
広告代理店は業種の特性上、多額の広告宣伝費や交際費、外注費などの経費処理が発生します。そのため、税務調査においては他の業種より詳細な確認が行われることがあります。 本記事では、広告代理店の税務調査におけるポイントや経費処理の注意点、そして調査に備えた対策について解説します。
目次
1. 広告代理店が税務調査の対象になりやすい理由
広告代理店は比較的、税務調査の対象となりやすい業種といわれています。それは、以下に述べるような特有の業務形態や経費計上の実態があり、他の業種と比べても透明性が曖昧になりやすい環境にあるからです。
1-1. 業務の実態が不明瞭になりやすいから
まず、業務の実態が他業種と比較して不明瞭になりやすいという点が挙げられます。
広告代理店では、バナー制作や動画編集といったクリエイティブ業務、マーケティング戦略の立案やメディア選定のアドバイスといったコンサルティング業務など、成果物が目に見えにくいサービスを提供することが多いです。そのため、取引の実態を客観的に証明することが難しいという特徴があります。
例えば、企画料やコンサルティング料として計上した費用でも、実際にはどのようなサービスに対する対価なのかが不明確だと、税務調査の際に疑念を持たれやすくなります。
また、広告業界特有の「リベート」や「キックバック」といった商習慣も、税務上においては懸念事項となりやすいです。媒体社から支払われる掲載量に応じた割引(ボリュームディスカウント)や特別な手数料収入などが帳簿に正しく反映されていない場合、売上の計上漏れや不正確な経費処理と指摘される可能性があります。
1-2. 交際費や広告宣伝費が過大になりやすいから
交際費や広告宣伝費が過大になりやすいことも理由として挙げられるでしょう。
広告代理店ではクライアントとの関係構築・維持のために、接待や会食の機会が多い傾向があります。そのため、交際費の支出額が他業種と比較して大きくなりがちです。
交際費は税法上、全額損金算入できない費用となっているため、税務調査では注目されやすい傾向にあります。
また、広告宣伝費の支出も大きくなりやすく、交際費を広告宣伝費として不適切に処理していないか、費用の性質に応じた適切な科目で計上しているかが税務調査の際にチェックされます。特に交際費と広告宣伝費の線引きが曖昧なケースは重点的に調査される可能性があるでしょう。
1-3. 外注費や仕入費の計上が多いことで不正の温床となりやすいから
外注費や仕入費の計上が多いことも理由の一つとして挙げられます。
広告代理店では、デザイナーやライター、カメラマンなど外部パートナーに業務を委託するケースが多くあります。このような外注費や、広告掲載などのための費用である仕入費の計上が多い業態では、架空発注や水増し請求といった不正も行われやすい環境にあるため、特に注意深く確認されます。
また、フリーランスのクリエイターやデザイナーへの報酬支払いが「外注費」として処理されていても、実態が雇用関係に近い場合は「給与」と認定されることもあります。外注費と給与の区分が曖昧であると、源泉所得税の徴収漏れなどの問題に発展する可能性があるため、税務調査の際に重点的にチェックされます。
2. 広告代理店が税務調査で見られやすいポイント
税務調査では広告代理店特有の経費処理や取引形態に焦点が当てられます。具体的にどのような点が調査されるのか、詳しく見ていきましょう。
2-1. 広告宣伝費は適正に計上できているか
広告宣伝費が適正に計上されているかは、税務調査で見られやすいポイントのひとつです。広告代理店では、自社の広告宣伝活動と顧客のために行う媒体費の支払いを明確に区別する必要があります。
具体的には、以下のような観点でチェックされます。
- 媒体費の支払先と実際の取引相手が一致しているか
- 取引に実態があり、適切な価格で行われているか
- 自社広告とクライアント広告は区別されているか
2-1-1. 媒体費の支払先と実際の取引相手が一致しているか
媒体費の支払いにおいては、請求書の発行元や振込先と、実際にサービスを提供した媒体社(テレビ局やウェブメディアなど)が一致しているかが確認されます。これは、媒体費の支払先と実際の媒体社が異なると資金の流れが不透明になり、不正の疑いが強まるためです。
たとえば、広告出稿の発注先がA社であるにもかかわらず、支払先が別の会社や個人になっている場合、実際の取引関係が不明瞭だとみなされる可能性があります。
こうしたケースでは、「中抜き」や「利益供与」の有無、業務実態の有無などが精査対象となりやすく、調査で問われた際は支払先と業務提供者の関係性を明らかにしておく必要があります。
