税務調査でクルーザーはNG!経費にできない理由と節税のポイント

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監修者 宇都宮健太

クルーザーの購入を経費として計上する際は、税務調査で厳しくチェックされるため、他の経費計上のとき以上に注意する必要があります。本記事では、なぜクルーザーは経費として認められにくいのか、税務調査ではどのような点がチェックされるのか、否認されるリスクと、それを回避するための具体的な対策を解説します。


1.クルーザーの経費計上は事業との関連性が証明できないと税務調査で否認される

クルーザーを購入し経費として計上する場合は、事業との関連性が明確に証明できなければ税務調査で否認される可能性が極めて高いです。

そもそも経費は、法人税法基本通達にて「事業と関係のある支出のみが経費として認められる」といった旨が規定されています。私生活で使用する日用品の購入費や、事業と関係のない人との飲食代など、事業に結びつかない支出は経費として認められません。

そして、事業に結びつく支出である・経費であると認められるためには、領収書や伝票等といった、事業との関連性を示す証拠が必要となります。

こうした経費計上に関するルールは、クルーザーを購入し経費として計上する場合も同様です。事業との関連性があり、かつそれを証明するものがあれば経費として認められます。

しかし、クルーザーは高額で特殊な資産であり、業務に必要な経費としては認められにくいのが現状です。その具体的な理由としては以下が挙げられます。

業務利用実態の証明が困難:クルーザーの使用が事業目的であることを客観的に証明できる記録(運航記録や利用規定など)が整っていないことが多い。

個人的な趣味・贅沢品とみなされやすい:役員や経営者の個人的な趣味・贅沢と疑われやすく、「役員賞与」や「個人的支出」として否認されるリスクが高い。

福利厚生や接待目的でも要件が厳しい:福利厚生費の条件は「全従業員が公平に利用できること」だが、船舶免許が必要で利用者が限定されやすい。接待の場合も利用目的や参加者の記録が不十分だと経費計上が認められにくい。

こうした理由により、クルーザーが業務に直接必要なものであると証明することは難しく、経費として計上した際は税務調査で否認される可能性が極めて高いのです。

参考:No.2210 必要経費の知識


2.クルーザーの経費計上が否認された事例

実際に平成7年の国税不服審判所の裁決では、経営者が所有していたクルーザーについての経費性が否認される結果となりました。この事例では以下の点が問題とされました。

・運航記録が存在せず、いつ、誰が、どのような目的で使用したのかを証明するものがなかった

・社員による業務利用の実績が皆無で、社長とその家族だけが使用していたことが従業員から証言された

・顧客接待や福利厚生としての利用を示す証拠がなく、購入時の社内文書には「将来的な利用可能性」という曖昧な表現しか記載されていなかった

このように、業務との関連性を客観的に証明できる記録や証拠の有無が、経費計上の可否を分けるポイントとなっていることがお分かりになるかと思います。

なお、上記と同じ裁決の中で、経営者が購入したフェラーリ(高級車)については、経費計上が認められています。以下の点が経費性を認める決め手となりました。

・年間約7,600kmの走行記録が残されていて、実際の使用実績が明確であった

・経営者が別に私用車を所有しており、フェラーリは主に通勤や営業活動に使用していた

・顧客訪問時のアポイントメント記録や訪問先での写真など、業務利用の証拠が十分に残されていた

さらに、フェラーリ購入時の社内決裁資料には、「企業イメージの向上」や「顧客への印象付け」といった明確な事業目的が記載されており、実際に新規契約の獲得につながった事例も複数示されていました。

クルーザーも同様で、高額な資産を経費計上する際は、日々の使用記録や社内決裁資料、業務利用の具体的な証拠をしっかりと残すことが重要なのです。


3.クルーザーを経費計上した場合に税務調査でチェックされるポイント

クルーザーを経費計上した場合、税務調査では以下のようなポイントを中心に詳細な確認が行われる可能性があります。

3-1.使用実態を証明する日報や写真などの記録があるか

まずは、使用実態を証明する日報や写真など、客観的に証明できる記録があるかどうかです。例えば、以下のようなものがあると使用実態がある重要な証拠となるでしょう。

・運行日誌

・業務使用時の写真

・燃料消費記録

・乗船者(顧客や従業員)のリスト

逆に、これらの客観的記録が存在しない場合、私的利用とみなされる可能性が高くなります。そして、これらの記録が定期的かつ継続的に作成され、実際の業務内容と一致している必要があります。

3-2.帳簿や証言との整合性が取れているか

会計帳簿の記録と社長や従業員の証言に矛盾がないか、帳簿上の使用日と実際の使用実態、費用の計上方法などに整合性はあるかも確認される可能性があります。

例えば、燃料費や修理費などの関連経費が記録された日付と、クルーザー使用の記録に食い違いがある場合、税務調査官から疑念を持たれる原因となります。

また、従業員への聞き取り調査で「社長しか使っていない」「業務で使った記憶がない」といった証言が出てくると、経費性を否認される理由となってしまうことがあります。

3-3.購入理由や社内決裁を示す書類が整備されているか

クルーザーを購入した経緯や目的を示す公式文書が整備されているかも重要なポイントです。具体的には、取締役会議事録、稟議書、業務使用目的を明記した社内文書などが、事業目的での購入を証明する重要な証拠となります。

