
企業価値評価の現場では、「非流動性割引(ひりゅうどうせいわりびき)」という言葉がしばしば登場します。特に、非上場会社の株式評価や事業承継・M&Aの場面で耳にすることが多い専門用語です。
「非流動性とは何を指すのか」「なぜ割引が必要なのか」「どの程度の割引率が妥当なのか」などという疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
非流動性割引とは、株式の「売りにくさ」を反映させる調整です。
なぜ「売りにくさ」が発生するかというと、株式という資産は、いつでも簡単に売買できるとは限らないためです。
特に、市場で自由に売ることができない「非流動な」株式は、現金化までに時間やコストがかかるため、その分だけ価値が低く見積もられることが原因となり、売りにくさが発生してしまうのです。
この記事では、「非流動性割引とは何か」という基礎から、その適用の目安値や計算の考え方などを、専門家でなくとも理解できるようにわかりやすく解説します。読後には、非流動性割引を自信を持って説明できるようになり、株式評価の現場で実際に使える知識として整理できることを目指します。
目次
1.非流動性割引(非流動性ディスカウント)とは?
非流動性割引(非流動性ディスカウント)とは、市場で自由に売買できない資産、特に非上場株式などの評価において、その「売りにくさ(流動性の低さ)」を理由に価値を低く見積もる考え方のことです。
一般に、資産の価値は「すぐに現金化できるかどうか」に大きく左右されます。上場株式のようにいつでも市場で売れる資産は流動性が高く、買い手がつきやすいため、理論的な価値どおりの価格で取引されやすい一方、非上場株式のように売却先が限られている資産は、買い手を探すのに時間がかかり、すぐに現金化できないというリスクを抱えています。このリスク分を反映させるために、評価額から一定割合を差し引くのが「非流動性割引」です。
例えば、ある非上場会社の株式が理論的には1株あたり1,000円の価値があると算定されたとしても、実際にはすぐに売却できないことから、流動性の低さを考慮して20〜30%程度割り引かれ、700〜900円程度の評価額となるケースがあります。これは「非流動性がある=換金性が低い」という現実的な制約を、経済的価値に反映させるための調整です。
つまり、非流動性割引とは、資産を「売るのが難しいほど価値が下がる」という市場の実態を反映させた評価上の補正です。特に非上場株式の評価においては、理論値と実際の市場価値の差を埋めるために不可欠な概念といえます。
2.非流動性割引の適用対象はどのような株式・どのような場面か?
非流動性割引について、どのような株式が対象となり、どのような評価場面で適用されるのかは、株式の性格や評価目的によって大きく変わります。
この章では、代表的な対象株式と、割引が用いられる典型的な場面を整理します。
2-1.非流動性割引の対象となる株式の種類
非流動性割引が必要となるのは、市場で自由に売却できない株式、特に非上場株式・譲渡制限株式・少数株主の非支配株式です。
これらの株式は、売りたいタイミングで買い手を見つけることが難しく、現金化までに時間やコストがかかるため、市場性の低さ(=流動性リスク)が価値を押し下げます。
以下は、具体的に非流動性割引の対象となる株式の種類です。
2-1-1.非上場株式
最も典型的な非流動性割引の対象となる株式は、非上場株式です。
非上場株式は市場での売買ができないため、流動性リスクが高く割引が必要になります。理由としては、売却先が限定され、売却までの時間・情報の非対称性が大きいからです。例えばオーナー企業の株式は、買い手探しに数か月かかることも珍しくありません。このため評価の際には割引が加えられることがあります。
2-1-2.譲渡制限株式
譲渡制限株式のように、会社の承認がなければ売れない株式は、流動性がさらに低くなります。
譲渡制限株式はその性質上、非流動性割引の対象となります。理由は、会社や他株主の承認が必要で、自由な売買が制度的にできないためです。
