事業承継マッチングとは?仕組みやメリット、利用手順を一挙解説!

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監修者 松浦真義

・金融機関 …日本政策金融公庫「事業承継マッチング支援」やメガバンク・地方銀行によるもの ・国や自治体 …中小企業基盤整備機構「事業承継・引継ぎ支援センター」 や各自治体によるもの ・民間業者 …民間企業が運営する、事業承継支援やM&Aのプラットフォーム「60歳を目前に持病が悪化後継者を探したい。事業承継マッチングって、実際どうなの?」

「マッチングを使って、うちの会社の良さをそのまま、受け継いでくれる相手と出会いたい!」

 

事業承継のマッチングは、事業や会社を譲りたい事業主と、事業を譲り受けたい第三者をつなぐための、仕組みやサービスです。

事業承継のマッチングサービスの、主な提供機関は以下3つです。

詳細は「5.【主な3種類】事業承継マッチングの提供機関」で紹介しているので、参考にしてください。

 

事業承継のマッチングサービスを使うと、幅広い候補の中から承継相手を探せるので、理想的な承継先と出会える可能性を上げられます

 

一方で、マッチングサービスを利用した事業承継は、時間と手間、精神的負担が大きく、失敗する可能性も否めないというデメリットや注意点も見逃せません。

 

不安を解消するためには、事業承継のマッチングについて、知識を深めていくことがおすすめです。

 

そこでこの記事では、事業承継マッチングの基本的な知識や、マッチング利用の手順や準備まで、網羅的に解説していきます。

 

事業承継のマッチングに関する基本知識はもちろん、マッチング利用のメリット・デメリットや、実際の成功事例も紹介するので、自社で活用できそうかどうか、判断するヒントにしてくださいね。


目次

1. 事業承継のマッチングとは?

事業承継のマッチングは、事業や会社を譲りたい事業主と、事業を譲り受けたい第三者をつなぐための、仕組みやサービスです。

 

マッチングサービスの仕組みは、とてもシンプルです。

 

まずは、会社を譲りたい事業主が、マッチングサイトなどに、自社の情報を掲載します。その情報を、第三者が見つけ、サイトを通じて事業主にコンタクトを取り、事業承継を進めていきます。

実は、事業承継マッチングは、M&A(企業の合併や買収、事業統合など)の一手法です。

 

従来、M&Aは大企業によるものが中心でしたが、最近では中小企業でも、一般的な事業承継の手段として、広く活用されるようになってきています。

 

かつてはM&Aというと、身売りや乗っ取りなど、ネガティブなイメージが主流でしたが、最近では、企業の存続や成長を目的とした実施が増えており、ポジティブなイメージに変化しつつあります。

 

また、事業継承マッチングは、社長の高齢化や後継者不足といった、社会問題の解決策としても、大きな注目を集めています。

 

近年の中小企業を中心とした、後継者不足の問題は深刻で、東京商工リサーチの調査によると、2024年の「後継者不在率」は62.15と全体の半数を超えており、調査開始の2019年から上昇し続けています。

参考:東京商工リサーチ「後継者不在率、1.06ポイント上昇の62.15%

 

このような背景もあり、国や自治体も、事業承継マッチングの活用を後押ししています。


2. 事業承継マッチングを利用する3つのメリッ

事業承継のマッチングには、さまざまなメリットがあります。

 

今回は、以下3つのメリットについて、解説します。

1)コストを最小限に抑えられる

2)自分のペースや価値観で、事業承継に取り組める

3)幅広い候補の中から承継先を探せる

現在、事業承継をするかどうか悩んでいる方は、ぜひチェックしてくださいね。

2-1. コストを最小限に抑えられる

1つ目のメリットは、コストを最小限に抑えられる点です。

 

事業承継のマッチングサービスは、譲渡側は無料で使える場合がほとんどです。

譲渡側譲受側
M&A専門の仲介業者

取引金額の25

(数十万~数百万円程度)

数十万~数百万円程度
マッチングサービス0円

取引金額の25

(数十万~数百万円程度)

一方で、MAを専門とした仲介業者を利用する場合、取引金額の25%程度の成功報酬が必要です。別途、着手金や月額利用料がかかる場合もあり、合わせて数十万~数百万円程度のコストが一般的です。

 

マッチングサービスを利用することで、コストを最小限に抑えて、事業承継を目指せるでしょう。

マッチングサービスを選ぶときは、サポート体制をチェックしよう!

