
不動産の共有持分は、自分が保有する持分だけであれば自由に売却できます。また、共有者の持分を買い取ることも可能です。
共有持分を売買する際には、「売買契約書」の作成が重要になります。取引後にトラブルが発生する可能性もあるため、売買契約書は適切に作成しましょう。
本記事では、共有持分の売買契約書の基本から作成方法、契約の流れ、注意点まで詳しく解説します。共有持分の売買契約でトラブルを回避するために、ぜひ最後までご覧下さい。
目次
1.不動産の売買契約書とは
不動産の売買契約とは、不動産の売買において、売主と買主が合意した取引条件を正式に書面にした契約書のことです。契約書を作成することで、取引の透明性を確保し、後々のトラブルを防ぐことができます。ここでは、売買契約書の作成方法について解説します。
1-1.売買契約書の作成方法
不動産取引は、不動産会社が関与することが一般的です。不動産会社が関与する場合は、不動産会社があらかじめ標準的な契約書を用意し、売主・買主双方の合意内容を反映して作成します。
共有持分の売却など、法的リスクがある場合は司法書士や弁護士に依頼することもあります。専門家に依頼すると、個別の事情に応じた契約書の作成が可能です。紛争が予想される場合に、リスク回避のための条項を盛り込みながら作成してもらえます。
共有者間での売買など比較的単純な取引では、売主・買主自身が売買契約書を作成することもあります。個人間で売買する場合は、ひな形(テンプレート)を利用すれば簡単に作成が可能です。ただし、法的なチェックをせずに作成すると、後々トラブルになる可能性があるので、専門家にチェックしてもらうことをおすすめします。
なお、売買契約書は取引時に合意した内容が記載されている書類なので、契約締結後も大切に保管しておくことが大切です。契約後にトラブルや手続きが発生した際に必要になることがあります。万一、売買契約書を紛失した場合は、契約当事者(売主・買主)と相談し、再作成しましょう。
不動産会社や司法書士などが関与している場合は、コピーの有無を確認してみる方法もあります。また、売買契約書がなくても取引履歴をもとに証明できる可能性もあるので、法務局で登記事項証明書を取得し、取引内容を確認しましょう。
1-1-1.不動産売買の際には重要事項説明書の作成も必要
重要事項説明書とは、不動産取引の際に宅地建物取引士(宅建士)が買主に対して説明する書類です。売買契約を締結する前に、不動産のリスクや権利関係を説明するために必要になります。説明を受けた後に契約することで、買主が納得した上で購入することが可能です。
売買契約書の作成は個人でも可能ですが、重要事項説明書は宅地建物取引士に作成してもらう必要があります。共有持分の売買の際に、重要事項説明書に記載される主な内容は次の通りです。
主な記載事項 | 記載内容 |
不動産の概要 | 不動産の所在地、地番、地目、構造、用途など |
共有持分の内容 | 持分割合、共有者の氏名、持分の登記状況 |
権利関係 | 所有権の種類、抵当権・賃借権などの有無 |
法令上の制限 | 用途地域、建築制限、都市計画など |
接道状況 | 前面道路の種類(公道・私道)、幅員、接道長さ |
インフラ状況 | 水道、ガス、電気、下水道の整備状況 |
管理・使用の制限 | 利用目的や共有者間の取り決め、使用制限の有無 |
共有者の同意状況 | 他の共有者への売却通知の有無、合意の有無 |
契約不適合責任 | 売主が契約不適合責任を負うかどうかの明記 |
登記関連費用 | 所有権移転登記の申請者、登記費用の負担者の明示 |
手付金と解約条項 | 手付金の金額、契約解除の条件、違約金など |
その他特記事項 | 共有者との間の取り決め、公正証書の作成予定、紛争解決方法など |
なお、共有持分の売買においては、共有者の同意は基本的に不要です。ただし、共有持分の購入者が制限を受けることが多いため、第三者に購入してもらうことは難しいでしょう。また、他の共有者が優先的に購入できる「先買権」が認められ、自由に売買できないケースも想定されます。
