【相続の失敗事例】贈与しすぎて失敗!老後資金が不足してしまった

「相続税対策といえば生前贈与」

そう考えて、お子さんやお孫さんに贈与をされている方も多いのではないでしょうか。

生前贈与は代表的な相続税対策の一つですが、良かれと思って進めていた贈与が、かえってご自身の首を絞める結果になることもあります。

本記事では、家族に贈与しすぎた結果、老後資金が不足ししてしまった事例を紹介します。

「なぜ失敗したのか」「どうしたら失敗を防げたのか」「他に方法はなかったのか」など、失敗事例をご自身に置き換えて、今後の相続対策に役立てていただけますと幸いです

1.事例の概要

Aさんは、夫を亡くしてからもうすぐ三周忌を迎えます。
夫は、1億円近い金融資産と都内一等地にある自宅を残してくれました。
夫はAさんの老後を心配して、「4人の娘たちにはそれぞれ現金500万円のみ相続させ、自宅と残りの金融資産等はすべてAさんに相続させる」という遺言を残していたため、Aさんは遺言どおりに相続しました。

夫の死後、一人暮らしとなったAさんのところへ、娘たちが入れ替わり立ち替わりやってきました。

1-1.二女からの提案

ある日二女が、
「お母さん(Aさんのこと)にもしものことがあったら今度は配偶者の軽減がないのだから相続税が大変よ」「孫やひ孫に学費の資金を贈与しても贈与税がかからない制度があって相続税対策になる」
と言い出し、二女の孫(Aさんのひ孫)に「教育資金の一括贈与」の制度で1,500万円贈与しました。

※「教育資金の一括贈与」の制度は、2026年3月31日新規契約・追加拠出の受付は終了しています。

1-2.三女・四女からの要求

二女の孫に1,500万円贈与したことを聞きつけた三女、四女もそれぞれの孫に贈与してくれと言い出しました。「二女の夫は失業中、あなた方の夫はお金持ちでしょ」と言っても聞き入れず、三女、四女のそれぞれの孫(Aさんのひ孫)へもしぶしぶ贈与しました。

1-3.長女からの請求

何も言わなかった長女は、今度は、孫(Aさんのひ孫)が結婚するにあたり、住宅を購入するので1,000万円資金を援助してあげてと言い、それだけでなく「妹たち(二女・三女・四女)には1,500万円あげたのだから、公平にしてもらうために結婚・子育て資金の一括贈与で500万円も後で贈与してね」と請求してきました。

※制度の解説は 4.事例に出てきた税務制度の解説 をご覧ください。

1-4.結果

夫が残してくれた金融資産は、いつしか1億円から2,000万円になってしまいました。

Aさんは老人ホームへの入居を検討しています。Aさんの収入は遺族年金だけなので、老人ホームの入居費用は夫の遺産を当てようと思いますが、入居費用を支払うと夫の遺産はほぼ使いきってしまいます。Aさんは今後の自分の生活に不安を感じるようになりました。

友人から、「教育資金や生活費の贈与はその都度あげれば、贈与税がかからないから、そんな大金を一度にあげなければよかったのに。相続税もそんなにかからないわよ」と聞き、なにも、自分の生活を切り詰めてまで孫たちに贈与することはなかったとつくづく早まった贈与を悔やんでいます。

二次相続(Aさんが亡くなったとき)の試算

贈与しなかった場合の二次相続税贈与後の二次相続税(※)
自宅4,000万円4,000万円
金融資産8,000万円2,000万円
合計1億2,000万円6,000万円
相続税額790万円60万円

※贈与資金を使い切ったと仮定した場合の試算。

2.今回の事例が失敗となってしまったポイント

今回の事例で、生前贈与が失敗に終わってしまった主なポイントは以下の4点です。

2-1.【ポイント①】相続税を減らすことだけを主眼にして生前贈与をしてしまった

相続税を減らすことだけを主眼にして生前贈与をしてしまったことが、大きな失敗ポイントの一つです。

相続税を減らすことだけに気を取られてしまうと、2つの重要な視点が抜け落ちてしまうことがあります。

1つ目は「そもそも本当に相続税対策が必要なのか」という点です。事前に相続税を試算してみると「実は相続税がかからない」「心配するほどではなかった」と判明し、生前贈与自体を取り止めるケースも少なくありません。

2つ目は、「自分自身の老後資金をしっかり確保する」という点です。相続税対策という目的だけに気を取られて多額の贈与を行ってしまうと、将来の生活費や医療・介護費用が不足し、本末転倒となる結果を招いてしまうことがあります。

2-2.【ポイント②】生活費等はその都度贈与すれば贈与税がかからないことを知らなかった

生活費等はその都度贈与すれば贈与税がかからないことを知らなかった点も、大きな失敗理由です。

扶養義務者相互間において生活費または教育費に充てるために贈与を受けた財産のうち、「通常必要と認められるもの」については贈与税の課税対象とならないとされています。

事例にでてきたような一括贈与制度を使わなくても、以下の3つの条件を満たせば贈与税はかかりません。

  1. 必要な金額を
  2. 必要な都度
  3. 直接学校等(または支払先)に支払う

ただし、数年分をまとめてもらって預金のままにしておいたり、もらった現金で株式や不動産を購入した場合は贈与税がかかることになります。しかし、上の条件を満たし、必要な都度支払っていれば、一度に大きな資金を手放す必要はありませんでした。