M&A専門の仲介業者の利用料がマッチングサービスより高いのは、その分サポートが手厚いからです。

 

仲介業者を依頼する場合、承継相手の選定や契約の際の手続き、スケジュール管理・調整などを、業者に任せることができます。

 

一方でマッチングサービスを利用する場合には、基本的には自分の力で、候補の選定や交渉、手続きを進めなければなりません

 

しかし、一言でマッチングといっても、利用するサービスによって、サポート体制は異なります。提供元によっては、アドバイスやフォローなど、サポート体制が手厚いサービスもあります。

 

利用するマッチングサービスを選ぶときは、どのようなサポート体制が取られているか、事前に確認するなどして、提供機関や業者の選定を念入りにすることをおすすめします。

2-2. 自分のペースや価値観で、事業承継に取り組める

2つ目のメリットは、事業主が自分のペースや価値観で、事業承継に取り組める点です。

 

マッチングサイトで承継先を探す場合、自ら主体となって候補を探し、交渉を行います。

 

そのため、自分のタイミングや意思で、好きなように作業に取り組めます。仲介業者を介すると、締め切りの設定などもあり、自分のペースで取り組むのは難しくなるでしょう。

 

また、間に人を挟まないことで、自分の価値観を最優先して、候補者の選定や交渉が可能です。仲介業者を介すると、第三者の意見が聞ける一方で、自分の価値観を曲げなければならない局面もあります。

 

マッチングサービスの活用で、自分のペースや価値観を重視して、事業承継を進められるでしょう。

2-3. 幅広い候補の中から承継先を探せる

3つ目のメリットは、承継候補を幅広く探せる点です。

 

事業承継のマッチングでは、インターネットを通じて、承継候補を探します。そのため、地域や年齢や経歴など、あらゆる垣根を超えた、候補者との出会いが期待できます。

 

候補者が豊富な分、自社のニーズに合った相手との、マッチングの可能性も、高くなります。

 

例えば「会社を長く続けてほしい」「事業を大きくしてほしい」という願いがあるなら、若い候補者や経験の豊富な候補者を選べば、事業承継による会社や事業の発展が望めるでしょう。

 

マッチングサービスを使うと、幅広い候補の中から、自社にぴったり合った承継先を探せるでしょう。


3. 事業承継マッチングを利用する3つのデメリット

事業承継マッチングの利用には、メリットがある一方、デメリットもあります。

 

今回は、以下3つのメリットについて、解説します。

1)時間と手間、精神的負担がかかる

2)希望を実現できるだけの交渉力が必要になる

3)成立後に後悔する場合がある

ご自身にとって、デメリットが許容範囲内かどうか、考えてみましょう。

3-1. 時間と手間、精神的負担がかかる

1つ目のデメリットは、時間と手間、精神的負担がかかることです。

 

2-3.幅広い候補の中から承継先を探せる」で述べた通り、マッチングサイトを使うと、たくさんの候補の中から、承継先を探すことができます。

 

でもそれは「数多くの候補から、承継先を、たった1つ選ばなければならない」とも言い換えられます。

 

M&A専門の仲介業者を利用すれば、承継候補をある程度まで比較・検討して紹介してもらえますが、マッチングを利用する場合には、数多くの候補の比較・検討の作業にも、自ら取り組むのが基本です。

 

1つひとつの候補を比較・検討するのには、多くの時間と手間がかかります。多忙な社長業のかたわら、1人で承継先の選定作業をするのは、そう簡単なことではないかもしれません。

 

また、23の候補先にしぼり、コンタクトを取ってからは、相手方との交渉に入ります。交渉の際、仲介人はいないので、交渉が難航したり、相手方と揉めたりして、どちらかが断念するリスクは付き物です。

 

マッチングサービスを活用する場合、時間や手間だけでなく、それ相応の精神的負担がかかることも、覚悟しておかなければなりません。

3-2. 希望を実現できるだけの交渉力が必要になる

2つ目のデメリットは、承継に関する希望を実現するには、それなりの交渉力が必要だということです。

 