2.不動産売買における単独名義と共有名義の違い
不動産の所有形態には、大きく分けて単独名義と共有名義の2つがあります。不動産の売買を検討する際には、名義を確認しておくことが重要です。
2-1.単独名義とは
単独名義とは、一人の名義で不動産を所有する形態です。例えば、自分一人で購入したマンションや一戸建てなどが該当します。不動産を購入した人が、所有権を100%持っている状態になります。
単独名義の場合は、所有者が自由に不動産の管理方法を決めることが可能です。例えば、不動産を賃貸に出したり、担保設定したりする場合も、自分一人の意思で行えます。売却したい場合も、売買契約の手続きを迅速に進められるでしょう。このように、単独名義の不動産は財産として管理しやすいことがメリットです。
ただし、単独名義で不動産を購入するには、一人で住宅ローンを組まなければなりません。そのため、審査の基準が厳しくなることが想定されます。
2-2.共有名義とは
共有名義とは、2人以上の名義で1つの不動産を共同所有する形態です。例えば、夫婦で住宅を購入した場合や、親子や兄弟姉妹で不動産を相続した場合などが該当します。
共有名義で不動産を購入する場合、複数人で資金を分担できます。住宅ローンを組む際、収入を合算して審査を受けることができるため、単独名義の場合よりも借入金額を増やせるでしょう。
一方で、共有名義にはデメリットも少なくありません。不動産全体を売却したい場合、共有者全員の合意が必要になります。持分だけであれば自分の意思で売却が可能ですが、所有権に制限があるため買い手が限られるでしょう。また、共有者の一人が亡くなり相続が発生すると、権利関係がさらに複雑化します。
2-3.単独名義と共有名義の基本的な違い
単独名義と共有名義の違いを表にまとめました。
項目 | 単独名義 | 共有名義 |
所有者 | 1人 | 2人以上 |
売却の自由度 | 所有者が単独で決定できる | 不動産全体を売却するには、共有者全員の合意が必要 |
売買契約の手続き | 単独で売買契約を締結可能 | 共有持分のみ売却する場合もある |
登記の手続き | 所有者本人が対応 | 共有者ごとに持分割合が登記される |
トラブルの可能性 | 少ない | 共有者間で意見が合わないと手続きが難航する |
相続時の影響 | 単独で相続人へ移転 | 共有者の相続が発生すると権利関係が複雑化 |
3.売買を通して不動産の共有を解消する方法とそれぞれのメリット・デメリット
共有名義の不動産を所有している場合、共有を解消するにはいくつかの方法があります。ここでは、特に売買により不動産の共有状態を解消する3つの方法を挙げ、それぞれのメリット・デメリットを解説します。
3-1.共有者に売却または共有者から購入する場合
複数人で不動産を共有している場合、他の共有者に自分の持分を売却するか、または自分が他の共有者から持分を買い取ることで共有を解消することができます。他の共有者も共有状態を解消したいと考えている場合に有効です。特に、共有者同士の関係が良好で、売却交渉がスムーズに進む見込みがある場合に良いでしょう。
共有者間の売買により共有を解消する方法は、元々の共有者同士での売買のため、契約内容を調整しやすく、トラブルが発生しにくいことがメリットです。第三者に売却するより登記手続きもスムーズに進むでしょう。また、市場に出さずに売却できるため、一般市場での買い手探しも不要です。
ただし、この方法は、共有者が購入または売却する意思がない場合は成立しません。また、売買の意思がある場合でも、共有者間の交渉次第では価格が市場相場より低くなることがあります。さらに、共有者が親族や知人で感情的な対立が生じた場合、価格交渉が長引く可能性もあるでしょう。
