共有名義不動産は自分の持分のみなら売却は自由!状況に合う売却法を

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監修者 新井健一郎

『共有名義の不動産を売却したい。でも、売れるのか分からない』

『共有名義不動産を売却したいけれど、他の共有者の同意が得られない』

『そもそもどう進めればいいのかわからない』

このようなお悩みはございませんか?

離婚や相続、共同購入などの理由で、不動産が共有名義となっているケースは少なくありません。

しかし、共有名義不動産では、いざ売却を検討すると「名義人が複数いること」が大きなハードルとなってしまうことがあります。

共有名義不動産の売却に悩むあなたにまずお伝えしたいのは、共有名義不動産は、ご自身の共有持分だけであれば、他の共有者の合意も、他の共有者への通知も必要なく自由に売却することができるということです。

この記事では、共有名義不動産を売却したいとお考えのあなたにできる4つの売却方法や、売却する際に必要な書類や手順、よくあるトラブルとその解決策などを解説いたします。

ご自身の場合にはどうしたら良いのか、具体的な状況に合わせた方法をお伝えしていきますので、ぜひ記事本文をご一読ください。

最善の売却方法を、一緒に選んでいきましょう。

目次


1.共有名義不動産では、自分の共有持分については自由に売却できる

共有名義の不動産を相続や共同購入によって取得した場合、自分の共有持分に関しては、自由に売ることができます。

ただし、共有名義による所有という性質上、共有持分だけの売却では売値が相場(共有持分の本来の価値)より低くなってしまいがちです。

また、共有者全員の合意が取れてさえいれば、共有名義不動産全体の売却も可能となります。

この章では、共有名義不動産の売却について、整理して解説します。

1-1.共有者全員の合意があれば共有名義不動産全体を売却できる

共有不動産全体を売却するためには、共有者全員の合意が不可欠です。

不動産の「全体」を売却する行為は、所有権そのものを第三者に移転させる変更行為です。民法第251条では、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(増改築、売却など)を加えることができないと定められています。

したがって、共有名義不動産全体の売却は一部の共有者の独断では不可能で、共有者全員の合意が求められます。

例えば、共有者が4人いる不動産を売却したい場合、1人でも反対すれば全体の売却は成立しません。

これが原因で、不動産の処分や活用が長期間滞るケースも少なくありません。特に、相続により共有関係が複雑化している場合などには、共有者全員の意思を揃えることは容易ではないでしょう。

このように、不動産全体を売却する場合は、共有者全員の合意を取り付ける必要があります。単独の判断では実行できない点に注意が必要です。

1-2.自分の持分のみなら共有者単独で自由に売却できる

共有名義不動産においては、自分の共有持分に限り、他の共有者の合意や通知なしに自由に売却することが可能です。

民法206条では、不動産が共有状態にある場合でも、各共有者は自分の持分について処分(売却・贈与など)する権利を有すると定められています。

そのため、自分の持分を第三者に売却すること自体に法的な制限はありません。

例えば、兄弟3人で共有している土地のうち、三男が自分の持分を売却したいと考えた場合、他の共有者である兄の同意を得る必要はなく、自身の持分だけを第三者などに対して売却することができます。

ただし、売却後の共有関係には第三者が新たに加わるため、後々の関係性に影響を及ぼす可能性があります。

共有名義不動産においては、自分の持分に限って自由に売却できますが、その後の関係性や実務上の問題も視野に入れて判断すべきです。

1-3. ただし、共有持分のみで相場価格に近い額で売却するには専門家の助けが必要となる

共有持分だけを相場に近い価格で売却するには、専門的な知見とネットワークをもつ不動産業者や弁護士などの士業との連携が不可欠です。

共有持分は市場において、単体では「使い道が限られる権利」と見なされがちなため、単純な売却では価格が大幅に下がる傾向があります。

また、持分の売却益にかかる税務処理ももちろん必要です。適切な対応をしなければ予想外の納税義務が発生する可能性もあります。

共有持分売却に強い不動産業者であれば、投資家などのネットワークを通じて共有持分の需要を見つけ出し、より有利な条件での売却を実現することが可能です。また、士業をはじめとした提携の専門家がいれば、売却による譲渡所得税の申告や節税対策、売却時のトラブル対策、登記手続きなども含めて支援が受けられます。

