
M&Aのデューデリジェンスにおいて、関連当事者取引は重要要素です。
関連当事者取引は、買収予定会社の収益力や税務リスクを見極めるうえで避けて通れない項目です。そのため、デューデリジェンスで関連当事者取引の実態を把握することは、M&Aの成功に貢献します。関連当事者取引のリスク、調査手順、リスクを見抜くためのポイント、見抜いた時の対処法まで、網羅的にご紹介します。
目次
1.デューデリジェンスにおいて関連当事者取引の調査が重要である理由
デューデリジェンスにおいて関連当事者取引をしっかりと調査することで、M&Aにおけるリスクを回避可能です。
しっかり調査する必要性と理由は次の通りです。また、関連当事者取引の概要についても触れます。
関連当事者をしっかり調査する必要性
デューデリジェンスでは、買収予定会社の関連当事者取引を見逃しやすいです。帳簿や財務諸表において「関連当事者取引」という区分があるわけではないためです。そのため、関連当事者取引については意識的に調査することが求められます。
関連当事者取引がリスク回避につながる理由
関連当事者取引は第三者取引と比較して、取引価格や条件を恣意的に決めることができます。つまり、デューデリジェンスにおいて関連当事者取引の調査が不足すると「収益力の算定を見誤る」「追徴課税」といったリスクが高まるのです。
関連当事者取引の概要
- 関連当事者とは
対象会社に人的、資本的な関連がある「個人」や「法人」 - 関連当事者取引とは
関連当事者と対象会社(買収予定会社)との間の取引
| 【関連当事者の代表例】 |
| 親会社/法人主要株主等 |
| 関連子会社/兄弟会社等 |
| 役員(役員近親者含む)/個人主要株主等 |
2.デューデリジェンスにおける関連当事者取引のリスク4つ
M&Aにおいて関連当事者取引は具体的に、次のようなリスクを内包しています。
なお、関連当事者取引も適正な取引であれば問題ありません。どのような場合にリスクが発生するのかを押さえておきましょう。
2-1.利益操作のリスク
利益操作により、買収予定会社の収益力を過大評価してしまうリスクがあります。
関連当事者取引は近しい者同士の取引であるため、価格や条件を恣意的に決める(利益操作)ことが可能です。買収予定会社に有利な条件の取引を多く行うことで、実態よりも大きな利益を計上できてしまうため、M&Aの収益力算定において実態以上の評価をしてしまうかもしれません。
2-2.架空取引のリスク
架空取引は追徴課税のリスクや、買収予定会社の評価を見誤る可能性があります。
関連当事者取引は架空請求が行いやすい取引です。架空取引は売上や在庫の不正操作が可能となり、粉飾決算の温床となります。買収後の税務調査で架空取引が発覚すれば、追徴課税のリスクが高まるでしょう。
架空取引を容認、もしくは見過ごしていることは、組織としても問題があると言えます。さらに架空取引は、買収予定会社のビジネスモデルや収益力を把握し損ねる可能性もあります。
2-3.寄附金が認定されるリスク
関連当事者取引において、次のような経済的利益を与えた場合、税務上それらは寄附金として扱われることがあります。寄附金認定されると法人税上の損金として認められず、追徴課税が生じる可能性があります。
【寄附金認定のリスクがある取引例】
- 一般的な価格との乖離が大きい取引を行った
- 無償(もしくは著しく廉価で)貸与や役務提供を行った
- 無利息貸付、債権放棄などを行った
関連当事者取引が多い場合や長期的に行われている場合、「特定の誰か(関連当事者)の利益が優先されている企業」とみなされることで、ステークホルダーからの信頼を損ねるリスクがあります。
それによって、次のような弊害が起こり得ます。
- 既存の取引先・顧客の離反
- 新規顧客の開拓に影響する
- 資金調達が困難となる
2-4.法令違反となるリスク
関連当事者取引は、漫然と行うと法令違反となる可能性があります。
というのも、一部の関連当事者取引は「利益相反取引」に該当し、利益相反取引の場合は株主総会や取締役会での承認手続きが必要なためです。
なお、役員等の利益相反取引が会社にとって「不当な取引」とみなされると、会社に損害を与えたとして損害賠償責任を問われることがあります。
【利益相反取引とは】
次のような、会社の利益と、経営層(取締役や役員など)の個人的な利益が相反する取引のことです。
- 会社と、取締役が経営する別会社が取引する
- 会社の社用車を取締役が買い取る
3.デューデリジェンスにおける関連当事者取引の調査手順
M&Aにおいてリスクのある関連当事者取引を、調査する手順をご紹介します。
| 手順 | 概要 |
| 1.関連当事者取引の把握 | 買収予定会社の関連当事者取引を把握 |
| 2.契約の意図や瑕疵を確認 | 取引までのプロセスに瑕疵がないか確認 |
| 3.取引の妥当性を判断 | 取引内容に問題がないか確認 |
3-1.関連当事者取引の把握
まずは、関連当事者取引を網羅的に把握します。
次のように情報を収集します。
