財務モデリングの目的と7つの業務での活用場面

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監修者 山田翔吾

ビジネスの現場で「財務モデリング」という言葉を耳にする機会が増えていませんか?

特に経営企画やコンサルティング、投資関連の分野では、財務モデリングのスキルが必須とされる場面が年々増加しています。

しかし、「そもそも財務モデリングは何のために行うのか?」という基本的な疑問を持つ方も少なくありません。見慣れたExcelの中で、なぜ複雑なシートや数式を組む必要があるのか、その『目的』が理解できなければ、学ぶ意義や業務での使いどころも曖昧なままになってしまいます。

この記事では、財務モデリングの目的を中心に、その実務上の役割や使われる場面などをわかりやすく解説します。

読み進めることで、財務モデリングが単なる計算作業ではなく、経営判断や事業戦略に直結する重要な思考ツールであることが見えてくるはずです。


1.財務モデリングを使う目的は企業が意思決定をするため

財務モデリングは、実務のあらゆる意思決定をするための根拠のひとつとして、現場で活用されています。

中でも、財務に関連する、企業の将来を左右する重要な局面において、財務モデリングは意思決定のための根拠を集める際に重要視されます。さらに、リスクへの備えを可能にし、社内外の関係者との対話を円滑にする役割も果たします。

特に、以下のような財務に関する実務的な要望があるシーンで、財務モデリングは意思決定のための根拠として寄与します。

①M&Aの判断をしたいとき

M&A(合併・買収)を検討する際、財務モデリングは意思決定の根拠を支える不可欠な要素です。

買収対象企業の将来キャッシュフローを予測し、その事業が自社にもたらす経済的価値を定量的に評価する必要があるからです。

あるIT企業が、スタートアップ企業を買収するかどうかを検討している場合、被買収企業の売上成長率、利益率、シナジー効果を織り込んだモデルを構築することがあります。その上でNPV(正味現在価値)やIRR(内部収益率)を計算し、投資対効果を数値で把握したうえで、買収可否を判断するのです。

M&Aは一度の判断ミスが大きな損失につながるため、財務モデリングによる定量的な裏付けは必須となります。

②新規事業やプロジェクトへの投資をしたいとき

新規事業や大型プロジェクトの立ち上げ時にも、財務モデリングは投資判断の指針として活用されます。

実行前に採算性やリスクを見極め、意思決定の是非を明確にすることができるからです。

例えば、飲食チェーンが新ブランドの展開を計画している場合、開業コスト、設備投資、客単価、集客数、運営コストなどを仮定してモデル化し、何年で黒字化するのか、利益はどれほど期待できるのかをシミュレーションすることができます。この分析によって、複数の案から最も効果的な投資先を選定できます。

不確実な投資においては、事前の数値による裏付けがあることで成功率を高めます。

③資金繰りの予測をしたいとき

日常業務で特に重要なのが、資金繰りの安定を図るための財務モデリングです。

入出金のタイミングやキャッシュ残高を予測することで、資金不足のリスクを事前に回避することができます。

例えば、季節変動の大きいアパレル企業では、在庫の仕入れが集中する時期にキャッシュが不足するリスクがあります。そこで、月ごとの売上予測・仕入支出・固定費などをモデル化し、いつ資金ショートが発生しうるかを可視化することで、その結果に基づいて、借入や資金移動のタイミングを調整できます。

資金繰りの見通しが立てば、日々の経営判断に余裕が生まれ、倒産リスクの軽減にも直結します。

④予算の策定をしたいとき

企業の1年間の計画である予算策定にも、財務モデリングが活躍します。

前年実績に加え、将来の戦略や市場変化を反映した具体的な数値計画を立てることができるからです。

例えば、製造業が来期の予算を策定する場合、人件費や原材料価格の上昇、為替変動、販売数量の見通しなどを変数として取り込み、営業利益やキャッシュフローの推移をモデリングします。このモデルをもとに各部門と調整を行い、現実的かつ実行可能な予算が完成するのです。