2-1-2. 取引に実態があり、適切な価格で行われているか
媒体費の支払先が、関連会社や役員・従業員の親族が経営する会社などの場合は、特に取引の実態や価格の妥当性が重点的に確認されます。
関連会社や役員・従業員の親族が運営する会社との取引では、実態のない取引や相場を逸脱した価格設定による利益移転が行われやすいと見なされるため、このような関係者取引では、実際にサービスが提供されたのか、提供内容に見合った価格かどうかという観点から精査されます。
税務調査に備えるためには、発注書、契約書、納品書、成果物などの証憑を整備し、取引の目的や背景、価格の根拠について説明できる体制を整えておくことが重要です。
2-1-3. 自社広告とクライアント広告は区別されているか
広告代理店が自社のPRのために行う広告宣伝活動と、クライアントのために実施する広告活動は明確に区別する必要があります。これを混同すると、経費の過大計上や売上の過少計上につながるため、クライアントの広告費を自社の広告宣伝費として計上していないか、あるいはその逆のケースがないかが税務調査では調査されます。
そのため、広告費の計上においては、誰のために、どのような目的で支出されたのかを明確にし、それを裏付ける資料(企画書、稟議書、契約書など)を保管しておくことが大切です。
2-2. インターネット広告に関する税務処理は正確か
インターネット広告についての税務処理が正確に行われているかどうかも税務調査ではチェックされます。デジタル広告の急速な普及により、インターネット広告特有の税務問題が増加しています。従来の広告媒体とは異なる課税関係や処理方法について、正確な理解が求められます。
具体的には、以下のような観点でチェックされます。
- 成果報酬型広告の報酬において源泉徴収の必要性はあるか
- 海外事業者との取引における消費税の処理は適切か
2-2-1. 成果報酬型広告の報酬において源泉徴収の必要性はあるか
アフィリエイト広告などの成果報酬型広告では、広告主がアフィリエイターに支払う報酬について、源泉徴収義務の有無が問題となります。広告代理店はアフィリエイト施策を多く展開し、個人アフィリエイターとの関係が複雑化しやすいため、税務調査で源泉徴収の履行状況が重点的に確認されます。アフィリエイターが個人の場合、仕事の内容にもよりますが、その報酬は「報酬・料金」に該当し、所得税の源泉徴収が必要になることがあります。
しかし実務上、ASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダ)を介した取引では、広告主とアフィリエイターの間に直接の契約関係がないことから、源泉徴収の要否について判断が分かれることがあります。税務調査では、これらの取引における契約関係と資金の流れが精査され、源泉徴収義務の履行状況がチェックされる可能性があります。
2-2-2. 海外事業者との取引における消費税の処理は適切か
Google広告やFacebook広告など、海外事業者が提供するデジタル広告サービスを利用する場合、消費税の取り扱いに注意が必要です。2015年10月以降、海外事業者から受けるデジタルサービスは「リバースチャージ方式」(買い手側が消費税を申告・納税する制度)の対象となり、国内事業者側に申告・納税義務が生じます。
広告代理店は海外プラットフォームを活用した広告出稿が多いため、税務調査では、これらの海外取引について適切に消費税が処理されているか、リバースチャージ方式に基づく申告が行われているかが確認されます。特に、海外メディアへの広告出稿を頻繁に行う広告代理店では、この点が重点的にチェックされる傾向にあります。
2-3. 交際費と広告費の区分は適切か
交際費と広告費の区分が適切かどうかも、税務調査でよくチェックされるポイントです。広告代理店では、クライアントとの関係構築・維持のための支出が多く発生します。これらの支出が交際費なのか広告宣伝費なのかの区分は、税務上重要な問題です。
具体的には、以下のような観点でチェックされます。
- 接待に該当する支出が適切に処理できているか
- クライアント向けギフトや景品の処理は適切か
2-3-1. 接待に該当する支出が適切に処理できているか
クライアントとの飲食などの経費処理が適切かどうかは、税務調査で重要なチェックポイントとなります。広告代理店はクライアントとの飲食・接待が多く、交際費と会議費・福利厚生費の区分が曖昧になりがちなため、この点が重点的にチェックされます。