共有持分の売却は可能ではあるものの、相場に近い価格での売却や税務上の適切な処理を望むのであれば、専門家と連携することが実務上の最善策です。


2.共有名義不動産を売却するための4つの方法

共有名義不動産を手放したい場合、選択肢は1つではありません。

共有者間の関係性や不動産の種類、希望する価格帯によって適切な売却手段は異なります。

この章では、共有不動産の売却における代表的な4つの方法を具体的に解説します。

2-1. 他の共有者に自分の共有持分を売却する

最も現実的で円満な共有名義不動産の売却方法は、自分の共有持分を他の共有者に売却することです。

特に、他の共有者が実際に物件に住んでいる場合、自分の持分をその共有者に売却するのが現実的な方法となります。

すでにその不動産に関わっている共有者に売却する場合、権利関係の変更が最小限で済み、購入後の管理や利用もスムーズです。加えて、他の共有者は物件全体に関心を持っている可能性が高く、交渉の余地もあります。

例えば、兄弟3人が親から相続して共有する土地について、次男が持分を手放したいと考えた際、長男と三男に相談して持分を買い取ってもらえるように提案することで、相続後の争いを避けつつ現金化の実現が期待できます。

共有者同士の信頼関係が維持されていれば、この方法が最も手間が少なく、合意形成もしやすい売却方法です。

2-2. 共有者全員で不動産全体を第三者に売却する

共有名義不動産の売却では、共有名義不動産全体を第三者に売却するという方法もありますが、この場合、共有者全員で話し合い、共同で売却を行う方法があります。

不動産全体を売却することで、物件の市場価値を最大限に引き出すことができ、共有持分単体での売却に比べて高値で売れる可能性が高まります。

例えば、4人で共有している住宅を、共有者全員で話し合い、合意のもと売却し、その代金を持分割合に応じて分けるといった方法になります。全員が納得していれば、トラブルも起こりにくく、換金も円滑に進みます。

共有者間で合意形成さえ可能であれば、全体売却は最も高値が見込める合理的な選択肢です。

2-3. 土地の場合は分筆して売却できる

共有名義不動産が土地であれば、物理的に分ける「分筆」という方法によって、共有状態を解消したうえで売却することが可能です。

分筆とは、土地を複数の筆に分けて登記する手続きであり、これによって自分の所有権を独立した1筆として確定させることができます。分筆により、独立した土地になってしまえば、共有関係を離れて単独で売却できるようになります。

例えば、600㎡の共有土地を3人で200㎡ずつ分筆し、それぞれが自分の土地として売却する、または利用することができます。

ただし、分筆には共有者の過半数の合意が必要です。

さらに、測量・登記などの専門的な手続きが必要であるため、数ヶ月程度の期間や数十万円程度の費用がかかる場合があります。

また、分筆によって土地の評価額が下がったり、固定資産税が上がったりする場合があります。接道要件や自治体の制限によっては分筆が不可能な場合もあります。自分の場合に分筆をすることが最適であるかについては、土地家屋調査士、相続や税金が絡む場合は税理士や司法書士などに相談して判断することをおすすめします。

例えば、農地や郊外の広い宅地であれば、分筆して個別に売却することで、それぞれが独立した形で自由に利用・売却できるようになります。

このように、物理的な分離が可能な土地であれば、分筆は共有名義の解消と売却の両方を実現する有効な手段です。ただし、かかる費用や期間、分筆に適した土地であるかなどについては、事前に専門家に相談するなど、確認が必要です。

2-4. 共有持分のみを買い取る不動産会社に売却する

共有者との合意が困難な場合、自分の持分だけを買い取ってくれる専門業者に売却するという手段もあります。

最近では、共有持分のみを買い取る不動産会社が増えてきました。これらの業者は、共有持分のみの不動産を評価し、比較的迅速に買い取りを行ってくれます。

例えば、兄弟など他共有者との関係が悪化して話し合いが困難な場合でも、共有持分買取専門の業者に相談すれば、現金化が早く、精神的負担も軽減されます。

ただし、売却価格は一般的には、市場価格よりも低めになる傾向があります。

高値売却は望みにくいものの、共有関係から早期に脱する手段として、専門業者への売却は現実的かつ実務的な選択肢です。その際には、トラブル回避などのために、税理士や弁護士などの士業や、土地家屋調査士などの専門家と提携している不動産業者などをおすすめします。