契約後のトラブルを避けるためには、売買契約書を専門家に依頼して作成してもらい、さらに公正証書にすることをおすすめします。また、親族間売買で取引価格が著しく低い場合、税務署から贈与税が課される可能性があるため、適正価格で売買することが重要です。
3-2.第三者に売却する場合
共有者が売買に応じる意思がない場合や、共有者間の関係が悪化しており、売却で関係を清算したい場合は第三者に売却する方法もあります。持分のみの売却は共有者の許可なしで可能です。市場価格に基づいて売却できるため、交渉次第では共有者間で取引するよりも高く売れる可能性もあります。
一方で、不動産全体ではなく「持分のみ」の購入は、一般の買主にはハードルが高い取引です。そのため、買主が見つからないケースも想定されます。買い手が限られる場合、買取価格が抑えられることもあるでしょう。
また、知らない第三者が新たな共有者になることで、共有者間で使用・管理面での対立が発生するリスクは高まります。持分のみの売却は単独で可能ですが、共有者が家族や親族の場合など、人間関係を悪化させたくない場合は、事前に確認する方が望ましいでしょう。
売却後、新しい共有者が他の共有者と良好な関係を築けるかが不明なため、慎重に買い手を選ぶことが大切です。また、売却を検討する前に、先買権の有無も確認しましょう。
3-3.不動産業者や投資家に売却する場合
できるだけ早く売却したい時や、共有者との交渉が難航しており、専門業者を介した方がスムーズな場合は、不動産業者や投資家への売却も検討してみましょう。不動産業者や投資家は資金を持っているため、スピーディな取引が可能です。専門業者が対応するため、契約内容が明確で、契約トラブルが少ないこともメリットと言えます。
一方で、買取価格には買取業者の利益が含まれるため、市場価格より低くなる可能性もあります。また、中には悪徳業者も存在するので、買取業者の選定は重要です。知らない業者が共有者になることで、共有者との人間関係に摩擦が生じることも想定されます。
不動産業者や投資家に売却する場合は、口コミや実績など買取業者の評判を事前に確認することが重要です。さらに、複数の業者に査定を依頼し、最適な条件を提示してくれる業者を選びましょう。
4.共有持分の売買契約の流れと必要な手続き
共有持分を売買する際には、一般的に以下のような流れで契約が進められます。
1.売買の目的を明確にする
売買の目的によって、最適な方法が異なるため、まずは目的を明確にすることが重要です。売却後の税金(譲渡所得税)、または購入後の税金(不動産取得税・固定資産税)なども考慮して判断する必要があります。
2.共有者と売買の相談をする(任意)
共有者が持分を購入または売却する意思がある場合は、第三者と取引するよりも手続きが簡単になるため、まずは交渉してみることをおすすめします。売却後、第三者が新たな共有者になると、共有者間でトラブルが発生する可能性もあるので、できれば事前に相談しましょう。
3.共有の解消方法を決める
前述の通り、共有持分の解消方法には、主に3つの選択肢があります。それぞれのメリットとデメリットを考慮した上で売買の方法を決めましょう。
4.必要な書類を準備する
共有持分を売却または購入するためには、売買契約書の作成や登記変更手続きが必要です。必要な書類の準備を進めましょう。
5.売買契約の締結と登記手続き
売買契約を結び、所有権移転登記を行います。登記手続きは司法書士に依頼するのが一般的です。
5.共有持分を売却する場合に必要な書類
共有持分を売却することになった場合、主に以下の書類が必要となります。ここでは、登記済権利証、土地測量図および境界確認書、身分証明書と住民票、印鑑・印鑑登録証明書の4つについて、詳しく解説します。
5-1.登記済権利証
「登記済権利証」は、不動産の所有者が正式に登記されたことを証明する書類です。登記済権利証は、不動産を売却する際に所有権の証明書として必須の書類なので、大切に保管しておかなければなりません。権利証を紛失した場合は、司法書士に相談し、本人確認情報を提供することで代替手続きを行いましょう。
