
「事業を拡大したい、そのために一時的な資金繰りを乗り切りたい」といったご要望はありませんか?
法人経営において、資金調達の課題は避けて通れません。
特に中小企業やスタートアップにとっては、銀行融資だけでは不十分なケースも多く、適切な調達手段を見極める力が経営の明暗を分けることもあります。
しかし、いざ「資金調達方法」と検索しても、専門用語や制度の多さに圧倒されてしまい、「結局、何が自社に合っているのかわからない」と感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、法人向け資金調達の代表的な方法を網羅的に紹介し、それぞれの選び方をわかりやすく解説します。
銀行以外の調達手段や、最近注目を集めるベンチャーデット、ファクタリングやクラウドファンディングなどにも触れながら、あなたの法人に最適な資金調達の選び方をお伝えします。
1.条件別|法人が選ぶべき資金調達手段の9つの選択肢
条件別|法人が選ぶべき資金調達手段の選択肢一覧
資金調達手段の選択肢 | 調達金額の大きさ | 着金までのスピード | 中小企業での扱いやすさ | 零細企業での扱いやすさ |
融資を受ける | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★★★★ |
ベンチャーデットを受ける | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★☆☆☆☆ |
社債の発行をする | ★★★★★ | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ | ★☆☆☆☆ |
増資による出資を受ける | ★★★★★ | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ | ★☆☆☆☆ |
クラウドファンディングを受ける | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ |
M&A(事業譲渡)を活用する | ★★★★★ | ★☆☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ★☆☆☆☆ |
ファクタリングを活用する | ★★☆☆☆ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ |
保有している固定資産を売却する | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ★☆☆☆☆ |
補助金・助成金を受ける | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ |
法人が資金調達を検討する際には、単に調達できる金額の多寡だけでなく、スピード感や信用情報への影響、企業規模との適合性など、多角的な観点からの判断が重要です。
この章では、9種類の代表的な資金調達手段について、各条件に応じた適性を整理し、それぞれの活用ポイントを詳しく解説します。
1-1.融資を受ける
融資は最も一般的な法人向け資金調達手段であり、中小企業でも活用しやすい安定した資金供給方法です。
よほど何か理由がない限り、融資はどのような企業であっても、真っ先に考えるべき資金調達の選択肢です。資金調達においては、融資をまず検討しましょう。
特に、安定した事業実績や信用を持つ中小企業に適しており、運転資金や設備投資など幅広い用途で活用できます。継続的な返済能力が求められるため、黒字経営や安定収益が前提となります。
銀行や信用金庫、政府系金融機関などから受ける融資は、他の手段と比べて比較的低金利で資金用途の自由度が高く、制度融資や利子補給の支援も受けられる点で優れています。
特に中小企業向けには、無担保・無保証の制度や創業支援融資が整備されており、ある程度の信用と事業計画があれば、実行可能性が高いとされています。
例えば、日本政策金融公庫が提供する「新創業融資制度」は、創業直後でも申し込みが可能で、代表者個人の保証なしで数百万円〜1,000万円規模の融資が実行されるケースも少なくありません。
調達金額の多さや制度の豊富さから、融資は最初に検討すべき資金調達手段ですが、着金までのスピードや信用情報への影響なども考慮し、自社の場合には他の手段とどちらが適しているか、比較することが重要です。
1-2.ベンチャーデットを受ける
