支配権プレミアムとは?M&Aなどで使われる意味について解説

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監修者 山田翔吾

M&Aや企業価値評価の場面でよく登場する専門用語のひとつに「支配権プレミアム」という言葉があります。

初めて聞く方にとっては少し難解に感じるかもしれませんが、これは企業の株式を「支配できる立場」で保有することで、株式の価値が高くなる際の上乗せ分を意味します。

つまり、同じ株式であっても、経営を動かせる立場の株主が持つ株式は、それ以外の少数株主の株式よりも高い価値を持つということになり、このときの差額が「支配権プレミアム」です。

M&Aや株式評価を行う際、この支配権プレミアムを正しく理解しておくことは極めて重要です。なぜなら、買収価格を決定する際の根拠になり、経営権の移転を伴う取引では、しばしば「どの程度のプレミアムを上乗せするか」が交渉の焦点となるからです。

この記事では、「支配権プレミアムとは何か」という基本的な定義から、その発生理由、算定方法、実務上の相場、さらには少数株主との関係までを解説します。

M&Aの現場で活かせる実践的な知識を得たい方に向けて、理論と実務の両面からわかりやすく整理していきます。


1.支配権プレミアムとは?定義と用語整理

企業価値評価やM&Aの取引では、同じ1株であっても「誰がその株を持つか」によって価値が変わります。経営を動かせる立場にある株主の株式は、そうでない株主よりも高い値段で取引されることが多く、この「上乗せ分」に特別な意味が込められています。その上乗せ分が「支配権プレミアム(コントロールプレミアム)」です。

この章では、まず支配権プレミアムの基本的な意味を整理し、支配株主との違い、支配権そのものの価値を順に解説していきます。

1-1.支配権プレミアムとはどんな概念か

支配権プレミアムとは、会社を「自分の意思で動かせる権利(=支配権)」を得るために支払われる特別な上乗せ価値のことです。

企業の株式は単なる投資対象ではなく、経営をコントロールする力を持つ「権利」でもあります。

特に、議決権の2/3以上を持つ株主は、会社の重要な決定の際に、例えば「社長の交代」「事業方針の決定」「利益の使い道」といった場面で、自らの意向を加味させることができます。このような支配的な立場を手に入れられること自体が、経済的に大きな価値を生むのです。そのため、買い手は「支配できるなら少し高く払っても良い」と考え、株式の価格にプレミアム(上乗せ)を支払います。

例えば、ある会社の株価が1株あたり1万円で取引されているとします。通常の株主はこの価格で買いますが、もしその会社の過半数を取得すれば経営を掌握できるとするならば、買い手は、支配権を得るために1万3,000円払っても構わないと判断するかもしれません。この場合の3,000円分が「支配権プレミアム」にあたります。つまり、同じ株であっても、会社を動かせる力がある場合には、価値が変わるということです。

支配権プレミアムとは、「株式を所有しているだけでなく、会社を動かす力を得られること」に対して支払われる上乗せ金額です。単なる投資利益ではなく、経営支配という「特別な権利」に付随する経済的価値だと理解することが重要です。

1-2.支配株主と少数株主との違い

支配株主は会社の意思決定を実質的にコントロールできる立場にあり、少数株主とは根本的に持っている権利の重さが異なります。

会社法では、株主総会が企業の最高意思決定機関であり、株主の「議決権割合」に応じて経営への影響力が変わります。会社の議決権を行使できる株式のうち過半数を持つ株主は、取締役の選任・解任や配当方針の決定など、企業経営の方向性を左右することができます。

一方で、数%しか株を持たない少数株主には、こうした意思決定に直接関与する力はありません。

例えば、A社の株式をAさんが60%、Bさんが10%、その他が30%持っているとします。この場合、Aさんは取締役を自由に選び、利益処分を決定できます。つまり、会社の経営方針を単独で決める「支配株主」です。一方、Bさんの10%の持分では、経営方針に影響を与えることはできません。このように、持株比率によって株式価値の質が変わるため、支配株主の株にはプレミアムが付くのです。

