創業融資はいつまで受けられる?申込期限と最適なタイミングを解説

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監修者 篠田 佳希

事業を始めようと考えたとき、多くの人が最初に直面するのが資金の問題です。その解決策として広く利用されているのが「創業融資」ですが、実はこの制度には利用できる期限があります。

開業してから一定の期間を過ぎてしまうと「創業者」とは見なされなくなり、創業向けの特別な融資を受けられなくなる場合があるのです。

創業融資は一般的に「創業後、事業開始から7年以内」もしくは「税務申告を2期終えるまで」が申込期限となっています。しかし、公的金融機関、信用保証協会、自治体のどの制度を利用するかによって期間が変わるため、ご自身が利用する制度ごとに確認が必要です。

この記事では、いつまで創業融資に申し込めるのか、という疑問に答えながら、創業融資を最大限に活用するためのタイミングと注意点を解説していきます。ぜひご一読ください。


1.創業融資にいつまで申し込めるかは、申込先の制度によって上限が異なる

創業融資には「期限」があり、その上限は利用する制度ごとに異なります。

つまり、一律に「創業後〇年まで」と決まっているわけではなく、公的金融機関、信用保証協会、自治体のどの制度を利用するかによって期間が変わるのです。この章では、代表的な制度ごとの期限を確認していきましょう。

1-1.日本政策金融公庫の融資は創業後おおむね7年以内まで

日本政策金融公庫の創業関連融資は、基本的に「事業開始日から7年以内」まで利用可能です。

公庫が用意している「新規開業・スタートアップ支援資金」は創業者を広く支援する仕組みであり、開業から年数が経過していても、7年以内であれば対象になると定められているためです。

「事業開始」とは、実際に営業活動を開始したタイミングで、個人の場合は開業届提出日ではなく、仕入・販売など実際の営業開始日が基準です。法人の場合も、登記日ではなく営業活動開始日で判定されます。

例えば、法人を設立して3年が経過した事業者でも、事業拡大のための設備投資や運転資金が必要であれば、この制度を使って融資を受けることが可能です。

ただし「創業支援貸付利率特例制度」を利用する場合には、条件がより厳しくなり「事業開始後2期以内」に限定されます。つまり、低利率を狙うなら早めに申込む必要があります。

したがって、日本政策金融公庫を利用する場合の期限は、「最長7年」と、余裕はあるものの、制度によっては「2期以内」という短期の制約があるため、目的に応じたタイミングでの申込が重要です。

1-2.保証協会付き融資はおおむね創業後5年未満まで

信用保証協会を利用した創業融資は、原則として「創業後5年未満」までが対象です。

保証協会では、事業実績の浅い起業家を支援する立場にあり、「事業を開始したばかりの時期」を創業とみなしているためです。対象となる事業開始日の起算点は、個人事業であれば開業日、法人であれば設立日、分社化による新法人の設立日などとされています。

全国信用保証協会が用意する「創業関連保証」「再挑戦支援保証」「スタートアップ創出促進保証」のいずれも、共通して「開業から5年未満」であることが条件です。ただし、各保証協会の裁量によって年数や解釈に差が出る場合もあるため、地域の保証協会に確認するのが確実です。

つまり、保証協会付き融資を検討する場合は「5年未満」という区切りを意識し、早めに動くことで選択肢を広げられるといえます。

1-3.自治体の制度融資は創業後1年~5年未満まで

自治体が独自に用意する制度融資では、創業から「1年~5年未満」までが対象とされることが多いです。

各自治体は地域の創業者支援を目的として制度を設計しており、創業から一定期間内の事業者を優遇するためです。ただし自治体ごとに上限年数は異なり、一律ではありません。

ある自治体では「創業後1年以内」の申込しか認めないケースもあれば、別の自治体では「5年未満」まで対象とするケースもあります。地域経済や政策目標によって制度が変わるため、必ず該当地域の自治体サイトや窓口で最新情報を確認する必要があります。

したがって、自治体の制度融資を検討する場合には「短期間で締め切られる可能性がある」と理解し、創業後なるべく早く調べて申し込むことが望ましいでしょう。

例) 中小企業向け制度融資|新宿区


2.創業融資は開業前と開業後のどちらに受けるべきか?

創業融資を受けるタイミングとして「開業前」と「開業後」の2つがあります。一般的には開業前の申込が有利とされていますが、状況によっては開業後の申込が適している場合もあります。

まとめると、

①安定した開業準備を優先するなら、基本的には開業前に融資を申し込むのが適している

②実績や売上が順調に積み上がる見込みがあるなら、開業後に申し込む方が条件面で有利になる場合がある

となります。

この章では開業前の申込や、開業後の申込について整理してみましょう。

2-1.“開業前”にできるだけ早く創業融資を申し込むと有利

創業融資は「開業前」に、極力早く申し込む方が有利とされる理由があります。

開業前であれば、まだ実績がなくても計画を重視して審査してもらえ、さらに資金調達のタイミングが早いため余裕を持って開業準備を進められるためです。

加えて、創業初期の事業者にだけ用意されている「無担保・無保証」の特例制度を利用できるのも大きな魅力です。

ここでは、開業前に早めに申込をすると有利になる理由を確認していきましょう。

2-1-1.売上などの実績に頼らず計画重視で審査されるため、過去の経歴で検討してもらえる

開業前に創業融資を申込む場合、審査では「事業計画」が重視されるため、実績がなくても可能性を評価してもらえます。

開業前は当然ながら売上や利益といった数字が存在しないため、融資担当者は計画性や実現可能性を基準に判断します。そのため、緻密な事業計画書を作成すれば、過去の経歴を参考に、十分に評価されるのです。

