
「なぜ自分の会社が調査の対象に選ばれたのだろうか……」と、税務調査を不安に感じている方もいらっしゃるのではないかと思います。そもそも、税務調査は何のために行われるのでしょうか?本記事では、税務調査が行われる目的について税理士の視点から解説します。目的を理解した上で税務調査の概要を把握し、調査に対する不安を軽減していただければと思います。
1.税務調査の目的
税務調査の目的は、納税者の申告が適正に行われているかを確認して、税制度の正しく公平な運用を維持することです。
日本では「申告納税制度」が採用されており、納税者自らが所得を計算し税金を申告します。この制度をスムーズかつ正確に機能させるためには、申告内容が適切で正しいかどうかを税務署が確認する必要があり、その一環として税務調査は実施されているのです。
こうした目的に基づき、申告漏れや少なく申告したことが調査によって判明した場合は、正しい申告や追加納税が求められます。適正な申告がされていれば追加納税は不要であり、調査は「申告是認」の通知のみで終了します。
一方で、税務調査は納税者の税金に対する知識の向上や、「正確な申告を行おう」という意識の向上にも貢献している、という見方もできるでしょう。
税務調査は不正の摘発だけでなく、公平な税負担の実現と正確な納税制度の運用にも不可欠な役割を果たしているのです。
2.税務調査の対象となりやすい会社の特徴
税務調査の対象となりやすい会社の主な特徴について5つ、詳しく解説します。税務調査の対象となる会社は無作為に選ばれるわけでなく、特定の傾向や特徴を持つ企業が重点的に調査を受ける傾向があります。
2-1.売上・利益の不自然な増減がある
売上や利益に不自然な変動がある企業は、税務調査の対象となる可能性が高まります。過去の申告データを分析して前年比で急激な変化がある場合は、申告漏れや意図的な不正が疑われるからです。
例えば、長年安定した業績だった企業が突然赤字に転落した場合、税務署は「意図的な利益操作ではないか」という疑念を持つ可能性があります。また、売上が増加しているにもかかわらず利益が減少しているケースは、経費の過大計上などの不正がないか調査されやすくなります。
2-2.業種・地域ごとの比較データと乖離がある
税務署は各業種・地域ごとの平均的な数値を把握しており、それらと著しく異なる申告内容であると調査対象となりやすい傾向があります。
例えば、同じ業種・規模の企業の平均利益率が10%程度である中で、ある企業の利益率が2%しかない場合、税務署は「なぜこの企業だけ利益率が低いのか」という疑問を持ち、税務調査のきっかけとなることがあります。
また、飲食業や建設業などは、現金取引が多いため売上計上漏れのリスクが高いとみなされ、調査対象となる確率が高まることもあります。
2-3.過去に税務調査で指摘されたことがある
過去の税務調査で問題を指摘された企業は、その後の改善状況を確認するため再調査される可能性が高くなります。
特に、前回の調査で重大な申告漏れが発見され、修正申告や重加算税の課税があった場合は、税務調査の頻度が高まる可能性があります。
そのため、過去の調査で指摘された事項については、確実に改善し、適正な申告を心がけることが重要です。過去の指摘事項と同じ問題が再発見された場合、より厳しい調査や処分を受けるおそれもあるでしょう。
2-4.事業規模が大きい
事業規模の大きな企業は、税収への影響も大きいため調査の対象となる確率が高まります。
ただし、他に述べられている特徴に該当する場合は、規模の小さな企業でも調査対象となることは十分にあります。
2-5.経費の割合が高い、もしくは大きく増えた
売上に対して経費の割合が異常に高い、または前年と比較して経費が大幅に増加している企業は、税務調査が入りやすくなります。
経費の不自然な増加を売上や所得を減らして税金逃れするためではないかと疑うことがあるからです。
特に、交際費、旅費交通費、接待費などの「使途が不明確になりやすい経費」の急増は注視されやすい傾向にあります。例えば、売上が前年とほぼ変わらないにもかかわらず交際費が2倍に増えているような場合は、その妥当性を調査されるリスクが高まります。
経費の計上に関する不正は、私的な支出を会社の経費として計上する「経費の私的流用」や、実際には存在しない経費を計上する「架空経費」なども代表的なパターンとして挙げられます。こうした経費の不正計上は、帳簿と実際の支出状況を照合することで比較的容易に発見されるため、調査官がよくチェックするポイントとなっています。
3.税務調査の種類
税務調査には大きく分けて二つの種類があります。一般的な「任意調査」と、悪質な不正が疑われる場合に行われる「強制調査」です。
3-1.任意調査(一般調査)
任意調査は最も一般的な税務調査の形式です。
この調査では、まず調査通知により調査日程の調整を行われた後、調査の目的や対象税目などの事前通知が行われます(予告なく調査官の訪問を受けることもあります)。
その後、税務調査官が会社や事務所を実際に訪問し、帳簿書類の確認や質問を行います。任意であっても調査の拒否はできず、調査官からの質問には応じなければなりません。
3-2.強制調査(犯則調査)
強制調査は、悪質な不正の疑いがある場合に行われる特別な調査です。国税庁査察部(通称:マルサ)が担当し、刑事事件として立件するために行われます。
任意調査と大きく異なる点は、裁判所の令状に基づいて行われることと、事前通知なしに突然調査が行われることです。令状があれば、納税者の同意がなくても、帳簿や書類の提出を強制的に求めることができます。
調査の結果、悪質な脱税が認められれば、追徴課税だけでなく、刑事罰につながる可能性もあります。
4.税務調査の流れ
税務調査は一連のプロセスに沿って進行します。ここでは、一般的な任意調査の流れを4つのステップに分けて解説します。
なお、調査の流れについてさらに詳しく知りたい方は、以下のサイトもご参照ください。
税務調査の流れを解説!スムーズに税務調査を乗り切るポイントとは?