- 株主名簿やグループ会社情報から関連当事者の確認
- 関係会社との取引明細の開示請求
- 質問状やインタビューの活用
3-2.契約の意図や瑕疵を確認
各種議事録・稟議書・契約書等を確認し、プロセスに瑕疵がないかを確認します。
契約書等の確認
契約にかかる書面が残されているか確認し、口頭の場合は実際の契約内容を聞き取ります。
契約内容が曖昧な場合や契約書が取り交わされていない場合は、関連当事者取引だけでなく、コンプライアンスの欠如や税務リスクへの無自覚も問題となります。
プロセスの瑕疵
稟議書や議事録等で、適切な承認プロセスを踏んでいることを確認します。稟議書は社内プロセス、議事録は法的な事前承認プロセスに該当します。
また、プロセスを確認することで、契約の実在性も担保されやすくなります。
3-3.取引の妥当性を判断
取引条件、価格の妥当性を判断します。これには、個別取引を判断する視点と、取引によるお金の流れを判断する視点が必要です。
個々の取引を判断する視点
不当な条件や価格が設定されていないかを確認します。
ただし、全ての契約内容を網羅的に確認するのは労力が大きいです。各種議事録・稟議書・契約書等から問題がありそうな契約をピックアップして調査するなど、状況に応じた調査を実施します。
取引によるお金の流れを判断する視点
グループ内で恣意的な利益配分が行われていないかを注視します。
例えば、特定のセグメントについてグループ内で複数の取引が行われている場合に、利益がグループ内の特定会社に偏って配分されていると、個々の取引条件・価格が歪んでいる可能性があります。
4.デューデリジェンスで関連当事者取引を見抜くポイント
問題ある関連当事者取引をデューデリジェンスで見抜くためのポイントを2つご紹介します。
4-1.継続損失は理由を確認する
関連取引で継続損失が発生している場合、相手方に対して日常的に利益の移転が行われている可能性があります。
理由を確認して、恣意的な意図が隠れていないか見抜きます。また、単発取引でも土地建物や設備といった価格の大きいものは利益移転に使われる可能性が高いです。特に内容に注意します。
4-2.無償取引の有無を確認する
無償の取引や役務は、財務諸表からは存在を読み取りにくい取引です。質問状やインタビューによって、漏れが生じないようにします。
なお、関連当事者への貸付については、「有償/無償」だけで妥当性を判断してはいけません。他の貸付と条件が異なる可能性があるためです。金利(無利息貸付含む)、期間、担保などの詳細を確認することで、問題の見落としを防ぎます。
5.デューデリジェンスで問題のある関連当事者取引を見抜いたときの対処法
問題のある関係当事者取引を発見した後に、どう対処するかが大切です。正しく対処することでリスクの低減を図れるからです。
企業価値の修正
不利な取引条件、利益移動などは収益力を見誤るもとになるため、企業価値に反映させて正しい評価を行います。
税務リスクを算定する
追徴課税の可能性が懸念される場合は、リスクを数値化して売買契約時の交渉材料とします。合わせて、問題のある税務処理の修正も依頼します。
問題のある取引の見直し
デューデリジェンスで内容を把握したうえで、取引条件の見直しを検討します。現時点での見直しを依頼する方法と、買収後に自社で見直しをする方法があります。
法令に違反する取引の解消
法令違反に抵触する架空取引や承認プロセスに瑕疵のある取引は、プロセスの修正や取引の解消を求めます。
6.辻・本郷 FAS株式会社ならリスクの発見から対処法まで伴走します
税務・財務デューデリジェンスの実績が豊富な辻・本郷 FAS株式会社なら関係当事者取引のリスクを見落としません。また、問題のある関係当事者取引を発見した後も、顧客と向き合いながら対処します。
税務・財務デューデリジェンスからバリュエーション、PPA、経営統合までM&Aを幅広くサポートするため、デューデリジェンスの調査結果をM&A全域で活かすことが可能です。

さらに、辻・本郷 税理士法人(辻・本郷グループ)なら、経営統合、PPA、日常税務(顧問税理士)など経営統合後のお困りごとも、ご相談いただけます。さまざまな局面において各部署の専門家が対応するため、多くの事業領域で安心をご提供します。M&Aもその先も、辻・本郷 税理士法人(辻・本郷グループ)をご利用ください。
7.まとめ
関連当事者取引は、買収予定会社の収益力を見誤ることや税務リスクにつながります。一方で全ての関連当事者に問題があるわけではないため、問題のある取引を確実に見抜くことが求められます。
正しい手順を踏むことで、漏れなく、かつ無駄なく関連当事者取引を調査していきましょう。
| 手順 | 概要 |
| 1.関連当事者取引の把握 | 買収予定会社の関連当事者取引を把握 |
| 2.契約の意図や瑕疵を確認 | 取引までのプロセスに瑕疵がないか確認 |
| 3.取引の妥当性を判断 | 取引内容に問題がないか確認 |
関連当事者取引について漏れなく調査することでM&Aのリスクを低減してください。

