確認するための、非常に重要なものです。
説明の際は「設備資金(モノへの投資)」と「運転資金(経費などの支払い)」を分けて示す必要があります。特に設備資金については、見積書に記載された金額と整合した数字を回答することが必須です。金額が曖昧であったり、使途が不明瞭で生活費への流用が疑われるような内容になってしまうと、融資審査でマイナス評価となり、場合によっては否決につながる可能性もあります。
■回答例
「希望額300万円のうち、150万円は設備資金として、動画編集に対応できる高性能PCと周辺機器の購入に充てます。金額は、事前に提出している見積書の合計と一致しています。残りの150万円は運転資金として、案件増加に伴う外注費の先払い分と、入金サイトを踏まえた約3か月分の固定費に充当する計画です。」
1-11.なぜ自己資金ではなく、融資を希望されるのですか?
自己資金が一定程度あるにもかかわらず融資を希望する場合に、経営者が資金繰りやリスク管理をどのように考えているかを確認するものです。「自分の資金を使いたくない」といった消極的な理由ではなく、事業の安全性を高めるための判断であることを説明する必要があります。
具体的には、不測の事態に備えて手元資金を厚くしておきたい、将来の投資や運転資金に備えたい、あるいは融資を受けて返済実績を積み重ねることで、金融機関との信頼関係を構築したいといった理由であれば、経営判断として妥当なものとして受け入れられやすくなります。
■回答例
「現在の自己資金については、突発的なトラブルや数か月分の運転資金に備えるため、一定額を手元に残しておきたいと考えています。今回の設備投資に自己資金を全額充当してしまうと、キャッシュフローに余裕がなくなり、不測の事態に対応できないリスクがあります。そのため、自己資金も一部投入したうえで、事業を安定的に継続するための手元流動性を確保しつつ、不足分を融資で調達する方針を選択しました。」
1-12.設備投資の場合、具体的にどのような機材を購入する予定ですか?
設備投資として申請している資金の使い道が具体的であり、事業計画と整合しているかを確認するための質問です。金融機関は、融資された資金が申請内容と異なる用途に流用されないよう、購入予定の設備をできるだけ詳細に把握しようとします。
そのため、メーカー名、型番、数量、金額を見積書どおりに正確に説明することが求められます。回答の際は、事前に取得した見積書を提示しながら説明し、口頭で伝える内容と見積書・事業計画書の金額に食い違いが出ないよう注意することが重要です。
■回答例
「動画編集のレンダリング処理を高速化し、対応可能な案件数を増やすために、〇〇社製ワークステーション『モデルX』を1台と、編集作業用の4Kモニターを2台購入予定です。あわせて、動画編集ソフトの法人向けライセンス費用も含めて見積もりを取得しており、見積書記載のとおり総額150万円となります。」
1-13.なぜその機材が必要なのですか?
検討している設備投資が事業規模に対して過剰ではないか、また、その投資額に見合う売上・利益の向上が期待できるか(費用対効果)が妥当かどうかを確認するための質問です。高額な機材を購入しても、収益の増加や生産性向上につながらなければ、返済原資を生み出すことはできません。
そのため、機材を導入することで「作業時間がどの程度短縮されるか」「対応可能な案件数がどのくらい増えるか」「品質向上によって単価アップやリピート増加が見込めるか」といった点を、できる限り数値や具体的な事例を交えて説明することが重要です。
■回答例
「現在使用しているPCでは、4K動画の書き出しに数時間を要しており、このため受注数を月3件程度に制限せざるを得ない状況です。今回導入を予定している機材では処理時間を従来の約3分の1に短縮でき、月間の対応可能件数を3件から5件程度まで増やすことができます。その結果、月額20万円前後の売上増加が見込めており、投資額についても数年以内に回収可能と試算しています。」
1-14.運転資金はどのような費用に充てる計画ですか?
