
デューデリジェンスは専門家に依頼することが多いため「専門家に任せれば何とかなる」と思っていませんか。もしくは、M&Aの過酷なスケジュールに忙殺されて、「デューデリジェンス全体の段取りを考える余裕がない」という担当者もいることでしょう。
しかし、M&Aにおいて最適な意思決定に貢献するのがデューデリジェンスです。そして、デューデリジェンスで成果を上げるためには全体の流れやステップごとのポイントをしっかりと押さえなければなりません。そのため、依頼する側(自社側)もデューデリジェンスの流れを理解していることが求められるのです。
もしも理解が浅いままデューデリジェンスを依頼すると、自社にとっての重要要素が抜け落ちたり、方向性がぶれてしまう懸念があります。デューデリジェンスの全体像を理解したいと考える担当者向けに、デューデリジェンスの流れや期間を解説します。
目次
1.デューデリジェンスの流れ
M&Aのなかで重要なプロセスであるデューデリジェンス(DD)は、限られた時間で調査分析を行うため、全体を見据えて手順を踏んでいくことが大切です。また、デューデリジェンスでは売り手側(買収予定会社)と認識をすり合わせたり、アクションを待ったりする局面もあるので、その点も考慮しながら全体の流れを把握しましょう。
一般的な流れは次の通りです。

1-1.調査チームの発足
社内でデューデリジェンスの調査チームを発足し、自社にとって重要な要素を確認します。
【重要要素の例】
- デューデリジェンスの依頼先に求めること
どのような強みや知見をもつ専門家にデューデリジェンスを依頼するか - デューデリジェンスの実施分野と重要項目
売り手企業のどの分野を明確にしたいのか、把握したい項目、回避したいリスク項目など
デューデリジェンスはM&A成功に向けて行うため、自社のM&A戦略に応じて調査範囲や調査深度を考えなければなりません。専門家にデューデリジェンスを依頼する前段階で、社内で買収契約やその後の経営統合のために「何を知りたいのか」を明確にしておきます。
1-2.専門家の選定
実施するデューデリジェンスの種類に応じた専門家の選定を開始します。
デューデリジェンスの進め方や報告書の書式は専門家ごとに異なるため、知見や実績、報告書のサンプルやコミュニケーションのとり方などを確認します。可能であれば、複数の専門家を比較検討するといいでしょう。
複数の専門家に依頼するケースがある
実施するデューデリジェンスの種類が多い場合は、複数の専門家にデューデリジェンスを依頼することがあります。
複数の種類のデューデリジェンスを行う場合、種類ごとに専門家が異なります。デューデリジェンスの依頼先が増えると、専門家ごとの連携が難しくなります。そのため選定時は、次の点も重要要素です。
- 依頼先が複数のデューデリジェンスに対応できること
- 社外のコミュニケーションに優れていること
辻・本郷 FAS株式会社では、財務デューデリジェンスや税務デューデリジェンス、ビジネスデューデリジェンスなど、複数のデューデリジェンスに対応可能です。複数の種類のデューデリジェンスを任せられる専門家をお探しの際は、是非ともご検討ください。
【デューデリジェンスの種類ごとの代表的な専門家】
- 財務・税務デューデリジェンス:税理士、公認会計士
- 法務デューデリジェンス:弁護士
- 人事・労務デューデリジェンス:社労士、人事コンサルタント
- ITデューデリジェンス:ITコンサルタント
※デューデリジェンスの種類については「デューデリジェンス(DD)の目的とは?種類や手順、注意点まで」をご覧ください。
1-3.専門家決定
専門性やコミュニケーション、自社のM&A戦略などを踏まえて専門家を決定します。
専門家に正式に依頼する際は次の2点に留意します。
M&Aの目的とデューデリジェンスに求めることを共有する
漫然と依頼するだけでは、思うような効果が得られない可能性があります。「1-1.調査チームの発足」で打ち出したM&Aの目的やデューデリジェンスに求めることを最初の段階で確実に共有しておきます。目的が共有言語化されることで、その後の意思疎通が円滑化します。
デューデリジェンスの専門家同士の連携を深める工夫をする
複数の専門家に依頼する場合は、調査項目に重複が生じることでしょう。例えば財務情報は財務デューデリジェンスのほか、税務デューデリジェンスやビジネスデューデリジェンスでも調査すべき項目です。そのため、依頼時に全ての専門家と棲み分けや連携方法、共通フォーマット等を伝えておきます。
1-4.デューデリジェンス実施の確認
売り手との間で、デューデリジェンスを実施することを確認します。