社長の独断で購入を決定し、適切な社内手続きを経ていない場合、私物としての性格が強いと判断される傾向があります。

3-4.クルーザーが事業に貢献している明確な根拠があるか

クルーザーの購入や維持が実際に事業にどのように貢献しているかを示す明確な根拠があるかもチェックされるポイントです。具体的には、顧客接待、営業活動、社員の福利厚生といった事柄に対して利用実績があれば、事業貢献の証拠となるでしょう。

例えば、クルーザーでの接待後に成約した契約書、社員研修や慰安の場として活用した記録と写真、それに伴う生産性向上や離職率低下などの具体的成果があれば、事業との関連性を主張する根拠になります。単に「将来的に使う予定」や「業界では一般的」といった抽象的な説明では不十分です。

3-5.私的利用との線引きや按分処理が適切に行われているか

クルーザーは業務だけでなく、私的にも利用される可能性が高い資産です。私的な利用と業務による利用の線引きが適切に行われているかは、税務調査の重要なチェックポイントとなります。

私的利用分については、経営者が会社に使用料を支払うなどの処理が必要です。例えば、年間の使用日数のうち業務利用が30%、私的利用が70%であれば、維持費などの経費も同じ割合で按分することが求められます。こうした処理が行われていない場合、税務調査で全額が否認されるリスクが高まります。

なお、上記は使用日数を例として事業割合を考慮していますが、使用日数だけでなく、使用時間や使用目的などを総合的に考慮して事業割合の按分を検討する事になります。


4.税務調査でクルーザーの経費計上が否認された場合のペナルティ

クルーザーの経費計上が税務調査で否認された場合、様々なペナルティが課される可能性があります。その影響は会社と経営者個人の両方に及ぶため、リスクを十分に理解しておく必要があります。

4-1.法人税の追徴課税

法人の場合は、否認された経費は損金不算入となり、課税所得が増加します。例えば、5,000万円のクルーザーを購入し減価償却していた場合、その減価償却費が否認され、法人税の追徴課税が発生します。法人税率を23.2%と仮定すると、年間の減価償却費500万円(10年償却の場合)が否認されれば、約116万円の追加税負担が生じます。

4-2.所得税の追徴課税

経営者個人へも所得税が追加で課税されるおそれがあります。クルーザーが経営者の個人的な利用と判断された場合、その取得費や維持費のうち私的利用に該当する部分については、役員賞与として扱われる可能性が高くなります。これにより、経営者個人に所得税が課税されるだけでなく、会社側では源泉所得税の不納付が指摘される可能性もあります。

4-3.消費税の仕入れ税額控除の否認

クルーザーの取得費や維持費が役員賞与として扱われた場合は、購入代金に対しての消費税の仕入れ税額控除が否認されるおそれもあります。

クルーザー購入時には、取得価額に対して10%の消費税額が仕入税額控除として消費税の納税額計算では考慮されていますが、役員賞与として扱われる場合、取得価額に対する10%の仕入税額控除が認められないことになります。

4-4.重加算税や延滞税の課税

また、意図的な隠ぺいや仮装と判断された場合には、重加算税(通常の追徴税に加えて35%40%)が課されることもあります。さらに、申告期限から納付日までの延滞税も加算されるため、4-1~4-3で指摘された追加納税の分も合わせると、結果的には当初想定していた節税額を大きく上回ってしまう可能性があります。


5.クルーザーを経費として計上する場合の対応策

クルーザーを経費として計上したい場合に行うべき対応策・注意点を5つのポイントに分けて解説します。

5-1.購入する目的をはっきりさせておく

クルーザー購入の段階から、購入する目的をはっきりさせて文書に残しておくことが重要です。単に「会社の資産として」という曖昧な理由ではなく、具体的に「どのような形で事業へ貢献するものなのか」を明確にしておきましょう。

例えば、「主要顧客との関係強化のための接待用」「海上からの視察が必要な沿岸部不動産開発の調査用」「社員研修・チームビルディングの場として活用」など、具体的な目的を設定します。この目的は社内稟議書や取締役会議事録に記録し、購入前から業務利用を前提としていたことを証明できるようにしておきましょう。

5-2.プライベートと区別する

ルーザーの私的利用と業務利用を明確に区別することも重要なポイントです。

例えば、クルーザーの市場相場に基づいたチャーター料を設定し、社長や役員が私的に利用する場合には、その使用料を会社に支払うといった方法があります。この使用料の設定は、客観的な根拠(近隣マリーナのチャーター料など)に基づいて決定し、社内規程として文書化しておきます。

業務利用と私的利用の比率を記録し、維持費や燃料費などの経費も同じ比率で按分処理することで、税務上の透明性を確保することが重要です。

5-3.事業での使用実績を記録しておく

事業での使用実績も漏れなく記録しておくようにしましょう。記録する内容としては、例えば以下のようなものが挙げられます。

・利用日時

・利用目的(具体的な業務内容)

