
協調融資とは、2つ以上の金融機関が協調して事業資金の融資を行う手法であり、主に大企業の資金調達手法として用いられてきました。
最近では、協調融資は中小企業にとっても有効な資金調達方法となっています。
本記事では、協調融資を中小企業が利用する場合のメリット・デメリットだけでなく、利用の流れや向いているケースなども解説しています。
協調融資について理解を深めた上で、事業資金を調達する際の選択肢として検討してみましょう。
目次
1.協調融資は中小企業でも利用できる
協調融資は、中小企業でも利用することができます。
日本において、協調融資は大企業に対する巨額の資金供給手法として発展した歴史的経緯があり、現在でも「協調融資=大企業向け」というイメージを持たれることが少なくありません。
一方、近年は日本政策金融公庫と民間金融機関が連携するケースを中心に、中小企業に対しても協調融資で多額の資金供給が行われる事例が増加しています。
2024年には、日本政策金融公庫と民間金融機関との間で27,414件の協調融資が行われており、2020年のコロナ禍以降は毎年件数が増加しています。
2.中小企業が利用できる協調融資は3タイプ
中小企業が利用できる協調融資には、主に次の3タイプがあります。
- 日本政策金融公庫と民間金融機関による協調融資
- 保証協会付き融資とプロパー融資を組み合わせた協調融資
- 複数の民間金融機関による協調融資
多くの中小企業にとって最も利用しやすいのは、日本政策金融公庫と民間金融機関による協調融資です。
次から、それぞれのタイプを詳しく解説します。
2-1.日本政策金融公庫と民間金融機関による協調融資
中小企業が利用できる主な協調融資は、日本政策金融公庫と民間金融機関の組み合わせによるものです。
公庫と民間金融機関との間で融資を分担することで、単独の金融機関による融資より高額な資金提供を行うものです。
例えば、1,800万円の融資を希望する中小企業に対し、日本政策金融公庫が1,000万円、民間金融機関が8800万円を貸し付けるといったケースが挙げられます。
上記の例で、金融機関単独では1,200万円の融資しかできないような場合には、協調融資を利用することで希望通りの融資を実現しやすくなります。
特に次のような分野に取り組む中小企業に対しては、日本政策金融公庫と地方銀行・信用組合などが連携して、重点的に融資が行われています。
- 創業・新事業
- 事業再生
- 事業承継
- ソーシャルビジネス
- 農林水産業
2-2.保証協会付き融資とプロパー融資の組み合わせ
中小企業に対しては、民間金融機関の保証協会付き融資とプロパー融資を組み合わせた協調融資も行われています。
プロパー融資に、信用保証協会による返済保証がある融資を組み合わせることで、金融機関の貸倒れリスクを抑えながら多額の融資を行うことを可能にするものです。
2025年3月には「協調支援型特別保証制度」が創設され、上記のスタイルによる協調融資を中小企業が利用しやすくなりました。
制度を利用する条件は、次の通りです。
- 金融機関からの保証付き融資の実行と同時に、保証付き融資額の1割以上(融資期間12か月以上)のプロパー融資を受けること
- 融資を受ける企業は、金融機関の支援を受けつつ、自ら経営行動計画の策定並びに計画の実行及び進捗の報告を行うこと
例えば、200万円のプロパー融資を受けられる企業の場合、プロパー融資の200万円に加えて、保証付き融資でその10倍の2,000万円を調達することができます。
また、協調支援型特別保証制度では、保証付き融資に伴う保証料のうち1/2~1/4の補助が受けられます。
少額でもプロパー融資を受けることができれば、中小企業にとっては信用力アップにつながります。
日本政策金融公庫による協調融資に比べると実績は多くありませんが、中小企業が資金調達を行う際の選択肢になります。
2-3.複数の民間金融機関による協調融資
中小企業向けの協調融資には、複数の民間金融機関同士で行われるものもあります。