というのも、デューデリジェンスは売り手と買い手の双方が協力して進めるものだからです。売り手側に実施の合意を得ることが前提です。
【セラーズデューデリジェンス(セルサイドデューデリジェンス)とは】
中には、売り手側がデューデリジェンスを行う「セラーズデューデリジェンス」もあります。
ただし、セラーズデューデリジェンスは買い手にとって欲しい情報が調査されていないこともあります。そのためセラーズデューデリジェンスが実施されるときも、専門家にデューデリジェンスの内容を確認してもらうのが一般的です。
デューデリジェンスはすり合わせの手間やコストがかかりますが、M&Aにおける最適な意思決定のために欠かせないプロセスです。実施しないという選択は基本的にありません。
1-5.調査範囲と調査期間の枠組みを決定
デューデリジェンスの重要論点を漏らすことなく調査・分析できるように、自社と依頼した専門家間でデューデリジェンスの調査範囲と期間について枠組みを決定します。
枠組み決定の考え方
デューデリジェンスの目的は、企業価値評価の材料を得ることや潜在的なリスクを把握すること。買収後の経営統合のための基礎情報の収集などがあります。ここで決めた項目が抜け落ちないよう、目的と重要度に応じたチェックリストを作りましょう。
【財務デューデリジェンスの枠組みを決定する際に考慮する要素例】
・適用する会計基準や会計方針
・何期分の決算書を調査するか など
調査には例外が生じることもある
デューデリジェンスの範囲は、調査の状況によって変更することもあります。例えば、財務デューデリジェンスの一般的な調査期間は3年ですが、調査中に財務上の懸念点が生じたときは、5年程度に延長されることもあります。ここで決めた枠組みにとらわれすぎず、柔軟に実施していきましょう。
【デューデリジェンスと監査の違い】
デューデリジェンスにおける調査は、監査とは性質が異なります。監査は財務諸表の公平性や健全性、会計処理の適正性が確保されているかを見るものです。デューデリジェンスにおいても財務諸表の適正性や法令順守は当然チェックの対象ですが、企業価値評価や潜在リスクなどそれ以外にも重要項目が複数あります。
目的が異なるため、デューデリジェンスと監査は同列に考えないようにします。
1-6.デューデリジェンスの実施方法について話し合う
デューデリジェンスの実施期間、実施方法、共通ルールを売り手側と買い手側で設定します。
【ルール設定例】
- 買い手側は毎週水曜日に質問データを共有のクラウドに格納、売り手側は金曜までに返信
- 定期ミーティングは隔週月曜日にオンラインで実施 など
やり取りする情報の取扱いには慎重を期す
デューデリジェンスで扱う情報は、機密情報です。データのやり取りを慎重に行うほか、セキュリティにも気を配ります。売り手側が安心して情報を提供できる環境を整えることを心掛け、やり取りの円滑化と信頼関係の構築を目指します。
1-7.売り手側へ調査項目リストの提出・開示依頼
あらかじめ用意しておいたチェックリストを基に売り手側に依頼項目を提出し、開示を受けます。
当初は基本的な項目がメインになりますが、公開情報から基本的な項目をある程度把握しているときは、初めから詳細な資料の開示を依頼することもあります。
【スムーズに進めるための配慮例】
やり取りでトラブルが生じることも少なくありません。リスト漏れがあることや、開示を受けたもののデータファイルが開けないといったことがあるからです。次のように開示依頼のリストを分かりやすくすることで、やり取りの齟齬を防止できます。
- 種別ごとに整理する
- リストに通し番号を振る
- 「資料名」「対象年度」「希望するデータ形式」等も明記しておく
どのような資料でも、リストを提出してからすぐに開示が受けられるわけではありません。売り手が資料を準備する時間が生じることを想定して進めていきましょう。
1-8.調査・分析
効率性を重視して、資料の調査・分析を行います。
例えば、財務デューデリジェンスならば財務諸表から実態純資産や正常収益力を調査しますし、税務デューデリジェンスならば納税ポジションや税務リスクを調査します。
調査スケジュールは効率性を重視して調整する
複数のデューデリジェンスを行う場合、調査を一斉に行うとは限りません。例えば、財務デューデリジェンスで会計の適法性をある程度担保した後で、税務デューデリジェンスで税務ポジションを確認するというように、スケジュールをずらすことで、労力を分散しながら効率的にデューデリジェンスを行うことも可能です。
1-9.不足資料の追加開示依頼
不足資料については、追加で開示依頼をし、相手側からの提示を受けます。