・乗船者リスト(役職や所属も記載)

・訪問先やルート

・業務成果(商談結果や契約締結の有無など)

特に顧客接待の場合は、接待費用の明細、商談内容、その後の契約締結の有無なども記録しておくと、事業との関連性をより強く証明できるものとなります。

5-4.出張旅費規定を作成する

クルーザーを業務移動や現場視察に利用する場合は、社内の出張旅費規定にクルーザー利用に関する項目を追加しておくことが有効です。

この規定には、「どのような業務状況でクルーザーを利用するか」「利用する場合の申請・承認プロセス」「交通費精算の方法」などを明記します。

例えば、「離島の顧客訪問時」「沿岸部の現場視察時」など、クルーザー利用が合理的な状況を具体的に定義しておきましょう。

5-5.リース契約を検討する

クルーザーを購入する代わりにリース契約を活用する方法も検討価値があります。リース契約には以下のようなメリットがあります。

・リース料だけで済むため、多額の初期投資が不要になる

・毎月定額のリース料として経費計上できるため、キャッシュフロー管理が容易になる

・「業務利用日のみリース契約を結ぶ」「私的利用日は別途チャーター料を支払う」といった私的利用との明確な区分けがしやすく、リース会社との契約書類が事業との関連性の証明になる

・維持・管理の手間がかからない

ただし、長期的にはリース料総額が購入費を上回る可能性もあるため、使用頻度や期間を考慮した検討が必要です。


6.クルーザーを経費計上する上で必要な書類と保管のポイント

先述してきましたように、クルーザーを経費計上するためには、事業で利用した・必要であったことを示す書類とその保管を適切に行うことがとても重要となります。

経費計上する上で用意しておくべき書類と、その保管方法についてまとめました。

6-1.用意しておくべき書類

クルーザーを経費として計上する上で用意しておくべき書類としては、以下が挙げられます。特にクルーザーに関連する会計帳簿は丁寧に整備しておくようにしましょう。

固定資産台帳:取得日、事業共用開始日、取得価額、耐用年数、償却方法を明確に記載し、定期的に更新します。

運行記録簿:使用日、目的、乗船者、移動距離などの詳細を記録するようにします。

クルーザー購入時の契約書

購入検討時の社内稟議書、業務利用計画書など

クルーザー利用に関する社内規程:使用申請方法、私的利用時の使用料の計算方法なども文書化しておきます。

接待記録(接待で使用した場合):日時、場所、参加者、商談内容、成果などを記載します。

関連経費(燃料費、修理費、保険料、係留料など)については、支出の日付、金額、内容を明確に記録し、クルーザーの業務使用と関連付けられるようにしましょう。

6-2.書類保管のポイント

法人の場合、帳簿書類は原則として7年間の保存義務があります(法人税法施行規則第59条)。個人事業主の場合も、同様に7年間の保存が求められます。ただし、クルーザーのような高額資産については、耐用年数が長期にわたるため、減価償却が完了するまでの期間(プラス数年)の保管が望ましいでしょう。

また、クルーザーに関連する全ての支出の領収書は、日付順に整理して保管しましょう。燃料費、修理費、保険料、係留料などのカテゴリー別に分類し、各支出が業務利用に関連していることを示す補足資料(運航記録など)とともに保管すると効果的です。


7.税理士に相談してクルーザー経費計上のリスクを回避しよう

ここまでクルーザーを経費計上する上でのポイントなどについて解説してきましたが、1章でも述べたように、クルーザーが業務に必要な経費として認められるのはかなり難しいものがあります。専門的な知識と経験なしに判断するのは非常にリスクが高いため、リスクを回避したい場合は、税理士へ相談することをおすすめします。

税理士は、過去の税務調査事例や法令解釈に精通しており、あなたの事業の特性を踏まえた具体的なアドバイスを提供できます。

また、税理士は多くの税務調査への立会いを経験しているため、調査官が特に注目するポイントを熟知しています。書類の整備方法や記録の取り方についても、税務調査を想定した具体的なアドバイスを受けることができるでしょう。

 クルーザーの経費計上については、「全額経費にする」という単純な発想ではなく、実態に即した適切な処理方法を選択することが重要です。税理士はあなたの状況に最適な対応策を提案し、将来的な追徴税や加算税のリスクを軽減してくれるでしょう。

 


8.まとめ

クルーザーの経費計上は、事業との関連性が明確でない限り、税務調査で否認されるリスクが非常に高いです。本記事では、否認されやすい理由や、税務調査でのチェックポイント、対応策などについて解説しました。

経費として認めてもらうためには、業務使用の実態を客観的に証明できる記録の整備、私的利用との明確な区分け、購入目的の明確化など、様々な対策が必要です。それでも、ケースによってはクルーザーの経費計上が認められない可能性があることを理解しておく必要があります。

専門家である税理士に相談し、自社の状況に最適なアドバイスを受けることが最も重要です。税理士と連携をすることで適切な判断と対応を行い、税務リスクを最小限に抑えながら事業を展開しましょう。