3.共有名義不動産や共有持分を売却するまでの流れ

共有名義不動産の売却までの流れには、通常の不動産売却と多少の違いがあります。

例えば、いきなり買い手を探す前に、まずは「誰と共有しているのか」「その相手に売る意思があるのか」など、前提条件を明らかにしておく必要があります。特に不動産全体を売却する場合は、費用の分担も事前に整理しておかないと後でトラブルになりがちです。

この章では、共有持分や共有不動産を売却する際に必要な一連の流れについて解説します。

3-1. 共有者が誰であるかを確定させる

共有名義不動産を売却する前に、まず現在の共有者が誰なのかをはっきりさせることは不可欠です。

共有者の特定が不十分なまま売却の話を進めてしまうと、後から「知らない共有者がいた」「話が通っていなかった」といった問題が起こり、取引そのものが無効になるリスクがあるためです。

例えば、相続を繰り返した土地では、代々の相続時に名義変更が行われず、登記には既に亡くなっている過去の所有者が記載されており、実際の現所有者が不明になっているケースもあります。そうした場合は、登記簿謄本を取得し、必要に応じて司法書士に調査を依頼することが有効です。

共有者の確定は、売却の土台を築く作業です。登記情報を確認し、相続などが絡む場合は専門家の協力を仰ぎましょう。

3-2. 共有者に売却の意思があるか確認する

不動産全体を売却するには、共有者全員が売却に同意する必要があります。そのため、売却意思を確認することは非常に重要なステップの一つとなります。

共有者の一部が売却を拒否すれば、不動産全体としての売却は成立しません。共有者間で意見が割れた場合には、共有持分のみの売却など別の売却方法を検討することになります。

例えば、兄弟で相続した実家を売却する場面で、一人が「売りたくない」と主張すれば、そのままでは売却は不可能です。交渉による説得や代償分割(現金で持分を買い取る)などの対応が求められます。

売却を進める前に、全員の意思確認が重要です。可能なら書面にして残しておくと、後々の誤解や紛争の防止になります。

3-3. 不動産全体を売却する場合は費用の負担割合を決める

共有名義不動産の全体売却を進めるなら、あらかじめ共有者間で、売却にかかる費用を誰がどのように負担するかを明確にしておくべきです。

売却には仲介手数料、登記費用、測量費用などが発生します。負担割合が不明確だと、後で「誰が払うのか」で揉めることになります。

例えば、不動産会社に支払う仲介手数料を1人が立て替えたが、他の共有者が「払う義務はない」と主張し、関係が悪化したというケースがあります。事前に「持分割合に応じて費用を分担する」などのルールを決めておくと安心です。

共有不動産の売却には、収益だけでなく費用の分配も付き物です。円滑に進めるためには、売却前にしっかり話し合って合意を取りましょう。

3-4.不動産会社など買い手と話をつける

売却のためには、買い手を探し、条件面(価格・引渡時期など)について交渉を行う必要があります。

売却相手によって必要な手続きや価格帯が変わるため、最初の段階で信頼できる不動産会社、または個人買主との交渉を確定させることが重要です。

特に、自分の共有持分のみの売却を希望する場合には、共有持分の買取に専門性のある不動産業者を選ぶことでスムーズな進行が期待できます。

共有者が住んでいる物件ならその共有者、そうでなければ共有持分買取専門の不動産会社などを対象に、インターネットで資料請求や価格査定を受けた上で交渉に入ることが一般的です。

売却の成否は最初の買い手選びで決まります。信頼性と専門性を重視して交渉に臨むことが大切です。

3-5.売買契約を結ぶ

売主買主の間で価格や条件に合意したら、次に、正式な売買契約を締結します。

売買契約書は、後々のトラブルを防止するための法的根拠となる重要な書類です。契約締結時には手付金の受け取りや、契約条項(解除条件や引渡日など)の最終確認が求められます。

自分の共有持分のみの売却であっても、契約書には「持分割合」「売却対象が不動産の一部であること」などを明記しておくことで、後日の誤解や訴訟リスクを低減できます。

契約書は法的効力を持つ文書であり、正確な内容の確認が極めて重要となります。

3-6.所有権移転の手続きなどを行う

売買成立後は、所有権移転登記を行う必要があります。司法書士への依頼が原則的ですが、司法書士と連携の取れている不動産会社に売却することもおすすめできます。

不動産の所有権移転は登記をもって法的に完了となるため、登記申請は不可欠です。司法書士はこの登記手続きの専門家であり、本人確認や登記原因証明情報の作成など、複雑な手続きを代行してくれます。