例えば飲食店を開業予定の人は、開業前であっても「市場調査のデータ」や「立地条件の分析」「差別化戦略」などの項目を計画書に盛り込めば、数字の根拠感が高められることができ、審査にプラスになりやすくなります。

したがって、実績に不安がある人にとって、開業前申込を選ぶメリットは大きいといえます。

2-1-2.資金調達のタイミングが早いので、開業直後の運転資金や設備資金に余裕ができる

開業前に創業融資を受ければ、開業直後の運転資金や設備投資に余裕を持ってスタートできます。

開業直後は売上が安定せず、思わぬ費用が発生することも多いため、あらかじめ資金を確保しておく方が安全だからです。

例えば、美容室を新規開業する際に開業前に融資を受けていれば、店舗改装費だけでなく、予想外の広告宣伝費や人件費の不足にも対応できます。もし開業後に資金が足りなくなってから動いた場合、審査や融資実行までに時間がかかり、経営を圧迫するリスクが高まります。

したがって、資金繰りの不安を避けたいなら、開業前に融資を受けて余裕を持った資金状況で開業に臨むことが有効です。

2-1-3.開業前~税務申告2期未満は「無担保・無保証」での融資枠も利用しやすい

開業前から税務申告2期目までの事業者は、無担保・無保証で利用できる創業者向けの融資制度を利用しやすい立場にあります。

金融機関や保証協会は、創業初期の事業者を支援するために「特例枠」を設けており、通常なら担保や保証人を求められるケースでも免除されやすいからです。

例えば、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」では、創業前や創業後間もない人を対象に、原則無担保・無保証で融資を実行していました。なお、2024年3月31日で「新創業融資制度」の新規取り扱い自体は終了していますが、これに代わる「新規開業資金」や「スタートアップ支援資金」など、やはり原則無担保・無保証の創業者向け融資が引き続き実施されています。

開業から時間が経過すると、この優遇を受けられなくなり、「創業融資」ではなく「事業融資」などの枠組みでの融資になる場合が多く、担保や保証人が必要になる可能性があります。

したがって、保証に入りたくない人や担保を用意できない人こそ「創業初期」というタイミングを活かし、開業前から動くのが有利です。

2-2.“開業後”には、実績を出してからの創業融資の申込が有利

創業融資は開業前に極力早く申し込む方が有利といわれますが、特に、未経験の分野の事業について融資を受けたいといった場合などにおいては、事業で実績を出してから開業後に申込むことで得られるメリットも存在します。

ただし、同時に注意すべきリスクもあるため、両面を理解しておくことが重要です。ここでは、開業後に申し込む方が有利になる場合についてを整理します。

2-2-1.事業の売上や実績が上がっていれば信頼性が増し、開業後の申込が有利に働くことがある

開業後の申込は「好調な実績がある場合」には有利に働きます。しかし、逆に業績が不調だと融資が難しくなるというリスクもあります。

金融機関は実際の売上や利益を重視するため、数字が良ければ「返済可能性が高い」と判断します。しかし、数字が悪ければ「計画が破綻している」と見られやすいからです。

例えば、開業1年目で順調に売上が伸びている小売店であれば、事業計画の実現性が証明されているため、開業前よりも多額の融資を受けやすくなります。一方で、赤字続きの事業者が資金繰りのために申し込むと、融資を断られる可能性が高まります。

したがって、開業後の申込は「業績がプラスに働くかマイナスに働くか」が結果を大きく左右することを理解しておく必要があります。


3.まとめ

創業融資は、事業のスタートを支える重要な資金手段ですが、申込のタイミングや期限によって利用のしやすさや条件が大きく変わります。

まず、制度ごとに申込可能な上限年数は異なり、日本政策金融公庫では創業後おおむね7年以内、保証協会付き融資では5年未満、自治体の制度融資では1年~5年未満が目安です。

また、開業前に申し込む場合は、実績がなくても計画を重視した審査が受けられ、資金調達のタイミングも早く、無担保・無保証の特例制度を利用しやすいというメリットがあります。

一方で、開業後に申し込む場合には、実績を示せる強みがあるものの、業績が不調だと融資が難しくなったり、資金不足が理由だとマイナス印象を与えるリスクがあります。よほどの理由(未経験分野の事業に関する融資を受けたいなど)がなければ、早めの申請が勧められます。

融資の申込から入金までには平均で1か月~2か月程度かかるため、開業スケジュールに余裕をもって申込むことが重要です。

創業融資の期限や条件、審査の流れを理解し、自分の事業状況や開業計画に最適なタイミングで申込むことで、スムーズに資金を確保し、安定したスタートを切ることができます。

不安がある場合には、専門家へのご相談をおすすめします。