M&A専門の仲介業者を利用する場合、交渉そのものを依頼することはできませんが、交渉にあたって、助言やサポートを受けることは可能です。

 

しかし、マッチングサービスでは、基本的には1人で相手方とのやり取りや交渉をしなければなりません。

 

中小企業の事業主の場合、多くの方は、事業承継に取り組むのは初めてのはずです。

 

初めての事業承継では、交渉ではどのようなことを話すべきなのか、話をどう進めていくべきなのかつかめず、自信を持って交渉に臨めないケースもあるでしょう。

 

また、譲受側の交渉力の方が高い場合、相手の有利に話を運ばれてしまい、思い描いていたのとは違う結果となるリスクも考えられます。

 

自分の希望や理想を、実現に持っていけるだけの交渉力がなければ、マッチングによる事業承継の成功は困難でしょう。

3-3. 成立後に後悔する場合がある

3つ目のデメリットは、事業承継後に、後悔する場合があることです。

 

マッチングサイトでは、承継候補の選定や交渉を自ら行います。特に難しいのが、相手方の見極めです。

 

交渉などで面談する機会には、書面の条件を確認するだけでなく、承継候補の経営手腕や能力、自社との相性などを、自分の目で判断しなければなりません。

 

もし、相手方とのマッチングがうまくいかないと、承継後に経営方針や事業内容、社風がガラリと変わり、愛着のあった自社とは、別の会社のようになってしまう可能性があります。

 

最悪のケースでは、承継相手の経営能力の不足から、承継後に経営がいきづまり、承継から数年以内に廃業という結末も考えられます。

 

マッチングサービスでは、自分だけの力で相手をうまく見極める必要があります。第三者の視点が入れられる、仲介業者を利用するよりも、成立後に後悔するリスクが高まるでしょう。


4. 会社の可能性を模索したいなら、マッチングの利用がおすすめ

ここまで、事業承継マッチングを利用する、メリットとデメリットを紹介してきました。

 

しかし、まだまだマッチングの利用に、不信感や迷い、戸惑いのある方も多いのではないでしょうか。

 

それでも、もしあなたが、「会社の持つ可能性を模索したい」「可能性の幅を狭めたくない」と考えているのなら、思い切ってマッチングを利用してみることをおすすめします。

 

マッチングの利用で、会社の可能性が模索できる理由は、以下2点です。

  • 自分の価値観だけを頼りに、幅広い候補の中から承継先を探せる

  • マッチングの利用で、新たな気づきや知見が得られる

4-1. 自分の価値観だけを頼りに、幅広い候補の中から承継先を探せる

1つ目は「2-2.自分のペースや価値観で、事業承継に取り組める」や「2-3.幅広い候補の中から承継先を探せる」で述べた通りです。

 

マッチングを利用する場合、自分が主体となって、相手探しや交渉を行います。他者の視点が入らないため、候補先の規模や業種、第三者による評価などで、範囲を狭める必要はありません。

 

だからこそ、マッチングを利用すると、あらゆる分野や業種の承継候補と出会い、コンタクトを取り、話をする機会がたくさんあります。

4-2. マッチングの利用で、新たな気づきや知見が得られる

2つ目は、マッチングの利用によって、さまざまな候補と出会い、対話する経験を積むことで、以下のような気づきや知見が得られることです。

  • 自分の価値観や、承継への希望を改めて見つめ直す

  • 自社の新たな魅力や可能性を発見する

  • 承継候補者の経営能力を見極める

  • 候補先との交渉の手順や方法が分かる

ここで得た気づきや知見は、候補者探しや交渉を進めていくための、大きなヒントとなるでしょう。

 

確かに、「3-1.時間と手間、精神的負担がかかる」で述べた通り、自分主体で行う事業承継は大変です。さまざまな負担を免れることはできません。

 

しかし一方で、悩んだ分だけ、得られる経験や出会いが増やせることも、ひとつの事実です。

 

自社の魅力を一番よく知っているあなた自身が、マッチングを利用して自力で承継先を探してこそ、自社のさらなる可能性を模索することができるでしょう。


5. 【主な3種類】事業承継マッチングの提供機関

ここまで記事を読んできた方は、事業承継マッチングに少しずつ興味がわいてきたのではないでしょうか。そこでここからは、マッチングサービスについて、具体的に解説していきます。

