事業承継ファンドとは?M&Aとの違い・スキーム・向いている企業

author-avatar
監修者 松浦真義

事業承継ファンドとは、後継者問題や資金不足など「事業承継」においての経営課題を抱えた中小企業を対象として、資金やノウハウなどの投資を行うファンドをいいます。

 

具体的には、投資ファンドが対象企業の未公開株を取得して企業の経営に深く関与し、企業価値を高めた後に譲渡して利益を得る、というのが一般的なスキームです。

事業承継ファンドの場合、M&Aと違い、ファンド側の目的は「企業を買収すること」ではなく、「企業価値を高めて利益を得ること」となります。そのため、M&Aよりも多くのメリットを享受できる可能性があります。

一方で、支援してくれるファンドが見つからない場合もあるなど、デメリットや注意点ももちろん存在します。

 

「事業承継ファンドってどういうものなのか、調べてもよく分からなかった」という方でも腹落ちできるよう、この記事で事業承継ファンドについてわかりやすく紹介していきます。

事業承継ファンドの活用が実現しやすい企業の特徴についても説明するので、ぜひ最後まで読んで参考になさってみてください。


目次

1. 事業承継ファンドとは

まずは事業承継ファンドとはなにか、言葉の意味について説明していきます。

1-1. 事業承継を目指す企業を投資先としたファンドのこと

事業承継ファンドとは、ファンドの一種で、事業承継を目指す企業を投資先として選んで運用を行うファンドをいいます。

 

そもそもファンドとは、投資家から集めた資金を投資先に投じて、投資先の価値を高めて利益をあげることを目指す事業のことをいいます。

 

また、その中で、未上場企業の株式を取得して、企業価値を高めて利益を得ることを目的としたファンドが「PEファンド」と呼ばれています。事業承継ファンドは、さらに、その対象企業が「事業承継を検討している企業」の場合をいうのが一般的です。

事業承継ファンドでよく使われるスキームは以下の通りです。

  1. ファンド運営会社(投資会社)が投資家から集められた資金を元手に、ファンドを設立します。

  2. 投資先企業(事業承継したい企業)の株式の過半数を取得します。

  3. 過半数の議決権を握って経営に深く入り込み、3年〜5年などの期間で企業価値を高めます。

  4. 企業価値が高まったところで、第三者への売却や株式公開などで利益を得ます。(売却益は投資家へと再分配されます。)

これが事業承継ファンドでよくある流れですが、実際には、具体的な内容を「事業承継したい企業」とファンド側で決めていくこととなります。

1-2. 事業承継ファンドにもさまざまな種類がある

事業承継ファンドのスキームとしてよく知られているのは、先ほど説明したように非上場株式に投資を行うPEファンドですが、それ以外にも事業承継時に活用できるファンドはあります。

 

【事業承継ファンドのさまざまな種類(一例)】

PEファンドによる事業承継型ファンド

・多くの投資家から集めた資金で非上場株式を取得し、経営に関与して成長させた後に利益を投資家に還元するファンド

 

ファンド例:日本プライベートエクイティ株式会社、SBI地域事業承継投資

地域密着型の事業承継ファンド

・自治体が主導するファンドで、後継者問題の解決や地域の中小企業の存続を支援する目的で実施される

PEファンドによる事業承継型ファンド

・多くの投資家から集めた資金で非上場株式を取得し、経営に関与して成長させた後に利益を投資家に還元するファンド

ファンド例:日本プライベートエクイティ株式会社、SBI地域事業承継投資

地域密着型の事業承継ファンド

・自治体が主導するファンドで、後継者問題の解決や地域の中小企業の存続を支援する目的で実施される

・自治体が出資者として資金を拠出し、地域の事業承継を支援してくれる

ファンド例:TOKYO事業承継支援ファンド

中小機構の中小企業再生ファンド

・中小企業基盤整備機構(中小機構)が主体となって行われているファンド

・投資家から資金を集め、経営不振や破綻企業を再生する目的で実施される

ファンド例:中小企業再生ファンド

サーチファンド

・サーチャー(経営者候補)個人が自ら中小企業を探して、出資者の支援を受けながら経営権を取得し、企業価値向上を目指す投資手法

ファンド例:株式会社サーチファンド・ジャパン、Japan Search Fund Acceleratorなど

 