自分の持分のみの売却であっても、買主が登記簿上に新たな共有者として記載されるため、所有権移転登記は必須です。登記漏れがあると、後にトラブルや売却不能の事態にもなり得ます。

司法書士を活用することで、法的に問題のない売却が実現できます。不動産会社が司法書士と連携している場合は、窓口を一本化できて便利です。

3-7.不動産全体を売却した場合は、収益を共有者間で分配する

共有不動産全体を売却した場合には、売却益は共有持分の割合に応じて共有者間で分配されます。

共有関係にある以上、売却によって得た収益も基本的には持分割合に従って分配することが公平であり、法的にも妥当な処理とされます。

例えば、3人で均等に共有していた不動産を3,000万円の収益で売却できた場合、それぞれが1,000万円ずつを受け取ることになります。

分配に関しては、事前に合意書を作成するなど、トラブル防止の措置を講じておくことが理想的です。

3-8.税金の確定申告と納付を行う

共有名義不動産全体や自分の共有持分の売却後は、譲渡所得にかかる税金について確定申告を行い、必要に応じて納税を行う必要があります。

不動産売却によって利益(譲渡所得)が出た場合、それは所得税と住民税の課税対象となります。特例控除(3,000万円控除など)が使える場合もありますが、自分の共有持分のみの売却では条件が異なることも多いため、正確な申告が求められます。

例えば、自分の共有持分を500万円で売却し、購入時の取得費や諸経費を差し引いて200万円の利益が出た場合、その額に対して所得税と住民税が課されます。この際、税理士に相談することで適切な控除や節税対策を講じることが可能です。

確定申告を怠ると延滞税や加算税の対象となるため、売却後は速やかに税務手続を進めましょう。


4.共有名義不動産や共有持分を売却するときにかかる費用の相場

共有名義不動産やその持分を売却する際には、さまざまな費用が発生します。

これらを事前に把握しておくことで、手取り額を正確に見積もることができ、不測の出費を避けることができます。

この章では、代表的な費用項目ごとに、かかる費用の相場と注意点を解説します。

4-1.売買契約時に必要な印紙税は売買金額によって変わり、5,000円〜3万円程度

不動産の売買契約書には印紙を貼付する必要があり、そのときかかる額(印紙税額)は売買金額に応じて異なります。

印紙税は法定の「収入印紙」を契約書に貼付する形で納付される税金です。売買価格が高額になるほど印紙税も増加しますが、自分の共有持分のみを売却する場合は、売買価格が低額であるため、比較的低額で済むことが多いです。

例えば、売買価格が500万円の場合、印紙税は1万円。1,000万円を超えると2万円以上になることもあります。

印紙税額は、不動産の売買価格によって金額が変動するため、契約前に必ず印紙税額を確認しておきましょう。

4-2.登記手続きの際に必要な登録免許税は不動産1個につき1,000

不動産を売却する際に住宅ローンが残っていることにより、抵当権抹消登記が必要な場合、登録免許税が必要です。これは、自分の共有持分のみに抵当権が設定されている場合の売却でも課税されます。

(※抵当権が「不動産全体」に設定されている場合、自分の持分だけの抵当権抹消は原則できず、自分の共有持分のみの売却は困難です)

登録免許税は国に納める登記関連の税金で、不動産1個につき、基本的には1,000円発生します。ただし、登記内容や評価額によって例外もあるため、登記実務の確認が重要です。

例えば、共有持分の売却で1棟の建物の登記が必要な場合、登録免許税として1,000円が必要になります。

登録免許税も、わずかな金額とはいえ、登記の段階で必ず発生する法定費用として想定しておくべきです。

4-3.登記手続きに対する司法書士への報酬は5,000円〜2万円程度

抵当権抹消や所有権移転などの登記手続きの代行を司法書士に依頼する場合、報酬として5,000円〜2万円程度が相場です。

(※所有権移転登記は、不動産売買において買主が行うべき手続きとされていますが、実際の申請は売主と買主の「共同申請」が原則です。一般的には、所有権移転登記は買主側が司法書士への依頼費用を支払いますが、これは契約内容によります)