支配株主の株式は、単なる投資ではなく「経営を動かす力を持つ資産」として評価されます。これが、支配権プレミアムが発生する根拠となるのです。

1-3.支配権とは何か

支配権とは、企業の経営に対して実質的な決定力を持つ権利のことを指します。一般的に、会社の議決権を行使できる株式のうち2/3以上の持株比率を有する場合について「支配権がある」と言うことが多いですが、文脈によります。

支配権は、単に少数の株式を保有しているだけでは得られない「企業を動かす力」であり、企業価値評価やM&Aの場面では非常に重要な概念です。

株式会社においては、株主総会が最高意思決定機関とされています。株主は保有している株式数に応じて議決権を持ち、その割合が過半数を超えると、取締役の選任・解任や利益処分の決定など、企業運営に関する主要な事項を自らの判断で決定できるようになります。さらに、会社の議決権を行使できる株式のうち2/3以上を保有することで、定款の変更や合併・会社分割といった「特別決議事項」を単独で可決し得る状態になります(※種類株(黄金株など拒否権があるもの)がある場合などを除く)。

このように、支配権とは、企業の経営方針・人事・配当政策といった重要な意思決定を自らの意志で実行でき、経営を支配できる力を意味するものです。

例えば、ある投資家が中小企業の株式を過半数保有している場合、その投資家は取締役を任命・解任し、経営方針を自社の意向に沿って変更することが可能です。さらに、議決権の2/3以上を保有していれば、会社の合併や事業譲渡といった企業の根幹を左右する意思決定も単独で実施できる可能性が高いです。

このような「企業の意思決定を自らの意志で進められる立場」に価値があると考えられており、その価値が株式の価格に上乗せされる形で表れるのが、支配権プレミアムです。

つまり、支配権とは「会社の重要な意思決定を単独で行う力」を意味します。この支配権を持つ株主は、経営の方向性を自在に操ることができるため、その株式には特別な価値が生じます。支配権プレミアムは、この「経営をコントロールできる権限の価値」を金額に置き換えた概念なのです

1-4.買収プレミアムとの違い

比較項目支配権プレミアム(コントロールプレミアム)買収プレミアム
意味企業の「経営を支配できる権利」に対する上乗せ価値の部分実際の買収価格が市場価格を上回る部分
主な対象経営支配権そのもの(議決権の過半数・特別決議権など)支配権プレミアム+シナジー効果+のれんなどの期待価値
発生の場面経営権の取得や支配株主の株式譲渡など実際のM&A取引(買収価格の算定時)
上乗せの理由経営を自由に動かせる決定権を得られるため経営支配に加え、統合によるシナジーやブランド価値があるため
簡単な計算方法支配株主の株価と少数株主の株価の差買収価格と市場株価の差
含まれる範囲狭い(支配権の価値に限定する)広い(支配権プレミアムを含む総合的な上乗せを指す)

支配権プレミアムと買収プレミアムは、どちらも株式の評価に上乗せされる価値を意味しますが、その性質と発生要因が異なります。支配権プレミアムは「経営を支配できる権利」に対する価値であり、買収プレミアムはそれに加えて、シナジー効果やのれん(ブランド価値など)を含めた総合的な上乗せ価値を指します。

支配権プレミアムは、経営方針や人事、配当などを自由に決定できる「コントロール権」そのものに対する価値です。つまり、企業を動かせるという事実自体に金銭的な意味があるという考え方に基づいています。

一方、買収プレミアムは、実際にM&A取引が行われる際に支払われる「市場株価との差額」のことを指します。この中には、支配権プレミアムのほかに、買収後の経営統合によって得られるシナジー効果や、ブランド・顧客基盤といったのれんの価値も含まれています。つまり、買収プレミアムは支配権プレミアムを包含する、より広い概念なのです。

例えば、A社の株価が市場で1株1万円で取引されていたとします。B社がA社を買収するために、1株あたり1万3,000円で買い取る契約を結んだ場合、この3,000円の差が「買収プレミアム」にあたります。

この3,000円の中には、A社の経営権を獲得する価値(支配権プレミアム)に加えて、B社とA社の統合による収益増加やコスト削減などのシナジー効果、さらにはA社が持つブランド力や取引ネットワークといったのれん価値も含まれています。