 

まずは、マッチングサービスの提供元の種類について、取り上げます。

 

事業承継マッチングの提供機関は、主に以下3種類に分けられます。

それぞれの提供機関によって、サービス内容の特徴が異なります。

 

自社の事業承継に利用すべきなのは、どの機関のマッチングサービスか、考える参考にしてくださいね。

5-1. 金融機関

金融機関によるマッチングサービスは、最も一般的で、よく知られています。

 

2022年版「中小企業白書」によると、譲渡側として譲受側を探す場合に「金融機関に依頼する」と答えた企業の割合が、59.9%と、選択肢の中で最も多かったことが分かっています。

出典:中小企業庁「2022年版「中小企業白書」」

金融機関による事業承継マッチングの特徴は、以下の通りです。

強み

・経営状況などを把握しているため、スピーディーに話が進む

・着手金不要、譲渡側は手数料無料のケースが多く、コストが抑えられる

・アドバイザーによる手厚いサポートが受けられる場合もある

こんな人におすすめ!

取引先の金融機関が、マッチングサービスを提供している人

 

ただし、マッチングサービスを提供していない金融機関もあるので、注意しましょう。

 

現在、日本政策金融公庫のほか、メガバンクや地方銀行、信用金庫といった、あらゆる金融機関が、事業承継マッチングのサービスを提供しています。

出典:日本政策金融公庫「事業承継マッチング支援

5-2. 国や自治体

後継者不足という社会的課題を背景に、国や自治体などの公的機関によるマッチングサービスも一般的になりつつあります。

 

特に、地方では、少子高齢化や人口減少などの影響が大きく、各地域に特化したマッチングサービスを提供している自治体が増えています。

 

国や自治体による事業承継マッチングの特徴は、以下の通りです。

強み

・公的機関が設けているサービスのため、安心感がある

・基本的に誰でも利用できるため、相談のハードルが低い

・行政が相談窓口を設けている場合もあり、合わせて利用できる

こんな人におすすめ!

・事業承継の初心者で、助言や支援が欲しい人

・セカンドオピニオンとしての活用を考えている人

・(自治体の場合)地域内で事業承継を行いたい人

 

ただし、エリアによっては、マッチングサービスを提供していない自治体も多いので、注意しましょう。

 

現在、中小企業基盤整備機構「事業承継・引継ぎ支援センター」 や各自治体が、事業承継マッチングを提供しています。

出典:中小企業基盤整備機構「事業承継・引継ぎ支援センター

国の公的な窓口である「事業承継・引継ぎ支援センター」 は、各都道府県に設置されています。

 

各センターで、中小企業診断士や税理士、公認会計士などの専門家が、マッチングから成約まで、手厚いサポートを提供しています。

出典:東京都産業労働局「事業承継・再生支援事業

また、自治体が主体となっているマッチングサービスの1つに、東京都の取り組みが挙げられます。

 

東京都では、都内中小企業者を対象に、国内事業者とのM&Aマッチング支援を行っています。

 

自治体によっては、民間のマッチングサービスと連携して、サイトを共同運用する取り組みを行うところも増えています。

5-3. 民間業者

民間業者が提供するのは、譲渡側と譲受側が直接取引を行う、事業承継やM&Aのプラットフォームです。

 

民間業者による事業承継マッチングの特徴は、以下の通りです。

強み

・誰でも気軽に利用できる

・利用者が多く、承継候補の幅が広い

こんな人におすすめ!

