
「もっと人件費を抑えたい」
「人件費率が高すぎるから、手を打たなければいけない」
そう思っている院長先生は多いのではないでしょうか?
歯科クリニックの費用の中でも、人件費は大きな割合を占めています。スタッフの給与を抑え、人件費を削減すれば、一時的には利益は増えるでしょう。
しかし、歯科クリニックは「人」に依存する業種であり、優秀なスタッフがあってこそ成り立つ事業です。
正当な理由なく給与を削減することは現実的とはいえません。
さらに単に利益を上げるための人件費カットは、優秀なスタッフのモチベーションを下げ、離職につながることもあります。結果的に利益を損ねることになりかねません。
では、歯科クリニックでは人件費をどう捉え、どんな対策を取ればよいのでしょうか。
本記事では、歯科クリニックがとるべき人件費対策について解説しました。
目次
1.歯科クリニックの人件費とは?
歯科クリニックの人件費には、以下の項目が含まれています。
| 項目 | 内容 |
| 給与・賞与 | 給与、賞与、残業手当など |
| 法定福利費 | 社会保険、雇用保険、労災保険など(事業主負担分) ※医師国保は、事業主負担分がない |
| 福利厚生費 | 健康診断費用、シューズ代補助など、各クリニックの制度による |
| 通勤交通費 | 定期代、ガソリン代など |
| 教育費 | 研修代、資格更新・資格取得の補助など |
医師国保(医師国民健康保険組合)は、医師・歯科医師とその家族や従業員が加入することができます。
社会保険とは異なり、事業主による保険料負担の義務(労使折半)はありません。
しかし、社会保険との不平等感を無くすために、給与として半額負担していることがあります。
2.歯科クリニックは人件費をどう検討すべきか
歯科クリニックの人件費には一般的な目安はありません。まずは現状を把握し、各クリニックに適しているかという視点で判断することが大切です。

歯科クリニックの経営は多様化しています。収益構造やクリニックの規模、経営方針など、各歯科クリニックでそれぞれ異なるため、必要なスタッフの職種の構成や人数、すなわち人件費に違いが生まれます。
一般的な人件費率は目安の一つですが、一概に「人件費率が●%だから健全な経営ができている」とは言えないのです。
それぞれの歯科クリニックにとって適切な人件費を検討することが重要になります。
※人件費率については、「⑤売上高人件費率の割合が、一般的な数値と大きく乖離している」で解説しています。
3.歯科クリニックの人件費の最適化を目指すための5つの視点
歯科クリニックの現状を把握したうえで、人件費の最適化を目指しましょう。
人件費は高すぎれば、その費用負担から経営を圧迫します。一方で、抑えすぎて他の歯科クリニックとの格差が生まれれば、優秀な人材が流出したり、人材を募集しても応募がなくなり人員不足に陥ってしまいます。その結果、治療に支障が出たり、サービスの質の低下を招き、歯科クリニックの評判を損ねるということになりかねません。
人件費の最適化を目指すための5つの視点を紹介します。
①経年の人件費の変化
②予実管理でサービスの質にも注意する
③利益が確保できているか
④地域の歯科クリニックの給与水準とかけ離れていないか
⑤売上高人件費率の割合が、一般的な数値と大きく乖離していないか
①経年の人件費の変化
歯科クリニックの人件費を判断する基準となるのが、それぞれのクリニックの経年の人件費の変化です。「1.歯科クリニックの人件費とは?」のリストに従って人件費の数値を、前年同月で比較します。
人件費を含めた経営上の数値や利益、提供する治療やサービスに問題がない場合は、歯科クリニックにとって最適な人件費の状態といえるでしょう。
ただし、現状に問題がなくても、人件費の割合が年々上昇しているなど、経営への影響が懸念される場合は、その原因を追究するとともに、必要に応じて対策を取ります。
②予実管理でサービスの質にも注意する
人件費を抑えることができても、患者様に提供するサービスが低下してしまうと、経営に悪影響です。予実管理により、患者様への影響に敏感になりましょう。状況によっては、人件費を増やすことも検討します。
サービスの質を数値化するのは難しいものですが、歯科クリニックで比較的変化を把握しやすいのが、予約待ちの日数や、定期健診の継続率です。特に予約待ちの日数が長くなっている場合は、患者様が他院に流れる可能性も否定できません。
その場合、現在の人件費と経営状況を鑑みて、必要に応じて人件費を増やすことも視野に入れます。
歯科衛生士を増員することで、院長先生の負担を減らし、効率よく多くの患者様に対応することにもつながるはずです。また、歯科衛生士が会計処理まで行っている場合は、会計専門のスタッフを増やすことで、歯科衛生士は本来の仕事に集中できるようになります。
もし、人員を増やすことが難しい場合は、業務の効率化を図るなど、サービスの質の向上も意識することが必要です。
③利益が確保できているか
患者様が多く、いそがしいにもかかわらず、利益が確保できていない場合は、何らかの問題を抱えている可能性があります。
その原因は必ずしも人件費にあるとは限りません。しかし、経営数値を分析し、問題が人件費にあると判断される場合は、さらに詳細に問題点を洗い出し、見直すことが必要です。
【人件費対策の例】
- いそがしい時間帯があるが、手がすく時間帯も多い
→シフトを見直し、いそがしい時間に人員を厚く、そうでない時間帯は人員を減らすことで、人員配置の効率化を行う - 歯科衛生士が会計まで行っている
→歯科予防処置など、歯科衛生士だからできる利益につながる仕事を中心に担当する - キャンセルにより、想定外に予約が空くことが多い