ただし、1994年(平成6年)以降に登記された不動産には、権利証の代わりとして「登記識別情報通知」が発行されています。通知書には登記識別情報が記載されており、不動産の所有者が自分の権利を第三者に証明する時に必要です。
以下は、登記識別情報通知の代表的な形式や記載内容のイメージです。
【登記識別情報通知の見本(形式イメージ)】
5-2.土地測量図および境界確認書
土地測量図は、不動産(土地)の形状や面積を示した図面で、隣地との境界線を明確にするために重要な書類です。土地測量図には主に3つの種類があります。
【土地測量図の種類】
地積測量図 | 法務局に保管されている正式な測量図(公的な証明になる) |
現況測量図 | 土地家屋調査士が作成した、現在の実測面積を示す図 |
確定測量図 | 隣地所有者と合意の上で確定した境界線を示す測量図 |
このうち、土地を売買する際に必要な書類は確定測量図です。確定測量図は土地家屋調査士に依頼して作成してもらう書類で、一般的に土地の所有者が保管しています。紛失した場合は作成しなおさなければなりません。
また、境界確認書は、隣接する土地の所有者と境界線を確認し、合意したことを証明する書類です。共有持分の売却後、新しい所有者と隣地所有者との間で境界トラブルを避けるために必要になります。特に、土地の一部を売却する場合、境界線が曖昧だとトラブルになりやすいため、境界確認書の提示は必須です。
境界確認書は以下のような書類です。以下はあくまでもサンプルなので、土地家屋調査士や測量会社の指導のもとで正確に作成する必要があります。
【境界確認書(形式イメージ)】
5-3.身分証明書と住民票
不動産の売却時には、売主の本人確認のため、公的な身分証明書の提出が求められます。身分証明書として有効な書類は以下の通りです。
【有効な身分証明書の例】
・運転免許証:写真付きで本人確認がしやすい
・パスポート:顔写真があるため、公的な証明書として有効
・マイナンバーカード:顔写真付きのもの
また、売買契約や登記手続きの際には、住民票の提出も求められます。住民票は、現在の住所を証明する公的書類で、登記上の住所と現在の住所が一致しているか確認するために必要です。

住民票は発行から3ヶ月以内のものを用意します。住所変更があった場合、登記上の住所変更も行う必要があるので、早めに準備しましょう。
5-4.印鑑・印鑑登録証明書
不動産売買契約では、売主・買主ともに実印が必要となります。実印とは、市区町村の役所に登録された公的な印鑑のことです。契約書や登記申請書など、重要な書類に押印するために使用します。
また、実印が本物であることを証明するために、印鑑登録証明書の添付も必要です。

印鑑登録証明書(印鑑証明書)は実印が市区町村に登録されていることを証明する書類で、発行から3ヶ月以内のものを使用します。印鑑登録をしていない場合、事前に役所で手続きを済ませておきましょう。
6.共有持分の売買契約書のひな形・書式
ここでは、共有持分を売買する際に作成する売買契約書の基本構成、記載すべき項目、ひな形を紹介します。
6-1.共有持分の売買契約書の基本構成
共有持分の売買契約書には、以下のような項目を記載します。
【基本構成】
1.契約書のタイトル
「不動産売買契約書」
2.契約当事者(売主・買主)の情報
売主の氏名・住所
買主の氏名・住所
3.売買対象の不動産情報
不動産の所在地・地番・家屋番号
共有持分の割合(例:1/2、1/3 など)
登記簿情報に基づく不動産の詳細
4.売買代金と支払い条件
売買代金の金額(○○円)
支払い方法(一括払い or 分割払い)
代金支払いの期日(決済日)
5.所有権移転の時期と登記手続き
所有権の移転日(契約締結後、○日以内 など)
登記申請の手続き
6.契約不適合責任の取り扱い
売主が契約後の責任を負わないことを明記する場合(免責条項)
設備や土地の状態に関する売主の義務の明確化
7.契約解除に関する取り決め
