バリュエーションにおける4種の株価算定方法について解説

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監修者 山田翔吾

投資やM&Aの世界では「バリュエーション」という言葉をよく耳にする方も多いのではないでしょうか。

そんな中、「バリュエーションのうち、株価算定にはどんな手法があるのか?」と感じることもありますよね。

株価は、基本的には時価総額を株数で割って算定するものですが、将来収益性など、何を重視するかによって算定の手法は変わります。

そのため、主に4種類に大別されるバリュエーション手法を用いて株価を算定します。

この記事では、上場企業と非上場企業に分けて、株価算定についてわかりやすく解説します。バリュエーションにおける株価算定の手法を整理し、株価がどのように算出されるのかについても解説します。ぜひご一読ください。


1.上場企業の株価算定手法

上場企業においては、基本的に独自の株価算定を行う必要はなく、市場で形成される株価そのものが評価基準となります。

なぜなら、上場企業の株価は証券取引所における売買によって日々リアルタイムに決定されており、需給関係や投資家の期待、業績、ニュースなど、あらゆる情報が既に市場価格に反映されているためです。したがって、上場企業の株価を改めて算定し直すことは、実務上ほとんど意味を持ちません。

例えば、東京証券取引所に上場している企業であれば、評価基準日を設定するだけで、その日の終値をもって株価とみなすことができます。これが、M&Aや株式交換、株式移転といった法的手続きにおいても「公正な市場価格」として主な根拠資料になります。公的な取引所で形成される価格は、第三者の恣意を排除した客観的な指標であり、説明責任や透明性を確保する上でも最も合理的な算定方法とされています。

ただし、取引が非公開化や支配株主によるTOBなど上場企業が株式を買い集めているような場合など、特殊な状況にある場合には、市場価格に歪みが生じることもあり、補足的に他の株価算定手法を併用するケースがあります。

このように、上場企業では市場株価そのものが最も信頼性の高い算定結果であり、あえてバリュエーション手法を用いて算定し直す必要はありません。ただし、特に法的手続きやM&Aの場面では、公正性と説明責任を満たすために、基準日や参照価格の選定を慎重に行うことが重要です。


2.非上場企業や中小企業の場合、株価算定のために用いるバリュエーションの主な4種の手法

非上場企業及び中小企業の場合、株価算定には、企業価値を評価するための主に4種に大別した理論的な方法(バリュエーション手法)が使われます。

基本としては、株価算定では、DCF法(収益方式)が主要な手法です。

そのDCF法による結果にさらにプラスして、他の株価算定方式を組み合わせ、計算結果の説得力に根拠を与えたり、答え合わせとして確認することが重要となってきます。

その際に、どの方式を使うかについては、会社の状況によってケースバイケースとなります。各手法には特徴や適用されるべき場面があり、企業の性質や目的によって使い分けが必要です。

この章では、株価算定のための主な4種のバリュエーション手法をご紹介します。

2-1.純資産価額方式

純資産価額方式は、企業の純資産額を基準に株価を算定する手法です。

この手法では、企業が保有する資産から負債を差し引いた純資産を評価の基準とするため、資産の裏付けを直接反映できます。

例えば、純資産価額方式の一つである簿価純資産法では帳簿上の資産・負債を用い、時価純資産法では資産や負債を時価に置き換えて計算します。不動産会社や金融機関など資産価値が重要な業種や、清算を前提とした評価に適しています。ただし将来の収益力は評価に反映しづらい点が弱みです。

したがって、純資産価額方式は資産の実態を重視する場面に有効な手法ですが、成長企業の価値評価には不向きです。

2-2.収益方式(DCF法など)

収益方式は、将来の収益やキャッシュフローを基準に企業価値を評価する手法です。

この手法では、企業価値は将来生み出すキャッシュフローに依存するという考えに基づき、それを割引率で現在価値に換算することで理論的に算定できます。

例えば、収益方式の一つであるDCF法では、将来のフリーキャッシュフローの現在価値とターミナルバリューを合計し、そこから負債を差し引いて株式価値を求めます。配当還元法や収益還元法もこの枠組みに含まれます。将来成長を重視できる一方で、予測の不確実性や割引率設定の難しさが課題です。

つまり、収益方式は企業の成長性を反映できる強力な手法ですが、前提条件に左右されやすいという特徴があります。

2-3.配当還元方式

配当還元方式は、株主に支払われる配当を基に株式価値を評価する方法です。

配当は株主の主要なリターン源であるため、その金額と成長性を基準にすれば、株主にとっての実質的な価値を測れるようになります。

計算式は「株式価値=配当額 ÷(資本コスト − 配当成長率)」です。安定配当を続ける成熟企業の評価に適している一方、無配企業や配当が不安定な企業には使えません。

ただし、この配当還元方式はM&Aの分野では参考的にしか使われないものです。

したがって、配当還元方式は株主還元が重視される企業に適した手法ですが、成長性を直接評価する場面には限界があります。

2-4.類似業種比準方式(マルチプル法など)

類似業種比準方式は、上場企業における同業他社や類似企業の株価指標を基準に自社の株価を算定する方法です。

同業種であれば収益性や成長性が近いため、市場で形成されている評価倍率(PER、PBR、EV/EBITDA など)を使うことで、比較的簡便に企業価値を推定できるのです。

例えば業界平均 PER が 15 倍で自社の利益が 10 億円なら、自社の時価総額は 150 億円と評価できます。ただし、比較対象企業の選び方や市場変動の影響を受けやすい点には注意が必要です。

つまり、類似業種比準方式は市場の評価を反映した実務的な方法ですが、比較条件の設定に大きく依存します。

 


3.株価算定やバリュエーションでお悩みの方は、辻・本郷 FAS株式会社へご相談を

企業価値や株価の算定は、M&Aや事業承継、資金調達など、経営において極めて重要な意思決定の場面で必要となります。

しかし、実際に算定を行おうとすると、DCF法・マルチプル法・純資産価値法など複数の手法があり、どれを使うべきか判断に迷う方も多いのではないでしょうか。

また、数値上の評価だけでなく、業界の慣行、取引先との関係性、のれんやブランド価値といった無形資産まで含めて適切に反映するには、専門的な知見が欠かせません。

辻・本郷 FAS株式会社では、M&Aや事業承継に関する豊富な実績をもとに、企業価値・事業価値の算定をサポートしています。

経営者や後継者の立場に寄り添い、公正かつ実務に役立つ評価を提供いたします。

「自社の適正な価値を知りたい」「M&Aの交渉に備えて第三者の算定を依頼したい」とお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。


4.まとめ

株価算定において、特に非上場企業や中小企業においては、バリュエーションの手法を用いることは不可欠です。

株価は、市場価格であるだけでなく、バリュエーション手法を通じて算出される理論的な裏付けを持つ数値であることが重要となります。投資家や企業経営者にとって株価は意思決定の基盤であり、適切な算定を行うことで投資判断の精度が高まるためです。

具体的には、DCF法や類似業種比準法といったバリュエーション手法を用いることで、企業の本質的価値を見極めたりすることができます。

さらに、配当還元方式や純資産価額方式といった異なる評価軸を組み合わせることで、より客観的で妥当性のある株価算定が可能になります。

したがって、株価とバリュエーションの関係を正しく理解し、複数の指標や手法をクロスチェックして活用することが、実務や投資において重要なのです。

今後、株価の変動や投資判断に直面したときに、より合理的で根拠ある判断ができるように、本記事で解説した手法を参照してみてください。