この記事では、PEファンドによる事業承継型ファンドをメインに想定して説明を進めていきます。


2. 事業承継ファンドが有効となる4つのケース

ここからは、事業承継ファンドが有効となる具体的なケースを紹介していきます。

事業承継ファンドが有効となる4つのケース

  1. 後継者がいない場合
  2. 後継者はいるが十分な資金がない場合
  3. 後継者はいるが経営ノウハウが不十分な場合
  4. オーナーは引退するが現経営陣に引き続き任せたい場合

具体的なケースを読むことで、さらに「事業承継ファンドがどのようなものか」イメージできるはずです。

2-1. 有力な後継者候補がいない場合

事業承継ファンドが有効となる代表的なケースは、後継者がいない場合です。後継者問題に直面している企業にとっては、事業承継ファンドは企業を存続するために有効な手段となるはずです。

 

M&Aでの事業承継を行う場合には、他の企業に売却後に吸収されるケースが多いですが、事業承継ファンドは企業を立て直した後に単独で存続していける可能性があります。

 

ファンド運営会社が持っている人脈の中から、企業にあった後継者探しを手伝ってもらうことも可能です。また、まだ実力が十分でない後継者候補を育成してもらう選択肢もあります。

 

経営理念を守りながら経営再建を行いたい企業にとっては非常に有効な選択肢となるでしょう。

2-2. 後継者はいるが十分な資金がない場合

事業承継ファンドを有効に活用できるもう1つのケースは、事業を継がせたい後継者はいるものの、その後継者に株式を取得するだけの十分な資金がない場合です。MBO(従業員承継)の資金を出資する「MBOファンド」の仕組みと同様です。

 

MBOファンドでは、ファンド運営会社から資金を調達してもらうとともに経営支援も得ることができます。後継者育成も実施してくれるため、後継者がノウハウを取得しながら事業を成長させていきます。

 

その間に後継者が資金を用意し、十分な資金がたまったら株式を買い戻すというやり方になります。

2-3. 後継者はいるが経営ノウハウが不十分な場合

後継者候補はいるものの経営ノウハウが不十分、という場合も、事業承継ファンドを活用することができます。例えば「息子に事業を継がせたいが、まだ後継者としては任せられない」というケースなどが該当します。

 

ファンドの目的は「投資対象の企業価値を高めること」にあるため、そのために後継者育成が必要であれば、会社の状況に合わせて後継者を育てながら事業拡大の支援をしてもらうこともできます。

 

ファンドの力を借りて事業を拡大した後に後継者が会社を引き継ぐ選択肢を取ることもできるのは大きなメリットといえるでしょう。

2-4. オーナーは引退するが現経営陣に引き続き任せたい場合

現在の経営陣が今後も携わる意思を持っている場合は、事業自体は事業承継ファンドに引き継ぐものの、経営陣メンバーに発行済株式の一部を再出資してもらうことで引き続き経営に携わってもらうことも可能です。

 

繰り返しになりますがファンドの目的は「投資対象の企業価値を高めて投資家に利益を分配すること」であり、経営権を掌握することではありません。ファンドと経営陣が協力して事業を成長させていくことが可能です。


3. 事業承継にファンドを活用するメリット

事業承継ファンド以外にも事業承継の方法がある中で、事業承継ファンドを選ぶメリットはどこにあるのでしょうか。

 

4つのメリットそれぞれについて、詳しく解説していきます。

3-1. メリット1:専門家の経営支援を受けて企業価値を高めることができる

事業承継ファンドを選ぶメリットとしては、ファンド運営会社に在籍する専門家の経営支援を受けて、企業価値を向上することができるという点にあります。

 

事業承継時にM&Aを行う場合には、M&A前に自社で企業価値を上げておく必要があります。しかしながら、事業承継ファンドは経営を立て直す部分についても任せることができるのが大きなメリットといえるでしょう。

 

事業承継ファンドを利用する場合には、財務改善や成長戦略、ガバナンス強化などの他、後継者を育成したり適任の後継者を探してきたりするサポートを受けることができます。

3-2. メリット2:企業理念・文化・風土を維持できる可能性が高い

事業承継ファンドを選ぶメリットとして、企業理念・文化・風土を維持できる可能性が高いというのも大きなメリットとなります。維持できる理由としては、事業承継ファンドの目的が「企業価値を向上させてから売却して利益を得る」という部分にあるからです

 