戦略と現実の間をつなぐツールとして、予算策定における財務モデリングは極めて有効です。


2.財務モデリングを使う場面は主に7つある

財務モデリングは、単に数値を入力してシミュレーションを行うというだけのものではありません。

経営や投資に関わる意思決定の質を高めるための戦略的な思考ツールとして有用になります。

この章では、現場でよく使われる7つの使用目的について、それぞれの背景や実例を交えて解説します。

2-1.経営判断・戦略立案の支援

財務モデリングは、経営戦略や新規プロジェクトの意思決定において、中長期的な見通しを数値で裏付ける手段となります。

売上や利益、コスト構造などの将来変化を予測し、それが経営に与える影響を定量的に可視化することで、より確度の高い判断が可能になります。

例えば、製造業が新しい海外工場の設立を検討している場合などに活用できます。

初期投資額、現地人件費、予測売上、為替リスクなどの要素をモデルに落とし込み、数年後の損益やキャッシュフローを予測することができます。その結果、採算ラインやリスクシナリオが明確になり、経営陣も工場の設立について判断しやすくなるのです。

このように、財務モデリングにより、勘ではなくデータに基づく事業の戦略立案を実現することができるようになります。

2-2.投資判断や案件評価

財務モデリングは、M&Aや新規事業投資の判断を行う上で必須の分析ツールです。

将来的な収益性や投資回収期間(IRRやNPVなど)を算出することで、複数の投資案件を比較検討しやすくなります。

例えば、ベンチャー企業への出資を検討する際、5年間分の売上成長・コスト構造・利益率など (※事業がどのように拡大し、どのステージで利益が出始めるかを段階的に示すには短期予想だけでなく、中長期的なデータにより説得力を持たせる必要があるため) をモデル化して将来キャッシュフローを計算することができます。そしてその結果を元に、NPV(正味現在価値)がプラスかどうかを確認することで、出資判断に説得力を持たせることができるのです。

数字による根拠をもとにした投資判断をすることで、意思決定のスピードと信頼性を大きく高めることができます。

2-3.資金調達や資金繰り管理

資金繰りの見通しや金融機関への説明には、財務モデリングが極めて有効です。

将来のキャッシュフローを時系列で予測することで、資金不足や余剰のタイミングを可視化し、適切な借入計画や資金配分を立てることができます。

例えば、スタートアップ企業がシリーズBの資金調達を行う際に、2年間の売上成長、支出、キャッシュフロー (※調達した資金で「どの事業成果を」「どのタイミングで」達成し、「いつ次の調達や黒字化が見込めるか」を判断したい場合には単年度ではなく2年分) を詳細にモデル化することで、資金ショートのリスク時期が判明し、投資家との交渉で「いつ・いくら必要か」を合理的に説明できます。

綿密なキャッシュフロー予測に基づいた財務モデリングは、資金調達の信頼性を大きく高める武器になります。

2-4.予算策定や業績予測

年度予算や中期経営計画の策定にも、財務モデリングは不可欠です。

単年度の見積りではなく、数年先を見通した収支予測を作成できることで、実現性の高い計画が立てられます。例えば、小売企業が3年計画での新規出店戦略を立てる際には、出店ごとの売上貢献、設備投資、減価償却、人件費などを全体のモデルに組み込み、3年間の損益計画を構築することで、結果に投資余力や利益インパクトが事前に把握できます。

財務モデリングを用いた予算策定をすることで、それは実行可能性のある戦略として機能します。

2-5.リスク管理やシナリオ分析

財務モデリングは、リスクへの備えや不確実な未来への柔軟な対応を可能にします。

市場環境の変化や外部リスクに備えるためには、複数のシナリオを並行して検討する必要があります。

例えば、為替変動の影響を強く受ける輸出企業であれば、1ドル=100円、110円、120円という3パターンのような為替レートでモデルを作成し、利益率やキャッシュフローの変動幅を可視化することで、損益分岐点や対応策を事前に検討できます。

このように、財務モデリングは、変化に強い経営を支える意思決定の土台となります。

2-6.事業価値の算定

企業や事業の価値を評価する際、財務モデリングは中心的な役割を果たします。

DCF法(割引キャッシュフロー法)やマルチプル法など、いずれの用いられる評価手法も、将来の収益予測が前提となるからです。

例えば、事業売却を検討している中小企業では、3~5年間程度のキャッシュフローをモデル化し、それを基に割引計算を行うことで、客観的な企業価値(事業価値)を算出します。これにより、買い手との交渉材料になります。