登記には専門知識が求められるため、多くの場合は司法書士が関与します。報酬額は案件の複雑さや地域、依頼内容(登記書類の作成を含むかなど)によって異なります。

単純な所有権移転登記なら5,000円〜1万円程度で収まることもありますが、共有状態が複雑で書類の整備が必要な場合には2万円前後かかることもあります。

司法書士への報酬額には幅があるため、見積もりを事前に取り、信頼できる司法書士に依頼するのが安全です。

4-4.売買契約後に支払う不動産会社への仲介手数料は上限が決まっている

不動産会社に不動産売却の仲介を依頼する場合、仲介手数料は必ず生じますが、仲介手数料に関しては売却金額に応じた上限が法律で定められています。

宅地建物取引業法により、仲介手数料の上限は「売却価格の段階別料率」で決まっており、それを超える請求は違法です。これにより、売主は費用の見通しを立てやすくなっています。以下の表では、仲介手数料の上限額を売却価格ごとに示しています。

売却価格上限額

200万円以下の部分

売却金額(税抜)×5%+消費税

200万円超400万円以下の部分

売却金額(税抜)×4%+消費税

400万円超の部分

売却金額(税抜)×3%+消費税

例えば売却金額が600万円の場合、

  • 200万円までの部分:200万円 × 5% = 10万円
  • 次の200万円までの部分:200万円 × 4% = 8万円
  • 残り200万円の部分:200万円 × 3% = 6万円

合計、24万円 消費税(10%= 264,000が仲介手数料の上限となります。

不動産会社との契約時には、仲介手数料の計算根拠と上限を必ず確認しましょう。

4-5. 売却後、譲渡所得に対してかかる譲渡所得税には固有の計算方法がある

共有名義不動産や共有持分を売却した場合、その利益には「譲渡所得税」がかかります。ただし、この税金は単純な売却額にかかるわけではなく、一定の計算式と税率に基づいて課税されます。

譲渡所得税は、売却によって得た純粋な利益(譲渡所得)に対して課税される税金です。取得費や売却にかかった費用を差し引いたうえで、保有期間に応じた税率が適用されるため、税負担は人によって大きく異なります。

譲渡所得は、以下の式で計算されます。

譲渡所得 売却価格 -(取得費 譲渡費用)

  • 売却価格:不動産を売った価格
  • 取得費:不動産を買った時の価格、建築費、購入時の税金、仲介手数料など
  • 譲渡費用:売却時の仲介手数料、印紙税などの費用

共有名義の場合は、それぞれの持分に応じてこれらの金額を按分し、個別に譲渡所得を計算します。

以下の条件を具体例に挙げます。

  • 売却価格:2,000万円
  • 取得費:800万円
  • 譲渡費用:100万円
  • 持分割合:1/250%)

このときの計算は以下の通りです。

  • 共有持分に対応する売却価格:2,000万円 × 1/2 1,000万円
  • 共有持分に対応する取得費:800万円 × 1/2 400万円
  • 共有持分に対応する譲渡費用:100万円 × 1/2 50
  • 譲渡所得=1,000万円400万円+50万円)=550万円

次に、この譲渡所得に「保有期間」に応じた税率をかけて、課税額を計算します。

譲渡所得には、保有期間に応じて、長期譲渡所得と短期譲渡所得の2種類があります。

売却した年の、1月1日時点での保有期間

所得税

住民税

5年以下(短期譲渡所得)

30.63

9%

5年超(長期譲渡所得)

15.315

5%

 

上記の所得税には、復興特別所得税(2.1%)が含まれています(平成25年~令和19年まで)。

したがって、例えば、上記の550万円の譲渡所得に対して、長期譲渡所得として課税される場合、550万円 × 20.315111.7万円の税金が発生します。

譲渡所得税は、共有持分の売却に際して必ず発生する重要な税金です。正確な計算には、取得費や譲渡費用の把握が不可欠であり、保有期間によって税率も変わるため、最終的な手取り額に大きく影響します。

可能であれば、税理士などの専門家にシミュレーションを依頼しておくと、安心して売却手続きを進めることができます。


5.共有名義不動産や共有持分を売却するときに必要な書類の種類

共有名義不動産や自分の共有持分を売却するには、法的手続きや登記に対応するための正確な書類の準備が欠かせません。

必要書類がそろっていないと、売却が遅延するだけでなく、取引そのものが無効になることもあります。

この章では、共有名義不動産や自分の共有持分の売却時に求められる書類について解説します。

5-1. 登記済権利証、または登記識別情報

共有名義不動産や自分の共有持分を売却するには、登記済権利証、または登記識別情報が必要です。

これらの書類は、不動産の正当な所有者であることを証明するために使われます。

このうち、特に、登記識別情報は、200537日施行の不動産登記法改正によって新たに導入された制度です。それ以前は登記済権利証のみが本人確認手段でしたが、改正後はこれに代わり、12桁の英数字からなる登記識別情報が発行されるようになりました。

