資本金とは会社の設立を前に事業を始める人が準備した事業のための運転資金をさします。そんな資本金をいくらにするかは一部例外を除き自由です。「自由とはいえ結局、資本金はいくらにすれば間違いないの?」「世の中の相場を知っておきたい!」そんな疑問を解決させるポイントを解説します。
目次
1.資本金の目安は100万円~299万円
新しく会社を設立する際、最も多い資本金は100~299万円です。
次の図は辻・本郷税理士法人が運営している会社設立センターで設立した会社の、資本金の額の割合を表しています。
これをみると約2/3の会社が300万円未満で設立していることがわかります。
また割合がもっとも多い、3社に1社が100~299万円の間で会社を設立しています。
2.資本金を決定するための5つのポイント
新たに会社を設立する際に資本金の額をいくらにするか決めなければなりません。辻・本郷税理士法人が運営する会社設立センターが資本金を決める際、注意が必要な5つのポイントを詳しく解説します。
2-1.節税のために1,000万円未満にする
会社設立時の資本金を1,000万円未満にすると効果的な節税が可能です。
資本金を1,000万円未満にすると消費税が最大で2年間免税となることがその理由です。これに対して資本金を1,000万円以上にすると会社設立初年度から消費税を納める義務が生じます。
また法人住民税は資本金1,000万円未満の場合7万円ですが、1,000万円以上だと18万円~になり、少なくても11万円の節税ができます。
このことから特段の理由がないかぎり、会社を設立する際の資本金の額は1,000万円未満にするとよいでしょう。
消費税 | 法人住民税 (従業員50人以下の場合) | |
1,000万円未満 | 1期目、2期目納税義務なし ※1期目の半期の課税売上高と給与が1,000万円を超えていると2期目から納税の可能性がある | 7万円 |
1,000万円以上 | 1期目から納税義務あり | 18万円~ |
2-2.実店舗がある銀行の口座を開設するなら100万円以上にする
会社設立の際、実店舗を持つメガバンクのような銀行に法人の口座を開設したいと考えているのであれば、資本金の額は100万円以上にするのがよいでしょう。
資本金の額は事業を進めていく中で社会的信用度に直結するということがその理由です。
例えば、資本金が著しく低いと実店舗を持つメガバンクなどの銀行で口座開設を断られる、といった事態もここ数年起こっています。
もし実店舗を持つ銀行で口座を開きたいのであれば資本金は100万円以上が望ましいです。
2-3.融資を希望するなら100万円以上にする
公的機関、金融機関からの創業融資を受けるには資本金の額は100万円以上にしましょう。
資本金の額は会社の体力をあらわす物差しになります。つまり資本金が低いと返済する能力も低いと判断されてしまい希望どおりの融資を受けられない可能性があります。
また資本金の額は信用調査の項目にも入るため、特に新たに取引先を増やしたいと考えている場合は注意が必要です。
全く同条件の取引を「資本金1万円の会社」と「資本金300万円の会社」の2社から提案された場合、「どちらがより信用できるか?」という観点も必要です。
会社設立直後の融資を希望する場合は資本金の額を100万円以上にすることを勧めます。
2-4.許認可の種類によっては最低資本金額が定められている
特定の事業を行う際、行政機関から許可を取得しなければならないものがあります。この許認可には一定以上の資本金額が要件となる場合があるのであらかじめ調べておく必要があります。
例えば人材派遣会社に必要な「人材派遣業の許可」には最低2,000万円以上の資本金を用意しなければなりません。これは派遣先へ安定した労働人材を提供することと、派遣労働者へ滞りなく給与を支払うことが理由です。
最低資本金額が定められている許認可の一部
人材紹介・派遣業
有料職業紹介業 | 500万円以上 |
労働者派遣業 | 2,000万円以上 |
旅行業
第1種旅行業 | 3,000万円以上 |
第2種旅行業 | 700万円以上 |
第3種旅行業 | 300万円以上 |
地域限定旅行業 | 100万円以上 |
建設業
一般建設業 | 500万円以上 |
特定建設業 | 2,000万円以上 |
2-5.運転資金面で不安を残さないなら初期費用3ヶ月分以上にする
取引先からの入金が会社設立した3か月後になっても、安心して事業を進めることができるよう、資本金は初期費用を計算してその3ヶ月分以上にしましょう。
まずは会社設立した後に必要な経費を計算してシミュレーションしてみます。初期費用とは事務所を借りるための費用やパソコンやプリンター、デスクや椅子などのオフィス什器の購入費などのことです。
また運転資金とは従業員の給与や役員の報酬、光熱費・通信費や事務所の家賃などの毎月かかる費用のことです。
仮に取引先から3ヶ月間入金がなくても、安心して事業を進めることができる金額を資本金に設定しましょう。
3.総務省の調査を参考にする
総務省の調査では資本金300万円未満の会社が増えています。
会社法が改正される前まで会社を設立するために必要な資本金の下限は300万円(株式会社の場合は1,000万円)でした。