原則として、接待や会食などの飲食費は交際費に分類されますが、1人当たり1万円以下の飲食費であれば、一定の要件を満たすことで交際費から除外し、会議費や福利厚生費として全額損金算入することが可能です。
税務調査では、飲食費の領収書に記載された金額や参加者数、飲食の目的などが精査されます。特に注意すべきは、1人当たりの金額計算です。例えば、10人で12万円の飲食費が発生した場合、1人当たり1.2万円となり、1万円の基準を超えるため交際費となります。このような計算が正確に行われているかがチェックポイントとなります。
2-3-2. クライアント向けギフトや景品の処理は適切か
クライアントへの贈答品や景品の支出の経費処理は、税務調査における重要な判断ポイントとなります。広告代理店はクライアントとの関係構築を目的とした贈答やキャンペーン施策が多く、費用の区分が曖昧になりやすいため、税務上のチェックが特に厳しくなります。
クライアントへの贈答品や記念品は、通常交際費として処理されます。しかし、広告代理店が自社のロゴや名称を付したカレンダーやノベルティグッズを不特定多数に配布する場合は、広告宣伝費として処理することが可能です。
税務調査では、これらのギフトや景品が「特定の相手に対する接待・贈答」なのか、「不特定多数に対する宣伝活動」なのかが判断基準となります。例えば、高額な商品券や海外旅行などの景品を特定のクライアントに提供している場合、それを経費として処理していると、税務調査で否認される可能性があります。税務上、経費として認められるためには、その支出が「事業に直接必要な費用」である必要があります。特に商品券などの換金制の高い品物は経費の水増しが疑われやすいです。
2-4. 経費支出に関する証憑は整っているか
税務調査において最も基本的かつ重要なチェックポイントが、経費支出の証憑類(領収書や発注書、取引の契約書など)の整備状況です。広告代理店では多種多様な経費が発生するため、それぞれの支出に対応する適切な証憑が保存・管理されていることが求められます。
例えば、クリエイティブ制作費として多額の支出がある場合、単に請求書や領収書があるだけでなく、制作物の実物や成果物の写しなども保管しておくことが望ましいです。また、交際費については、参加者の氏名・所属や接待の目的を記録した社内資料があると、取引の実態を説明しやすくなります。
3. 税務調査に備えて日頃から実施すべき対策
2章のチェックされやすいポイントを踏まえて、広告代理店が実施すべき具体的な対策について解説します。調査官が来てから慌てないよう、日頃から適切な対策を講じておくことが重要です。
3-1. 帳簿・領収書を正確に整理する
日々の経理処理を正確に行い、2-1や2-4でも述べたようにすべての取引に対応する証憑書類を保管することが最も重要な税務調査対策です。
特に広告代理店では、広告出稿費や制作費などにより高額な取引が発生しやすいため、それらの取引に関する契約書、発注書、納品書、請求書などをセットで保管しておくことが望ましいです。
領収書や請求書には、具体的な取引内容や日付、金額などが明記されているか確認し、不明瞭な点があれば追記するなどの対応が必要です。例えば、単に「制作費」とだけ記載されている領収書は、具体的に何を制作したのかを追記しておくことで、後から説明しやすくなります。
3-2. 社内で経費についての規程を明文化しておく
広告代理店では、交際費や出張費、会議費など、判断に迷いやすい経費が多く発生します。これらの経費処理を統一的に行うためには、社内で経費についての規程を明文化して運用することが効果的です。
経費規程には、交際費の定義や上限額、会議費として認められる条件、出張旅費の計算方法など、日常的に発生する経費の取り扱いを具体的に定めておきます。
経費規程に基づいて処理された経費は、税務調査の際にも「社内規程に基づく統一的な処理」として説明しやすくなります。逆に、規程がないまま場当たり的に経費処理を行っていると、税務調査で「思いつきで処理しているのではないか」と判断されるリスクが高まります。
3-3. 不明瞭な取引の有無を定期的にチェックする
不明瞭な取引がないか、日頃から自主的にチェックし、是正しておくことも対策の一つとして挙げられます。定期的な内部監査や自主点検を実施することで、問題のある取引を早期に発見し、対処することができます。
特にチェックすべき項目としては、高額な外注費や制作費の支出先、関連会社との取引、海外事業者との取引などが挙げられます。取引の必要性や金額の妥当性、契約内容の適切さなどを確認し、不適切な点があれば改善します。