したがって2005年以前の登記では、共有名義であっても権利証が1冊しか発行されないため、自分の持分の売却時に手元に権利証がないというケースが頻発しています。

このような場合には、法務局が事前通知により本人確認を行う「事前通知制度」や、弁護士・司法書士が本人確認を行う「資格者代理人による本人確認情報制度」を利用して、代替的に所有者であることを証明する必要があります。

権利証や登記識別情報がない場合は、手続きが煩雑になるため、売却を進める際には必ず不動産会社に相談しながら対応を進めましょう。

5-2. 不動産に土地が含まれる場合は土地測量図と境界確認書

売却したい不動産が土地付き不動産の場合、測量図と境界確認書の準備が必要です。

これらの書類は、土地の正確な範囲を特定するために必要です。隣地との境界が不明瞭なままでは売却後にトラブルになるおそれがあるため、買主側からの提出要求も多くあります。

古い土地の場合、境界杭が不明瞭になっていたり、地積測量図が未整備なこともあります。このような場合には土地家屋調査士に依頼して測量し、境界を明確にした上で売却に臨むのが一般的です。

測量や境界確認には時間と費用がかかるため、早めに書類の有無を確認し、必要であれば調査士への依頼を検討しましょう。

5-3. 所有者本人の身分証明書と住民票

不動産の売却の際には、本人確認のために、公的な身分証明書と住民票が必要です。

登記や契約にあたっては、売主が正当に登記名義人であることの確認が求められます。住所変更や氏名変更がある場合には、住民票や戸籍の附票でその経緯を証明する必要も生じます。

共有不動産の持分を売却する際、運転免許証と、発行から3か月以内の住民票を提出するのが一般的です。相続登記が未了の場合には、さらに戸籍一式の提出も必要となるケースがあります。

本人確認書類は売却の前提となる基本資料であり、不備がないか必ず事前に確認しておきましょう。

5-4. 売買契約に用いる印鑑登録証明書と実印

売買契約書には実印を押印し、それに対応する印鑑登録証明書を提出する必要があります。

不動産売買は高額かつ法的効力が強いため、本人の意思で締結された契約であることを証明するために、実印とその証明書が必要になります。印鑑登録証明書は市区町村役場で取得が可能で、有効期間は一般に3か月とされています。

売却契約時に実印を忘れた場合、契約自体が締結できないか、後日再締結となり手間と時間がかかります。

印鑑登録証明書も契約書の一部として保管されるため、売買成立後の登記に必要です。

売買当日に慌てないためにも、実印の準備と印鑑登録証明書の取得は、余裕を持って行っておくべきです。


6.自分の共有持分だけを不動産会社に売却するリスクについて

共有名義不動産において、自分の持分のみを不動産会社に売却するという手段は、手続きが単独で可能であることから選ばれやすい方法です。

しかし、その選択にはリスクが内在しており、場合によっては他の共有者との間でのトラブルに発展したり、売却したことを後悔してしまう可能性もあります。

この章では、自分の共有持分のみを売却する際に生じ得る代表的なリスクを具体的に解説します。

6-1. 一般的には、相場価格より売却額が安くなる

自分の共有持分だけの売却では、不動産全体の相場価格に比べて売却額が大幅に低くなるのが一般的です。

共有持分だけでは、単独で使用、処分などができるわけではないため、不動産の市場価値が大きく下がります。購入した不動産会社側も、その後の交渉やトラブル処理を想定して買い取るため、リスク込みで価格が引き下げられます。

たとえば、全体で3,000万円の価値がある不動産であっても、1/2の共有持分を売却しようとすると、期待できる金額は1,000万円〜1,200万円程度にとどまるケースもあります。

金額面での妥協が避けられない点を理解し、できるだけ複数業者に査定を依頼することが現実的な対策です。

6-2. 他の共有者が、不動産会社から持分売却を勧められる可能性がある

自分の持分を不動産会社に売却したことで、他の共有者が不動産会社から売却を促されるという可能性があります。

不動産会社としては、物件全体を所有できるように他の共有者の持分も買い取りたいと考えるため、積極的にアプローチを行う場合があります。その過程で、共有者同士の関係が悪化することもあります。