具体的には、売却を希望しても会社が拒否すれば売主は会社に買取を求めるしかなく、市場価値を反映しにくい状況になります。このような構造的制約が割引の根拠になります。
2-1-3.少数株主の株式
株式の持分比率によっても流動性は大きく変わります。
そのため、少数株主の株式には追加的な割引が必要になることがあります。
理由は、支配権がなく経営への影響力も乏しいため、買い手側にとって魅力が低いからです。
例えば1%の株式を買っても経営方針を変えることはできず、配当も不確実です。このため流動性が低く、実務では非流動性割引やマイノリティディスカウントと合わせて調整されるケースがあります。
2-2.非流動性割引が適用される場面
非流動性割引は、「売りにくい株式」に幅広く適用される一方、その必要性や割引の水準は株式の評価目的によっても変わります。主に、株価算定・税務評価・裁判・M&Aなどの場面で、流動性リスクを反映させるために割引が行われます。
以下は代表的な適用場面です。
2-2-1.株式評価・株価算定の場面
株価算定や相続税評価の場面では、非流動性割引を行うことが妥当であるとされます。
評価額がどれほど理論的に妥当であっても、現実の市場で売却しようとした際に「買い手が見つかりにくい」という流動性の問題が必ずコストとして存在し、それが企業価値を実質的に減少させるためです。
この流動性の問題は、特に非上場株式において顕著であり、買い手の絶対数が少ないため、売却の交渉期間が長期化したり、場合によっては希望価格での売却が不可能となることもあります。
例えば、相続税の株価評価においては、市場で自由に取引できないことを前提に、取引相場のない株式として評価方法が定められており、そこで採用される評価額は企業の純資産価値や収益力を基にするものの、「売りにくさ」という現実的な制約を反映した調整が行われます。
※ただし、これは評価方法が取引相場のない株式という前提のもとに成り立っているので、間接的に流動性の欠如を反映する設定となっています。別途非流動性割引を上乗せをする制度はありません。
このように、純粋な理論価格だけでは現実の取引可能価格を正確に反映できないため、株価算定の場面では非流動性割引が不可欠であり、評価額を実際の市場性に近づけるための合理的な調整として位置付けられています。
2-2-2.裁判における株式の評価の場面
裁判で株式の評価額を決定する場面では、評価目的によって非流動性割引の可否が分かれます。
このような区別が必要になる理由は、裁判で求められる適正価格が、その価格が用いられる状況と目的によって異なるためであり、流動性の有無が当事者の不利益や公平性に直結するかどうかが問題となるためです。
例えば、令和5年最高裁決定では、譲渡制限株式を会社が買い取る場面について、株主が市場で自由に売却できないという制約が現実の不利益である以上、その不利益を価格に反映する目的で、譲渡困難性を認めました。
これは、評価の目的が「株主が自由に売れない状況を補填するための適正価格の決定」であったため、流動性の欠如が正当に考慮されたことになります。
しかし、同じ最高裁でも、平成27年の吸収合併反対株主の買取価格の決定では割引を否定しました。理由は、合併の場面では会社価値そのものを分配する行為であり、流動性の有無は当事者間の公平に影響しないためです。
このように、裁判上の株価評価では目的によって評価方法が大きく異なり、流動性が評価額へ反映されるかどうかは「その場面で流動性が当事者の権利にどれだけ影響するか」で決まると整理できます。
2-2-3.M&Aや株式譲渡の場面
M&Aの場面では、買収対象企業の株価を算定する際に非流動性割引を適用することが実務的に合理的であるとされます。
この調整が必要とされる理由は、買収後に企業価値がどれほど高まる可能性があっても、投資を回収できるまでの期間が長期化するリスクが常に存在しており、特に非上場株式では「売却が容易でない」という流動性の制約が買い手の投資リターンに直接影響するためです。