ベンチャーデットとは、金融機関などがスタートアップに対して無担保や低金利の融資を行い、一方でスタートアップは金融機関などに対して新株予約権を無償で発行・付与し、信用リスクを補完するという仕組みです。
ベンチャーデットは、成長性があり、ある程度実績を上げており、さらに成長を加速させていきたい企業に特に適している手法だと言えます。
そのため、急成長中のスタートアップで、将来の株式上場や大型資金調達を見据えている企業に向いています。株式の希薄化を抑えつつ資金調達できる反面、一定の返済能力やベンチャーキャピタルとの関係性が必要です。
ベンチャーデットは、近年着目されている、ベンチャーキャピタルなどの投資家が行う投資と、金融機関が行う融資の間に位置する資金調達方法という位置付けです。
このため、銀行などの通常の融資では資金調達が難しい成長段階の企業、特に担保や実績が少ない企業にも活用されています。一定の金利と返済条件を伴う融資形態でありながら、株式による出資よりも迅速で、かつ経営権の保持が可能な点が特徴です。特にスタートアップや成長企業が資金調達を行う手段として注目されています。
主に、ベンチャーキャピタル系金融機関の他にも、スタートアップ支援機関が提供しています。
一般的には出資などと比べて着金までの期間が短く、1ヶ月前後で完了することが多いですが、融資先や審査条件によって差があります。
例えば、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)がスタートアップ向けにデットファンド事業を積極的に展開しています。みずほFGはUPSIDERというフィンテック企業と合弁で、「UPSIDER BLUE DREAM Fund」というスタートアップ向けデットファンドを運営しており、グロースステージのスタートアップ向けに最大10億円の融資を行っています。
このように、ベンチャーデットでは、成長予測に基づくキャッシュフローを担保に、数千万円単位で資金を得ることが可能です。
ベンチャーデットは、急成長を目指す企業にとっては、出資と借入の中間的な手段として有効であり、株式を手放したくない経営者には特に向いています。
1-3.社債の発行をする
社債の発行は、信用力の高い法人が大口の資金を短期間で集める手段として用いられます。
一定の規模と信用力を備えた中堅・大企業に適しています。まとまった長期資金を調達できますが、準備や発行コストがかかるため、小規模企業には不向きです。
社債発行では、融資とは異なり銀行等を介さず直接市場や特定の投資家から資金を集められる点で、柔軟な条件設定と迅速な資金調達が可能です。
また、出資ではないため、経営権の希釈が起こらず、利息は損金算入できるため、節税にもつながるという利点があります。
上場企業だけでなく、一部の中堅企業でも「私募債(プロ向け社債)」などを利用し、金融機関や取引先から資金調達を行っています。例えば、信用格付けが不要な「銀行保証付き私募債」は、信頼性の裏付けをもとにスムーズに資金調達できる例があります。
ただし、社債発行には一定の信用力と手続きの煩雑さが伴うため、事業がある程度軌道に乗った中堅以上の法人に適している選択肢です。
1-4.増資による出資を受ける
増資による出資は、返済不要で資金繰りを安定化できる強力な調達手段であり、長期的な成長を見据える法人に適しています。
資金に加えて投資家の知見やネットワークも得られるため、スタートアップや成長企業で、新規事業開発や市場拡大に大規模資金を必要とする企業に適しています。
増資は、投資家からの出資により資本金や資本準備金を増やす方法で、借入と異なり返済義務がなく、財務基盤の強化に直結します。さらに、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家などの支援を受けることで、単なる資金だけでなく、人的・ネットワーク的なリソースの獲得も期待できます。
スタートアップがベンチャーキャピタルから1億円の増資を受けた場合、資本性資金としてバランスシートに組み込まれるため、信用格付けや他の資金調達にも好影響を与えます。また、増資では企業評価(バリュエーション)に基づいて条件交渉が行われるため、成長性が高い企業ほど資金調達に有利な条件を引き出しやすいという特徴もあります。
増資は、資金だけでなく経営の質を高める契機にもなるため、今後の事業の展望、計画がしっかり設定されている法人には特に有効な選択肢です。