・事業承継の知識や経験がある人

・人を見る目や交渉力には自信がある人

ただし、利用の際には、以下の注意点に留意する必要があります。

  • サポートの手厚さは、サービスによって大きく異なる

  • 利用者の質にバラつきがある

  • 譲渡側であっても、コストがかかる場合がある

6. 【5ステップで完結】事業承継マッチングを利用する際の手順

ここでは、事業承継マッチングを利用する前に把握しておきたい、利用手順を見ていきます。

 

大まかな流れは、以下5つの段階に分けられます。

各ステップについて、1つずつ紹介していくので、イメージをふくらませてみてくださいね。

6-1. 【STEP1】提供機関・サービスを選定する

事業承継マッチングの利用を決めたら、最初に、どの提供機関によるサービスを利用するか選びます。

 

5.【主な3種類】事業承継マッチングの提供機関」で紹介した通り、事業承継マッチングの提供機関は、主に以下3種類に分けられます。

  • 金融機関 …日本政策金融公庫「事業承継マッチング支援」やメガバンク・地方銀行によるもの
  • 国や自治体 …中小企業基盤整備機構「事業承継・引継ぎ支援センター」 や各自治体によるもの
  • 民間業者 …民間企業が運営する、事業承継支援やM&Aのプラットフォーム

それぞれの提供機関に向き・不向きがあるので、自社にはどの提供機関が良さそうか、以下の表などを参考に、検討してみてくださいね。

サービスの提供機関

向いている人
金融機関取引先の金融機関が、サービスを展開している
国や自治体
  • 事業承継の初心者で、助言や支援が欲しい

  • セカンドオピニオンとしての活用を考えている

  • (自治体の場合)地域内で事業承継を行いたい

民間業者
  • 事業承継の知識や経験がある

  • 人を見る目や交渉力には自信がある

 

提供機関は、必ずしも1つにしぼる必要はありません。

 

特に、国や自治体によるサービスは、誰にでも利用ができ、セカンドオピニオンとしての活用も可能なので、金融機関や民間業者のサービスと組み合わせて利用するのもおすすめです。

 

また、サービスによっては、サイトで成功事例の確認ができたり、登録せずに案件が検索できたりする場合もあります。

 

まずは実際のサイトなどを確認して、サービス選びの参考にしましょう。

6-2. 【STEP2】事業承継マッチングサービスに登録、案件を公開する

利用するサービスを選んだら、登録に入ります。

 

譲渡側として登録する場合、一般的に、フォームに以下のような情報を入力して、登録を行います。

 

事業承継マッチングサービスの登録内容

  • 地域、組織形態、業種

  • 事業内容

  • 主要な取引先

  • 業歴

  • 許認可

  • 売上高、経常利益、純利益

  • 従業員数、役員数

  • アピールポイント

  • 譲渡理由

  • 希望する譲渡形態

  • 希望する譲渡金額

  • 譲渡先への希望(条件)

参考:日本政策金融公庫「事業を譲り渡したい方

第三者承継(M&A)では、具体的な取引に入るまではノンネーム(匿名)で、個社・個人が特定されないようにするのが一般的です。

 

しかし、個社・個人が特定されるリスクを気にかけ過ぎると、情報を十分に載せられず、マッチング候補が集まりづらくなってしまいます。

 

だからこそ、登録内容の中でも特に重要な、事業内容とアピールポイントについては、自社のイメージや魅力が、第三者にしっかり伝わる内容にする必要があります。

 

譲渡形態や金額、譲渡先に求めることなど、譲渡を行う側としての希望条件も、具体的に明確化しておきましょう。候補探しや交渉がスムーズに進められます。

 

なお、マッチングサービスの中には、匿名ではなく実名を明かして承継先を探す、オープンネームのサービスもあります。ご自身の希望やニーズに応じて、使い分けましょう。

6-3. 【STEP3】承継候補を選定し、さらなる情報提供を行う

マッチングサービスへの登録、案件公開が済んだら、具体的な候補先の選定に入ります。

 

交渉依頼を出してきた複数の承継候補の中から、承継を現実的に考えられる相手を選定しましょう。

 

匿名でのサービスを利用している場合、選定先には、会社を特定されない範囲の情報を簡易的にまとめた「ノンネームシート」という資料を提示します。

 

その後、さらに詳細情報を求めてきた候補に対してのみ、秘密保持契約を結んだうえで、会社の実名を明かし、決算書や会社案内といった詳細資料を提供します。

出典:日本政策金融公庫「事業を譲り渡したい方

6-4. 【STEP4】マッチング先と交渉を行う

秘密保持契約後、相手方からの希望があれば、具体的な交渉に入ります。

 

交渉の具体的な方法としては、トップ面談や企業訪問の実施が一般的です。

 