運転資金の借入は、設備資金と比べて使途が曖昧になりやすいため、面談では何にいくら使うのかとその算出根拠が妥当かどうかを厳しく確認されます。 「安心のために借りておく」といった抽象的な理由は避け、外注費や人件費、家賃、広告宣伝費などの具体的な費目と、月商の何ヶ月分・入金サイトのギャップなどを示して説明することが重要です。 特に、「仕事は受注済みで売上も見込めているが、入金までの間に必要となる外注費などの支払いに充てたい」といった説明は、返済原資との関係が明確なため、融資理由として納得されやすい傾向があります。
■回答例
「受注増加に伴い、外部パートナーへの制作委託費が増加しています。売上の入金サイトは翌々月末ですが、外注費の支払いは翌月末のため、その立替期間をカバーする運転資金が必要です。また、新規案件獲得のためのWeb広告費として月10万円を見込んでおり、これらの外注費と広告費を含めた運転資金として、約3か月分に相当する150万円を計上しました。」
1-15.前期が赤字の場合、どのように資金補填をされましたか?
直近の決算が赤字の場合、その不足分の資金をどのように工面して事業を継続してきたのかを確認するための質問です。担当者は、高金利のビジネスローンや知人からの借入など、返済負担の重い負債が隠れていないかを懸念しています。
赤字の事実や補填方法は隠さずに、できるだけ具体的に説明することが大切です。代表者個人の貯蓄から会社へ資金を貸し付けた(役員借入金)場合は、その入金が確認できる通帳の履歴などを提示できれば、基本的には問題視されにくくなります。 あわせて、赤字の主な要因と、今期は黒字化している、あるいは黒字化の見込みが立っていることも補足すると、前向きな評価につながりやすくなります。
■回答例
「前期の赤字分については、私個人の預金を取り崩し、役員借入金として会社に入金することで補填しました。高金利のビジネスローンや、知人・親族からの借入といった負債は一切ありません。前期の赤字は、創業に伴う初期投資や広告宣伝費が先行したことによる一時的なものであり、現在は固定費を抑えつつ受注が増加しており、今期はすでに月次ベースで黒字に転換しています。」
1-16.事業拡大を検討している場合、今回の事業拡大でどのような顧客層をターゲットにする予定ですか?
事業拡大のための融資を希望する場合、誰をターゲットにして事業を伸ばしていくのかを具体的に描けていないと、投資対効果に疑問を持たれてしまいます。 「20代〜50代の男女」のような広すぎる表現は避け、狙う顧客の業種や規模、担当者の役職、抱えている課題などをできるだけ具体的に絞り込んで説明することが重要です。
絞り込んだターゲットに対して、自社の商品・サービスがどのような課題をどのように解決し、どの程度の需要が見込めるのかを論理的に伝えましょう。 既存顧客と近い層をさらに深掘りするのか、これまでとは異なる新しい層を開拓するのかによっても、説明すべき根拠や戦略の見せ方は変わってきます。
■回答例
「今回の設備投資により、これまで十分に対応できなかった4K高画質動画の制作が可能になります。この強みを活かし、商品の質感やディテールを動画で伝えたいと考えているアパレル系のEC事業者様(年商数千万円〜数億円規模)を新たな主要ターゲットとして開拓します。すでに既存クライアントからの紹介を通じて数社からお問い合わせをいただいており、今後も同業他社への横展開が見込めることから、潜在ニーズは高いと判断しています。」
1-17.今後の売上予測の根拠を具体的に説明してもらえますか?