1-5.クラウドファンディングを受ける
クラウドファンディングは、資金調達とマーケティングを同時に行えるユニークな手段です。
新規事業やプロダクト開発を行うベンチャーや中小企業に有効です。資金調達と同時に市場調査・PR効果も期待でき、消費者との接点を広げたい企業に向いています。
クラウドファンディングは、プラットフォームを通じて不特定多数から資金を集める仕組みで、商品やサービスの試験販売的な機能も持ち、顧客との直接的な関係構築にもつながります。また、担保や保証人も不要で、零細企業や個人事業者であっても、いつどこからでも挑戦しやすいのが特徴です。
例えば、食品メーカーがクラウドファンディングで新製品の開発費用を募り、100万円以上を短期間で集めた上に、支援者からのフィードバックをもとに商品改善を実現した事例もあります。また、この事例では、同時にSNSでの拡散にも成功し、ブランドの認知度向上にもつなげることができました。
クラウドファンディングは、資金調達の確実性はないものの、小規模でも話題性があれば有力な資金源となり得る手段です。
1-6.M&A(事業譲渡)を活用する
M&A(特に事業譲渡型)は、返済不要かつ、まとまった資金を確保できる、経営再構築型の資金調達手段です。
事業再編や不採算部門の整理を行いたい成熟企業や、撤退・転換を図りたい企業に向いています。まとまった資金調達と経営効率化を同時に実現できます。
不採算部門や非中核事業を第三者に売却することで、資金を得ると同時に経営資源の選択と集中が可能となります。また、赤字を出している事業であっても、ブランドや人材、販路などの無形資産に価値があれば売却対象となり得ます。
地方の老舗製造業が、採算の合わない子会社を譲渡し、その対価として数千万円の資金と、経営の身軽さを同時に得ることに成功した事例では、その資金で主力事業を強化し、黒字転換することができました。
M&Aは、資金調達と経営効率化を同時に図れる高度な手段であり、特に中堅企業や再建中の企業に有効です。
1-7.ファクタリングを活用する
ファクタリングは、売掛金をすぐに現金化できる短期資金調達手段として非常に有効です。
売掛金回収までの資金繰りを改善したい中小・零細企業に有効です。即時資金化が可能なため、急な資金需要や金融機関融資が難しい企業にも適しています。
売掛債権(請求書)をファクタリング業者に売却することで、手数料はかかるものの、未回収の売上金を即座に資金化でき、資金繰りを改善することができます。
これは借入ではないため、財務諸表上の負債が増加せず、信用情報への影響も限定的となっています。
建設業者が請負工事の売掛金1,000万円をファクタリング会社に売却し、翌営業日に800万円を受け取ることで、次の現場の仕入れ資金を確保できたという事例もあります。
ファクタリングは、資金繰りが逼迫するタイミングで即効性のある手段であり、短期的な資金需要に対応できます。
1-8.保有している固定資産を売却する
固定資産の売却は、即時に大きな資金を得る手段として最もシンプルで即効性が高い方法です。
成熟企業や余剰資産を抱える企業におすすめの方法です。遊休資産を現金化することで即時の資金調達が可能になり、経営効率も改善されます。
使用していない遊休資産(倉庫・土地・設備など)を売却することで、資産を現金に換えると同時に減価償却負担や固定資産税も軽減されます。財務のスリム化にもつながるため、長期的には資本効率の改善にも寄与することがあります。
工場を移転した中小製造業が、旧土地・建物を約1億円で売却し、その資金で借入金を一括返済し、月次キャッシュフローが大幅に改善したという事例もあります。
固定資産の売却は、余剰資産を保有している法人にとって、有力な資金源となります。
1-9.補助金・助成金を受ける
補助金・助成金は、返済不要で受け取れる貴重な公的支援資金です。
返済不要であるため、創業期から成熟期まで幅広い企業に適用可能で、特に新規事業や設備投資を行う企業に有効です。ただし、採択率や準備負担を考慮する必要があります。
補助金・助成金は、主に経済産業省・中小企業庁・地方自治体などが提供するもので、新製品開発・IT導入・雇用拡大・省エネ対策など、目的に応じた多様な制度が用意されています。
採択には事業計画の精度や要件適合が必要ですが、信頼性向上や対外的なアピールにもつながります。