民間金融機関同士による協調融資の多くは、都市銀行が幹事となって複数の金融機関を取りまとめて行われるものであり、主に大企業による巨額の資金調達手段として用いられています。
ですが、一部の民間金融機関では、地方銀行などと連携して地域の中小企業向けに協調融資を行う事例もみられます。
3.協調融資を中小企業が利用するメリット
協調融資による資金調達は、中小企業にとって複数のメリットがあります。
- 多額の融資が下りやすい
- 創業時や実績が少ない時期でも利用しやすい
- 日本政策金融公庫なら連携先の金融機関を探してくれる
- 複数の金融機関との取引実績が作れる
特に、事業実績の乏しさなどがネックで希望額の融資が難しい中小企業にとっては、メリットの大きい資金調達手段です。
次から、各メリットを見ていきましょう。
3-1.多額の融資が下りやすい
中小企業が協調融資を利用する最大のメリットは、多額の資金調達がしやすい点です。
資産や売上の規模に対して融資の希望額が大きい場合、単独の金融機関だけでは融資に応じてもらえなかったり、融資額を減額されてしまったりするケースがあります。
協調融資では、複数の金融機関が連携して融資額を分担することで、希望する融資額を調達しやすくなるのです。
3-2.創業時や実績が少ない時期でも利用しやすい
協調融資には、創業時や実績が少ない中小企業でも資金を調達しやすくなるメリットもあります。
事業実績が少ないうちは返済能力や信用力などの判断材料が乏しいため、創業や事業拡大に伴うまとまった資金調達に苦労するケースが少なくありません。
一方、協調融資なら複数の金融機関の間で貸倒れリスクを分散できるため、創業から数年以内の中小企業でも資金調達がしやすくなります。
3-3.日本政策金融公庫なら連携先の金融機関を探してくれる
日本政策金融公庫に協調融資を相談すれば、連携先の金融機関を探してくれる点もメリットです。
日本政策金融公庫では全国各地の金融機関とのパイプを活かして、自ら協調融資の連携先の調整を行ってくれます。
中小企業にとっては、協調融資に応じてくれる金融機関を探す負担が軽減され、融資を利用するハードルを下げることができます。
3-4.複数の金融機関との取引実績が作れる
中小企業にとっては、複数の金融機関との間で取引実績を作れる点も協調融資のメリットと言えます。
一般的、過去に取引実績がある金融機関では、融資審査で有利になる傾向があります。
協調融資の利用を通じて複数の金融機関と取引の実績を作ることで、将来の資金調達のしやすさにつながるのです。
4.協調融資を中小企業が利用するデメリット
協調融資の利用にあたっては、次のようなデメリットもあります。
- 一方の金融機関で審査に落ちると協調融資はできない
- 融資実行まで時間がかかる
- 金融機関ごとに返済が必要
- 創業前に協調融資を受けると追加融資で不利になることもある
特に、設備投資などで非常に多額の資金が必要な場合など、多くの金融機関が関わって協調融資が行われるケースでは、上記のデメリットも大きくなります。
以下で、それぞれのデメリットを具体的に見ていきましょう。
4-1.一方の金融機関で審査に落ちると協調融資はできない
協調融資特有のデメリットの一つは、融資を行うすべての金融機関で審査を通過する必要がある点です。
協調融資の審査は、融資を行う各金融機関で個別に行われます。
もし、いずれかの金融機関で融資審査が通らなかった場合、協調融資全体が行われません。
協調融資を利用する中小企業は、金融機関から見て実績や財務状況などに懸念があるケースも少なくありません。
そのため、審査落ちに伴うリスクを承知した上で協調融資を利用する必要があります。
4-2.融資実行まで時間がかかる
中小企業への協調融資では、融資実行までに2,3ヶ月程度の期間を要する点もデメリットです。
協調融資の場合、各金融機関における融資審査や利率の決定だけでなく、金融機関同士の融資割合の調整などが原因で、通常の融資より時間がかかるのです。
なお、日本政策金融公庫が関わる協調融資では、公庫単独の審査と同様に、求められる提出書類が多い傾向があります。そのため、融資の申込み準備にも時間がかかる点に留意が必要です。
