本店移転後も税務調査は続く!調査頻度と注意すべきポイント

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監修者 宇都宮健太

「本店を移転した後、税務調査の頻度は減る?履歴はリセットされる?」

事業を営むうえで避けて通れない「税務調査」。

では、本店所在地を変更した場合、税務調査はどうなるのでしょうか?

「管轄の税務署が変わるからこれまでの調査履歴はリセットされる?」

「3年おきに来ていた調査が、移転によって来なくなる?」

「調査の最中に本店移転をしたら税務調査からは逃れられる…?」

そんな疑問を持ったことがある方もいるのではないでしょうか。

この記事ではそういった「本店移転」に関わる税務調査について、詳しく理由や頻度、ポイントを解説します。調査の頻度やタイミングにどのような影響があるのか、ぜひ最後までご覧ください。


1.本店移転しても税務調査から逃れることはできない

結論から申しますと、本店をもし移転したとしても、税務調査を回避することはできません。以下にその理由を詳しく解説します。

1-1.本店移転後も前の税務署が調査をする理由

本店を移転しても、旧所在地の税務署が引き続き税務調査を行うことがあります。これは令和3年7月1日以降、国税通則法(第74条の2)という税法の改正によるものです。

この法律では以下のように定められています。

法人税などの税務調査の通知を受けた後に本店を移転した場合、移転前の税務署長が「必要」と判断すれば旧所在地の税務署の職員が、新しい所在地にある会社に対して調査や質問を行うことができる

この法律により、税務署の管轄が変わる移転をしても旧所轄税務署の調査官が新しい納税地に調査にくることが可能になりました。つまり、本店を移転しただけでは税務調査を回避することはできません。税務署は、「調査が必要」と判断すれば、場所に関係なく動くことができます。このため、どこに移転しても日ごろから正しい申告と帳簿管理をしておくことが大切です。

1-2.会社移転後も過去の申告状況は引き継がれる

会社が本店を移転しても、過去の申告内容や税務調査の履歴は、新しい税務署に引き継がれます。法人の情報は「KSKシステム(国税総合管理システム)」という全国共通のネットワークを通じて一元管理されており、全国12か所の国税局と524の税務署がこのシステムを活用して、納税者の情報を共有できる仕組みになっているからです。

例えば東京都で毎年黒字を出していた会社が大阪に本店を移転した場合、大阪の税務署はKSKシステムを使って、会社のこれまでの申告内容や調査履歴を確認できます。そのため移転によって税務署の評価がリセットされることはなく、過去の記録をもとに調査が必要と判断されれば通常どおり調査が行われます本店移転は「表面的な変化」にすぎず、過去の申告状況はそのまま引き継がれます。

1-3.税務調査中の本店移転も調査は続く

税務調査が始まっている最中に本店を移転しても、調査は中断されず、原則としてそのまま続行されます。調査が開始されたあとは、旧所在地の税務署長が「調査の継続が必要」と判断すれば、旧税務署の職員が引き続き対応することが、国税通則法第74条の2第5項(令和3年改正)で認められているからです。この制度により、旧税務署の職員が新しい本店所在地まで出向いて、調査や質問を続けることが可能です。新旧の税務署間では情報共有がスムーズに行われる体制が整っており、調査の引き継ぎも問題なく進みます。そのため、「調査中に本店を移転すれば調査を免れられるのでは」といった期待は通用しません。実際には、場所がどこであれ、調査が開始されていれば納税者の所在地に関係なく続けられると理解しておく必要があります。


2.本店移転後、税務調査の頻度

本店を移転すると、「これまで定期的に来ていた税務調査も来なくなるのでは」と期待する方もいるかもしれません。ですが、調査の頻度は移転によって劇的に変わるものではありません。実際には、移転が調査タイミングに影響するケースもあるものの、基本的な調査の流れは変わらないことが多いです。

2-1.調査の対象となる頻度は一般的に3~10年に一度

法人税の税務調査は、一般的には3年~10年に一度程度の頻度で行われています。本店を移転したからと言って税務調査が必ずしも増えたり、減ったりするわけではありません。税務署は申告書の内容などから調査対象を選定しており、それに基づいて順番に調査を実施しています。したがって、本店をどこに移したとしても、申告の状況に応じた適切なタイミングで調査がやってくるのが基本の流れです。

2-2.本店移転がきっかけになり調査が早まる可能性がある

一方で、移転のタイミングや移転後の状況によっては、税務調査が通常よりも早く行われることもあります。本店移転自体が「税務調査の対象になる」わけではありませんが、移転理由や移転後の実態が不自然な場合は調査対象として注目されることがあります。移転そのものが原因というよりは、移転後の情報や動きが引き金になって調査が前倒しされるケースがあります。


3.税務署に怪しまれる本店移転のパターンとは

本店移転自体は違法でも不自然でもありませんが、移転の仕方やタイミングによっては、税務署の目に留まりやすくなることがあります。特に、税務署は「この移転には何か裏があるのではないか」と感じた場合、その企業を調査対象として注視することになります。では、どのような移転が「怪しい」と思われやすいのか、見ていきましょう。