トップ面談とは

マッチング先と、初めて顔合わせをして行う、事業主同士の面談。

疑問点の解消や希望のすり合わせ、経営の考え方や今後の方向性など、意見を共有、協議する。

企業訪問とは

マッチング先の希望に応じて、事務所や店舗、工場などの見学を受け入れる。

従業員不在の日時を設定するなど、配慮が必要(従業員への報告は、譲渡完了後が望ましいため)。

トップ面談や細かい交渉が済み、相手方から意向表明の書面を受け取ったら、基本合意に入ります。

 

意向表明のみで済ませる場合もありますが、円滑な承継を目指すなら、弁護士や税理士、公認会計士などの専門家を交えた基本合意の手続きを経ることをおすすめします。

 

なお、基本合意を結んだ場合、ほかの候補先との交渉はできなくなるので注意が必要です。

 

相手方から希望があれば、デューデリジェンスを受け入れます。

 

デューデリジェンスは、譲渡企業の実態調査で、主に以下のような内容が調査されます。

財務
  • 売上債権の回収可能性

  • 棚卸資産の資産性

  • 有価証券・不動産・保険積立金の時価評価

  • 保証金・繰延資産の資産性

  • 一過性の損益の把握

  • 役員報酬の把握

  • 家事按分の把握

労務・人事
  • 就業規則の確認

  • 労基署の調査の確認

  • 社会保険・労働保険の確認

  • 未払給料・未払保険料の確認

  • 労働組合との関係の把握

法務
  • 許認可の確認

  • 訴訟の有無の確認

引用:日本政策金融公庫「事業を譲り渡したい方

6-5. 【STEP5】具体的な契約手続きに入る

基本合意やデューデリジェンス後には、最終的な条件の擦り合わせを行います。

 

譲渡契約の締結に入るために、譲渡契約書の作成を始めましょう。

 

譲渡契約書を作成する際には、契約後のトラブルを避けるため、弁護士や税理士、公認会計士など専門家の助言を受けることをおすすめします。

 

事業契約書には、以下のような内容を明記します。

  • 譲渡対象資産・負債の範囲、譲渡価格

  • 譲渡実行日

  • 表明保証・損害賠償

  • 保証債務、担保権の抹消

引用:日本政策金融公庫「事業を譲り渡したい方

契約締結後には、承継先から代金の支払い(クロージング)を受けます。基本的に、締結とクロージングは同日に行うことが推奨されていますが、契約内容に応じて、柔軟に対応します。


7. 事業承継を成功させるためにやるべき3つの準備

ここでは、事業承継の具体的な行動に入る前にしておくべき、主な準備を紹介します。

 

今回は以下3つの準備を取り上げます。

  1. 自社の資産や経営状況・課題を洗い出す

  2. 計画を立てる(専門家に相談する)

  3. 経営改善を実施する

一般的に、事業承継の準備を始めるタイミングは、早ければ早いほどいいといわれており、税務や法務上の対策の可能性を増やすには、最低でも5年前からの準備が理想的だとされています。

 

数年先を見越した行動を、先手を打って取ることで、事業承継を成功させることができるでしょう。

 

今できることは何なのか、これからどう動くべきなのか、把握しておくために、ぜひご一読ください。

7-1. 自社の資産や経営状況・課題を洗い出す

事業承継を考えたら、まずすべきことは、自社の資産や経営状況、課題の洗い出しです。

 

会社の資産は、主に以下5つの種類に分けられます。

  • ヒト=労働力、創造性、技術力など

  • モノ=事業用資産(設備・不動産)、商品・サービスなど

  • カネ=資金、株式など

  • 情報=顧客データ、取引先のネットワーク、研究成果など

  • 知的資産=特許、企業理念、組織構造など

引用:中小企業基盤整備機構「事業承継のための準備

1種類ずつ、自社にはどんな資産があるか、具体的にリストアップしましょう。項目によっては、その資産の保持者についても、明確化しておきます。

 

経営状況の1つの指標となる「経営指標」は、会社の売上高や利益、資産、キャッシュフローといった、決算書の数字から、算出できます。出入りの税理士や公認会計士などに、助言をあおいでも良いでしょう。

 

特に、自社株や経営資源の評価額の算定については、税金対策もできる税理士への相談がおすすめです。

 

