
役員賞与は税務調査で重点的に見られる項目のひとつです。
税務調査で役員賞与が問題になる理由は、税務上の厳格な条件を満たさないと損金算入できず、意図的に税負担を回避する手段として使われやすいからです。
この記事では、どんな場合に税務調査で役員賞与が問題となるか、役員賞与を損金算入するための条件、損金不算入の役員賞与と認定されるパターンやそのリスクと回避するための対策まで詳しく解説していきます。
ぜひ、ご一読ください。
目次
1.税務調査で役員賞与が問題となる理由
繰り返しになりますが、税務調査で役員賞与が問題となる理由は、税務上の厳格な条件を満たさないと損金算入できず、意図的に税負担を回避する手段として使われやすいからです。
では実際に税務調査で役員賞与が問題になるのはどんな場合なのでしょうか。次の章で見ていきます。
2.どんな場合に税務調査で役員賞与が問題となるか
税務調査で役員賞与が問題になるのは、役員賞与の損金算入の条件を満たしていない場合と、意図的かどうかに関わらず実質的に役員賞与(役員個人の利益)と判断される場合の2パターンがあります。それぞれ見ていきます。
■役員賞与の損金算入の条件を満たしていない場合 ・金額や支給時期、届け出の有無、会社の業績に応じてなど役員賞与を損金算入するための条件を満たしていない |
■実質的に役員賞与と判断される場合 ・役員個人の利益なのに経費にしている ・現金取引で現金の行方がわからない |
2-1.金額や支給時期、届け出の有無、会社の業績に応じてなど役員賞与を損金算入するための条件を満たしていない
役員賞与も一定の条件を満たせば経費として損金算入することが認められていますが、この損金算入の条件を満たしていないケースがよくあります。役員賞与の損金算入の条件には、金額や支給時期、届け出の有無、会社の業績に応じてなど税務上の厳格な条件があります。3章で細かく見ていきます。
2-2.役員個人の利益なのに経費にしている
会社の売上や利益の獲得のためではなく、役員個人の利益にしかなっていない支出が会社負担で支払われ、経費として計上されている場合があります。実質的には役員賞与であると判断されます。
2-3.現金取引で現金の行方がわからない
売上などの現金取引で、帳簿へ記載が漏れているだけではなく、現金の行方がわからなくなっている場合、社長が個人で使ってしまっていることが考えられます。こちらも実質的には役員賞与であると判断されます。
3.役員報酬の損金参入に必要な条件
では、役員報酬の損金算入が認められる条件について見ていきましょう。役員報酬の損金算入が認められるためには、以下の2つのいずれかの条件を満たしている必要があります。
・税務署に届け出が出されている【事前確定給与】
・会社の業績に応じて支給されている【業績連動給与】
3-1.税務署に届出が出されている【事前確定給与】
事前確定給与は、所定の時期に所定の金額の支払うことをあらかじめ税務署に届け出ておく役員報酬で、損金算入が認められています。支給するための届出を指定された期限内に納税地の管轄税務署長に提出することで、損金算入することができます。
例えば、年に1回120万円を支払うことを事前に税務署に届け出てその通りに支払います。
<事前確定給与として支払う手順>
事前確定給与として支払うためには、以下の手順を踏む必要があります。
①定時株主総会等で支給時期、支給金額を定める | 株主総会などで、賞与の支給日と支給金額を事前に決定します。議事録を作成し、記録を残しておきます。 |
②「事前確定届出給与に関する届出書」を届出期限までに納税地の所轄税務署長に提出する | 決定した支給日と支給金額を記載した「事前確定届出給与に関する届出書」を、株主総会の決議日から1ヶ月以内、または会計期間開始の日から4ヶ月以内のいずれか早い日までに、所轄税務署に提出します。 |
③届出書に基づいて賞与を支給する | 届出書に記載した通りの支給日と支給金額で、賞与を支給します。1日でも1円でも異なると損金不算入となるため、正確に支給することが重要です。 |
④「被保険者賞与支払届」を日本年金機構に提出する | 賞与支給後5日以内に「被保険者賞与支払届」を日本年金機構に提出します。 |
3-2.会社の業績に応じて支給されている【業績連動給与】(※上場企業のみ)
業績連動給与は、会社の業績に応じて役員の給与や賞与を支給する役員報酬で、損金算入が認められています。ただし、業績連動給与を損金算入するには、算定指標を定めて算定方法を有価証券報告書等により開示する必要があるため、業績連動給与を導入できるのは有価証券報告書を提出している上場企業などに限られます。
業績連動給与についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください
辻・本郷税理士法人|業績連動給与によるメリットと要件
<業績連動給与として支払う手順>
業績連動給与として支払うためには、以下の手順を踏む必要があります。