4-3.金融機関ごとに返済が必要
協調融資のデメリットとして、金融機関ごとに借入金の返済を行わなければならない点も挙げられます。
協調融資の契約はそれぞれの金融機関と個別に行います。
その結果、協調融資では月々の返済日や返済方法が金融機関ごとに決まるため、支払管理が煩雑になります。
4-4.創業前に協調融資を受けると追加融資で不利になることもある
創業前に協調融資を受けると、追加融資の際に不利になりうる点もデメリットです。
創業時に融資を受けた後に追加融資を受けられるのは、当初の融資を返済開始してから1,2年後になることが一般的です。
創業当初に協調融資で多額の資金を調達した後に再び資金不足に陥った場合、当初の融資分の残債が原因で思うように融資を受けられないことがあります。
5.協調融資を利用する際の流れ
協調融資では複数の金融機関が関係するため、単独の金融機関から融資を受ける際に比べて流れが複雑です。
次から、協調融資を利用するためのステップを1つ1つ見ていきましょう。
5-1.金融機関に協調融資の相談・申込みを行う
複数の金融機関に対し、協調融資の利用ができないか相談してみましょう。
日本政策金融公庫に相談すれば、他の金融機関に対して連携を打診してもらうことができます。
利用する金融機関が決定したら、それぞれの金融機関に対して協調融資の申込みを行います。
5-2.金融機関同士で案件が共有される
最初に協調融資の相談を受けた金融機関が、取りまとめ役として他の金融機関との間で融資案件の内容を共有し、融資の分担割合や金額などの調整を行います。
例えば、日本政策金融公庫に協調融資の相談を行った場合は、公庫から他の金融機関に対して案件共有を行います。
5-3.各金融機関で融資審査を行う
企業から提出された事業計画書や決算書などをもとに、各金融機関がそれぞれ融資審査や貸付条件の決定を行います。
協調融資を行う金融機関によって、審査に必要な書類が異なる場合があります。
また、通常の融資と同様、必要に応じて融資面談が行われることもあります。
5-4.融資が実行される
各金融機関における審査を通過して初めて、協調融資による融資が実行されます。
なお、連携する金融機関の数などにもよりますが、一般的に協調融資の実行までには2,3ヶ月程度かかります。
6.中小企業に協調融資が向いているケース
中小企業に協調融資が向いているケースは、次の通りです。
- 単独の金融機関だけでは希望額を借りられない
- 創業から数年以内で実績が少ない
- 融資に時間がかかってもよい
- 地域に密着したビジネスを展開している
創業して数年で実績が乏しいものの、設備投資や事業拡大などで多額の資金が必要な中小企業にとっては、協調融資による資金調達が有力な選択肢となります。
次から、それぞれのケースについて具体的に解説していきます。
6-1.単独の金融機関だけでは希望額を借りられない
多額の資金を必要としており、単独の金融機関からの融資額では資金が不足する中小企業には、協調融資の利用が向いています。
特に、工場や機械設備の導入などを行うケースでは、多くの金融機関が連携して大型の融資が行われた事例もあります。
6-2.創業から数年以内で実績が少ない
創業から数年以内で実績が少ない中小企業にとっても、協調融資は有効な資金調達手段になります。
日本政策金融公庫では、創業支援やスタートアップ支援を重点的な取り組みに位置づけており、その一環として協調融資を活用しています。
実際に、協調融資によって次のようなスタートアップへ支援が行われた事例があります。
- 独自AIの開発・導入支援サービスを行うスタートアップ
- CO2の分離技術の開発・製品販売を行うスタートアップ
- 小売店舗向け卸・仕入サイトの運営を行うスタートアップ
- 高齢者の転倒骨折リスクを低減する床材の開発・製造販売を行うスタートアップ
- デジタルコンテンツの開発、受託等を行うスタートアップ
返済能力や信用力の面から、スタートアップに対する資金調達については消極的な金融機関は少なくありません。