事業計画書に記載した売上予測の数字に、どのような根拠があるのかを確認するための質問です。希望的観測ではなく、現実的に達成可能な計画かどうかを厳しく見ています。
「頑張って営業します」といった意気込みではなく、「客単価 × 顧客数」「成約率」「リピート率」などの係数を用いて、売上がどのような前提のもとで積み上がるのかを説明することが重要です。 既に確定している保守契約などのベースとなる売上と、新規獲得見込みによる上乗せ分を分けて示すと、数字の現実味が伝わりやすくなります。
■回答例
「売上予測の根拠ですが、まず毎月固定で発生する保守契約が5社あり、1社あたり月◯万円の契約ですので、これだけで月商の約30%が継続的に確保できています。残りの約70%については、過去半年間の実績として、Webサイトからの問い合わせが月平均10件、そのうち成約率が約20%で、1案件あたりの平均単価が50万円でした。この実績値(10件 × 20% × 50万円)をベースに、ごく控えめな水準で見積もっており、さらに既存顧客からの紹介案件も一部加味したうえで算出した数値です。」
1-18.売上予測が達成できなかった場合、どのように対応する計画ですか?
売上予測どおりにいかなかった場合に、どのような手段で資金繰りと返済を維持しようと考えているかを確認し、経営者としてのリスク管理能力を見極めるための質問です。 事業は計画どおりに進まないことも多いため、楽観的な見通しだけでなく、売上が下振れした際の具体的な対策(いわゆるプランB)を持っているかどうかが評価のポイントになります。
「必ず達成します」と断言するのではなく、「売上が一定割合下回った場合は広告宣伝費などの変動費を抑制する」「役員報酬を減額して返済原資を確保する」といった具体的なコスト削減策や資金対策を提示し、返済を最優先に考えている姿勢を示すことが重要です。
■回答例
「計画達成に向けて最大限取り組みますが、万が一売上が計画の80%程度にとどまった場合には、新規獲得のための広告宣伝費を一時的に抑制し、可能な範囲で外注業務を内製化することで支出を削減します。それでも資金が不足する場合には、私の役員報酬を減額するとともに、手元に残している自己資金を追加投入し、金融機関への返済に支障が出ないよう資金管理を行います。」
1-19.借入金の返済は、具体的にいつから、どのように行う予定ですか?
この質問では、借入金の返済計画が、事業から生み出されるキャッシュフローときちんと合っているかを確認しています。 毎月の返済額は、帳簿上の利益に減価償却費を加えたおおまかな営業キャッシュフローの範囲内に収まっていることが前提となります。
返済の開始時期についても、融資実行の翌月から返済を始めるのか、それとも事業が軌道に乗るまでの一定期間は元金の返済を猶予する「据置期間」を設けるのかを整理し、事業計画書に記載した内容と整合する形で説明する必要があります。
■回答例
「返済は、融資実行の翌月から開始する予定です。毎月の返済額は、元金と利息を合わせて約6万円となります。事業計画上の最低月次利益は15万円、減価償却費を含めた営業キャッシュフローはそれ以上を見込んでいるため、家賃やその他経費を支払った後でも無理のない水準で返済可能です。返済遅延を防ぐため、返済予定表にあわせて口座振替の手続きを速やかに行い、残高管理も徹底します。」
1-20.借入金以外に、個人で抱えている借入金はありますか?
代表者個人として抱えている借入金の状況を確認し、個人の信用情報と返済余力を把握するための質問です。住宅ローンやマイカーローン、カードローン、教育ローンなどの有無と返済額を尋ねています。 金融機関はCICなどの信用情報機関を通じて個人の借入状況を確認できるため、申告内容を隠したり偽ったりすると、信用低下につながり大きなマイナス評価となります。
借入があること自体は、返済に遅延がなく、収入とのバランスが取れていれば大きな問題とは見なされません。現在の返済状況が順調であり、今回の事業用融資の返済には支障がないことを、具体的な数字とあわせて説明することが大切です。
■回答例
「個人名義では住宅ローンの残高が約2,500万円あり、毎月の返済額は10万円です。これ以外に、カードローンや消費者金融からの借入はありません。住宅ローンの返済については、妻の給与収入と、これまでに蓄えてきた私個人の貯蓄で賄っており、今回の事業からの収益を充てる予定はありませんので、事業用融資の返済に影響を与えることはありません。」
1-21.自己資金として提示された〇〇万円は、どのように貯められたものですか?