①業績指標を設定する | 業績連動給与の基準となる業績指標を設定します。利益、売上高、株価などの具体的な指標を選定します。 |
②支給基準を決定する | 設定した業績指標に基づいて、給与や賞与の支給基準を決定します。 |
③契約書を作成する | 決定した支給基準に基づいて、役員との間で契約書を作成します。この契約書には、業績指標、支給基準、支給時期などの詳細を明記します。 |
④給与を支給する | 評価結果に基づいて、決定した金額の給与や賞与を支給します。支給時期や方法は契約書に従います。 |
⑤「被保険者賞与支払届」を日本年金機構に提出する | 賞与支給後5日以内に「被保険者賞与支払届」を日本年金機構に提出します。 |
不相当に高額な役員報酬は損金算入が認められない
役員報酬の額は自由に設定できますが、不相当に高額な場合、3-1、3-2のいずれかの条件に該当したとしても、損金算入が認められません。
不相当に高額かどうかの基準には、形式基準と実質基準の2つがあります。
①形式基準
形式基準とは、定款や株主総会の決議などから形式的に役員報酬の額が適正かどうかを判断する基準です。定款の定めや株主総会の決議で定められた金額を超えて役員に支給された場合、超えた部分が過大と判断され損金不算入となります。
②実質基準
実質基準とは、役員報酬の額が役員の職務内容や同業他社の役員報酬と比較して適正額かどうかを判断する基準です。役員報酬の額が役員の職務内容に見合っていなかったり、同業他社と比べて極端に高いと、不相当とされて損金不算入となります。
さらに詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
役員賞与の節税方法とは?3つの方法と損金算入の条件を徹底解説!
4.税務調査で損金不算入の役員賞与と認定されるパターンの具体例
ここからは、税務調査で損金処理が否認され損金不算入の役員賞与と認定されてしまう3つのパターンの具体例を見ていきます。
・金額や支給時期などが損金算入の条件を満たしていない場合
・経費の支出が妥当でない場合
・売上の計上漏れがある場合
4-1.金額や支給時期などが損金算入の条件を満たしていない場合
条件 | 条件を満たさなかった場合 | |
役員報酬 | 定期同額で支給されている | 支給額の一部が”臨時の賞与(役員に対し臨時で支給される給与)”と見なされ、損金不算入となります。 |
役員賞与 | 事前確定給与の届出を提出し、届出の内容通りに支給されている | 全額損金不算入となります。 |
役員報酬を支給している場合には、毎月同額の役員報酬を支給しなかった場合に、一部が損金不算入の役員賞与と認定されます。
事前確定給与として役員賞与を税務署に届け出ている場合には、税務署に届け出た支給日とは違う時期に役員賞与が支給されていた場合や届け出た支給金額を守らなかった場合に、全額が損金不算入となります。
例えば以下のような場合が考えられます。
①毎月40万円と設定していた定期同額給与をある月だけ60万円に増額した場合
20万円(60万円-40万円)が損金不算入の役員賞与として認定される
②毎月60万円と設定していた定期同額給与を期の途中から6ヶ月40万円に減額した場合
その事業年度を通して減額後の月額40万円が定期同額給与のベースとなり、定期同額給与として60万円支払っていた期間の20万円(60万円-40万円)×6ヶ月が損金不算入の役員賞与として認定される ※著しい業績悪化の場合を除く
③6月25日支給と届け出ていた事前確定給与を7月25日に支給した場合
届け出ていた支給日を守らなかったため、全額損金不算入の役員賞与として認定される
4-2.経費の支出が妥当でない場合
役員のプライベートな支出を会社が支払っている場合、損金不算入の役員賞与と認定されます。
例えば以下のような場合が考えられます。
・社長宅に設置されたテレビなどの物品の購入費用
・家族従業員しか行かない慰安旅行の費用
・会社の取引先とは関係ない相手との飲食費用、ゴルフのプレー代等
4-3.売上の計上漏れがある場合
現金取引で売上を回収しその売上の計上が漏れている場合、意図的か意図的でないかにかかわらず、損金不算入の役員賞与と認定されます。
例えば以下のような場合が考えられます。
・現金取引での売上が帳簿に記載されておらず、その現金売上を社長が友人との飲食代に使用
売上の計上が漏れていたとしても、銀行振込みなどで入金の事実を確認できれば役員賞与とはなりません。
5.税務調査で損金不算入の役員賞与と認定された場合のリスク
では、税務調査で損金不算入の役員賞与と認定された場合のリスクについても見ていきましょう。税務調査で損金不算入の役員賞与と認定された場合のリスクは以下の4つです。
・重加算税を課税される可能性がある
・法人税の追徴課税が発生する
・未払いの源泉所得税の支払いが発生する
・役員個人の所得税や住民税が増える
5-1.重加算税を課税される可能性がある