協調融資を利用すれば、実績に乏しいものの将来性のある企業が、必要な資金を得て事業を拡大しやすくなります。
6-3.融資に時間がかかってもよい
協調融資が向いているケースの1つとして、資金が必要なタイミングまで時間的余裕がある場合が挙げられます。
以下のようなケースでは、融資実行までの期間が長くても大きな問題にはなりません。
- 資金の支出予定が数ヶ月以上先、または未確定である
- 融資実行までの不足資金が少額で、別の手段で対応できる
6-4.地域に密着したビジネスを展開している
地域に密着したビジネスに伴う資金調達も、協調融資が有効なケースです。
日本政策金融公庫では、地域性の高いビジネスを行う中小企業に対し、多くの協調融資を実施しています。
以下は、日本政策金融公庫と民間金融機関による協調融資が行われた事例の一部です。
- 地元食材を使ったクラフトビール製造会社の創業
- 地元の老舗ホテルから複合施設へのリニューアル
- 地元野菜を原料にしたミールキットの製造工場の新設
- 地域の製材生産設備の導入
上記の事例で協調融資が行われた背景には、事業が地域経済にもたらすメリットへの高い評価があります。
地域とのつながりが深く、地域の活性化につながるビジネスを展開している中小企業にとって、協調融資は比較的活用しやすい手段なのです。
7.中小企業の協調融資に関するFAQ
ここでは、中小企業の協調融資に関するよくある質問に回答します。
7-1.中小企業が協調融資を受ける場合、金利はどうなるか?
A.協調融資の場合も、金利は通常の融資と同様の水準に設定されるケースが多いです。
また、中小企業が協調融資を受ける場合の金利は、各金融機関が別々に決める場合もあれば、同じ金利に統一される場合もあります。
7-2.協調融資の審査はどのように行われる?
A.協調融資の審査は、それぞれの金融機関ごとの基準に従って個別に行われます。
そのため、各金融機関によって提出する審査書類が異なる場合や、それぞれの金融機関に出向いて面談をしなければならない場合もあります。
なお、協調融資を利用するには、全ての金融機関で審査を通過する必要があります。
7-3.中小企業が協調融資を断られた際の対応は?
A.協調融資を断られた場合も、期間を置いて再度融資を申し込むことは可能です。
その際は、次のような対策を心がけましょう。
- 事業計画のブラッシュアップを行う
- 自己資金を増やす
- 金融の知識や経験のある専門家にアドバイスをもらう
7-4.シンジケートローンと協調融資との違いは?
A.シンジケートローンも協調融資の一種ですが、大手銀行が幹事(「アレンジャー」)となって多数の金融機関を集め、大企業に対して数十億円以上の大規模な融資を行うケースを指すことが一般的です。
なお、協調融資では金融機関によって金利などの貸付条件が異なったり、融資手続きの際に各金融機関との個別対応が発生したりするケースもあります。
一方、シンジケートローンでは全ての金融機関が同じ貸付条件で融資を行う他、金融機関側との事務関係のやりとりは全て「エージェント」と呼ばれる担当者を通じて行われます。
8.まとめ
協調融資は、中小企業の資金調達にも利用できます。
中小企業が利用できるのは、主に日本政策金融公庫と民間金融機関による協調融資がメインです。
協調融資には、次のようなメリット・デメリットがあります。
| メリット | デメリット |
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また、上記のメリット・デメリットを踏まえると、協調融資が向いているのは次のようなケースです。
- 単独の金融機関だけでは希望額を借りられない場合
- 創業から数年以内で実績が少ない場合
- 融資に時間がかかってもよい場合
- 地域に密着したビジネスを展開している場合
協調融資は、実行までに時間がかかるなど不利な点もありますが、多額の資金が必要な中小企業にとっては有効な資金調達の選択肢です。
本記事で紹介したメリット・デメリットなどを踏まえ、利用するかどうかを検討しましょう。