手付解除
違約金の設定
8.その他の特約
共有者の優先購入権
共有不動産の使用条件
9.署名・押印
売主・買主の署名
実印での押印
6-2.共有持分の売買契約書のひな形(例)
不動産共有持分売買契約書の例を紹介します。
※この契約書はあくまでサンプル(参考用)であり、実際の契約に際しては専門家によるリーガルチェックを推奨します。
7.共有持分の売買契約書に関する注意点
共有持分の売買は一般の不動産取引よりも複雑で、共有者間でのトラブルが発生しやすくなります。特に、契約不適合責任の免責、実測測量の有無、設備の修復義務の負担などは、売却後のトラブルを避けるために重要なポイントとなるため、ここで詳しく解説します。
7-1.契約不適合責任の免責
契約不適合責任とは、売却した不動産に契約内容と異なる欠陥や問題があった場合に、売主が買主に対して負う責任のことです。一般的な不動産売買では、契約不適合責任に関する条項を設け、契約不適合があった場合には、売主が買主に対して責任を負い、契約不適合な部分を是正すること等を定めることが多いです。
しかし、共有持分のみの売買では、他の共有者が居住しているケースも多く、内覧をしないまま契約締結に至ることも少なくありません。
そのため、以下の例のように、「現状有姿(げんじょうゆうし)で引き渡す」「契約不適合責任を一切負わない」といった条項を入れて、買主が、売却する不動産の状態に異議を唱えないこと・異議を唱えても売主は対応しないことを定め、売主の責任範囲を明確にしておくことが一般的です。
契約書の記載例(免責条項)
第○条(契約不適合責任の免責)
売主は、本件不動産の現状をもって買主に引き渡すものとし、本件不動産について契約不適合責任を一切負わないものとする。
第◯条(現状有姿による引渡し)
売主は、本物件を現状有姿のまま買主に引き渡すものとし、建物及び付属設備の不具合、破損、汚損、その他の欠陥について、引渡し後において一切の修補義務および契約不適合責任を負わないものとする。
ただし、契約不適合責任の免責条項を盛り込んだ場合でも、売主があらかじめ知っていた欠陥を告知しなかった場合(売主が欠陥をあえて隠していたような場合)は、責任を負う必要があります。そのため、売主は買主に不動産の現状をしっかり説明しなければなりません。後から「聞いていなかった」と言われないように、買主が納得した上で契約を締結することが重要です。
7-2.実測測量は基本的に不要
実測測量とは、土地家屋調査士や測量士が現地で測量を行い、正確な土地の面積や境界線を確認する作業のことです。実測測量を行うことで、正確な土地面積がわかるため、境界トラブルを未然に防ぐことができます。
しかし、共有持分の売買では、基本的に実測測量を実施しません。共有持分の売却は土地全体の売却ではなく「持分のみ」の売却なので、土地全体の測量は基本的に不要と考えられています。そのため、売買契約書にも実測測量をしない旨の条項を記載します。
契約書の記載例(実測測量をしない旨の条項)
第○条(実測測量の省略)
本件売買において、売主および買主は、実測による測量を行わないことに合意する。
ただし、実測測量を省略する場合でも、公図(法務局で取得できる)や登記事項証明書の情報は確認しておきましょう。境界が不明確な場合、売却後に共有者や隣地所有者とのトラブルになることがあります。なお、共有持分の売却後、買主が土地全体を売却する場合は測量が必要になります。
7-3.設備の修復義務を負わない
不動産の売却時、物件の設備(給排水設備、電気設備、建物の構造など)に不具合があった場合、契約内容によっては売主が修復責任を負うことがあります。
しかし、共有持分の売却では設備の修復義務を負わないことが一般的です。設備の所有権が売主単独ではないため、売主だけが修復義務を負う必要がないと考えられています。売却後、修復を求められないようにするには、契約書に設備修復義務の免責条項を明記しておくことが大切です。