税務調査で損金不算入の役員賞与と認定された場合、それが仮装や隠蔽などの意図的な不正と認定されると、重加算税が課される可能性があります。重加算税は、過少申告加算税が納付税額の10~15%なのに対し35%の税率で課される最も重い加算税です。
重加算税は、以下のような悪質なケースで課されます。
・実際と異なる内容で帳簿記録を作成する
・支給事実を帳簿上隠す
・故意に役員賞与を経費計上し申告所得を減らす など
重加算税を課された場合には、さらにその記録が税務署に残り、早いタイミングで次回の税務調査の対象となる可能性が高くなります。
5-2.法人税の追徴課税が発生する
役員賞与は法人税の課税対象です。税務調査で損金不算入の役員賞与と認定された場合には、本来払うべきだった法人税の不足額が追徴課税されます。さらに延滞税等の附帯税も同時に課されます。
5-3.未払いの源泉所得税の支払いが発生する
役員賞与は源泉所得税の課税対象です。税務調査で損金不算入の役員賞与と認定された場合には、本来払うべきだった源泉所得税の不足額が追徴課税されます。法人税と同様に延滞税等の附帯税も同時に課されます。
5-4.役員個人の所得税や住民税が増える
税務調査で損金不算入の役員賞与と認定された場合、会社として追加の法人税を徴収されるだけでなく、役員個人も会社から賞与として受け取ったとして、役員賞与分の所得税と住民税が課されます。
6.税務調査で損金不算入の役員賞与と認定されないためには
ここまで、税務調査で損金不算入の役員賞与と認定されるパターンやそのリスクについて見てきました。では税務調査で損金不算入の役員賞与と認定されないためにはどのような対策が必要なのでしょうか。対策は4つあります。
・既定のとおりに役員賞与を支給する
・売上の計上漏れが生じないようしっかりと売上を管理する
・必要経費と個人で負担すべきものをしっかり区別する
・役員賞与と認定された場合には正当な主張を行う
6-1.既定のとおりに役員賞与を支給する
事前確定給与として役員賞与を税務署に届け出ている場合は、既定のとおりに支給することが大切です。支給金額や支給日をしっかり守ること、また役員賞与が不相当に高額にならないようにも注意しましょう。
6-2.売上の計上漏れが生じないようしっかりと管理する
売上の計上漏れが生じないよう現金や預金の管理など経理処理をきちんと行いましょう。日頃からしっかり経理処理を行っていれば、突然の税務調査にも慌てる必要がなくなります。
6-3.必要経費と個人で負担すべきものをしっかり区別する
日頃から、役員のプライベートな出費を会社の経費に計上させない心構えが大切です。会社で物品を購入したりサービスを利用する際には、「誰が、何のために必要なのか」を明確にし、必要経費と個人で負担すべきものをしっかり区別するようにしましょう。
6-4.役員賞与と認定された場合には正当な主張を行う
本来は経費として認められるものでも、税務調査官との見解の相違で損金不算入の役員賞与と認定されてしまう場合もあります。そのような場合には、会社を守るために業務上必要な経費であることをしっかり主張し証明することも大切です。
7.お困りの際は辻・本郷 税理士法人にご相談を
ここまで、税税務調査で役員賞与が問題となる理由や、役員賞与を損金算入するための条件、損金不算入の役員賞与と認定されるパターンやそのリスクと回避するための対策まで見てきました。
税務調査で役員賞与と認定されてしまうと、法人としては最も重いペナルティで重加算税、さらに法人税や源泉所得税などの追徴課税と延滞税等の附帯税、また役員個人でも所得税と住民税が課せられる可能性があります。
税務調査を不安に思われた方はぜひ一度、辻・本郷 税理士法人にご相談ください。
多くの国税庁OBが在籍する辻・本郷 税理士法人なら、急な税務調査でも安心してお任せいただけます。
8.まとめ
ではここまでの内容をもう一度まとめます。
役員報酬の損金参入に必要な条件
・【事前確定給与】として税務署に届け出が出されている
・会社の業績に応じて支給されている【業績連動給与】
税務調査で損金不算入の役員賞与と認定されるパターン
・金額や支給時期などが損金算入の条件を満たしていない場合
・経費の支出が妥当でない場合
・売上の計上漏れがある場合
税務調査で損金不算入の役員賞与と認定された場合のリスク
・重加算税を課税される可能性がある
・法人税の追徴課税が発生する
・未払いの源泉所得税の支払いが発生する
・役員個人の所得税や住民税が増える
税務調査で損金不算入の役員賞与と認定されないためには
・既定のとおりに支給する
・売上の計上漏れが生じないようしっかりと売上を管理する
・必要経費と個人で負担すべきものをしっかり区別する
・役員賞与と認定された場合には正当な主張を行う
役員賞与の支給は、損金算入が認められる条件をきちんと理解し適切に行いましょう。また、必要経費と個人で負担すべきものはしっかり区別し、突然の税務調査にも慌てずに済むよう、日頃からしっかり経理処理を行いましょう。