4-1.①調査通知が行われる
まず、税務署から電話などで調査通知が行われます。
この連絡では、「税務調査を予定していること」や調査対象期間などが通知され、これを受けて日程の調整・決定をします。
また、この段階で税理士へ連絡することをおすすめします。税理士が早期に関与することで、適切な準備と対応が可能になります。
4-2.②事前通知が行われる
電話での調査通知の後、文書または口頭で正式な事前通知が行われます。
事前通知には、調査の目的、対象税目、対象期間、必要な帳簿書類、調査担当者、日時と場所などの詳細情報が含まれています。
この通知を受けたら、帳簿書類の準備などを始めましょう。総勘定元帳、請求書、領収書、契約書などの基本的な会計書類に加え、業種や調査の目的によっては特定の書類が求められることもあります。準備すべき書類が不明確な場合は、税務署に確認するか、顧問税理士に相談するとよいでしょう。
4-3.③税務調査が実施される
予定された日時に、税務調査官が会社や事務所を訪問し、実際の調査が行われます。調査期間は企業の規模や内容によって異なりますが、一般的には1日から数日間かかることが多いです。
調査官は最初に身分証明書を提示し、調査の概要を説明します。その後、準備された帳簿書類の確認や、経理担当者などへの質問が行われます。
調査官からの質問には、簡潔かつ正確に答えることが重要です。不明な点については「確認して後ほど回答します」と伝え、曖昧な回答や推測での返答は避けましょう。
4-4.④調査結果が通知される
調査終了後、一定期間を経て調査結果が通知されます。
問題がなかった場合は「是認」となり、特に対応は必要ありません。一方、申告漏れや過少申告などの問題が見つかった場合は、「否認」となり、修正申告を求められます。
否認の結果内容に納得できれば修正申告を行いますが、納得できない部分があり修正申告をしない場合は、税務署によって更正という課税処分が下されます。これに納得できない場合は、不服申し立てを行うことが可能です。
税務調査結果通知は調査終了後、数か月かかる場合もあります。特に大規模な調査や複雑な問題が発見されると、結果通知までに時間がかかることが多いです。
5.税務調査の事前対策
税務調査に備えた、効果的な事前対策について解説します。通知を受けてから慌てて準備するのではなく、日頃からの備えが重要です。
5-1.過去の申告内容を見直す
税務調査の通知を受けたら、まず過去の申告内容を徹底的に見直すことが重要です。
通常、税務調査では過去3〜5年分の申告内容が調査対象となるため、この期間の申告書・決算書を確認し、数値の飛躍的な変動がないかをチェックしましょう。
見直しの結果、明らかな誤りや申告漏れが見つかった場合は、調査前に自主的に修正申告を行うことも検討します。自主的な修正申告は、調査で指摘された後よりもペナルティが軽減される可能性があるからです。修正申告を行う際は顧問税理士に相談し、適切なアドバイスを受けることをお勧めします。
5-2.帳簿や証憑類の記録・管理方法を整備する
過去の申告内容の見直しと同時に、申告内容の裏付けとなる帳簿・証憑類の整備も進めましょう。
法律上、帳簿や証憑書類には保存期間が定められており、法人税法では原則7年間の保存が必要です。領収書、請求書、契約書などは、日付順や取引先別など検索しやすい方法で整理して、紛失しないよう適切に保管しましょう。
特に、経費の証憑書類には注意しましょう。交際費や旅費交通費などは使途の明確化が重要であり、誰と、どこで、何の目的で支出したかを記録しておくことが推奨されます。また、高額な資産購入や特殊な取引については、その経緯や必要性を説明できる資料も準備しておくことをおすすめします。
6.税理士と連携して税務調査のリスクを減らそう
税務調査を乗り切るには、税理士との連携が効果的です。税理士は税務のプロフェッショナルとして、調査対応の強力なサポート役となります。
税務調査において税理士が行ってくれることとしては、例えば以下のようなものが挙げられます。
・過去の申告内容を精査し、リスクとなりうるポイントを特定してくれる
・調査官がどのような点に注目するかを予測し、適切な対応策を提案してくれる
・調査官からよく質問される事項について、どのように回答すべきかを事前に準備・フォローしてくれる
・調査官に専門的な観点から納税者の立場を適切に代弁してくれる
税理士が事前に関与することで、調査がスムーズに進行するだけでなく、指摘事項があった場合も安心感をもって対処することができるでしょう。税務調査のリスク軽減のためにも、税理士との連携を強化し、適切なアドバイスを積極的に活用することをおすすめします。
7.まとめ
本記事では、税務調査の目的と、種類や流れなどの税務調査に関する基本情報について解説してきました。税務調査は、申告納税制度を支える重要な仕組みであり、公平な税負担を実現するために実施されています。
適正な申告を心がけ、帳簿・証憑の適切な管理を行い、税理士と密接に連携することが、税務調査に対する最良の備えとなります。税務調査の通知を受けたら、まずは税理士に相談し、適切な対応を取ることをお勧めします。

