
自分の会社が税務調査の対象になった際、手元の領収書に不備があると、税務署から指摘されるのではないかと不安を抱く方が多いのではないでしょうか。
領収書は、実際に取引があったことの証明となる重要な書類です。そのため、税務調査で領収書の不備や紛失が発覚した場合、その分の経費が認められないリスクがあります。
本記事では、税務調査における領収書のチェックポイントや、万が一領収書がない場合の対処法などを解説しています。
税務署に見られやすいポイントをあらかじめ掴んでおき、指摘された際にきちんと説明できるよう備えましょう。
目次
1.税務調査で領収書をチェックする3つの目的
税務調査で領収書をチェックする主な目的は、次の3点です。
- 申告内容との整合性を確認するため
- 支出が経費の対象となるかどうかを判断するため
- 実際に支出が行われたことを確認するため
税務調査の最終的な目的は、納税者からの申告が正しく行われているかをチェックすることで、適正で公平な課税を実現することです。税務署は、申告内容のチェックの一環として、申告の元になる領収書などの資料を確認します。
次から、税務調査で領収書をチェックする目的を具体的に見てみましょう。
1-1.申告内容の正確性を確認するため
領収書を確認する目的の1つは、申告内容が正確かどうかを確認することです。
申告された税額や経費などに誤りがある場合、申告内容の修正や税金の追納が必要になるだけでなく、ペナルティが発生することがあります。
そのため、税務署では領収書と申告内容との間に矛盾がないことを確認し、経費の計算ミスや、申告書への転記ミスなどがないかどうかをチェックしています。
1-2.支出が経費の対象となるかどうかを判断するため
領収書のチェックは、その支出が本当に事業の経費として認められるかを判断するためでもあります。
経費として認められるには、業務遂行に必要な支出でなければなりません。
そのため、税務署では領収書の内容などを精査し、生活費など事業と無関係の支出が経費として計上されていないかどうかを確認しています。
1-3.実際に支出が行われたことを確認するため
申告された経費が実際に支払われたことを確かめることも、領収書をチェックする目的の1つです。
納税者によっては、経費を実際より多めに見せかけるために、領収書の内容を書き換えたり、架空の領収書を作成したりするケースがあります。
そのため、税務署では領収書に記載された通りの取引が実際に行われたかどうかを厳しく確認し、架空の経費が計上されていないかチェックしています。
2.税務調査で領収書が見られる時の8大チェックポイント
税務調査で領収書が見られる際、具体的にチェックされるポイントは次の8点です。
- 帳簿書類との矛盾はないか
- 内容や中身が経費として適切か
- 金額が不当に高額でないか
- 不自然な日付になっていないか
- 違和感のある筆跡や修正跡はないか
- 架空の領収書を計上していないか
- 売上の計上に漏れがないか
- 資産計上すべきものを経費にしていないか
税務署では上記のポイントを通じて、申告内容の正確性や経費計上の適切性、さらには不正の有無などを確認しています。
次から、一つひとつ見ていきましょう。
2-1.帳簿書類との矛盾はないか
税務調査では、領収書の金額・日付・取引内容が、帳簿書類の記載と一致しているかがチェックされます。
領収書の取引内容が帳簿書類に転記されていなかったり、転記内容に誤りがあったりすると、申告内容の正確性にも影響するためです。
2-2.内容や中身が経費として適切か
領収書の内容や中身が、経費として適切なものかどうかもチェックの対象となります。
具体的には、支出の内容が事業に必要なものであるかどうかがポイントです。
特に、経費としての妥当性が疑われやすいのは次のようなケースです。
- 飲食代や交通費など、プライベートでの支出機会が多い領収書
- 法人の場合に、宛名が個人名になっている領収書
2-3.金額が不当に高額でないか
領収書の金額が、その費目の一般的な相場に対して異常に高額でないかという点も、税務調査でチェックされます。
例えば、ブランド品や高級車などの領収書や、取引先への高額な贈答品の領収書は、事業上の必要性が問われる場合があります。
また、多額の取引は銀行振込で決済されるケースが多いため、高額にも関わらず現金で支出している領収書は、金額の不正を疑われることがあります。
2-4.不自然な日付になっていないか
領収書の日付が、実際の業務日時に照らして不自然でないかといった点もチェックの対象です。
会社の営業日報など別の資料とも照合し、取引が行われた日時に矛盾がある場合は、事業との関連性を疑われることがあります。
領収書の日付が不自然であると疑われるケースは、次のような例です。
- 土日や祝日など、会社の休日に発行された飲食費の領収書
- 出張中で不在の日に、会社の付近で発行された領収書
2-5.違和感のある筆跡や修正跡はないか
領収書に違和感のある筆跡や修正跡がある場合、内容が改ざんされているおそれがあるため、税務調査で重点的にチェックされる傾向があります。
税務署が領収書の改ざんをチェックする際に着目されやすい点は、次の通りです。
- 筆跡(トメ・ハライの特徴など)
- 修正液の跡
- インクの色や筆圧
- 領収書の破れ・折れ
特に、金額や日付部分の数字は、後から書き足して改ざんされるケースが多いため、入念に確認される場合があります。
2-6.架空の領収書を計上していないか