例えば、兄弟での共有名義不動産で、兄の持分が不動産会社に渡った結果、残る共有者である弟に対して電話や手紙での営業が続き、弟が精神的に圧迫を感じてしまったことで、兄弟仲が悪化してしまうといった例があります。

自分の共有持分だけの売却の場合には、事前に他の共有者と方針を共有しておかないと、関係にひびが入ることもあるため、慎重な対応が求められます。

6-3. 売却後の共有名義不動産について、他の共有者と揉める可能性がある

自分の共有持分の売却後も、不動産が共有状態にある限り、他の共有者とさまざまなトラブルが生じるリスクがあります。

例えば、自分の持分売却に伴って、第三者が新たに共有者として加わることで、共有物分割請求や立入調査、固定資産税の滞納処理など、予想外の事態が他の共有者に発生する可能性があります。また、それにより、他の共有者との間の対立が激化する場合もあります。

例えば、自分の共有持分の売却後、業者が他の共有者に対して共有物分割を裁判で請求し、最終的に不動産が競売にかけられてしまったという例があります。また、新たに共有者となった第三者が不動産内に立ち入ったことで、他の共有者が不満を抱えてしまったという事例もあります。

自分の共有持分の売却後も、他の共有者との間のトラブルのリスクが完全に消えるわけではないため、自分の共有持分を売却したい際には、可能な限り他の共有者との協議を優先し、慎重に進める必要があります。


7.共有名義不動産や共有持分の売却でよくあるトラブルとその解決策

共有名義不動産や自分の共有持分の売却は、法律上可能であっても、実務上、あるいは人間関係上の課題が多く潜んでいます。

適切な手続きを取らなければ、想定以上の費用や時間を要したり、予期せぬ負担が発生することもあります。

この章では、共有名義不動産売却にまつわる代表的なトラブルと、それぞれに対する現実的な解決策を解説します。

7-1. 相続を繰り返すことにより、他の共有者が分からなくなっているため、不動産全体の売却が難しい

共有名義不動産の共有者の所在や数が不明といったトラブルが生じた場合には、司法書士に相談するのが最善です。

相続登記が未了のまま何世代にもわたり相続が繰り返されると、共有者が多数に分散し、連絡が取れなくなったり所在が特定できなくなります。その結果、不動産全体の売却が事実上不可能となるケースが頻発します。

例えば、ある土地で、相続が5代にわたり、共有者が30人以上に分かれていたことで、誰も全体の売却に踏み出せず、土地が数十年間放置されたという例もあります。こうした場合は司法書士に依頼して、戸籍調査を行ってもらうことで、相続関係の整理を法的に進めることが可能です。

相続関係が複雑な場合は自力で解決せず、登記と相続に精通した司法書士に早期相談を行うことが不可欠です。

7-2. 相場より安い額でしか売却できない

不動産の売却時に価格面で納得がいかないというトラブルが発生した場合は、不動産鑑定士による評価を利用できる不動産会社を選びましょう。

共有持分だけの売却では価格が下がりやすく、「相場が分からないまま売却してしまった」という後悔につながることがあります。この際、国家資格者である不動産鑑定士が価格を客観的に評価することで、たとえ安価だったとしても、適正な金額での交渉が可能になります。

複数の不動産会社に査定を依頼した結果、大きく価格が異なったため、鑑定士の評価を根拠にして価格交渉を進め、有利に売却できたといった事例もあります。

相場感が曖昧なまま売却に踏み切らず、専門家による評価を受けてからの判断が重要です。

7-3. 共有持分を他の共有者に売却するときにあまりに安い額で売却すると贈与とみなされ、贈与税がかかる可能性がある

自分の共有持分を他の共有者に売却する際に、その売却価格が不当に低いと、譲渡(有償)ではなく贈与(無償)であるとみなされて贈与税の対象になることがあります。このトラブルの対策としては、適正価格で売却することに尽きます。

税務署は、市場価格より著しく低い価格での譲渡を「実質的な贈与」と判断することがあります。この場合、贈与税は高率な課税対象となり、想定外の出費となる恐れがあります。