さらに分かりやすく説明するため、事業承継型M&Aと比較して説明していきます。

 

事業承継の方法としてM&Aを実施する場合には、買い手企業の目的は、自社のための人材の確保や、技術・ノウハウの獲得など買い手企業の価値を上げることを重視していることが多いです。

 

そのため、一般的に、M&A後に買い手企業に吸収された後には、買い手企業の企業の文化・理念・社風などに合わせる必要があり、合わない従業員が離職してしまうケースも発生します。

 

事業承継ファンドでは、企業理念や文化、風土、そして経営者の意向を十分に踏まえた上で経営支援を実施してくれるため、それらを維持しやすいのが大きなメリットとなります。

3-3. メリット3:株式を売却して資金を獲得できる

一般的な事業承継ファンドでは、経営者が保有する自社の株式をファンドに売却して事業を引き継ぐことで、株式の売却益を得ることができます。

 

廃業する選択肢と比べると、まとまった今後の資金を得られるだけでなく、大切に育ててきた事業も存続されるというのは大きなメリットといえるでしょう。

3-4. メリット4:理想的な後継者を見つけられる可能性がある

事業承継ファンドのメリットとして、理想的な後継者を見つけられる可能性が高いという点もあります。

 

事業承継ファンドの運営会社は多くの経営者やプロフェッショナル、若手リーダー候補などとのネットワークを持っているため、経営者の意向や企業のニーズに沿った最適な後継者を見つけられる可能性が高くなります。

 

また、経営者が事業を継がせたい後継者の育成をサポートしてくれることもあります。経営の専門知識や経験を持つファンドが後継者候補に対しての育成支援を行ってくれるため、後継者に事業をスムーズに引き継がせる準備を整えることが可能です。


4. 事業承継にファンドを活用する場合のデメリット・注意点

ここからは反対に、事業承継にファンドを活用する場合のデメリット・注意点についても解説していきます。

それぞれとても重要なポイントなので、ファンドの活用を前向きに考えている方も、ぜひ目を通してください。

4-1. デメリット1:支援してくれるファンドが見つからない場合もある

「事業承継でファンドを活用したい」と希望したとしても、支援に名乗りを上げてくれるファンドが見つからなければ成立しないからです。資金やノウハウを投資する価値がないと判断されてしまえば、それまでです。

 

多くの自治体が予算を確保して事業承継ファンドに出資していますが、そうしたファンドに申し込んでも必ずしもサポートを受けられない可能性があります。

 

具体的には、決まった期間内で企業価値を高めるのが難しいと想定される場合や、経営状況が悪くリスクが高いと判断される場合には、支援を断られることがありえます。

 

また、ファンドによっては投資対象企業の目安が定められていることがあります。例えば東京都が出資者となっている「TOKYOファンド」の場合は、投資対象企業の目安として「年商1億円前後〜30億円、従業員10名以上が一つの目安」とされています。

 

参考:TOKYO事業承継ポータルサイト「TOKYOファンドについて」

 

企業規模が小さい場合には、小規模案件への投資を表明しているファンド(例えば、SBI地域事業承継投資やマラトンキャピタルパートナーズ )なども検討しましょう。

4-2. デメリット2:経営の主導権が失われる可能性がある

事業承継にファンドを活用する場合のデメリットとしては、自社の株式をファンドに売却するため、経営の主導権が失われる可能性がある点にあります。

 

もっともファンドが出資する一番の目的は、企業価値を高めて投資家に利益を分配することにあります。そのため、企業の経営権を掌握することを目的としていないケースもあります。

 

活用するファンドによりますが、株式売却後も引き続き元オーナーに経営に携わって一緒に事業を立てしていくのが主流となるでしょう。

 

しかしながら、ファンドに売却した株式の保有割合が50%を超える場合には、当然ながらファンドに経営権がある状態となります。そのため、ファンドの意向によっては、元オーナーが当初継承させたいと考えていた後継者に事業継承されなかったり、経営の主導権が失われたりする可能性は当然あります。

 

心配であれば、「当ファンドは経営権の確保を目的としていないため、無議決権株式の活用を基本としています。」のように明記しているファンドを活用するのもおすすめです。

4-3. デメリット3:利益追求型のファンドだと経営者の意向が軽視される可能性がある

ここまで解説してきた通り、事業承継時に活用できるファンドといってもさまざまな選択肢があります。そのため、自社と相性の良いファンドが必ずしも見つかるとは限らない点にも注意が必要です。