実際の例として、買収側がDCF法を用いて企業価値を算定する際には、将来キャッシュフローを割引率で調整し理論価値を出した後、最終的な市場取引価格に近づける目的で非流動性割引を追加することがあります。
※ただし、非流動性割引は機械的に一律に適用されるわけではありません。また、流動性リスクがすでに反映されている場合には、二重割引にならないように注意する必要があります。
この追加調整は、理論価格が現実の投資リスクを全て反映しているとは限らないためであり、特に「投資回収の遅れ」や「出口戦略の難しさ」を価格に含めるために不可欠です。
このように、M&Aでは理論的価値と実務的な価値の間にしばしば乖離が生じるため、非流動性割引はその乖離を埋め、より実務に即した適正価格を形成する役割を果たしています。
3.非流動性割引の割引率の目安は評価額の30%程度
非流動性割引の割引率は、一般的に評価額の25〜40%程度が目安とされています。日本においては、平均的に30%前後の割引が多く採用されています。
非流動性割引は、資産の流動性が低いことにより現金化までのコストや時間、機会損失のリスクを反映するものです。このリスクは企業や取引の性質によって異なりますが、特に非上場株式のように市場で容易に売買できない資産では、買い手が「流動性のなさ」を嫌うため、その分だけ割引を要求します。
したがって、非流動性割引の割引率は、実務的な平均値として25〜40%前後が参考水準となります。特に流動性の極めて低い株式や譲渡制限が強い場合は30%を超えるケースもありますが、企業の規模・業種・取引条件などに応じて柔軟に調整されるのが実情です。
ただし、米国では、非流動性割引の目安となる割引率について実証検証が行われており、日本ではそれをベースにして割引率を決めることが多いため、非流動性割引というものが公的に、制度などとして定められているわけではない点についてはご注意ください。
4.非流動性割引の算定方法は?
非流動性割引の算定には、明確な理論式や共通の算出ルールは存在しません。
実務では、過去の取引事例や海外の実証研究、さらにはDCF法などの理論価格に対して一定割合を割り引く「経験則ベースの算定」が一般的に行われています。
流動性の低さは資産や市場環境、買い手の属性などによって大きく異なるため、数式のみで定量化することが困難です。そのため、会計・評価の場面における実務では、理論的な根拠よりも市場実態に基づいた割引率を重視します。
米国では株式移転やM&A取引における非上場株式のデータを用いて、概ね25〜40%の割引率が妥当とされています。日本でも同様に、取引実績や業界慣行を参考にして、個別案件ごとに割引率を設定する手法が採られています。
例えば、DCF法で算出した株価が1株あたり1,000円の会社があるとします。非流動性リスクを考慮して25%の割引を適用する場合、評価額は750円となります。この際、割引率25%という数値は、同規模・同業種の非上場企業取引データや、過去のM&A実績を参考に設定されます。
非流動性割引の算定は、市場の実態と専門家の判断に基づいて行われます。DCF法や収益還元法などの評価モデルから得た理論値に対し、25〜40%の割引率を加えるのが実務上の目安です。
5.非流動性割引を適用する際の3つの注意点
非流動性割引は、非上場株式の評価を現実的な価格に近づける上で有効な手法ですが、その適用には慎重な判断が求められます。特に、評価の目的や状況によって割引の妥当性が変わります。
この章では、非流動性割引を適用する際に注意すべき主要な3点を、具体例とともに解説します。
5-1.適用目的の確認をすること
非流動性割引を適用する前に、評価の目的と場面を明確にする必要があります。
同じ株式の評価であっても、「買収・任意譲渡」「少数株主持分の評価」「相続・贈与」など、評価目的によって非流動性割引の可否が異なります。非流動性割引は、株式を市場で自由に売買できないことによる価値の低下を補正するものですが、その「流動性の欠如」が価格決定に実際に影響する場面でなければ適用の合理性がないと判断されます。