最新の総務省調査「令和3年経済センサス‐活動調査」では調査に回答した全国の約18万の会社のうち約11%が資本金300万円未満となっていますが、ここで注目すべきは常用雇用者0~4名とごく小規模の会社の資本金300万円未満の数字です。前回調査から会社の数も割合も約2倍に増えていることです。 このことからわかるようにここ数年、資本金300万円未満で設立される会社が増えています。
企業の資本金 | ||||
2016年調査 | 2021年調査 | |||
事業所数 | 割合 | 事業所数 | 割合 | |
総数 | 1,631,150 | 1777291 | ||
300万円未満 | 106,659 | 6.54% | 200501 | 11.28% |
300~500万円未満 | 565,289 | 34.66% | 578882 | 32.57% |
500~1,000万円未満 | 214,970 | 13.18% | 253148 | 14.24% |
1,000~3,000万円未満 | 546,245 | 33.49% | 555646 | 31.26% |
3,000~5,000万円未満 | 68,136 | 4.18% | 72933 | 4.10% |
5,000万~1億円未満 | 46,569 | 2.85% | 52126 | 2.93% |
1~3億円未満 | 15,371 | 0.94% | 17674 | 0.99% |
3~10億円未満 | 7,340 | 0.45% | 7337 | 0.41% |
10~50億円未満 | 3,602 | 0.22% | 3600 | 0.20% |
50億円以上 | 2,182 | 0.13% | 2319 | 0.13% |
企業の資本金(常用雇用者0~4名の会社のみ) | ||||
2016年調査 | 2021年調査 | |||
事業所数 | 割合 | 事業所数 | 割合 | |
総数 | 969,233 | 1059580 | ||
300万円未満 | 75,834 | 7.82% | 150095 | 14.17% |
300~500万円未満 | 417,608 | 43.09% | 426662 | 40.27% |
500~1,000万円未満 | 139,982 | 14.44% | 164930 | 15.57% |
1,000~3,000万円未満 | 271,243 | 27.99% | 265009 | 25.01% |
3,000~5,000万円未満 | 18,224 | 1.88% | 17300 | 1.63% |
5,000万~1億円未満 | 9,931 | 1.02% | 10091 | 0.95% |
1~3億円未満 | 2542 | 0.26% | 2975 | 0.28% |
3~10億円未満 | 698 | 0.07% | 760 | 0.07% |
10~50億円未満 | 234 | 0.02% | 239 | 0.02% |
50億円以上 | 127 | 0.01% | 157 | 0.01% |
4.約30%の会社は資本金100万円未満で設立している
資本金100万円未満で設立している会社も多く実在しています。 下は辻・本郷税理士法人の会社設立センターを利用して設立された会社の資本金をまとめたグラフです。およそ10社に3社が資本金100万円未満で設立しているのがわかります。
資本金額 | 割合 |
0~99万円 | 29% |
100~299万円 | 37% |
300~999万円 | 30% |
1,000万円以上 | 4% |
資本金を100万円未満にして設立している会社には下記のような理由があります。
・すでに個人事業主として事業をしていて、ノウハウを持っている
・コンサルタントやネットショップなど大きな仕入れや設備投資の必要がない
・事務所など借りず自宅でできる、スマホまたはパソコン1台でできる
このように事業の内容によっては比較的少ない資本金額で会社を設立される方も多くいます。
5.資本金は1円でも会社設立できる
2006年の会社法改正によって、それまで株式会社なら1,000万円必要だった資本金を1円からでも会社を設立できるようになり、文字通り「1円起業」が可能になりました。
5-1.資本金を1円にしたときのメリット・デメリット
会社を1円で設立したときのメリット・デメリットには下記が挙げられます。
5-1-1.メリット
資本金を1円にして会社を設立する大きなメリットは下記の3つです。
・手持ちの資金が少なくても簡単に会社の設立ができる
・会社設立の初期費用を抑えられることができる
・事業の内容、売上高によっては節税ができる
このメリットを活かせる下記のパターンに当てはまるような人にオススメです。
・すでに個人事業主として事業をしている
・法人化による新たな設備投資の予定がない
・個人名・屋号ですでに社会的信用を得ている
・新しい取引先を獲得する必要がない
・新規の人材を採用をする必要がない
5-1-2.デメリット
会社設立時に資本金を1円にした場合のデメリットは下記の通りです。
・債務超過になりやすい
・社会的信用度が低くなる