 

最近では、事業承継M&Aや事業承継ファンドの事例が増えてきていることもあり、利益のみを追求するようなファンドも中には存在します。こうしたファンドに事業承継を託してしまうと、借金を増やして投資を行ったり、強引なやり方で従業員がついていけなかったり、雇用が継続されなかったりする可能性があります。 

 

ファンドの性質上、企業価値向上を短期間で実現することが優先され、急なリストラや事業再編が行われる可能性も否めません。

 

事業承継時にファンドを活用する場合は、投資ファンドの実績や特性などをしっかりと理解して、自社の意向と合った経営改革を行ってくれるか慎重に判断する必要があります。

 

また、従業員の雇用維持や労働条件などについて、ファンドとの契約時に条項を設けておくなども検討しましょう。

4-4. デメリット4:適切な経営支援が行われるかは投資ファンドの質によって異なる

ファンドを活用して事業承継を行う場合には、投資ファンドの質によって適切な経営支援が行われるかが変わってくる点にも注意が必要です。

 

先ほども解説しましたがファンドといっても玉石混淆なので、ファンド運営者の実績が足りなかったり、特定業界に対しての理解が不足していたりすると、適切な経営支援を受けることができない可能性があります。

 

事業を再建できるかどうかや、どのような支援が行われるかは、投資ファンドによって異なります。投資ファンドによっては、事業承継の結果が左右されることになります。

4-5. デメリット5:事業承継後のM&Aで企業理念などが変化する可能性がある

先ほど事業承継ファンドのメリットとして「企業理念・文化・風土を維持できる可能性が高い」ということを説明しましたが、ファンドが企業価値を向上させた後の出口戦略(EXIT)としてM&Aなど第三者への売却を行った場合には、企業理念などが変わってしまう可能性はあります。

 

事業承継ファンドが企業文化を尊重して企業再建をしてくれたとしても、新たな買い手企業の手に渡ることで変わってしまうことはありえます。

 

企業理念や風土が失われることに不安がある場合には、売却後もアドバイザーや取締役として関与を続けるなど、事業継続性が保ちやすくなるような対策を考えておくと良いでしょう。

 

また、ファンド側と契約を締結する際に、将来のEXIT先やEXIT方法に一定の条件を設ける条項を付けるなども検討することをおすすめします。


5. 事業承継ファンドの活用が実現しやすい企業の特徴

事業承継ファンドは後継者不在や資金不足などの悩みを抱える企業にとって有効な選択肢になるものですが、デメリットの1つ目でも解説した通り、必ずしも投資してくれるファンドが見つかるとは限りません。

 

ここからは、事業承継ファンドの活用が実現しやすい企業(投資先対象になりやすい企業)の特徴を解説していきます。実際に存在する事業承継ファンドの基準を参考にしながら紹介していきます。

5-1. 社会的意義が高い企業や競争優位性を持つ企業

事業承継ファンドの投資先として選ばれやすいのは、社会的意義が高い企業や競争優位性を持つ企業です。ファンド側も時間をかけて経営を立て直して事業承継の手伝いをしていく訳なので、何かしらの付加価値を生み出している企業に投資することが多くなります。

 

例えば、投資ファンド運営会社である「ベーシック・キャピタル・マネジメント株式会社」の投資方針では投資対象に以下のように記載されています。

  • 社会的な意義の高い事業を営む国内企業

  • 商品、サービス、ビジネスモデルに特徴、競争優位性を有する企業

引用:ベーシック・キャピタル・マネジメント株式会社「投資方針と投資実行先」

「ベーシック・キャピタル・マネジメント株式会社」では、原則として議決権の過半数を取得し、投資先経営陣と共に経営改革を支援するスタイルを取っています。

5-2. 安定したキャッシュフローがあり持続的な成長が見込まれる企業

安定したキャッシュフローがあり中長期的に持続的な成長が見込まれる企業も、ファンド側から投資対象とされやすい企業の特徴となります。

 

投資ファンドからしても、3年〜5年など限られた期間の中で事業を立て直して企業価値を高める必要があるため、そのための素地を持つ企業に投資したいと考えるのは当然のことでしょう。

 