提示された自己資金が実際にあなた自身の資金であり、一時的に借りた「見せ金」ではないかを確認するための質問です。 金融機関は、知人などから一時的に借り入れて通帳残高だけを増やした資金を最も警戒しており、そのため自己資金がコツコツと増えてきた経過を預金通帳で確認したいと考えています。
タンス預金や親からの贈与である場合は、その経緯やお金の流れを論理的に説明する必要があります。面談時には通帳の入出金履歴を提示しながら、給与からの積立や賞与、保険の解約返戻金などが原資であることを示すことで、自己資金としての信頼性を高められるでしょう。
■回答例
「会社員時代の手取り給与から、毎月5万円ずつ定期積立を行っており、その履歴は預金通帳でご確認いただけます。あわせて、昨年支給された賞与の一部と、解約した生命保険の返戻金を自己資金として口座に入金しており、これらを合計した金額が、今回ご提示している自己資金200万円の原資となります。」
1-22.融資が否決された場合、事業計画は自己資金で実行できますか?
事業に対する本気度と、今回の融資が本当に必要かどうかを確認するための質問です。「融資がなければ諦めます」と答えると他力本願な印象になり、一方で「自己資金だけで問題ありません」と答えると「では融資は不要ですね」と判断されかねません。
そのため、事業自体は自己資金の範囲で小さく始める覚悟はあるものの、その場合はスピードや規模が大きく制限され、目前のビジネスチャンスを逃してしまうことを説明し、事業拡大や早期の軌道化のために融資が不可欠である、というスタンスで答えるのが望ましいです。
■回答例
「事業自体は、自己資金の範囲内でスモールスタートすることも可能ですので、融資が得られなかったとしても事業を諦めることはありません。ただし、現在の機材では処理能力に限界があり、対応できる案件数が半分程度にとどまるため、売上の伸びが遅くなり、目の前のビジネスチャンスを十分に活かせません。機会損失を防ぎ、立ち上がりの段階から受注量を最大化して早期に事業を軌道に乗せるためには、今回の融資による設備投資が不可欠であると考えています。」
1-23.家族はあなたの事業拡大計画について、どのように考えていますか?
家族(特に配偶者)の理解と協力は、事業を継続するうえで重要な要素と見なされています。担当者は、家族の強い反対によって事業が途中で頓挫するリスクがないか、また収入が不安定な時期に家計面や精神面での支えが得られるかを確認しています。
回答の基本は「配偶者も応援してくれている」というスタンスですが、それに加えて、事業計画書を見せながら収入の変動やリスクについても事前に説明し、そのうえで賛成してもらっていると伝えると、足元が固まった計画として評価されやすくなるでしょう。
■回答例
「妻には事業計画書を見せ、当初半年ほどは収入が不安定になる可能性があることも含めて率直に相談しました。そのうえで『これまでの経験やスキルを考えると挑戦する価値がある』と言って賛成してくれており、前向きに応援してもらっています。万が一一時的に収入が落ち込んだ場合には、妻のパート収入で生活費を補うことも話し合っており、家族として事業に取り組む体制ができています。」
1-24.事業とは別に生活費は毎月どのくらい必要で、どのようにやりくりしていますか?