このとき、やみくもに質問や開示を依頼するのではなく、優先順位をつけて依頼するといいでしょう。より重要な情報から先に開示を受けることで、売り手側の負担を減らしつつ、デューデリジェンスを効率的に進めることができるでしょう。
【重複質問に注意】
複数の種類のデューデリジェンスを行うときは、各デューデリジェンスチームで情報を共有することで、同じ質問をしないように注意します。
同じことを複数回質問されるのは売り手側にとって負担になりますし「提出した書類を確認していないのでは」「返答を読んでいないのでは」などと疑われると、信頼関係に関わります。
1-10.関係者へのインタビュー
データによるやり取りでは得られない情報を口頭で確認したい場合や、回答に漏れが無いか対面で確認したいような場合、対面でインタビューを行います。
インタビューはデータのやり取りのようにタイムラグが発生しないのが大きな特徴です。そのため、進捗が遅れている場合に開示を大きく進められるメリットもあります。
なお、最初にインタビューを実施して全体像を共有してからデューデリジェンスを実施する方法もあります。
【インタビューの満足度を上げるためには、相手の準備が重要】
事前にインタビューの質問項目を伝えることで、確かな回答を得られるようにします。例えば、インタビューの参加者が経理担当者だけで顧問税理士は来ていない場合、せっかくインタビューの場を設けても、納税に関する質問には十分に答えられない可能性があります。
つまり、相手側が準備しやすいように先回りすることが大切です。例えば専門性の高い質問があるときは、特に丁寧に質問内容と欲しい回答の水準を伝えます。それによって売り手がしっかりと資料を用意できる、回答できる人材がインタビューに参加できる、といった効果が期待できます。
1-11.現地調査
社外に持ち出せない資料を確認したい場合、売り手側の会社(現地)に赴いて調査するのが「現地調査」です。
現地調査を重視する場合は、現地調査を数日確保して、一気に調査を進めることもあります。必ず実施されるものではありませんが、不明点があった場合にその場で確認しながら調査を進められる点は効率的です。なお、社外秘の資料を閲覧するケースだけでなく、工場や施設を直接確認したいケースも現地調査が行われます。
【現地調査を行う時の注意点】
・スケジュール
基本的に、相手の予定に配慮して現地調査を行います。現地調査は売り手側の関係者を長時間拘束することになるため、売り手側の業務を阻害しないように注意します。
・情報管理
この段階では、M&Aについてまだ知らない一般の社員が多いでしょう。M&Aの事実を知らない社員が、外部の人間が機密資料を見ている場面を目にすれば、違和感を覚える可能性が高いです。いたずらに社内の不安を煽ることになりかねません。訪問時は慎重な行動が求められますし、場合によっては休日に現地調査が設定されることもあります。
現地調査時は売り手側にとっては場所やスケジュールを確保する負担が生じます。また情報管理についても非常に気を遣うことになるため、売り手側との意思疎通が特に大切です。
1-12.中間報告
最終報告の前に、中間報告を行うことも少なくありません。
実施の際は、主に次のような目的で行われます。
- 進捗状況の報告を受けることで、調査に不足がないか確認する
- M&Aの意思決定に必要な重要情報やリスクを早めに共有する
- (報告書の内容が多い場合)中間報告で一部報告を行うことで、最終報告をスムーズに行えるようにする
デューデリジェンスを依頼する専門家には、中間報告の意図を説明し、意図に沿った報告が受けられるようにしておきます。ただし、スケジュールが押している場合やそこまで規模が大きくない場合など、中間報告を飛ばすこともあります。デューデリジェンスごとに適した方法を選択しましょう。
1-13.最終報告
デューデリジェンスの報告を受け、M&A戦略に生かします。
例えば財務諸表デューデリジェンスの情報はバリュエーションに役立てられますし、税務デューデリジェンスは経営統合後の税務リスクを見極めるのに有用です。
また、デューデリジェンスで見つかった問題点の解決を売り手側に依頼するケースもあります。
デューデリジェンスの最終報告をM&Aに役立てるためには、その後も重要
最終報告でデューデリジェンスが終了するわけではありません。通常、最終報告では専門家から説明を受けます。しかし専門家ではない調査チームメンバーがそこでデューデリジェンスの全貌を理解し、不明点や懸念点を完全に理解するのは簡単ではないからです。