例えば「ティーキャピタルパートナーズ株式会社」では、以下のような企業を投資対象として記載しています。

  • 国内に主な事業基盤を有し、安定したキャッシュフローと中長期的に持続的な成長が見込まれる企業を主な投資対象としています。

  • 幅広い業種を投資対象としています(特定の業種にフォーカスはしていません)。

  • 1件あたりのエクイティ投資額は40〜140億円、対象企業の企業価値は100〜500億円を目安としています。(※)

    引用:ティーキャピタルパートナーズ株式会社「投資方針」

5-3. 年間売上高は1億円〜数十億円がひとつの目安となる

投資ファンドによって異なるものの、年間売上高は1億円〜数十億円程度の企業が投資対象となりやすいひとつの目安となるでしょう。なぜならば、以下のようにいくつかの事業承継ファンドでの投資基準となっているからです。

TOKYOファンドの投資対象(東京都が出資)

  • 東京都内に本社または、拠点のある企業を中心として、事業承継に課題を抱えている企業が対象となります。
  • 年商1億円前後〜30億円、従業員10名以上が一つの目安となります。

引用:TOKYO事業承継ポータルサイト「TOKYOファンドについて」

日本プライベートエクイティ株式会社の投資対象

  • 売上が数億円~50億円程度で、安定的に推移している中小企業

  • 役員報酬や節税分も含め、実質的に一定の収益力を有している。

  • 企業価値の総額では、数億円から30億円程度が一つの目安です。

  • 業種としては、差別化が図られており、その会社や事業がマーケットや取引先にとって、なくてはならない存在であることが望ましいです。

    引用:日本プライベートエクイティ株式会社「FAQ」

    ※ただし、絶対的な基準があるわけではないと記載されています。

中には小規模案件への投資を表明しているファンドもありますし、売上高は絶対の基準ではありません。

 

しかしながら上記のように目安を記載しているファンドもあり、年間売上高が1億円〜数十億円規模の企業だとファンドの選択肢が広がることは間違いないでしょう。

 

また、1億円未満のM&A案件が増加している現状を考えると、事業規模が小さい企業にとってはファンドよりもM&Aのほうが選択肢が広がる可能性があります。ぜひ1つの検討材料としてみてください。


6. 事業承継ファンドは他の選択肢と並行して進めていこう

ここまでの内容を見て、事業承継ファンドの有効性を感じた方も多いかもしれません。しかしながら、事業承継ファンドの活用を見据えて進めていく場合も、ファンド一本で考えるのではなく、他の選択肢も含めながら並行して進めていくことをおすすめします。

 

他の選択肢としては、第三者への売却や外部招聘(外部から後継者を招くこと)、親族・従業員からの後継者育成、上場による株式公開(IPO)などがあります。

 

なぜならば、事業承継ファンドの活用がベストな解決策かどうかは企業によって異なるからです。また、事業承継ファンドの実施数が伸びてきているとはいえ、ファンドが希望する投資先対象と認められなければ実現できないからです。

 

事業承継ファンドを活用した事業の立て直しを希望する場合も、事業承継に詳しい専門家に相談しながら、他の選択肢を併せて検討していくのが合理的です。事業承継は自社の事業規模や状況に応じて柔軟に進めることが重要であり、専門家を活用することで、より的確な選択が可能になります。


7. 事業承継ファンドを活用する場合の相談先

最後に「自社の事業承継においてもファンドを活用することを検討したい」という場合の相談先について紹介します。

 

事業承継ファンドを進める場合の相談先としては、以下の3つの選択肢があります。

事業承継ファンドを活用する場合の相談先

  1. ファンドの運営会社に直接問い合わせる
  2. 中小企業基盤整備機構に相談する
  3. 事業承継全体について相談できる窓口に相談する【おすすめ】

それぞれの相談先について、解説していきます。

7-1. 事業承継ファンドの運営会社に直接問い合わせる

事業承継ファンドの運営会社を調べて、「ぜひこのファンドを活用したい」というファンドがある場合には、直接その運営会社に問い合わせることで、詳しい条件などを教えてもらえるはずです。

 

事業承継ファンドの内容が記載されている公式ページから、「お問い合わせ」フォームなどで問い合わせをしてみましょう。

7-2. 中小企業基盤整備機構に相談する

独立行政法人中小企業基盤整備機構が投資する「事業承継ファンド」を活用したい場合には、独立行政法人中小企業基盤整備機構のファンド事業部(03-5470-1672)に相談することができます。

 