事業とは別に毎月どの程度の生活費が必要なのか、その生活費をどのような収入で賄っているのかを確認することで、事業資金を生活費に流用しないか、公私の資金管理が適切に行われるかを見極めるための質問です。 生活費をあまりに低く見積もると、実態とかけ離れていると判断され、計画の甘さを疑われる可能性があります。住宅ローンや家賃、光熱費、教育費などを含めた現実的な金額を示し、それが事業計画上の役員報酬や配偶者の収入で無理なくカバーできることを数字で説明することが重要です。
■回答例
「住宅ローンの返済を含め、生活費は毎月おおよそ35万円が必要です。事業計画では、私の役員報酬を月額30万円と設定しており、手取りは約24万円を見込んでいます。不足分の約11万円については、妻の給与収入(月15万円程度)から充当することで、無理なくカバーできる見込みです。事業用口座と家計用口座は完全に分けて管理し、事業資金を生活費に流用しないよう徹底します。」
1-25.事業の最も懸念すべき点はどこだと思いますか?それに対しどのような対策を検討していますか
経営者が自社の弱点や事業リスクをどれだけ客観的に把握しているか、また、トラブル発生時にどのような対策を講じるつもりなのかを確認するための質問です。 「懸念点はありません」と答えてしまうと、リスクが見えていない経営者と判断され、かえって評価を下げてしまう可能性があります。
競合の増加、大口顧客の喪失、機材の故障、景気悪化など起こり得るリスクを具体的に挙げたうえで、それぞれに対する備え(差別化戦略、取引先の分散、保守契約や保険加入、バックアップ機材の確保など)をセットで説明すると、リスク管理ができていると評価されやすくなります。
■回答例
「最大の懸念点は、技術の進歩が速く、常に新しいソフトやトレンドへの対応が求められる点です。陳腐化のリスクに対しては、毎月の売上の5%を研修費や書籍代としてあらかじめ予算化し、定期的にオンライン講座やセミナーを受講する時間をスケジュールに組み込むことで、継続的にスキルアップを図ります。また、特定のプラットフォームやサービス内容に依存し過ぎないよう、Web制作に加えてSNS運用代行や簡易動画制作など、関連サービスを複数展開することで収入源を分散し、リスク低減に努めています。」
1-26.事業の将来性について、どのように考えていますか?
目先の売上だけでなく、中長期的に事業をどのように発展させていくかというビジョンを確認するための質問です。 市場全体の動向(マクロ環境や市場規模・成長性)と、その中で自社がどのような立ち位置・戦略を取るのかを、筋の通った説明で示せるかどうかがポイントになります。
「なんとかなると思う」といった感覚的な表現ではなく、客観的なデータや市場トレンドに基づいた見解を示すことが重要です。また、事業規模を拡大していくのか、特定分野の専門性を高めて高単価化・高付加価値化を目指すのかなど、今後の成長の方向性を具体的に描いておく必要があります。
■回答例
「動画広告市場は、スマートフォンや5G通信の普及に伴い、今後も高い成長が続くと予測されています。 この追い風を活かし、当社では単なる動画制作にとどまらず、効果測定や改善提案まで含めた『動画マーケティング支援』へとサービス領域を広げていく計画です。将来的には、特定の業界に特化した動画テンプレートや運用パッケージを開発し、労働集約的な受託制作から、ストック性の高い収益モデルへの転換を目指します。」
1-27.事業計画書に記載されている原価率、変動費率の根拠はなんですか?