各補助金、助成金のスケジュール感に沿って申請する必要がある点、基本的に「後払い」で資金を得ることになる点、また、各補助金、助成金の目的とマッチしている事業内容でないと受けられない点などには注意が必要です。
例えば、IT企業が「事業再構築補助金」を活用して新サービスを立ち上げ、3,000万円の補助を獲得し、初期投資のリスクを大幅に軽減しながら事業展開に成功した事例もあります。
補助金・助成金は、制度の選定と申請支援体制が整えば非常に有利な資金源であり、積極的に検討すべき選択肢です。
2.法人が9つの資金調達手段の選択肢から選ぶためのその他の判断基準
法人が資金調達を検討する際、調達金額やスピードだけでは判断しきれない要素が多数存在します。
この章では、実務上見落とされがちですが、重要な比較ポイントとなる視点について解説します。
以下の表では、1章でお伝えした9つの資金調達方法が、それぞれの判断基準に適しているかをご紹介します。参考にしてください。
9つの資金調達方法を選ぶ上での判断基準一覧表
手法 | 個人保証なしで済む | コスト負担が少ない | 副次的メリットがある | 返済義務がない | 審査・準備が必要ではない | 審査的な悪影響がない | 希薄化リスクがない | さまざまな 成長フェーズに適合している |
① 融資 | ×(多くは必要) | △(利息+保証料あり) | △(信用力向上) | ×(返済義務あり) | ×(審査は厳しめ) | ×(負債増加) | ○ | ○(中小全般向け) |
② ベンチャーデット | △(条件付き) | △(利息+株式連動条項あり) | ○(VCとの関係強化) | ×(返済義務あり) | △(投資家審査要) | ×(負債増加) | △(転換条項次第で希薄化リスクあり) | ○(スタートアップ向け) |
③ 社債発行 | △(信用力次第) | △(発行コスト高) | △(信用力の証明) | ×(返済義務あり) | ×(準備膨大) | ×(負債増加) | ○ | △(大企業向け) |
④ 増資(出資) | ○(保証不要) | ○(返済が不要) | ○(業務提携・知見) | ○(返済不要) | △(投資家との交渉要) | ○(自己資本強化) | ×(希薄化リスク高) | ○(成長局面向け) |
⑤ クラウドファンディング | ○ | △(手数料高) | ○(PR・市場調査効果) | ○(返済不要) | △(広報+準備膨大) | ○(資本扱いor売上扱い) | △(株式型は希薄化リスクあり) | ○(小規模・新規事業向け) |
⑥ M&A(事業譲渡) | ○ | ○(売却益で調達) | ○(再編・効率化) | ○(返済不要) | △(交渉複雑+時間要) | ○(不要事業を切り離し改善) | △(一部持株移動) | △(事業再編局面向け) |
⑦ ファクタリング | ○(保証不要) | ×(手数料高) | △(資金繰りの安定) | ○(返済不要) | ○(審査緩め) | ○(負債に計上されない場合あり) | ○ | ○(小規模向け) |
⑧ 固定資産売却 | ○ | ○(売却益のみ) | △(事業の効率化) | ○(返済不要) | ○(比較的容易) | ○(固定資産減+財務改善) | ○ | △(成熟企業向け) |
⑨ 補助金・助成金 | ○ | ○(返済不要) | ○(公的な信頼) | ○(返済不要) | ×(申請準備膨大) | ○(資本扱い) | ○ | ○(幅広い法人向け) |
ご紹介する観点を併せて考慮することで、経営への負担を抑えつつ、戦略的な資金調達判断が可能になります。ご一読ください。
2-1.借入の場合、個人保証を入れずに借りることができるかどうか
法人が資金調達手段を選ぶ際には、「経営者個人がどこまでリスクを負う必要があるか」を明確にすることが重要です。
特に融資においては、近年の「経営者保証に関するガイドライン」によって、一定の条件を満たせば、社長が個人保証をせずに融資を受けることが可能になっています。
これにより、もし法人が借入金について返済不能に陥った場合、個人資産には責任が及ばなくなりました。
このガイドラインは2014年から運用されており、融資の際に経営者の個人保証を外すことができるかについては、以下のように記載されています。
「経営者保証に関するガイドライン」による経営者保証を外すための主な条件
①法人と経営者の関係を明確に区分していること
・法人の業務・経理・資産を、経営者個人のものと切り離して管理している(法人と個人の一体性を排除できている)。
