
手付金の仕訳では、「前払金」と「前受金」のどちらで処理するのか迷う場面があります。
支払う側と受け取る側では使う勘定科目が異なり、商品や建物の引渡しがあったとき、契約解除となったときなど、取引の流れによっても仕訳方法が変わるためです。
この記事では、手付金の仕訳を支払側・受取側に分けて、パターン別に解説します。
前払金・前受金などの勘定科目の使い分けや、消費税を計上するタイミング、契約解除時の処理も合わせて、確認していきましょう。
1.手付金とは契約時に買主が売主へ支払うお金
手付金とは、売買契約などを結ぶときに、買主が売主へ支払うお金です。
契約時に手付金を支払うことで、契約が成立したことを示す役割があります。
手付金は、最終的に商品や建物などの代金の一部に充当されることが一般的です。
そのため仕訳上では、商品や建物の引渡しを受けるまで一時的な勘定科目で処理します。
手付金と似た言葉に「内金」があります。
どちらも契約時や引渡し前に支払うお金で、仕訳は手付金と同じですが、契約解除との関係に違いがあります。
| 手付金 | 内金 | |
| 目的 | 契約が成立したことを示す | 代金の一部を先に支払う |
| 契約解除との関係 | 相手方が履行に着手する前であれば、次の方法で契約を解除できる 買主:手付金を放棄する | 内金を支払っただけでは、一方的に契約解除できる理由にはならない |
手付解除は、民法557条1項で定められている制度です。
手付金は、代金の前払いという面だけでなく、契約解除に関係する点が内金との大きな違いです。
2.手付金の仕訳|支払った場合
手付金の仕訳で使う勘定科目は、手付金を支払った側か受け取った側か、および取引の内容によって異なります。
なお、手付金を支払った時点や受け取った時点では、原則として消費税を計上しません。
消費税は、商品や建物の引渡し、サービスの提供があったタイミングで処理します。
まずは、手付金を支払った側で使う勘定科目を確認しておきましょう。
| 内容 | 使う勘定科目 |
| 商品やサービスの手付金を支払った場合 | 前払金(前渡金) |
| 自社で使う建物の建設代金として手付金を支払った場合 | 建設仮勘定 |
| 建設会社が請け負った工事のために手付金を支払った場合 | 未成工事支出金 |
2-1.商品やサービスの代金の一部として手付金を支払った側の仕訳
次のケースを例に仕訳を見ていきましょう。
商品代金:100万円
手付金:10万円
商品受取時に支払う残額:90万円
ここでは、手付金や残額を普通預金から支払った場合を例に解説します。
・手付金を支払ったとき
手付金を支払った側は、「前払金」もしくは「前渡金」を使います。
どちらを使っても問題ありませんが、基本的には一方に統一して、継続して同じものを使いましょう。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 前払金 | 100,000円 | 普通預金 | 100,000円 |
・商品を受け取ったとき
商品を受け取ったときは、商品代金を仕入として計上します。
手付金の支払時に計上していた前払金は、仕入へ振り替えます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 仕入 | 1,000,000円 | 前払金 | 100,000円 |
| 普通預金 | 900,000円 |
2-2.自社で使う建物の建設代金として手付金を支払ったときの仕訳
次のケースを例に仕訳を見ていきましょう。
建物代金:1億円
手付金:1,000万円
建物引渡時に支払う残額:9,000万円
ここでは、手付金や残額を普通預金から支払った場合を例に解説します。
・手付金を支払ったとき
建物の完成前に手付金を支払った場合は、「建設仮勘定」で処理します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 建設仮勘定 | 10,000,000円 | 普通預金 | 10,000,000円 |
・建物の引渡しを受けたとき
建物の引渡しを受けたときは、建物代金を「建物」として計上します。
手付金の支払時に計上していた建設仮勘定は、建物へ振り替えます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 建物 | 100,000,000円 | 建設仮勘定 | 10,000,000円 |
| 普通預金 | 90,000,000円 |
2-3.建設業者が請け負った工事のために手付金を支払ったときの仕訳
次のケースを例に仕訳を見ていきましょう。
外注工事代金:1億円
手付金:1,000万円
工事完成時に支払う残額:9,000万円
ここでは、手付金や残額を普通預金から支払った場合を例に解説します。
・手付金を支払ったとき
工事が完成する前に手付金を支払った場合は、「未成工事支出金」で処理します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 未成工事支出金 | 10,000,000円 | 普通預金 | 10,000,000円 |
・工事が完成したとき
工事が完成したときは、外注工事代金を「完成工事原価」として計上します。
手付金の支払時に計上していた未成工事支出金は、完成工事原価へ振り替えます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 完成工事原価 | 100,000,000円 | 未成工事支出金 | 10,000,000円 |
| 普通預金 | 90,000,000円 |
2-4.契約解除となった場合の仕訳
手付金を支払ったあとでも、売主が契約の履行に着手する前であれば、買主は契約を解除できます。
契約解除時の手付金の扱いは、どちらが契約を解除するかによって異なります。
・買主が契約を解除する場合:支払った手付金を放棄する
・売主が契約を解除する場合:支払った手付金の倍額を受け取る
ここでは、手付金10万円について契約解除となった場合を例に、手付金を支払った買主側の仕訳を見ていきましょう。
仕訳は、普通預金で返還・支払い・受け取りを行ったものとします。
・買主が契約を解除する場合