領収書が架空のものでないかどうかという点も、税務調査でのチェックポイントです。
架空の経費を計上したり、経費を水増ししたりする目的で、領収書の偽造などが行われていないかが確認されます。
よくあるケースとしては、次のような例が挙げられます。
- 実在しない会社や店舗の領収書を作成する
- 同じ取引先から白紙の領収書をもらい、金額を水増しする
領収書に記載された取引の事実に疑義がある場合、税務署から取引先に問い合わせを行い、取引実態を確認することもあります。
2-7.売上の計上に漏れがないか
売上に対応する領収書の内容が、帳簿にすべて記録されているかどうかもチェックされます。売上の計上漏れは税額に与える影響が大きいため、税務署としては重点的なチェック対象です。
特に、サービス業など現金取引が多い業種では、売上の計上漏れがないかを重点的にチェックされます。
2-8.資産計上すべきものを経費にしていないか
本来、資産として計上すべき設備・備品などを、経費として一括で計上していないかどうかもチェックされます。
10万円以上の設備や車両などは資産として取り扱い、減価償却処理をして毎年少しずつ経費計上しなければならないのが原則です。
3.税務調査で特にチェックされやすい領収書の特徴
次のような領収書は、税務調査で念入りにチェックされる可能性が高い傾向があります。
領収書の特徴 | チェックされやすい理由 | 具体例 |
---|---|---|
| 業務上不必要な支出が疑われやすいため |
|
| 改ざんや不正が行われやすいため |
|
| 経費計上が否認される可能性があるため |
|
| 利益の調整目的による不適切な支出が疑われやすいため |
|
いずれの場合にも共通するのは、不適切な経費計上や不正行為が行われやすい点です。
次から、順番に確認してみましょう。
3-1.金額が比較的大きい
金額が比較的大きい領収書は、税務調査でチェックされる可能性が高いです。
通常の経費に対して、金額が突出している領収書や、会社の業種や規模に対して支出額が不自然に大きい領収書がある場合、業務上の必要性が疑われるケースが多いためです。
また、領収書の金額が大きいものほど、経費計上が認められなかった場合に税額への影響が大きくなることも、高額な領収書のチェックが厳しくなる理由です。
特に、相場より高額な接待飲食費や備品類などの領収書は、内容を細かくチェックされるケースが多いです。
3-2.手書きで作成されている
領収書が手書きで作成されている場合は、例え手書きの部分が日付など一部分のみであっても、税務調査で目をつけられやすくなります。印刷された領収書と異なり、手書きの場合は領収書の偽造や改ざんが容易であることがその理由です。
特に、同一人物の筆跡で作成された領収書が複数ある場合や、記載内容を後から修正した形跡がある領収書は、不正がないか念入りにチェックされる可能性があります。
手書きの領収書を発行する機会の多い小規模店舗や、個人事業主との取引が多い会社では、税務調査で領収書の不正が疑われないよう留意が必要です。
3-3.プライベートとの境目が曖昧になりがちな支出
プライベートとの境目が曖昧になりがちな支出の領収書は、内容的に経費として不適切な場合も多いため、重点的にチェックされる傾向があります。
特に、宿泊代や飲食代、ガソリン代などは、業務上の必要性を厳しく精査される可能性があります。
中でも、家族経営の小規模な会社や個人事業主の場合は、業務上の支出がプライベートを兼ねたものになりやすいため、支出の目的や業務との関連性を税務署に説明できるように準備しておきましょう。
3-4.日付が期末に近い
決算期近くに発行された領収書は、利益を操作する目的で不適切な支出を行ったのではないかと怪しまれる場合があります。
例えば、期末に消耗品などをまとめ買いした場合、本来は来期の購入で足りるものをあえて決算前に購入したのではないかと不審に思われやすくなります。
期末に近い日付の領収書については、税務調査での指摘に備えて、その時期に支出を行った理由や必要性などを説明できるよう、あらかじめ準備しておくとよいでしょう。
4.怪しい領収書は支払先に問い合わせが行く場合も
領収書に不審な点があり、納税者に対する通常の税務調査だけでは不十分であると判断された場合、税務署から支払先への問い合わせ(反面調査)が行われることがあります。これは、実際の取引が領収書の内容通りに行われたかどうかを確認するためのものです。
支払先への問い合わせは、電話や書面、または訪問などによって行われ、納税者や支払先への予告なく行われることがほとんどです。税務調査で支払先に問い合わせが行われると、相手方に負担をかけるだけでなく、自社の信用を失うことにもつながります。
過去の領収書などの書類や帳簿類をきちんと保管しておくと共に、税務調査に積極的に協力することで、支払先への問い合わせを回避できる可能性が高まります。また、顧問税理士がいる場合は、税務調査への同席などのサポートを依頼するのも有効です。
5.領収書がない場合の対処法
経費に対応する領収書がない場合、実際に取引があったことを証明できないため、税務調査でその経費を否認されてしまうおそれがあります。
そのため、領収書がないことが判明した時は、あらかじめ次のように対処しましょう。
領収書を紛失した場合 | 領収書が発行されない場合 |