・経営者個人と法人との間の資金のやりとり(役員貸付・給与・配当など)を整理し、混在させない。
②財務基盤が十分に強化されていること
・法人が、保証に頼らずとも債務を返済できるだけの財務基盤を持っている。
・利益体質や資産状況の改善が進んでおり、法人の返済能力が明確に裏付けられている。
・自己資本の充実などにより、法人の信用力が高まっている。
③財務情報が正確かつ透明であること
・財務諸表などを正確に作成・開示できている。
・将来の業績見通しや事業計画についても説明責任を果たしている。
・説明が誠実であり、経営の透明性が確保されている。
④外部専門家による検証・評価を受けていること
・公認会計士・税理士などの外部専門家が、法人の経営や財務の状況を検証している。
・その結果を金融機関などの債権者に適切に開示している。
これらの条件を満たせば、新規融資を受ける際だけでなく、既存の融資の経営者保証を外す交渉も可能です。
ガイドラインの目的は、経営者の個人破産のリスク軽減や、事業承継の円滑化、事業展開の支援にあります。
金融機関では、未だに代表者が連帯保証人になる方法で話を進められてしまうケースも存在するため、事業主側がこのガイドラインの存在を知っておくことが非常に重要となっています。
ファクタリングや補助金・出資などは、そもそも個人保証が不要であるという特徴がありますが、それに加えて、融資制度に関しても個人保証なしで活用できるようになっている点については、資金調達の方法を考える上でも着目すべきです。
2-2.調達時・調達後にかかるコストの額(資金調達コスト・手数料・金利等)
資金調達は、「いくら調達できるか」だけではなく、「その資金がいくらのコストで調達できるのか」も含めて判断する必要があります。
各資金調達の手段には、それぞれ固有のコスト構造があります。融資であれば、調達時には保証料、調達後には金利、クラウドファンディングであれば、調達時には手数料、調達後には返礼品のコスト、出資なら、調達後には将来の配当などがコストとしてかかります。
これらは見えにくいコストであるため、コストについて考えるときには調達総額だけでなく、実効コストを精査することが肝要です。
例えば、ファクタリングは即日現金化できる利便性がある一方で、手数料が売掛金の10〜30%にのぼるケースもあり、調達コストとしては高水準です。また、クラウドファンディングでは、プラットフォーム手数料が15〜20%程度かかるのが一般的です。
単純な金額の比較ではなく、トータルコストが自社の利益構造に見合っているかという視点を持つことで、より実務的な選択が可能になります。
2-3.調達以外のメリットの有無(副次的効果)
資金調達手段を選ぶ際には、「資金以外に得られる付加価値」があるかを見極めることで、より長期的な経営効果を得られる可能性があります。
例えば、ベンチャーキャピタルや事業会社からの出資には、単なる資金提供にとどまらず、販路支援・人材紹介・共同開発・経営アドバイスなどの副次的なメリットが期待されることがあります。これらの「知的・人的資本」を得られることで、スタートアップや成長企業にとっては、競争優位性につながる場合があります。
あるスタートアップが、大手IT企業から出資を受けた結果、大手の営業網を活用できるようになり、売上が3倍に伸びたというケースがあります。また、クラウドファンディングでは、事前に市場ニーズを測定できるというマーケティング効果があるため、製品開発やブランディングにも好影響を及ぼします。
資金調達をする副次的な効果により、経営そのものの質を変えることができるという可能性にも、資金調達の際には着目すべきだと言えます。
2-4.返済・義務の有無や柔軟性
資金調達手段の選択では、将来の返済義務の有無やその柔軟性が、経営の持続性に大きく影響することを念頭に置く必要があります。
融資や社債などの借入では、元本返済と利息支払いの義務が生じ、業績不振時にも支払いは継続します。一方で出資(増資)は返済義務がなく、企業の成長に合わせて柔軟に活用可能ですが、その分、経営権や意思決定への影響が発生しやすいという代償もあります。
創業2年目のIT企業が、資金繰り悪化により金融機関の返済を滞納し、財務状況がさらに悪化したケースがあります。一方で、エンジェル投資家からの出資を受けた企業は、返済不要な資金で広告投資を行い、黒字化に成功したという事例もあります。
返済が確実に履行できる体力があるかどうかを見極めた上で、柔軟性の高い手段を選ぶことが資金調達成功の鍵となります。
