
償却債権取立益とは、「過去に貸倒処理した売掛金や貸付金などの債権を後から回収した際に計上する勘定科目」です。日常的に発生する勘定科目ではないため、意味や会計処理に迷うことも多いと思います。
この記事では、償却債権取立益の意味や発生するケース、仕訳方法、税務上の取扱いまで、具体例を交えながら分かりやすく解説します。
1. 償却債権取立益とは
償却債権取立益の意味や損益計算書での表示、混同しやすい勘定科目との違いについて解説します。
1-1. 貸倒処理した債権を後から回収した際に計上する利益
償却債権取立益とは、「過去に貸倒処理した売掛金や貸付金などの債権を後から回収した際に計上する勘定科目」です。
たとえば、売掛金100万円を回収できないと判断して貸倒処理した後、取引先から20万円の返済を受けた場合、その20万円を償却債権取立益として計上します。
貸倒処理とは
得意先の倒産などにより債権の回収が困難になった場合に、その債権を損失として計上する会計処理です。
一度貸倒処理した債権は、すでに売掛金などの債権を帳簿から除き、貸倒損失として処理しています。その後、別の事業年度に債権を回収しても、過去の貸倒損失を修正するのではなく、回収した事業年度の収益として償却債権取立益を計上します。
1-2. 損益計算書では営業外収益として表示される
償却債権取立益は、損益計算書では原則として営業外収益に区分されます。
営業外収益とは、本業以外の活動によって生じる収益を計上する区分です。
償却債権取立益は商品やサービスの販売による収益ではなく、過去に貸倒処理した債権の回収によって生じるため、営業外収益として表示されます。
なお、償却債権取立益は、以前は原則として特別利益に表示されていましたが、2011年4月1日以後開始する事業年度から、原則として営業外収益に表示する取扱いとなっています。
1-3. 償却債権取立益と混同しやすい勘定科目
償却債権取立益と混同しやすいのが、貸倒損失と貸倒引当金です。それぞれ役割と計上するタイミングが異なります。
| 勘定科目 | 役割 | 発生するタイミング |
|---|---|---|
| 償却債権取立益 | 貸倒処理した債権の回収額を収益として計上する | 貸倒処理した債権を後から回収したとき |
| ① 貸倒損失 | 回収できない債権を損失として計上する | 債権を回収できないと判断したとき |
| ② 貸倒引当金 | 将来の貸倒れに備えて見積額を計上する | 将来の貸倒れを見積もるとき |
①貸倒損失との違い
貸倒損失は、回収できない債権を損失として計上する勘定科目です。
たとえば、売掛金100万円を回収できないと判断した場合は、貸倒損失として処理します。その債権を後の事業年度に20万円回収した場合は、20万円を償却債権取立益として計上します。
なお、貸倒処理と回収が同じ事業年度内に行われた場合は、償却債権取立益ではなく、貸倒損失を取り消す(減額する)処理を行います。
②貸倒引当金との違い
貸倒引当金は、将来の貸倒れに備えて計上する勘定科目です。
たとえば、売掛金1,000万円のうち一定額が将来回収できなくなる可能性があると見積もった場合、その見積額を貸倒引当金として計上します。この時点では、債権はまだ帳簿に残っています。
一方、償却債権取立益を計上するのは、貸倒処理によって帳簿から除かれた債権を後から回収した場合です。
2. 償却債権取立益を計上するケース
償却債権取立益を計上する主なケースを紹介します。
2-1. 取引先の経営状況が改善して債権を回収したケース
貸倒処理後に取引先の経営状況が改善し、債権の一部または全部を回収できるケースがあります。
たとえば、資金繰りの悪化によって支払いが滞っていた取引先が、その後業績を回復し、貸倒処理済みの売掛金を支払った場合です。
このように、過去に貸倒処理した債権を後の事業年度に回収した場合は、回収額を償却債権取立益として計上します。
2-2. 法的整理などによって配当を受けたケース
取引先が破産などの法的整理に入った場合でも、手続きの結果として債権の一部を回収できることがあります。
取引先の財産を換価して債権者に配当が行われ、貸倒処理済みの債権について回収額が生じるケースなどです。
この場合も、貸倒処理済みの債権について後から受け取った金額を償却債権取立益として計上します。
2-3. 形式的な貸倒れとして処理した債権を回収したケース
形式的な貸倒れとして処理した債権を、後から回収するケースもあります。
形式的な貸倒れとは、債権が完全に回収不能になったわけではなくても、取引停止後1年以上弁済がないなど、一定の要件を満たした場合に貸倒損失として処理することです。
この場合、貸倒処理をしても債権そのものが消滅するわけではありません。そのため、後から取引先が支払いを行い、回収できることがあります。