自社の調査チームメンバーは最終報告の後、さらに報告書を読み込み、改めて不明点や懸念点について質問することで、調査結果を十分に役立てることができるでしょう。
2.デューデリジェンスの期間は1~2ヵ月が一般的
デューデリジェンスの期間は事例ごとに異なるものの、1カ月~2カ月程度で行うのが一般的です。期間決めの際に基本となるのは次の事項です。
基本合意から契約締結までの間で行うため、M&A全体のスケジュールのなかで決定される
M&A全体のスケジュールが優先されるのが前提ですが、基本合意の前から公開情報の収集・分析を行うことや、専門家の選定を進めるなど、準備を行うことはできます。全体の流れを把握し、できることは前倒しすることで、デューデリジェンスの期間を長く確保しやすくなります。
3.デューデリジェンスで成果を上げるための重要ポイント3点
デューデリジェンスの成果を上げるために重要なポイントを3つご紹介します。
3-1.売り手側の状況を理解する
相手の協力を得られなければ進まない以上、一番重要なのは相手の理解です。相手を理解することで、難しい状況を乗り越えやすくなるためです。例えば、次のような効果が期待できます。
競合会社とのM&A交渉の円滑化
デューデリジェンスの段階では契約前のため、M&Aが決裂する可能性もゼロではありません。その状況で競合会社へ機密情報を提供するのは簡単ではありません。売り手側の事情を酌むことで、情報提供の円滑化につなげられます。
課題を調査分析によらずに察知
相手の状況を理解しようとすることは、売り手側がM&Aに踏み切った理由の察知につながります。例えば表面的には後継者不在を理由としていたとしても、その背景には収益力の低下や社員の高年齢化などの課題があるかもしれません。そういった根本的な課題を調査分析前に察知できれば、デューデリジェンスのスコープを適切に設定できます。
3-2.デューデリジェンスのタイミングは全体の進行を意識する
デューデリジェンスはM&A成功のために行われるもので、M&Aのプロセスの一部です。そのためM&A全体の進行に影響を受けます。
例えば基本合意がスケジュールより遅れたり、契約締結が前倒しされたりすれば、合わせてデューデリジェンスのスケジュールも短縮化されます。
個別の事情でスケジュールが前後することもある
全体スケジュールとは違った動きをすることもあるので注意します。例えば「次回の取締役会の前に報告書を提出して欲しい」のように個別の事情でスケジュールが前後する可能性もあります。予定が繰り上がる可能性も考えて動くと、もしもの時に慌てなくて済みます。
期限だけでなく精度にも留意する
なお、期限を守ることで、重要論点が抜け落ちてしまっては本末転倒です。常に優先順位と重要論点を意識することで、スケジュールが短縮化されても精度が落ちないように工夫します。デューデリジェンスの対象とスケジュールのバランスを取りながら、柔軟に対応することを心掛けましょう。
3-3.力を入れるべき項目を最初に見極める
最初の段階で重要論点を見極めることで、力を入れるべき項目に労力を集中することを心掛けます。
具体的には、次のような考え方で重要論点を絞り込みます。
- 対象が在庫を抱える業種なら在庫の実在性が重要
- 対象会社の人件費が多いなら残業代や手当の詳細が重要
ただし、決算書等から重要論点や問題点を読み取ることが必須ですし、読み取っ情報をデューデリジェンスの調査項目に落とし込む知見も必要です。専門家なら決算書等からそれらを見つけることができるため、専門家の知見を活用してデューデリジェンスの精度を高めていきましょう。
4.効果的なデューデリジェンスの実施は辻・本郷 FAS株式会社へご相談ください
デューデリジェンスはM&Aにおける最適な意思決定を助けます。M&A成功に貢献する一方で、限られた時間で成果をあげなければなりません。さまざまな業種・企業規模で実績のある辻・本郷 FAS株式会社をご検討ください。また、M&Aの本当の意味での成功を考えるなら、買収契約後の経営統合やPPAも重要です。

さらに、辻・本郷 税理士法人(辻・本郷グループ)なら経営統合、PPA、そしてその後の税務まで伴走可能です。M&Aの成功と、その後の企業価値向上を目指すなら、辻・本郷 税理士法人にご相談ください。

5.まとめ
デューデリジェンスは限られた期間で情報収集から調査・分析、報告まで一気呵成に行います。
これらの流れを熟知し、売り手や複数のデューデリジェンス間で連携を取りながらデューデリジェンスを実施しなければなりません。デューデリジェンスを熟知した専門家に依頼することで、M&Aの成功に貢献するデューデリジェンスを実施できるようにしましょう。