2-5.必要な準備・審査の厳しさ
資金調達にあたっては、どの程度の書類・情報準備が求められるか、また審査の通過率や時間的負担を見極めることが不可欠です。
融資・社債・ベンチャーデットなどでは、財務諸表・資金繰り表・事業計画書・代表者情報など、多数の提出書類と厳格な審査に対する準備が必要です。これに対し、クラウドファンディングやファクタリングなどは、比較的簡易な審査で、スピーディーに進行することが特徴です。
中小製造業が民間銀行からの融資申請で、事業計画と担保評価の調整に3か月を要した事例がある一方、ファクタリングでは数日で売掛債権を現金化できたというケースも報告されています。
特に時間や人手に余裕のない企業では、準備負担と審査期間を見越して手段を選ぶことが肝要です。
2-6.自己資本比率や財務諸表への影響
資金調達は、単なる資金流入にとどまらず、貸借対照表の構造を大きく変える可能性があるため、慎重な判断が求められます。
例えば、借入や社債は、負債として計上され、自己資本比率を引き下げる要因になります。これにより、今後の融資審査や信用格付けに悪影響を及ぼすことがあります。一方で、増資や出資は資本として計上されるため、財務の安定性を示す要素として好影響を与えます。
年商2億円規模の製造業が1.5億円の借入を抱えていた場合(売上高対借入金比率75%)、新工場建設のために追加で5,000万円を借り入れたいと申し出ても、金融機関からは「返済余力が不足」と判断されやすいです。
資金調達では、長期的な資金戦略を考えると、いくら集めるかではなく、どのように財務に残るかを意識することも重要です。
2-7.出資に伴う持ち株比率の減少(希薄化リスク)
出資型の資金調達を選択する場合、持株比率の希薄化により、結果的に経営権が分散してしまうという可能性がある点に注意が必要です。
出資による増資は返済不要の利点がある一方、新株発行により既存株主の議決権比率が下がり、経営方針への干渉が増す可能性があります。特にベンチャーキャピタルや大企業からの出資では、経営判断に対して一定の発言権や拒否権を持たれるケースもあります。
ある創業社長が、複数回の出資を受けた結果、最終的に経営権の過半を外部株主に握られ、事業方針の自由度が制限されたという事例があります。
資金調達の際には、今使う資金だけを見るのではなく、それが将来の経営の支配権を左右する要素であることを常に意識すべきです。
2-8.将来の資金調達ストーリーや成長フェーズとの適合性
自社の成長フェーズに合った資金調達戦略を描くことが資金調達の最適化に繋がります。
スタートアップ企業であれば、シード期、アーリー期、シリーズA~C、上場前などフェーズごとに適した手段が異なります。初期は出資や補助金を活用し、一定の売上が立てば融資、さらに成長した段階でベンチャーデットや社債などを検討するというように、段階的な設計が重要です。
あるITベンチャーは、創業初期にエンジェル出資+補助金、売上拡大期にVC出資+制度融資、安定成長期に社債発行へと移行し、一貫した資金調達戦略で上場を果たしました。
この先、事業をどうしたいのかという視点を持ち、フェーズに最適な資金調達方法を選択するようにしましょう。
3.まとめ
法人の資金調達には、単に資金を集める以上の意味と戦略性が求められます。
今回ご紹介したように、代表的な9つの資金調達手段には、それぞれの選ぶ軸となる基準が存在します。
資金調達手段を選ぶための主な基準
・調達金額の大きさ
・着金までのスピード
・中小企業での扱いやすさ
・零細企業での扱いやすさ
・代表者個人の信用情報の影響度
・借入の場合、個人保証を入れずに借りることができるかどうか
・調達時・調達後にかかるコスト(資金調達コスト・手数料・金利等)
・調達以外のメリットの有無
・返済・義務の有無や柔軟性
・必要な準備・審査の厳しさ
・自己資本比率や財務諸表への影響
・希薄化リスク(出資に伴う持ち株比率の減少)
・将来の資金調達ストーリーや成長フェーズとの適合性
資金調達手段を誤れば、将来の資金調達の幅を狭め、経営判断を制限することにもなりかねません。
自社の状況や目指す事業の将来像に応じて戦略的に判断することが求められます。
場合によっては複数の手段を併用しながら柔軟に選択肢を広げることが、資金繰りの安定と企業の成長を両立させる鍵となり得ます。
資金調達や融資でお悩みの場合には、プロのサポートを活用し、持続的に活用できる資金戦略を設計していきましょう。