したがって、支配権プレミアムは「経営を支配できる権利そのものの価値」であり、買収プレミアムは「実際の取引で支払われる総合的な上乗せ価値」を指します。M&Aの評価や交渉を行う際には、この二つの違いを明確に理解しておくことが重要です。混同してしまうと、買収価格の妥当性や企業価値の分析を誤るおそれがあるため、専門的な場面では厳密な区別が求められます。

※株式価値が上乗せされるプレミアムの他にも、反対に株式の価値が減額される場合もあります。

この減額要素を総称して「ディスカウント」と呼びます。特に、支配権プレミアムと密接に関係する代表的なディスカウントとして、「マイノリティ・ディスカウント」と「非流動性ディスカウント」の2種類が挙げられます。


2.支配権プレミアムの相場は20〜40%程度の上乗せ率

支配権プレミアムの一般的な相場は、買収価格が市場株価に対して20〜40%程度上乗せされる水準であるとされています。

支配権には、経営の主導権・意思決定権・キャッシュフローのコントロールといった実質的な価値が伴うため、その分を金銭的に補正する必要があります。この「支配権による経済的価値」が、プレミアムという形で価格に反映されるのです。また、買収交渉では企業の規模・業種・財務の健全性、さらには買い手側の戦略目的によっても上乗せ率が変動します。

例えば、上場企業A社の株価が1株あたり1,000円だった場合、支配権を伴う買収取引では、買い手が1,200〜1,400円程度を提示するケースが多く見られます。これはおおむね20〜40%の支配権プレミアムに相当します。

また、複数の企業が同じターゲットをめぐって買収競争を行っている場合、提示価格はさらに上昇し、プレミアムが50%を超えることもあります。逆に、経営環境が悪化している企業や、買い手側の交渉力が強い場合には、上乗せ率が10%程度にとどまることもあります。

実際の取引分析では、過去のM&A事例や市場データをもとに、買収価格と市場株価の差額を比較してプレミアムの相場を推定します。

このように、支配権プレミアムの相場はあくまで「目安」ではありますが、一般的に20〜40%の範囲が標準的とされています。実際の上乗せ率は、対象企業の価値評価や交渉環境、買収の戦略目的によって大きく変動する点を理解しておくことが重要です。


3.支配権プレミアムを論理的に算定する場合にはバリュエーションを用いる

支配権プレミアムは、明確な単独算出式が存在しないため、論理的、客観的に算定したい場合には、企業価値評価(バリュエーション)の中に内包される形で評価されることが一般的です。

支配権プレミアムは「支配権を得ることによる追加価値」を表しますが、支配権の価値は目に見える資産などとは異なり、単独で算定することが難しい概念です。したがって、市場の状況や企業の経営環境、買収の目的などによって異なる算定結果となります。

そのため、単純な計算式で導き出すことは難しく、実際の評価では「コスト・アプローチ」「マーケット・アプローチ」「インカム・アプローチ」といった一般的なバリュエーション手法のなかで企業価値がまず算定されます。

この際、評価対象となる企業において支配株主の関与があるかどうかが、プレミアムを内包しているか、つまり、支配権が反映されている企業価値評価かを判断する上で重要な要素になります。支配株主の経営関与を前提にした評価であれば、そこには支配権が反映されており、コントロールプレミアムを内包していると解釈されます。

例えば、同じ企業を評価する場合でも、

①支配株主が経営方針を主導し、意思決定を行っている前提で企業価値を算定する場合は、その企業価値には支配権が反映されており、プレミアムが内包されていると判断されます。

②少数株主の立場を前提として、配当や株価上昇など「市場が反映する範囲内」で企業価値を評価する場合には、支配権プレミアムは含まれません。

こうした違いを踏まえ、最終的には市場価格(少数株主ベースの価値)と、支配権を含む評価額(支配株主ベースの価値)との差額を分析することで、支配権プレミアムの割合を推定します。