買主が契約を解除する場合、買主側では、支払時に計上していた前払金を取り消し、雑損失として処理します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 雑損失 | 100,000円 | 前払金 | 100,000円 |
・売主が契約を解除する場合
売主が契約を解除する場合、買主側では、支払時に計上していた前払金を取り消し、追加で受け取った10万円を雑収入として処理します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 普通預金 | 200,000円 | 前払金 | 100,000円 |
| 雑収入 | 100,000円 |
3.手付金の仕訳|受け取った場合
次に、手付金を受け取った側の仕訳を見ていきましょう。
手付金を受け取った側で使う勘定科目は、次のとおりです。
| 内容 | 使う勘定科目 |
| 商品やサービス代金の一部として手付金を受け取った場合 | 前受金 |
| 建設業者が完成前の工事代金として手付金を受け取った場合 | 未成工事受入金 |
3-1.商品やサービス代金の一部として手付金を受け取った側の仕訳
次のケースを例に仕訳を見ていきましょう。
商品代金:100万円
手付金:10万円
商品受取時に受け取る残額:90万円
ここでは、手付金や残額が普通預金に振り込まれた場合を例に解説します。
・手付金を受け取ったとき
商品を引き渡す前に手付金を受け取った場合は、「前受金」で処理します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 普通預金 | 100,000円 | 前受金 | 100,000円 |
・商品を引き渡したとき
商品を引き渡したときは、商品代金を「売上」として計上します。
手付金の受取時に計上していた前受金は、売上へ振り替えます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 前受金 | 100,000円 | 売上 | 1,000,000円 |
| 普通預金 | 900,000円 |
3-2.建設業者が完成前の工事代金として手付金を受け取った場合
次のケースを例に仕訳を見ていきましょう。
建物代金:1億円
手付金:1,000万円
工事完成時に受け取る残額:9,000万円
ここでは、手付金や残額が普通預金に振り込まれた場合を例に解説します。
・手付金を受け取ったとき
建物の完成前に手付金を受け取った場合は、「未成工事受入金」で処理します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 普通預金 | 10,000,000円 | 未成工事受入金 | 10,000,000円 |
・工事が完成したとき
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 普通預金 | 90,000,000円 | 完成工事高 | 100,000,000円 |
| 未成工事受入金 | 10,000,000円 |
建物の引渡しをしたときは、工事代金を「完成工事高」として計上します。
手付金の受取時に計上していた未成工事受入金は、完成工事高へ振り替えます。
3-3.契約解除となった場合の仕訳
手付金を受け取ったあとでも、買主が契約の履行に着手する前であれば、売主は契約を解除できます。
契約解除時の手付金の扱いは、どちらが契約を解除するかによって異なります。
・買主が契約を解除する場合:受け取った手付金は返還しない
・売主が契約を解除する場合:受け取った手付金を返還し、さらに同額を支払う
ここでは、手付金10万円について契約解除となった場合を例に、売主側の仕訳を見ていきましょう。
仕訳は、普通預金で返還・支払い・受け取りを行ったものとします。
・買主が契約を解除する場合
買主が契約を解除する場合、売主側では、受取時に計上していた前受金を取り消し、雑収入として処理します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 前受金 | 100,000円 | 雑収入 | 100,000円 |
・売主が契約を解除する場合
売主が契約を解除する場合、受け取っていた手付金10万円を返還し、さらに同額の10万円を支払います。つまり、買主へ支払う金額は合計20万円です。
売主側では、受取時に計上していた前受金10万円を取り消し、追加で支払う10万円を雑損失として処理します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 前受金 | 100,000円 | 普通預金 | 200,000円 |
| 雑損失 | 100,000円 |
4.手付金の仕訳で迷いやすい勘定科目
手付金の仕訳では、前払費用・前受収益や、仮払金・仮受金と迷うことがあります。
ここでは、それぞれの勘定科目との違いを確認していきましょう。
4-1.前払費用・前受収益
前払費用や前受収益は、一定の契約に従って継続的にサービスを受ける場合や、提供する場合に使う勘定科目です。
たとえば、翌月分以降の家賃や保険料を前払いした場合などに「前払費用」を、翌月分以降の家賃などを先に受け取った場合などに「前受収益」を使います。
商品や建物の引渡し前に支払う手付金は、継続的なサービスに対する支払いではありません。
そのため、通常は前払費用・前受収益ではなく、前払金・前受金などで処理します。
4-2.仮払金・仮受金
仮払金や仮受金は、支払いや入金の内容がまだ確定していない場合に、一時的に使う勘定科目です。
手付金は、売買契約や工事請負契約などに基づいて支払うお金です。
支払いや入金の目的が契約上明確であるため、通常は仮払金や仮受金では処理しません。
5.まとめ 手付金の仕訳は内容で判断しよう
手付金の仕訳は、支払った側か受け取った側かによって使う勘定科目が異なります。
商品やサービスの手付金であれば、支払側は前払金、受取側は前受金で処理するのが基本です。
建設中の建物に関する手付金では、建設仮勘定や未成工事受入金を使う場合もあります。
手付金の仕訳で迷ったときは、まず「支払側か受取側か」「何に対する手付金か」「引渡しや契約解除があったのか」を確認しましょう。