・銀行口座を開設しづらい
・新規採用による人材の確保が難しくなる
5-2.まとめ
資本金を1円にして会社を設立することは可能です。初期費用が抑えられ、誰でも会社を設立できるというメリットもありますが、債務超過になりやすく社会的信用も得づらいというデメリットもあります。
資本金を1円にして会社を設立することを検討する場合には税理士など専門家に相談して、慎重な判断が求められます。
6.会社を設立する際に必要な資本金の払込
初めて会社を設立しようとする際に注意が必要なことの一つに資本金の払込があります。資本金は定款を作成した後に会社の代表になる人または出資者が持っている個人の口座に振り込むことになります。
また資本金は、現物出資という方法で現金以外にも不動産や車など資産を出資金とすることができます。資本金を現物出資のみにすることもできるので、手元の現金が少ない人でも会社を設立することができます。
資本金の払込方法と現物出資について解説します。
6-1.資本金の払込方法
資本金の払込方法を順を追って説明します。
6-1-1.個人の銀行口座を用意する
まず会社の代表になる人か出資者個人の銀行口座が必要になります。会社の銀行口座は設立後でないと開設できません。特に新しく口座を開く必要がなく、普段利用している口座があれば問題ありません。
6-1-2.資本金を振込む
用意した口座に設定した額の資本金を振込みます。ここで重要になるのは「資本金として使うお金」であることを明確にすることです。資本金と同額以上のお金を引き出して、再度口座に資本金額を戻して入金したという履歴が残るようにします。
6-1-3.通帳をコピーする
通帳の次の3ヶ所をコピーします。
・表紙
・裏表紙
・資本金額を入金した履歴のあるページ
ネットバンクを利用している場合は下記の情報が確認できるページを印刷します。
・銀行・支店名、預金種別、口座番号
・口座名義の氏名
・資本金額を入金した履歴のあるページ
6-1-4.払込証明書を作る
支払証明書を作るために必要な項目は下記の7つです。
・払込があった金額の総額
・払込があった株数
・1株の払込金額
・日付
・本店所在地
・会社名
・代表取締役氏名
このうち日付は資本金額を入金した日以降の日付にする必要があります。
6-2.手元に現金がない場合(現物出資)
資本金を金銭以外の財産にすることができ、このことを現物出資といいます。
現物出資として認められる財産は下記の通りです。
・自動車、パソコン、OA機器など
・市場価値のある有価証券
・土地・マンションなどの不動産
・営業権・商標権などの知的財産権
6-2-1.現物出資を行う方法
現物出資は購入したときの金額ではなく、その時点での市場価値で計上されることになります。不動産であれば専門家に価格調査を依頼することになります。また車の場合は中古市場の価格が出資額となります。
また定款に下記の必要事項を記載する必要があります。
・現物出資する人の氏名と住所
・資産の詳細情報(名称・メーカー名など)
・資産の価格
続いて、調査報告書・財産引継書・資本金の額の計上に関する証明書を作成します。
調査報告書は現物出資する資産の価格が適切かどうかを調査した結果をまとめた書類で、財産引継書は資産が個人から会社へ所有が移ったことを表す書類です。そして資本金の額の計上に関する証明書は、現金以外の現物出資がある場合には、添付が必要となる書類です。これらを登記申請書に添付し、法務局へ提出します。
6-2-2.まとめ
現物出資は会社を設立時の資本金を増額することが可能になります。しかし会社に実際の現金が入る、ということではないので後々後悔しないためにも、税理士など専門家にアドバイスしてもらいながら、慎重に行いましょう。
ポイント 資本金の払込には多くの手順があり、専門家へ依頼することも検討しよう!
7.資本金の使い方は自由
会社を設立した後、資本金は自由に使うことができます。
よくある問い合わせで「資本金は手を付けず、ずっと残しておかなければいけないですか?」といった質問を受けます。その答えとして「資本金はそのままにしておく必要はなく、自由に会社の事業運営のために使って問題ありません」とお伝えしています。
7-1.使うタイミング・使い方に制限はない
事業の開始後、いつでも資本金を引き出して事業のために使うことができます。
事務所や店舗の家賃や人件費、新しいパソコンやスマホ・タブレットの購入など充てても問題はありません。資本金の額が少ないと上記のような支払いに充てることもできなくなるため、注意が必要となります。
ポイント 資本金をどう使うか決められていないが、計画的な使い方を!
8.まとめ
資本金の決め方をはじめ、払込の方法、資本金の使い方について解説しました。資本金を決める上で重要なこととして、社会的信用の面と税制の面があり、1,000万円以下にすることと100万円以上にすることで大きなメリットを受けることができます。ただし、会社を設立した後の事業の内容によっては100万円未満に設定することも可能です。また許認可が必要な事業では必要最低額があるので、いずれもパターンでも税理士などの専門家に相談し、失敗しない会社設立を進めていくことが大切です。