一般的には過去のM&A取引データなどを参考に、20〜40%程度の上乗せを基準として補正が行われます。

ただし、注意点として、実際の買収価格と市場株価の差額には、支配権プレミアムだけでなく、買収によるシナジー効果(相乗効果)や、ブランド・顧客基盤などののれんの価値も含まれるため、厳密に区別して算出することは困難です。そのため実務上は、それらをまとめて「プレミアム」として扱うケースが多く見られます。

つまり、支配権プレミアムは数式で直接求めるものではなく、企業価値評価において「どの立場で価値を測っているか」を踏まえて、内包的に評価される概念です。


4.支配権プレミアムは、主に第三者への説明の際に価格が公正であることを示すために用いられるという役割を担う

支配権プレミアムは、企業の買収価格や株価評価が「公正で合理的に算定されている」ことを、第三者に説明するために重要な役割を果たします。

買収価格が市場株価より高く設定される場合においては、なぜ上乗せが生じているのかを客観的に示す根拠が必要になるからです。支配権プレミアムを用いることで、「経営支配による付加価値」があるため価格が上昇しているという説明が可能となり、利害関係者に対して透明性を確保できます。

例えば、ある企業が株式公開買付(TOB)を行う際、市場株価より30%高い価格で買収を提案したとします。その場合、「なぜ30%も高いのか」という疑問が株主や監査法人、金融機関などから出ることは自然です。このとき「支配権の取得による経営自由度の上昇やキャッシュフロー支配による追加価値が存在するためである」と説明することで、取引の正当性と公正性を理論的に裏づけることができます。

したがって、支配権プレミアムは単なる評価上の概念にとどまらず、取引の透明性を担保し、第三者に対して「公正な価格形成が行われた」と説明するための重要な論拠として機能しているのです。


5.支配権プレミアムについて詳しく知りたい方は辻・本郷 FAS株式会社へご相談ください

支配権プレミアムの算定や適用判断は、企業価値評価において非常に専門的な領域です。正確な評価を行うためには、豊富な実務経験と専門知識を持つ専門家への相談が欠かせません。

支配権プレミアムは、企業の経営権を得ることで得られる意思決定権や経営効率化の可能性といった「目に見えない価値」を数値化します。

そのため、単なる株価比較ではなく、企業の財務構造・ガバナンス体制・事業戦略など多面的な要素を考慮する必要があります。特に、M&Aや事業承継においては、支配権の有無が取引価格に大きく影響するため、適切なプレミアムの設定は非常に重要です。

例えば、株式譲渡やグループ内再編の際、支配権を持つ株主と少数株主の持分をそれぞれ評価する場合、支配権プレミアムやマイノリティ・ディスカウントなどをどの程度反映すべきかには、慎重な判断が求められます。このようなケースでは、財務アドバイザリーの専門家が中立的な立場から評価を行うことにより、適正な価格設定や税務上のリスク回避につながります。

辻・本郷 FAS株式会社では、企業価値評価(バリュエーション)、M&Aアドバイザリー、株式評価業務などを通じて、支配権プレミアムに関する高度な分析と実務的な助言を提供しております。

支配権の有無が経営判断にどのような影響を及ぼすのか、具体的な算定が必要な際は、ぜひ一度ご相談ください。


6.まとめ

支配権プレミアムとは、企業の支配権を取得することで得られる経営上の利益を、通常の株価に上乗せして評価する考え方における、上乗せ分を指します。

支配株主は経営方針の決定や人事権、配当政策などに影響を与えることができるため、その権限自体に経済的な価値が生じます。この「経営を動かす力」が、支配権プレミアムの本質です。

同じ企業の株式でも、経営権を握る大株主と少数株主とでは価値が異なります。経営権を取得できる株主が支払う価格は、通常の市場株価よりも高く設定されることが一般的です。逆に、経営への影響力が小さい株主の持分は、マイノリティ・ディスカウントなどにより低く評価される傾向があります。

このように、支配権プレミアムは企業価値評価やM&Aの価格決定において重要な役割を果たします。正確な理解と適切な評価を行うためには、専門家の知見を活用することが不可欠となるため、お悩みの際は、辻・本郷 FAS株式会社へご相談ください。