事業承継を目指す企業向けのファンドを教えてもらったり、詳しい連絡先を教えてもらったりすることができるはずです。

参考:経済産業省「事業承継・M&Aに関する主な支援策」(PDF)

なお、中小企業基盤整備機構の公式サイトの「ファンド検索」から、「事業承継を目指す企業向け」など条件を検索してファンドを絞り込むことも可能です。ぜひ活用してみてください。

7-3. 事業承継全体について相談できる窓口に相談する【おすすめ】

事業承継ファンドを前向きに進めたい方の相談先として、最もおすすめなのは、事業承継全体について相談できる窓口に相談するという選択肢です。

 

なぜならば、前章でも述べた通り、事業承継ファンドだけを検討するのではなく、事業承継の全体を俯瞰して最善な選択肢や方向性を見つけていくことが大切だからです。

 

事業承継やその先の事業の行方を見通して、さまざまな経営アドバイスをもらえる相談先を見つけることが重要です。

 

例えば当事務所「辻・本郷 税理士法人」はグループ内に、弁護士法人や司法書士法人、M&A仲介会社、ビジネスコンサルティング会社などを有しており、他の専門家の力が必要になった時に、弁護士や司法書士、M&A仲介会社など他の専門家と連携して事業承継支援を行っていくことが可能です。

当事務所のように広い視野を持ち、経営全般についての深い知識や経験を持つ事業承継コンサルティングを受けられる相談先を見つけて、ファンドだけでなく親族内承継や従業員・役員への承継など、さまざまな方向性を今一度検討してみることをおすすめします。

 

もし相談先に困ったら、ぜひ以下のような強みを持つ辻・本郷 税理士法人にご相談ください。

辻・本郷 税理士法人が、事業承継の相談先に最適な理由

理由1:100名の専門スタッフ、累計1,000件の事業承継支援実績など、実績が業界トップレベル

理由2:全国に90拠点あり、全国どこでも事業承継についてのご相談を受け付けることが可能

理由3:グループ内の他の専門家と連携して、事業承継に関するあらゆるお悩みを解決

理由4:明確な料金体系があり、初回面談で詳細にお伝えすることが可能

理由5:税務署OB・OGによる税務調査を意識した対応も可能


まとめ

本記事では「事業承継ファンド」について解説してきました。最後に、要点を簡単にまとめておきます。

◆事業承継ファンドとは

・事業承継を目指す企業を投資先としたファンドのこと

・事業承継ファンドにもさまざまな種類がある(PEファンド、地域密着型、中小機構など)

 

◆事業承継ファンドが有効となる4つのケース

  1. 後継者がいない場合
  2. 後継者はいるが十分な資金がない場合
  3. 後継者はいるが経営ノウハウが不十分な場合
  4. オーナーは引退するが現経営陣に引き続き任せたい場合

 

◆事業承継にファンドを活用するメリット

メリット1. 専門家の経営支援を受けて企業価値を高めることができる

メリット2. 企業理念・文化・風土を維持できる可能性が高い

メリット3. 株式を売却して資金を獲得できる

メリット4. 理想的な後継者を見つけられる可能性がある

 

◆事業承継にファンドを活用する場合のデメリット・注意点

デメリット1:支援してくれるファンドが見つからない場合もある

デメリット2:経営の主導権が失われる可能性がある

デメリット3:利益追求型のファンドだと経営者の意向が軽視される可能性がある

デメリット4:適切な経営支援が行われるかは投資ファンドの質によって異なる

 

◆事業承継ファンドの活用が実現しやすい企業の特徴

  1. 社会的意義が高い企業や競争優位性を持つ企業
  2. 安定したキャッシュフローがあり持続的な成長が見込まれる企業
  3. 年間売上高は1億円〜数十億円がひとつの目安となる

 

◆事業承継ファンドを活用する場合の相談先

  1. ファンドの運営会社に直接問い合わせる
  2. 中小企業基盤整備機構に相談する
  3. 事業承継全体について相談できる窓口に相談する【おすすめ】

 

事業承継ファンドを前向きに検討する場合も、ファンドだけに選択肢を絞るのではなく、事業承継の全体を俯瞰して最善な選択肢や方向性を見つけていくことが大切です。

 

事業承継にお悩みの方は、ぜひ数多くの事業承継をサポートしてきた辻・本郷 税理士法人にご相談ください。