3-1.引っ越しを繰り返している

同じ法人が短期間のうちに何度も本店を移転している場合、税務署からは「何か隠したいことがあるのでは」と疑念を抱かれやすくなります。通常、企業が本店を移すのは経営上の大きな判断を伴うため、頻繁に行うものではありません。にもかかわらず、数年おき、場合によっては1年以内に移転を繰り返していると、「税務署からの目を逃れようとしているのではないか」といった疑いが浮上します。必要以上に移転をすることは慎重に検討しましょう。

3-2.売り上げが下がったタイミングでの引っ越し

税務署が注意深く見るのが「売上が急に落ちた後のタイミングでの本店移転」です。例えば、前年まで好調だった売上が急に下がり、そのすぐ後に本店を別地域へ移転した場合、税務署としては「税務調査を避けるための引っ越しでは?」と疑うことがあります。実際に過去には調査逃れ目的での本店移転が多発していました。やむを得ず、経営状況の変化により移転することもあるかもしれません。ただそういった場合にも「どうして今移転が必要だったのか」という理由や説明がしっかりしていないと調査の対象になりやすくなります。移転の必要性や根拠を説明できるようにしておくことが大切です。


4.本店移転に必要な書類

本店を移転した場合必要な書類は、移転先が法務局の管轄内、管轄外でそれぞれ異なります。また、法務局への登記変更と並行して、税務署や地方自治体への届出も必要です。以下に、提出が必要な書類をまとめます。

4-1.管轄内の本店移転時に必要な書類

同じ法務局の管轄内で本店を移す場合でも、登記手続きには一定の書類が必要です。以下のような書類を準備しておきましょう。

  • 本店移転登記申請書
  • 株主総会議事録(定款変更が必要な場合)
  • 株主リスト(株主総会議事録を添付する場合)
  • 取締役会議事録または取締役決定書
  • 委任状(代理人に手続きを依頼する場合)

4-2.管轄外の本店移転時に必要な書類

法務局の管轄をまたいで別の地域に本店を移す場合は、手続きが少し複雑になります。旧管轄と新管轄、両方への申請が必要になるため、準備すべき書類も増えます。

  • 本店移転登記申請書(旧所在地管轄法務局提出分)
  • 本店移転登記申請書(新所在地管轄法務局提出分)
  • 株主総会議事録
  • 株主リスト
  • 取締役会議事録または取締役決定書
  • 委任状(代理人に手続きを依頼する場合)
  • 印鑑届書(新所在地で会社実印登録が必要な場合)

4-3.登記後に必要な主な届出

本店の移転が完了して登記が済んだ後は、各種官公庁への届出も忘れずに行いましょう。移転先での業務をスムーズに始めるためには、次のような届出が必要になります。

  • 税務署:異動届出書、給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
  • 都道府県税事務所:異動届出書、登記事項証明書、定款
  • 市区町村:異動届出書、登記事項証明書、特別徴収義務者の所在地・名称変更届出書
  • 年金事務所:健康保険・厚生年金適用事業所名称/所在地変更届、登記事項証明書
  • 労働基準監督署:労働保険名称・所在地等変更届、登記事項証明書
  • ハローワーク:雇用保険事業主事業所各種変更届

5.本店移転の理由を明確に言えることが大切

本店を移転する際には、「なぜ移転するのか」を説明できるようにしておくことがとても大切です。税務署は、企業の行動に「税務調査を避けたい意図があるのでは?」と疑いの目を向けることがあります。特に、売上が急に落ちた直後の移転や、短期間に何度も移転をしている場合は要注意です。理由がはっきりしない移転は、不自然だと見なされることがあるからです。

例えば「人材採用を強化するために、交通の便が良い場所に移転した」など、事業目的に沿った合理的な理由があれば、税務署も深く追及することは少なくなります。逆に、理由を言えずに移転だけを繰り返していると、「何か隠しているのでは」と疑われることになります。

だからこそ、登記や手続きだけで終わらせず、「この移転にはこういう目的がある」と自分の言葉で説明できるようにしておくことが、税務対応の備えとしてとても有効です。


6.税務調査の不安を減らすには、辻・本郷 税理士法人の活用がおすすめ

本店移転後の税務調査に不安を感じる場合は、税務調査対応の実績が豊富な専門家の相談をするのが安心です。辻・本郷 税理士法人には豊富なノウハウがあり、移転に関わる税務手続きや調査対策まで幅広くサポートしてくれます。急な本店移転後の調査に、「何から手をつけていいかわからない」という方にもおすすめです。


7.まとめ

本店を移転しても、税務調査を避けることはできません。旧税務署による調査の継続や、全国共通のKSKシステムにより過去の申告情報は新しい税務署に引き継がれます。また、調査中に移転しても調査は中断されません。

税務調査の頻度は一般的に3~10年に一度ですが、移転の仕方によっては調査が早まる可能性もあります。特に、「引っ越しを繰り返している」「売上が急に落ちたタイミングで移転した」などのケースは、税務署に不自然と判断されやすく注意が必要です。

移転の際には、必要書類を整え、税務署や自治体への届出を忘れずに行うとともに、移転理由を明確に説明できるようにしておくことが重要です。正しく移転の準備をし、安心して税務調査を迎えられるようにしましょう。