事業計画書に記載された原価率や変動費率にどのような根拠があるのかを確認し、計画上の利益が現実的に計算されているかどうかをチェックするための質問です。 特に原価率は利益水準に直結する指標のため、業界平均と比べて著しく低い(利益が過大に見込まれている)場合や、逆に高すぎる場合には、その理由を説明することが求められます。
回答にあたっては、「業界平均値」「自社の過去実績」「外注先や仕入先からの見積書」など、客観的なデータや具体的な計算根拠を示すことが重要です。「だいたいこのくらいだと思う」という感覚的な回答は避けるべきです。
■回答例
「原価率20%の根拠ですが、当社では主に外部パートナーへの制作委託費を売上原価として計上しています。過去1年間の実績を集計したところ、受注金額に対して編集アシスタントなどへの外注費が平均して約20%となっており、今回の事業計画でもこの実績値をベースに同じ比率を採用しました。サービス業全体やWeb制作業の原価率の目安と比較しても、概ね適正な水準であると認識しています。」
1-28.資金繰り表を作成されていますか?作成している場合、内容を説明してください
黒字倒産を防ぐための資金管理能力があるかどうかを確認する質問です。売上の入金タイミングと、仕入・外注費・人件費・家賃などの支払タイミングを把握し、手元資金が一時的にでもマイナスにならないよう管理できているかが見られています。
可能であれば、向こう数か月〜1年間の資金繰り表を作成して面談に持参し、表を見せながら説明するのが効果的です。特に、大きな支出が重なる月や、入金サイトの関係で一時的に資金が減るタイミングを把握したうえで、その期間を融資や自己資金でどのように手当てしているかを示せると、資金管理の確かさをアピールできます。
■回答例
「はい、向こう1年間について月次の資金繰り表を作成しています。ご覧のとおり、大型案件の入金までタイムラグが生じる関係で、〇月と〇月は一時的に手元資金が薄くなる見込みです。ただし、今回の融資を受けることで、常に月商約3か月分の現預金を維持できる計画としており、予期せぬ出費があっても支払や返済に支障が出ないよう管理しています。」
1-29.希望されている返済期間と据置期間の理由を教えてください
希望している返済期間および据置期間が、事業の収支や投資内容と見合った現実的な計画になっているかを確認するためのものです。返済期間は、今回導入する設備の法定耐用年数や、利益に減価償却費を加えた毎月の返済可能額を踏まえて設定するのが一般的です。
元金の返済を一定期間猶予してもらう据置期間を希望する場合には、事業が軌道に乗るまでの準備期間としてどの程度の時間が必要か、その間の売上やキャッシュフローの見通しとあわせて論理的に説明する必要があります。単に「返済を遅らせたい」という理由だけでは、必要性が低いと判断されやすくなります。
■回答例
「返済期間7年については、今回導入するPCなどの法定耐用年数と、無理のない月々の返済額(約4万円)に収まるようシミュレーションしたうえで設定しました。また、据置期間を3か月希望している理由は、新規機材の導入から実際の受注開始、請求・入金までに最低でも3か月程度のリードタイムが見込まれるためです。4か月目以降は受注と入金が継続して発生し、安定したキャッシュフローが確保できる見込みのため、そのタイミングから元金の返済を開始する計画としています。」
1-30.当公庫(銀行)を志望された理由は何ですか?
数ある金融機関の中からなぜその金融機関を選んだのかを通じて、パートナーとしてどの程度信頼し、長く取引していく意欲があるかを確認するための質問です。特に地域密着型の銀行や信用金庫では、金利の条件だけで比較されるよりも、創業支援への姿勢や日頃の相談対応などを評価して選んでもらえているかを重視する傾向があります。
そのため、単に「金利が安いから」ではなく、創業融資や経営支援の実績、担当者の親身な対応、将来的な事業成長も含めて伴走してくれる支援体制などに魅力を感じていることを伝え、ビジネスパートナーとして信頼しているというスタンスを示すことが重要です。
■回答例
「創業融資の実績が豊富で、創業後の経営相談や情報提供などサポート体制が手厚い点に魅力を感じたためです。事前に窓口で相談した際には、私の事業計画に対して具体的で実務的なアドバイスをいただき、この金融機関であれば資金面だけでなく経営面でも長期的なパートナーとして伴走していただけると感じました。そのため、今後の事業成長を見据えたメインバンク候補として、ぜひお取引をお願いしたいと考えています。」
2.まとめ 質問の意図を理解し、十分な準備をもって面談に臨みましょう
融資面談は審査の場であると同時に、事業の魅力を伝えるプレゼンの機会でもあります。担当者は決してあなたを落とそうとしているのではなく、「貸したお金がきちんと返ってくるか」を確認したいだけなのです。
今回紹介した30の質問の「意図」を理解し、根拠のある回答と資料を準備して面談に臨めば、想定外の質問にも動じることなく、堂々と対応できるはずです。準備こそが自信に繋がります。胸を張って、あなたの熱意と事業計画を伝えてきてください。