■辻・本郷相続ガイド 非課税で学費を生前贈与する3つの方法【方法①】生活費や教育費として都度贈与する

2-3.【ポイント③】生前贈与を公平に行わないと相続人間で問題を引き起こすことを考えなかった

生前贈与を公平に行わないと相続人間で問題を引き起こすことを考えなかったことも、トラブル拡大の原因となりました。

1人の相続人やその子供、孫に多額の贈与をした場合は、他の相続人たちにも同じく贈与しなければならなくなってしまうことがあります。

今回の事例でも、最初に二女の孫へ1,500万円贈与したことで、三女・四女・長女からも「公平にしてほしい」と次々に請求される事態になってしまいました。

2-4.【ポイント④】自分の老後の資金計画を考えずに安易に生前贈与してしまった

自分の老後の資金計画を考えずに安易に生前贈与してしまったことも、老後資金不足を招いた大きな失敗ポイントの一つです。

今回のAさんのケースであれば、まずはご自身の老後資金として、生活費、希望する老人ホームへの入居費用などを調べ、その資金をしっかり確保した上で、本当に必要なお金を都度贈与するか、一括贈与制度を活用するのが適切な選択だったと言えます。

3.解決策

今回のような失敗を防ぐための4つの解決策についてまとめます。

生前贈与で後悔しないためには、ご自身の生活を守りつつ、事前の試算と家族間のルール決めを行うことが大切です。

3-1. 自分のライフプランを優先して老後資金を確保する

まずは、自分のライフプランを優先して老後資金を確保することが大切です。

今後の生活費や自宅の維持費、将来の医療・介護費用・老人ホームへの入居資金など、手元に残すべき資金を事前に算出しておきましょう。相続税対策のための生前贈与は、ご自身の老後に必要な資金を確保した上で、あくまで無理のない範囲で検討しましょう。

3-2. 事前に専門家へ相談し正確な相続税額を試算する

事前に専門家へ相談し正確な相続税額を試算することが重要です。

生前贈与を実行する前に正確な相続税額を把握しておけば、「そもそも贈与が必要か」「いくら贈与するのが最適か」を客観的に判断することができます。

試算は相続専門の税理士に依頼することをおすすめします。

■辻・本郷相続センター 相続税試算

3-3. 一括贈与特例ではなく「必要な都度の贈与」を活用する

一括贈与特例ではなく「必要な都度の贈与(都度贈与)」を活用しましょう。

教育費や生活費は、必要なタイミングでその都度直接支払えば非課税になります。まとまった資金を一度に手放さずに済むため、使い残しによる課税リスクも避けられます。

■辻・本郷相続ガイド 【方法①】生活費や教育費として都度贈与する

3-4. 生前贈与は特定の親族だけに偏らず相続人全体の公平性に配慮する

生前贈与は特定の親族だけに偏らず相続人全体の公平性に配慮することが不可欠です。

一部の子供や孫だけに多額の贈与を行うと、親族トラブルの原因となることがあります。
「どんな時にいくらまで支援するか」などの一定のルールを決め、家族間で共有しておくことが失敗を防ぐ鍵となります。

4.事例に出てきた税務制度の解説

事例に出てきた一括贈与制度について解説します。

直系尊属へ贈与税がかからず一括して資金を贈与できる制度は、以下の3つが設けられています。

制度名非課税枠、期限
住宅取得等資金の贈与
  • 父母祖父母などから、省エネ等住宅1,000万円、一般の住宅500万円
  • 2026年12月31日 まで(2024年度税制改正で3年間の延長が決定)
結婚・子育て資金の一括贈与※1
  • 父母祖父母などから、最大1,000万円(うち結婚関係費用は最大300万円)
  • 2027年3月31日 まで(2025年度税制改正で2年間の延長が決定)
教育資金の一括贈与※2
  • 2026年3月31日新規契約・追加拠出の受付は終了
  • 期日までに口座へ預け入れ済みの資金は引き続き非課税で利用可能

※1 贈与者が死亡した際に使い切れなかった残額がある場合、その残額に相続税がかかります。
※2 令和3年4月1日以降の贈与は、贈与者が死亡した際に使い切れなかった残額がある場合、その残額に相続税がかかります。(受贈者が23歳未満や学校等に在学中等を除く)

■国税庁 No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
■国税庁 No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税
■国税庁 No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税

5.まとめ

本記事では、生前贈与をしすぎて老後資金が不足してしまったAさんの事例と、その失敗を防ぐための解決策を解説してきました。

生前贈与は代表的な相続税対策と言えますが、十分な計画がないまま進めると、ご自身の老後資金が不足したり家族間のトラブルを引き起こしたりするリスクがあります。

相続税対策だけに気を取られず、まずはご自身の生活を守ることを第一に考えて計画的に進めていきましょう。

本記事が、生前贈与や相続対策でお悩みの皆様の一助となれば幸いです。

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