契約書の記載例(設備修復義務の免責)
第○条(設備の修復義務)
売主は、本件不動産の設備について一切の修復義務を負わないものとする。
ただし、設備修復義務を免責にする場合でも、売却前にエアコンや水回りなど「設備の現状」を買主に説明する必要があります。
8.共有持分の売買契約書で確認すべき事項
共有持分の売買契約書で必ずチェックすべき5つのポイントについて詳しく解説します。
8-1.権利関係
共有持分の割合が正しく記載されていないと、買主が権利を主張できない可能性があるため、共有持分の割合を確認しましょう。共有者の合意が必要なケースを事前に確認しないと、売却後にトラブルになるおそれもあります。
また、持分のみを売却する場合、売主は他の共有者の「先買権」があるかを確認することも重要です。他の共有者に「先買権」が設定されている場合、まずは共有者に売却の意思を確認する必要があります。
権利関係に関する主なチェック項目は以下の通りです。
チェック項目 | チェックすべきポイント |
売主の持分割合 | 登記簿謄本と一致しているか |
売買対象の不動産情報 | 所在地・地番・家屋番号 |
共有持分の制約 | 他の共有者の合意が必要か、制限があるか |
8-2.決済条件
支払い方法を明確にしないと、決済時にトラブルが発生する可能性があります。分割払いの場合、途中で支払いが滞るリスクを避けるため、担保や違約金の取り決めも必要です。
決済条件に関する主なチェック項目は以下の通りです。
チェック項目 | チェックすべきポイント |
売買代金の記載内容 | 売買価格(○○万円) 消費税の扱い(課税対象か非課税か) |
支払い条件の確認 | 一括払いか分割払いか |
分割払いの場合の支払いスケジュール | 金融機関からの融資を利用する場合、ローン特約の有無 |
売買代金の支払い方法 | 銀行振込(振込手数料の負担者を決めておく) 現金払い(手渡しの場合、受領証の発行が必要) |
決済のタイミング | 契約締結時の手付金の支払い(一般的に売買価格の5~10%) 残代金の支払い期日と方法 |
8-3.引渡し条件
共有持分の売買では、引渡し後、買主がすぐに利用できるのか、それとも制限があるのかを明確にする必要があります。 「引渡し後に設備が壊れた」「ゴミが残っていた」などのトラブルを防ぐため、物件状況を事前に記載しておくことも重要です。
引渡し条件に関する主なチェック項目は以下の通りです。
チェック項目 | チェックすべきポイント |
引渡しの時期・方法 | 所有権移転のタイミング(売買代金の支払いと同時か、別の日程か) 鍵の引渡し方法(対面・郵送・不動産業者経由など) |
物件の状態について明記 | 現状有姿(げんじょうゆうし)での引渡しか(修繕義務がないことを明記) 建物の設備の状態(売却後の修理義務があるかどうか) ゴミや残置物の処理方法(売主・買主のどちらが負担するのか) |
引渡し時の確認事項 | 登記の完了(司法書士を通じて正式に名義変更されているか) 税金の負担区分(固定資産税の清算をどうするか) |
8-4.共有者間の合意内容
共有者が「売却は聞いていなかった」と主張すると、売却後にトラブルになる可能性があります。持分売却後の使用ルールが曖昧だと、新しい共有者と元の共有者の間で揉めることもあるので、共有者間の合意内容を確認しておきましょう。
共有者間の合意内容に関する主なチェック項目は以下の通りです。
チェック項目 | チェックすべきポイント |
共有者間の合意事項 | 他の共有者に売却の意思を通知したか 売却後の利用条件(例えば、「持分を売却後も、一定期間は使用できる」といったルール) 他の共有者の持分との関係(隣接する部屋・駐車場の使用権など) |
優先交渉権・事前通知義務 | 次回売却時に、元の共有者が優先的に買い戻せるか 売却時に他の共有者へ通知する義務を定めるか |
8-5.手付解除の条件