例えば、評価額が1,000万円の持分を100万円で売却した結果、900万円分が贈与とされ、高額な贈与税を課された例もあります。

相手が親族や知人であっても、こうした税務的なリスクを避けるために、税理士などの専門家の助言を受けつつ適正な価格で売買を行いましょう。

7-4. 他の共有者が売却に同意しない

他の共有者が売却に応じないといったトラブルが生じた場合、この記事で前述した内容と重複する部分もありますが、いくつかの対処法があります。

共有名義の不動産は、原則として全員の合意がないと全体を売却できません。

しかし、自分の持分だけを売却する、土地を分筆して個別に処分する、あるいは裁判所を通じて共有物分割請求を行うなど、現実的な対応策は存在します。

例えば、兄弟間の共有名義不動産で、他の共有者である兄が売却に反対していたため、弟は自分の持分のみを専門の不動産会社に売却を試みた、などのケースがあります。

共有者間の意見の対立がある場合には、このように法律的に活用できる手続きによって出口を見出すこともできます。ご検討ください。


8.共有名義不動産や共有持分の売却は「実績が豊富・士業と連携・共有持分に特化」した不動産会社に相談するのがおすすめ

共有名義不動産の売却は、一般的な不動産売買と比べて法的、あるいは実務的なハードルが高く、慎重な対応が求められます。

特に、自分の共有持分のみの売却や、売却したい共有名義不動産に複雑な相続が絡むケースでは、不動産会社の専門性が結果を大きく左右します。

したがって、売却を考える際は、以下の3つの条件を満たした不動産会社への相談が望ましいと言えます。

実績が豊富であること

共有不動産の取引は専門性が高いため、取り扱い実績のある会社を選ぶことが、手続きや交渉の成功率を高めます。実績があるほど、特殊なケースへの対応力も期待できます。

士業(弁護士・司法書士・税理士)などの専門家と連携していること

登記や税務、共有物分割請求といった場面では、法律や税の専門家との協働が不可欠です。士業とのパイプを持つ不動産会社であれば、必要な手続きをワンストップで進められ、余計な手間や費用を抑えることができます。

共有持分に特化していること

共有持分の取引に関して特化していない不動産会社では、共有持分のみ売却したい場合には、相場の適正判断や売却先の確保が非常に困難となります。共有持分に対して専門的なノウハウを持つ不動産会社ならば、個別のケースに応じた提案が可能であり、共有者間でのトラブルの回避にもつながります。

したがって、共有名義不動産や自分の共有持分の売却を考えるなら、豊富な実績、士業や専門家との連携、共有持分に特化の3点が満たされている不動産会社を選ぶことが、安心で確実な売却への近道です。


9.共有名義不動産や共有持分の売却でお悩みの方は、TH弁護士法人へご相談を

共有名義不動産のお悩みは、単なる資産売却の手間の問題にとどまらず、相続、共有者の対立、法的手続きなどの多くの問題を伴うことが多いです。

もしもあなたが、「共有状態を早く解消したい」「共有持分だけでも現金化したい」などとお考えの場合には、共有名義に非常に精通している法律の専門家であるTH弁護士法人へのご相談をおすすめします。

TH弁護士法人が選ばれる理由

  • 共有持分の解消・売却に特化した豊富な解決実績
  • 不動産会社・司法書士・税理士と連携したワンストップ対応
  • 共有物分割請求や交渉代理にも対応できる支援力

共有名義不動産の売却でどうしても話が進まない、他の共有者と話したくないなど、解決が難しいと感じる状況であっても、専門知識と交渉力で出口を見出します。

辻・本郷グループの遺産分割・共有名義に詳しい弁護士が直接対応いたします。

共有名義・共有持分の有料相談(一時間¥11,000税込)受付中!

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後ほど担当者より面談日時調整の返信をさせていただきます。


10.まとめ

共有名義不動産や共有持分の売却は、単独での判断が難しい問題を多く含みます。

この記事では、以下のようなポイントについて解説しました。

  • 共有者の合意が必要な不動産の全体売却や、単独で売却可能な自分の共有持分のみの売却など、4つの売却方法
  • 売却の流れと必要書類、費用の相場
  • よくあるトラブルとその具体的な解決策
  • 売却時は専門性の高い不動産会社を選ぶべき

また、共有名義の問題を早期かつ的確に解消したいという方には、実績ある専門家への相談を強くおすすめします。TH弁護士法人のように、共有名義に強みを持つパートナーを得ることで、長年の悩みが一気に前進する可能性があります。

お悩みの際はご相談ください。