3-4. 承認フローを文書化して支出の裏付けを明確にする
支出の承認フローを明確にし、文書化しておくことも重要です。広告代理店では、クライアントの要望に応じて急な支出が発生することも少なくないからです。
具体的には、支出の目的、金額、承認者、承認日時などを記録した稟議書や決裁書を作成し保管しておく、高額な支出や通常とは異なる取引についてはより詳細な説明資料を添付するなど、後から説明できるようにしておきましょう。
また、クライアントからの依頼に基づく支出については、クライアントとの打ち合わせ記録やメールのやり取りなども証憑として保管しておくと、取引の実態を説明しやすくなります。
3-5. 経理と営業の連携体制を整える
広告代理店では、営業部門が主導する取引や支出が多く、経理部門がその内容を十分に把握できていないケースがあります。営業部門がクライアントとの関係を優先して独自に判断・対応することが多く、取引内容や支出の詳細が経理部門に共有されにくいため、このようなことが起こりがちです。税務調査に適切に対応するためには、経理部門と営業部門の連携体制を強化することが重要です。
例えば、営業担当者が交際費や広告宣伝費を使用する際には、その目的や相手先、金額などを事前に経理部門に報告するルールを設けるといった方法があります。また、定期的に経理部門から営業部門へのレクチャーを行い、税務上のリスクや正しい経費処理の方法について理解を深めることも効果的です。
特に重要なのは、「なぜその支出が必要だったのか」「なぜその相手と取引したのか」といった取引の背景や必要性を経理部門が理解し、記録しておくことです。これにより、税務調査の際に適切な説明ができるようになります。
3-6. クライアントとの契約内容と実際の対応履歴を突合する
広告代理店では、クライアントとの契約内容と実際の業務内容が乖離するケースがあります。これは、顧客の要望や急な依頼に応じて施策を打つうちに、契約内容の変更や新規要件の追加がなされるためです。税務調査では、契約書に基づいた適切な売上計上や経費処理が行われているかがチェックされるため、定期的に契約内容と実際の対応履歴を突合することが重要です。
具体的には、クライアントとの契約書や発注書に記載された業務内容と、実際に提供したサービスや納品物が一致しているかを確認します。また、契約金額と請求金額、入金額が一致しているかも重要なチェックポイントです。
特に注意すべきは、契約書に明記されていない追加業務や変更業務が発生した場合の取り扱いです。このような場合は、クライアントとの合意内容を記録した議事録やメール、変更契約書などを保管しておくことで、後から説明できるようにしておきましょう。
4. 税務調査や日頃の経理処理に不安がある場合は税理士に相談しよう
広告代理店特有の経費処理や税務的に注意すべき点は複雑であり、独力で対応するには限界があります。しかし、税務の専門家である税理士に相談することで、適切な経理処理や税務対策を行うことができるでしょう。
税理士へ相談することにより、以下のようなメリットが得られます。
- 税務調査の際に窓口となり、税務署との交渉や書類提出をサポート。
- 過去の経理処理に不安がある場合、正確性を確認し、必要に応じて修正申告をアドバイス。
- 社内の経費規程や経理体制を効率的かつリスクの低い運用に整備。
- 税務調査に向けた事前準備を行い、スムーズな対応ができるようサポート。
- 税制の最新情報を基に、節税対策や税務戦略を提供。
税理士は単なる税金の計算役ではなく、経営アドバイザーとしての役割も果たしてくれます。広告業界の特性を理解している税理士であれば、業界特有の税務リスクを事前に指摘し、適切な対策を提案してくれるでしょう。
5. まとめ
広告代理店は業種の特性上、多様な経費処理や複雑な取引構造があるため、税務調査で細かく調査されやすい業種です。特に交際費と広告宣伝費の区分、外注費と人件費の区分などが重点的にチェックされます。税務調査に備えるためには、日頃から帳簿や証憑書類を適切に管理し、社内経費規程を明文化して運用することなどが重要です。
適切な経理処理や税務対策に不安がある場合は、広告業界の特性を理解した税理士に相談することをおすすめします。専門家のアドバイスを受けながら、コンプライアンスを徹底した経営を行うことが、持続可能なビジネス展開につながるでしょう。

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