例えば、株主が会社に対して株式の買取請求を行う「退出給付(合併反対株主の株式買取請求など)」の場面では、最高裁平成27年判決が「非流動性割引を行うのは不適切」と判断されています。この場合は、市場で売却するわけではなく、会社が法的に買い取る義務を負っていることが理由となっています。
したがって、非流動性割引を行う際には「評価が想定している取引が、市場性の有無にどの程度左右されるか」を慎重に確認しなければなりません。
5-2.割引率の合理的根拠を示すこと
非流動性割引を適用する場合は、割引率に合理的な根拠を提示することが不可欠です。
非流動性割引の割合は経験則として用いられることが多いものの、合理的な根拠を意図的に提示しないと理論的な裏付けは弱くなりがちで、割引価格について客観的に説明しなければならない場面などにおいて、しばしば論点になります。そのため、「なぜその割合が妥当なのか」を第三者に説明できる根拠資料が必要です。
実務では、「類似取引事例」「米国実証研究」「専門評価機関の報告書」などを参照し、合理性を補強します。例えば、取引制限の厳しさ、買い手候補の少なさ、資産構成の偏りなど、個別の事情に基づいて調整することが重要です。
合理的な割引率の根拠を明示することは、評価の透明性を担保するために重要となります。
5-3.二重割引の回避をすること
非流動性割引を適用する際は、すでに資産評価の段階で流動性の低下が反映されていないかを確認し、二重割引を避ける必要があります。
例えば、純資産法を用いて評価をする際、評価に使う資産の市場価格自体が「流動性の低さ」を織り込んでいる場合があります。そのうえでさらに非流動性割引を適用すると、実際の価値を過剰に引き下げてしまう危険があります。
このような場合、追加で非流動性割引を行うと「二重控除」となり、評価の公正性を損ねます。
したがって、非流動性割引を行う前に、評価対象資産が既に割引を含んでいないかを十分に検証することが不可欠です。
6.非流動性割引およびバリュエーションにお悩みの方は、辻・本郷 FAS株式会社へご相談ください
非流動性割引や企業価値評価(バリュエーション)は、非上場株式の取引やM&A、相続・贈与、株式買取請求など幅広い場面で重要な判断材料となります。
しかし、割引率の設定や評価手法の選択、裁判・税務上の合理性の説明など、実務において非流動性割引を活用するには複雑な判断が伴います。
辻・本郷 FAS株式会社では、非流動性割引の適用可否や割引率の妥当性、企業価値評価に関する専門的なコンサルティングを提供しています。
経験豊富な専門家が、最新の判例や実務事例に基づき、個別の事情に応じた最適な評価方法をご提案します。
非流動性割引や株式評価に不安がある方は、早めに専門家に相談することで、適正かつ法的に妥当な判断を下すことが可能です。お悩みの際はぜひ、ご相談ください。
7.まとめ
本記事では、非流動性割引(非流動性ディスカウント)の基本概念、適用対象、割引率の目安、算定方法、他のプレミアム・ディスカウントとの違い、そして適用上の注意点を整理しました。
ポイントを整理すると以下の通りです。
①非流動性割引の意味
非上場株式や譲渡制限株式など、流動性が低い(=すぐに希望通りの価格や数で売買できない状態)株式の価値を現実的に評価するための割引である。
②流動性リスクを反映する理由
株式を現金化する際に生じるコストや時間、回収の不確実性があるため。
③割引率の目安
一般的に25〜40%程度が用いられるが、評価目的や状況に応じて調整が必要。
④非流動性割引を適用する上での注意点
・評価目的の確認をすること
・割引率の合理的根拠提示をすること
・二重割引の回避をすること
非流動性割引は、株式や資産の評価を現実的に反映するための重要な手法ですが、正確かつ客観的に妥当な評価を行うためには、個別事情に応じた適切な判断や、専門家のアドバイスを受けることが重要です。
非流動性割引や企業価値評価でお悩みの方は、辻・本郷 FAS株式会社にご相談いただくことで、安心して評価プロセスを進めることができます。ぜひ、お気軽にご相談ください。