経営課題を把握するには、自社の抱える問題やリスクを、解決方法も含めて導き出す必要があります。

 

スタンダドな方法として、SWOT分析というフレームワークがあります。自社の外部・内部環境を、強み・弱み・機会・脅威という4つの項目から、整理・分析することで、課題を明確化できます。

7-2. 計画を立てる(専門家に相談する)

自社の資産、経営状況・課題の洗い出し・可視化ができたら、事業承継の計画を立てていきます。

 

最も理想的なのが、承継実施のタイミングを遅くとも5年後に設定し、この時点で税理士などの専門家に、相談を始めるというスケジュールです。

 

専門家の助言を受けながら、早めに計画を立てることで、事業承継に関する対策が取りやすくなり、余裕を持った対応が可能となります。

 

「事業承継計画」を立てる際には、日本政策金融公庫の「事業の未来を描くためのつなぐノート」のフォーマットを参考にしても良いでしょう。

出典:日本政策金融公庫「事業の未来を描くためのつなぐノート

7-3. 経営改善を実施する

経営改善の取り組みも、計画の重要な要素です。

 

経営状況の改善を図り、自社の「磨き上げ」を行うことで、事業承継における自社の価値を上げ、マッチングで他者に「選ばれる会社」にレベルアップできます。

 

具体的には、以下のような取り組みが考えられます。

  • 業務プロセスや担当割の見直し、効率化

  • 従業員間の技術・ノウハウの蓄積や伝承

  • 役員や従業員の職務権限の見直し

  • 新製品の開発や発売

  • 定款や規程文書の確認

  • 資産の整理(処分・売却を含む)

  • 債務の整理

  • 株式の集約

  • 在庫や備品の確認、整理

ビジネス面はもちろん、財務や税務、法務など、あらゆる方面からの改善を検討しましょう。


8. 事業承継するなら、専門家集団「辻・本郷 税理士法人」に相談しよう

ここまで、マッチングを利用した事業承継の、手順や準備について、解説してきました。

 

その中で何度か、税理士を含む専門家の、助言や支援について言及していることに気がつきましたか?

 

特に以下のような場面では、トラブル防止のためにも、専門家によるフォローがマストです。

  • 資産や経営状況の洗い出し

  • 事業承継の計画立案

  • マッチング先との交渉

  • 交渉後の手続き

  • 契約書の作成

中でも税理士は、事業承継の対象となる、以下5つの資産のうち、メインとなる「モノ」、「カネ」のプロフェッショナルです。

  • ヒト=労働力、創造性、技術力など

  • モノ=事業用資産(設備・不動産)、商品・サービスなど

  • カネ=資金、株式など

  • 情報=顧客データ、取引先のネットワーク、研究成果など

  • 知的資産=特許、企業理念、組織構造など

引用:中小企業基盤整備機構「事業承継のための準備

もちろん、他3つの要素についても専門知識があるので、安心して事業承継のフォローを依頼できますよ。

 

実際、商工組合中央金庫が20247月に行った調査によると、事業承継の相談相手に、顧問税理士や会計士を選んだ割合は84.4と、全体の8割を超えています。

出典:商工組合中央金庫「中小企業の事業承継に関する調査

「辻・本郷税理士法人」は、あらゆる分野における支援実績を持つ、国内最大手の税理士事務所です。

日本最大規模の81拠点を有する専門家集団が、グループ全体でクライアントの課題解決を目指します。

事業承継をするうえで、税理士に相談したいと考えているのであれば、「辻・本郷税理士法人」なら、安心して相談できるでしょう。


9. まとめ

事業承継のマッチングは、事業や会社を譲りたい事業主と、事業を譲り受けたい第三者をつなぐための、仕組みやサービスです。

事業承継のマッチングサービスには、さまざまな種類があり、主な提供機関は以下3つです。

どのマッチングサービスを利用する場合にも、基本的には自分の力だけで、事業承継先の選定や交渉、契約手続きを進めなければなりません。

 

そのため、マッチングサービスによる事業承継には、多くの時間や手間、精神的負担がかかります。

 

それでも、会社の可能性を模索したい」と考えているのであれば、事業承継マッチングの利用を検討すると良いでしょう。