回収した金額は、償却債権取立益として計上します。
3. 償却債権取立益の仕訳例
償却債権取立益の仕訳例を紹介します。
3-1. 売掛金を全額回収したケース
最も一般的なのが、貸倒処理した売掛金を後から回収したケースです。
売掛金100万円を貸倒処理した後、100万円全額を回収した場合は、次のように仕訳します。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 100万円 | 償却債権取立益 | 100万円 |
貸倒処理によって売掛金はすでに帳簿から除かれているため、回収した金額は売掛金ではなく、償却債権取立益として計上します。
3-2. 売掛金を一部回収したケース
貸倒処理した債権を一部だけ回収できた場合も、考え方は同じです。
売掛金100万円を貸倒処理した後、20万円のみ回収した場合は、次のように仕訳します。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 20万円 | 償却債権取立益 | 20万円 |
一部しか回収できない場合でも、回収した金額のみを償却債権取立益として計上します。
3-3. 貸付金を回収したケース
償却債権取立益は、売掛金だけでなく貸付金などの債権でも発生します。
貸付金50万円を貸倒処理した後、10万円を回収した場合は、次のように仕訳します。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 10万円 | 償却債権取立益 | 10万円 |
貸付金であっても、一度貸倒処理した債権を回収した場合は、回収額を償却債権取立益として計上します。
4. 償却債権取立益に関するよくある質問(FAQ)
償却債権取立益に関するよくある質問に回答します。
4-1. 償却債権取立益は法人税の課税対象になりますか?
原則として、法人税の課税対象になります。
過去に貸倒損失を税務上の損金(税金を計算する際の費用)に算入した債権を回収した場合、回収額はその事業年度の益金(税金を計算する際の収益)に算入します。
つまり、過去に税務上の損失として扱った金額を後から回収したため、その回収額を税務上の収益として扱うという考え方です。
ただし、過去の貸倒損失が税務上の損金として認められていなかった場合は、取扱いが異なります(4-2参照)。
4-2. 過去の貸倒損失が損金不算入だった場合はどうなりますか?
会計上は償却債権取立益を計上しますが、税務上は申告調整が必要です。
たとえば、過去に100万円の貸倒損失を計上しても、税務上は損金として認められなかったとします。この場合、税金の計算上は100万円を費用にしていません。
そのため、後から債権を回収して償却債権取立益を計上しても、その金額をそのまま税務上の収益にすると、課税所得が重複して増えてしまいます。
そこで、確定申告では償却債権取立益を減算する申告調整を行い、税務上の益金から除外します。
このように、回収時の税務処理を判断するには、過去の貸倒損失が税務上どのように処理されていたかを確認する必要があります。
4-3. 償却債権取立益を計上した場合、消費税の処理は必要ですか?
過去に「貸倒れに係る消費税額の控除」を受けていた場合は、消費税の調整が必要です。
売掛金などが貸倒れになった場合、一定の要件を満たせば、回収できなかった金額に含まれる消費税額を控除できます。
その後、貸倒処理した債権の全部または一部を回収した場合は、貸倒れ時に控除した消費税のうち、回収した金額に対応する分を戻す必要があります。
具体的には、回収額に含まれる消費税額を、回収した課税期間の消費税額に加算します。
国税庁「No.6631 貸倒債権を回収したときの消費税額の計算」
4-4. キャッシュフロー計算書ではどのように扱いますか?
商品やサービスの販売によって生じた売掛金などを貸倒処理し、その後回収した場合は、「営業活動によるキャッシュ・フロー」に区分します。
損益計算書では償却債権取立益を営業外収益として表示しますが、キャッシュフロー計算書では、回収した債権がもともと何の活動から生じたものかをもとに区分します。
そのため、商品やサービスの販売によって生じた売掛金などを後から回収した場合は、営業活動によるキャッシュ・フローとして扱います。
5. 償却債権取立益の判断に迷う場合は税理士へ相談を
償却債権取立益は、過去に貸倒処理した債権を回収した際に計上する勘定科目です。過去の貸倒処理の状況によっては、法人税や消費税の取扱いも確認する必要があります。
会計・税務上の処理に迷う場合は、過去の決算書や申告内容を確認したうえで、税理士へ相談するとよいでしょう。
辻・本郷 税理士法人では、法人の会計・税務に関するご相談を承っています。