正確な価値評価は、適正なM&Aや資本政策を実現するための前提です。

2-7.ステークホルダーへの説明、コミュニケーション

財務モデリングは、社内外の関係者とのコミュニケーションツールとしても活用されます。

数字をもとにした論理的なシナリオ提示が、信頼性のある説明や合意形成を促進します。

例えば、新規プロジェクトを役員会で承認してもらう際、売上・利益・回収期間などをモデルで提示すれば、感覚ではなくデータに基づく納得感を与えることができます。金融機関に対しても、同様に返済能力や投資効果を数値で明示できます。

説明責任や説得力を求められる場面で、財務モデリングは視認できるデータとして機能します。


3.財務モデリングの活用やバリュエーション業務にお悩みの方は辻・本郷 FAS株式会社へご相談を

財務モデリングは、企業の意思決定や経営戦略に深く関わる一方で、高度な専門知識と実務経験が求められる分野です。

特に、以下のような課題に直面している企業の方は、専門家のサポートを得ることで意思決定の質が飛躍的に向上します。

・M&Aや事業再編に際して、買収価格の妥当性を判断したい

・新規事業投資の収益性を客観的に検証したい

・金融機関や投資家向けに説得力のある財務計画を提示したい

・社内の予算編成に定量的な裏付けを加えたい

・外部向けに企業価値評価(バリュエーション)レポートを作成したい

こうした場面で頼りになるのが、財務・会計・税務の知見を有する専門家チームです。

辻・本郷 FAS株式会社では、公認会計士・税理士・コンサルタントが連携し、実務的かつ信頼性の高い財務モデリング支援を提供しています。

貴社特有の課題や業種に合わせた支援体制をご用意し、意思決定の土台となるデータを一緒に構築いたします。

また、辻・本郷FAS株式会社では、上場企業から非上場企業、スタートアップに至るまで、さまざまな業種・規模のバリュエーション業務をはじめとしたPPA、PMI、組織再編コンサルティング、事業再生コンサルティング、買収監査(デューデリジェンス)などのトータルサポートを行っています。

バリュエーションや財務モデリングの導入に少しでも不安を感じたら、ぜひ一度、まずはお気軽にご相談ください。


4.まとめ

財務モデリングは、未来を予測し、意思決定を支える極めて実践的なツールとして用いられます。経営判断や投資評価、資金繰り、予算策定など、多くのビジネスシーンにおいて不可欠な役割を担います。

この記事では、以下のポイントを解説しました。

・財務モデリングの使用目的は、先の見通しを立てること

・財務モデリングがよく使われる7つの典型的な場面がある

①経営判断・戦略立案の支援
事業計画や新規プロジェクトの事前評価、企業全体の将来戦略の策定などに活用されます。売上や利益、コスト構造の変化をモデル化し、中長期のシミュレーションを行います。

②投資判断や案件評価
M&A(企業の合併・買収)や新規投資を検討する際、投資案件の収益性や回収期間(IRR、NPVなど)を定量的に評価するために利用されます。

③資金調達や資金繰り管理
資金調達や借入計画を立てる際、将来のキャッシュフローを予測し、資金不足や余剰時期を見極めます。金融機関や投資家への説明資料としても活用されます。

④予算策定や業績予測
年次予算や中期経営計画の根拠となる将来の財務数値(売上、利益、キャッシュフローなど)の詳細な予測に使われます。

⑤リスク管理やシナリオ分析
市場環境の変動や不確実性を織り込んで複数シナリオ(楽観・悲観など)を作成し、経営リスクへの耐性や柔軟な対応策を事前検討します。

⑥事業価値の算定
企業や事業の価値評価(バリュエーション)を行う際にも財務モデルは不可欠です。DCF法やマルチプル法の根拠となる将来キャッシュフローなどをシミュレーションします。

⑦ステークホルダーへの説明、コミュニケーション
財務モデリングは投資家や役員、金融機関、他部門など社内外の関係者に、わかりやすく計画や見通しを説明し、信頼性を高めるツールとなっています。

財務モデリングを活用したい場合、独力で学び始めることも可能ですが、精度とスピードが求められる場面では専門家の知見が大きな武器になります。

これから財務モデリングを学びたい方も、実務に導入したい方も、ぜひ正しい知識と環境で取り組んでみてください。