
売り手側が行うデューデリジェンス(DD)を一般にセルサイドデューデリジェンスと呼びます。デューデリジェンスは買い手側が行うのが主流であるため、「売り手が費用をかけてまで、セルサイドデューデリジェンスをやる意味はあるのか」、疑問に感じる売り手側経営者も少なくないでしょう。
しかし、セルサイドデューデリジェンスは主体的なM&Aの実現に寄与し、最終的にM&Aの成約率や満足度を高めることにつながります。
本記事では、セルサイドデューデリジェンスの5つのメリットについて詳しくご紹介します。自社の売却を検討されている経営者の方は、参考になさってください。
目次
1.セルサイドデューデリジェンスの5つのメリット
セルサイドデューデリジェンスはM&Aの前段階、もしくはM&Aの初期段階で行います。本格的な交渉に入る前に行うことで次のようなメリットが得られます。

なお、買い手側が行う通常のデューデリジェンスとセルサイドデューデリジェンスは、調査内容自体に大きな違いはありません。通常のデューデリジェンスについては「デューデリジェンス(DD)の目的とは?種類や手順、注意点まで」をご覧ください。
1-1.適正価格を把握できる
セルサイドデューデリジェンスによって、自社の客観的な適正価格を把握できます。
例えば、自社の在庫の劣化が多く見つかった場合に、具体的な損害額を確認していればM&Aで提示する適正価格を当初から把握することができます。
【セルサイドデューデリジェンスのタイミングごとのメリット】
- M&Aの前段階
価格に満足できないときも後述のように課題解決に動くことで、価格を引き上げることが可能です。 - M&A初期段階
極端に高い価格を提示して買い手の購買意欲を遠ざけてしまうことや、自社の価値を極端に低く見積もってしまうことを避けられます。
1-2.先んじて課題解決へ動ける
セルサイドデューデリジェンスでは自社の課題も見つけ出すことができるため、先んじて課題解決へ動くことができます。
例えば、売掛金の回収サイトが長いと、M&Aでは不利に働きます。自ら取引先と交渉して回収サイトの短縮化を図ることで、不利な材料をつぶすことができます。
逆に、セルサイドデューデリジェンスによって思わぬ強みを発見できる可能性もあります。自社では当たり前と思っていたことが、社外で評価されることがあるかもしれません。
1-3.買収ストラクチャーの検討と提案ができる
いくつかある買収ストラクチャーから、自社にとって最適なものを導けます。自社にとっての最適シナリオが判断できれば、そこを目指してM&A提案をしていくことが可能です。
買い手側の意向により最適シナリオの実現が難しい場合も、より有利に進めやすくなります。例えば、株式買収と事業譲渡のうちどちらを選択するべきか、といった問いに対して複数のシミュレーションをしておくことで、相手の返答に応じた最適な選択をしやすくなるからです。
1-4.M&Aの早期成約につながる
セルサイドデューデリジェンスの有無にかかわらず、買い手側のデューデリジェンスは必須です。買い手側が行うデューデリジェンスの効率化に、セルサイドデューデリジェンスが役に立つ場面があります。
【セルサイドデューデリジェンスが買い手側にとって役に立つ場面】
- セルサイドデューデリジェンスの結果を買い手に共有する場合
買い手側の財務情報の把握を助けます。
セルサイドデューデリジェンスがそのまま買い手側のデューデリジェンスになるわけではありませんが、重要事項が網羅されたセルフデューデリジェンスを確認することで、商流や利益構造などが速やかに把握できます。 - 買い手側が必要な情報の提示依頼をしてきた場合
セルサイドデューデリジェンスで使用した資料をすぐに(もしくはあらかじめ)提示可能です。例えば、取引の公平性を疑われやすい関連当事者との取引内容は、財務諸表から見つけにくいオフバランス項目です。整理された資料をすぐに提示できれば買い手側は大いに助かるでしょう。
買い手側はM&Aのスケジュールに沿ってデューデリジェンスを行わなくてはならないのですが、膨大な情報を調査・分析するのは容易ではありません。効率化につながる情報の提示は喜ばれますし、M&A自体の早期成約にも貢献します。
1-5.成約率と満足度を高めることができる
適正価格の把握、あらかじめの課題解決、M&Aの効率化等は、買い手とのスムーズな交渉につながるため、成約率を高めます。またこれらによって主体的にM&A交渉を行えるため、M&Aそのものの満足度も高まるでしょう。
時間をかけて交渉をした結果、交渉が決裂するのは自社にとって望ましい状況ではないでしょう。また、M&Aが成立しても、不満が多くてはやなり残念な結果と言わざるを得ません。
不本意な状況を回避できるという点で、セルサイドデューデリジェンスは大きなメリットがあると言えるのです。
2.セルサイドデューデリジェンスのデメリット
メリットがある一方で、デメリットもあります。
2-1.費用がかかる
通常、セルサイドデューデリジェンスはFASや税理士法人といった専門家に依頼して行います。M&A前に費用がかかる事はデメリットといえます。費用感は、会社の規模、デューデリジェンスの範囲、調査する事業年度等により大きく変わりますが、目安としては百万~数百万円です。
セルサイドデューデリジェンスは多くのメリットがありますが、費用に見合うだけの効果が得られるかは検証する必要があります。
また、M&Aの前段階で行うセルサイドデューデリジェンスは相手方がいない分、期限が間延びしがちです。手際よくスコープを設計し、効率よく調査・分析を行える、専門家に依頼することをおすすめします。
2-2.デューデリジェンスの質が低いとかえって不利に働く
セルサイドデューデリジェンスの質が低いと、適正価格の把握や課題の発見、最適な買収ストラクチャーの検討といったメリットが得にくいです。それどころか買い手側にセルサイドデューデリジェンスを示したときに、かえって信頼を失うかもしれません。
セルサイドデューデリジェンスのメリットを享受するためには、品質が重要です。自社の分野におけるデューデリジェンスの実績がある、もしくはさまざまな業種・業界に精通している専門家にデューデリジェンスを頼むことをおすすめします。
3.セルサイドデューデリジェンスなら経験豊富な辻・本郷 FAS株式会社をご検討ください
辻・本郷 FAS株式会社はデューデリジェンスやバリュエーションの専門家です。企業価値の算定はもちろんのこと、経営統合、組織再編コンサルティング、事業再生コンサルティング等にも対応しています。
M&AやM&Aの後まで見据える目を持っているため、より高い視座でスコープ設計や課題を見極めることができます。
また、初めてM&Aを行う方からのご依頼も多く承っています。
「初めてのM&Aで不安がある」
「知識がないのだが、依頼してもいいのだろうか」
このような方も、ご安心ください。
辻・本郷 FAS株式会社は質の高いデューデリジェンスによって、経営者が適切な意思決定をするための調査・分析を多く提供してきました。質の高い調査・分析でM&Aを主体的に完遂したいという方は、ぜひお問い合わせください。
4.まとめ
セルサイドデューデリジェンスは必須ではありませんが、主体的にM&Aを進めたい売り手にとって多くのメリットがあります。
【セルサイドデューデリジェンスのメリット】
- 流されるままに買収価格が決まる事態は避けたい
- 課題は克服し、強みはしっかりとアピールして自社をより高く評価して欲しい
- できる限り自社にとって有利な買収ストラクチャーを構築したい
- M&Aに時間をかけたくない
上記のように考えている売り手企業の方は、セルサイドデューデリジェンスの実施をご検討ください。より満足できるM&Aにつながる事でしょう。