契約後に「やっぱり売りたくない」「やっぱり買いたくない」となった場合のペナルティを明確にしておくことも大切です。契約を守らなかった場合の損害賠償を回避するためのルールも確認しておきましょう。
手付解除の条件に関する主なチェック項目は以下の通りです。
チェック項目 | チェックすべきポイント |
手付解除の条件 | 売主が契約を解除する場合 → 手付金の倍返しで解除できるか 買主が契約を解除する場合 → 手付金を放棄することで解除できるか |
違約金の設定 | 売主が契約違反した場合 → 違約金の額を明記する 買主が決済を遅延した場合 → 遅延損害金を設定する |
契約解除の具体的な条項 | ローン特約(買主が住宅ローンの審査に落ちた場合、契約解除できる) 所有権移転ができなかった場合の処理(登記上の問題があった場合の救済策) |
9.共有名義の売買契約でトラブルを回避するための対処法
共有名義の不動産売買ではトラブルが発生しやすくなります。そのため、事前にトラブルを回避するための対処をしておくことが重要です。
9-1.公正証書を作成する
公正証書とは、公証人という法律の専門家が、当事者の依頼に基づいて作成する「法的に強い効力を持つ」公式な文書のことです。以下のようなケースでは、公正証書で売買契約書を作成することが推奨されます。
1.売買代金を分割払いにする場合
買主が分割で支払う場合、「強制執行認諾文言付き公正証書」を作成すれば、支払いが滞った際に裁判をせずに財産を差し押さえることができます。
2.親族間や知人同士での売買
口約束や簡単な契約書ではトラブルになりやすいため、公正証書を作成することで「言った・言わない」の問題を防ぐことができます。
3.売却後の共有者との関係が複雑な場合
他の共有者が「売却に反対だった」などと主張するケースに備え、契約の信頼性を高めるために公正証書を作成することが望ましいでしょう。
9-2.税金面のことは税理士への相談が有効
共有持分の売買は、単に契約書を交わして終わるものではなく、税務上の影響も考慮する必要があります。売主と買主の両方に関係する税金があり、どのような税がかかるかは取引の内容によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
特に、以下の税金は高額になる可能性もあるので、事前に確認しておくことが大切です。
税金の種類 | 対象者 | 課税されるケース |
譲渡所得税 | 売主 | 売却で利益が出た場合に課税(翌年の確定申告) |
固定資産税 | 売主・買主 | 売却年の税負担を日割りなどで分担。買主は不動産取得後、毎年納税する義務がある |
贈与税 | 買主(受贈者) | 実勢価格より著しく安い価格で持分を取得した場合などに課税 |
不動産取得税 | 買主 | 不動産を取得した際に持分割合に応じて課税 |
共有持分の売買にかかる税金については、売買価格や取得費、売却時の諸経費などを事前に整理し、税理士に相談するのがおすすめです。税理士に相談することで、以下のようなメリットがあります。
・譲渡所得税の計算や節税対策をアドバイスしてもらえる
・取得費や譲渡費用を正しく計上し、課税対象額を抑えられる
・特別控除や買換え特例が適用できるか判断してもらえる
・相続税や贈与税のリスクを回避できる
・確定申告をスムーズに進め、税務リスクを軽減できる
特に相続した不動産や親族間売買の場合、税務上の判断が難しいため、専門家のチェックを受けると安心です。
10.共有持分を売買する際は売買契約書の作成が重要!
売買契約書は、共有持分を売買する際のトラブルを防ぐために重要です。共有持分を解消するには3つの方法があるので、それぞれのメリット・デメリットを把握した上で、最適な方法を検討しましょう。
共有持分を売買する際は契約内容をしっかり確認することが大切です。後にトラブルになりやすいため、専門家に相談することをおすすめします。また、税金が発生することもあるので、税務上の不安がある場合は税理士にも相談しましょう。