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一般的に、自社で作成した書類よりも取引先から発行された書類の方が、取引があったことの証拠としての価値は高い傾向があります。
次から、領収書がない場合の対処法を具体的に見てみましょう。
5-1.領収書を紛失した場合
領収書を紛失した場合、まずは取引先に連絡し、領収書の再発行を依頼しましょう。
もっとも、領収書の再発行は任意であるため、対応していない会社も少なくありません。
その場合は、取引先から発行された他の書類で代用できないか検討してみましょう。
領収書の代わりに取引の証明に利用できる書類としては、次のような例が考えられます。
- レシート
- クレジットカードの明細書
- 銀行の振込明細書
- 請求書
- 納品書
なお、取引先から発行された書類がない場合や、内容が不十分な場合は、自社で作成した出金伝票や支出証明書も補足資料として活用できます。
5-2.領収書が発行されない場合
冠婚葬祭の費用や公共交通機関の利用料など、領収書が発行されないケースもあります。
その場合も、下記のような書類を活用すれば、支出があった事実を証明できる可能性があります。
- 冠婚葬祭の費用:結婚式の招待状や葬儀の案内状
- 公共交通機関の利用料:交通系ICカードの利用履歴
ただし、上記の書類だけでは一般的に取引の証明として不十分なので、自社の出金伝票などを組み合わせて、必要な情報を補足する必要があります。具体的には、次のような情報を補足しておくとよいでしょう。
- 支出の目的
- 支出金額
- 支出日
- (冠婚葬祭の場合)支払先
- (公共交通機関の場合)出発地と目的地
6.領収書と税務調査についてよくあるQ&A
以下で、領収書と税務調査についてよくあるQ&Aをまとめました。
6-1.税務調査の際、全ての領収書がチェックされるのか?
税務調査では、基本的に全ての領収書がチェックされます。
チェックされる対象は金額だけではなく、日付や内容などさまざまな項目に及びます。
なお、架空の経費計上などが疑われる場合、領収書だけのチェックにとどまらず、取引先への確認が行われるケースもあります。
6-2.領収書がなくても、経費として認められる場合はある?
領収書がなくても、経費として認められるケースはあります。
領収書がない場合は、レシートなど他の書類で取引があったことを証明できれば、経費として認められる可能性があります。
ただし、消費税については、領収書の保管が仕入税額控除の要件となっているため、他の書類で代替することはできません。
なお、領収書がない支出が多い場合は、税務署側にネガティブな印象を持たれ、より厳しいチェックにつながる可能性もあります。
6-3.領収書に問題が見つかった等の結果、税務調査で否認された場合のペナルティは?
税務調査で領収書に問題が見つかった等の結果、対応する経費が認められず申告した額よりも課税対象となる利益が増えた場合、本来の税金を追加で納めなければならないだけでなく、次のようなペナルティが発生することがあります。
ペナルティ | 条件 | 税率 |
---|---|---|
延滞税 | 経費の否認に伴い、納税額に不足が生じた場合 | 年2.4〜8.7% |
過少申告加算税 | 経費の否認に伴い、申告した税額が実際の額を下回った場合 | 10~15% |
重加算税 | 経費の架空計上などの不正行為があった場合 | 35~50% |
なお、領収書の偽造や改ざんなどの不正行為が認められた場合は、税法上のペナルティである重加算税とは別に、私文書偽造(変造)罪に問われるおそれもあります。
6-4.領収書の保存期間は?
領収書の保存期間は、原則として次の通りです。
対象 | 申告区分 | 保存期間 |
---|---|---|
法人税 | 青色申告、白色申告 | 7年間 |
所得税 | 青色申告 | 7年間 |
所得税 | 白色申告 | 5年間 |
法人税の場合、青色申告を行った事業年度に青色繰越欠損金があった場合や、青色申告を行わなかった事業年度に災害損失金額があった場合には、保存期間が10年間に延長されます。
所得税の場合、青色申告で前々年分の事業所得及び不動産所得が300万円以下であれば、保存期間が5年間に軽減されます。
また、白色申告であっても、消費税の仕入税額控除の適用を受けている場合は、領収書を7年間保存しなければなりません。
なお、領収書を電子データで保存する場合も、保存期間は上記と同じです。
7.税務調査への対応や領収書の管理を相談したい時は辻・本郷 税理士法人の税務顧問サービスの検討を
いざ、税務調査の対象になった時の対応や、税務調査に備えた日頃の領収書の管理に自信がない方もいるのではないでしょうか。
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8.まとめ
税務調査では、申告が正しく行われているかを確認するため、領収書についても幅広い観点から細かくチェックされます。
金額が比較的大きいものや、手書きで作成されているものなどは厳しくチェックされる傾向があり、場合によっては支払先に対して事実確認が行われることもあります。
領収書に不備がある場合や、存在しない場合は対応する経費が認められない可能性が高いため、他の書類で代用したり、複数の書類を組み合わせたりして対応することも必要です。
もし、税務調査への対応や日頃の領収書の管理に自信がない場合は、信頼できる税理士のサポートを受けることを検討してみてください。