→急なキャンセルや無断キャンセルを防ぐために予約のリマインドメールを送ったり、キャンセルで空いた枠を埋められる仕組みをつくる
④地域の歯科クリニックの給与水準とかけ離れてないか
歯科クリニックのスタッフの給与には、地域相場があるため、給与水準を比較することも大切です。
地域の水準よりも明らかに給与が安い場合は、見直すことも検討しましょう。
明らかに報酬が安いと、優秀なスタッフが転職してしまう可能性があるほか、新規スタッフの募集を行っても、採用が困難になることが考えられます。
⑤売上高人件費率の割合と一般的な数値との比較
売上高に占める人件費の割合である売上高人件費率は、あくまでも人件費の目安の一つです。必ずしも各歯科クリニックにとって適切な数値とは言えませんが、一般的な数値を把握しておくことも大切です。
| 売上高人件費率(%)= 人件費 ÷ 売上高 × 100 |
2025年に実施された「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)」(厚生労働省)によると、医業収益(介護収益含む)における給与費の割合は、個人の歯科診療所で29.6%、医療法人で49.1%となっています。
※給与費=職員の給料、賞与、退職金(退職給付引当金制度がある場合は退職給付引当金繰入額、退職給付引当金制度がない場合は退職金支払額)、法定福利費のこと。
なお、個人立の病院における開設者の報酬は含まない。
4.歯科クリニックが検討すべき3つの人件費対策
歯科クリニックの人件費対策において、給与削減はスタックのモチベーションの低下や離職につながる可能性が高く、現実的ではありません。
ここでは、スタッフの賃上げや業務負担の軽減を実現しつつ、取り入れられる人件費対策を紹介します。
- 業務改善助成金を利用する
- 賃上げ促進税制を利用する
- 会計処理を外注する
4-1.業務改善助成金を利用する
人件費が高止まりする要因として、業務が属人化していること考えられます。業務改善助成金を利用することで、スタッフの賃上げとともに業務を効率化する設備投資をすることが可能です。
業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者が事業場の最低賃金を引き上げ、業務の効率化に行うことで申請できる助成金です。生産性向上につながる設備・機器の導入などが対象です。
歯科クリニックの場合は、業務の効率化につながるような歯科医療機器、電子カルテ、予約管理システムなどが対象となり、業務効率化にかけた経費の75~80%の助成を受けることができます。
補助金の上限額は、賃上げした額のコースと人数で決まります。
引き上げた労働者数 | 50円コース | 70円コース | 90円コース |
| 1人 | 30万円(40万円) | 40万円(50万円) | 90万円(100万円) |
| 2~3人 | 40万円(70万円) | 50万円(100万円) | 150万円(240万円) |
| 4~5人 | 70万円 | 130万円 | 270万円 |
| 6~7人 | 90万円 | 180万円 | 360万円 |
| 8人以上 | 110万円 | 230万円 | 450万円 |
| 10人以上(※) | 130万円 | 300万円 | 600万円 |
()内は事業場規模 30 人未満の事業者が対象
※は、特例事業者に該当し、引き上げる労働者が10人以上の場合
参考:業務改善助成金|厚生労働省
令和8年度現在(年度により、内容が変更になる可能性があります)
業務改善助成金は比較的利用しやすい助成金ですが、要件があるほか、募集期間が限られているため、計画的に利用することが大切です。
4-2.賃上げ促進税制を利用する
従業員の給与を上げる一方、税負担を抑えることができるのが賃上げ促進税制の利用です。
賃上げ促進税制の利用は、前年度と比べて従業員の給与等の支給額が一定割合以上増加していることが必要です。なお、利用の要件は、企業の規模により異なります。
中小企業向けの賃上げ促進税制の内容は以下のとおりです。(令和8年現在)
対象は青色申告書を提出している中小企業者等(資本金1億円以下の法人、農業協同組合等)、従業員数1,000人以下の個人事業主です。
【中小企業を対象とした賃上げ促進税制】
| 内容 | 税額控除率 | |
| 給与等の増加割合 | 前年度比 1.5% | 15% |
| 前年度比 2.5% | 30% | |
| 上乗せ措置 | 教育訓練費増加要件※ | 10% |
| くるみん・えるぼし認定に係る要件 | 5% | |
※教育訓練費増加要件は、令和8年3月31日で廃止となりました。
法人は、令和8年3月31日以前に開始する事業年度まで、個人事業主は令和8年分(令和8年1月1日~12月31日)までが対象です。
教育訓練費の額が前年度比5%以上増加していること、教育訓練費の額が適用事業年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上が要件となります。
参考:令和8年度税制改正|財務省
くるみん・えるぼし認定に係る要件として、適用事業年度中に女性活躍支援に関する認定制度「えるぼし」(2段階目以上)や、子育てサポート企業の認定制度「くるみん」「くるみんプラス認定」の認定を受けていること、もしくは適用事業年度終了時に、「プラチナくるみん認定」「プラチナくるみんプラス認定」、または「プラチナえるぼし認定」を取得していることが必要です。
控除上限額は法人税額等の20%までとなっています。
なお、中小企業が賃上げを実施した年度に控除しきれなかった場合は、5年間の繰越しが可能です。
なお、賃上げ促進税制は、2027年3月31日までに開始する各事業年度(個人事業主は令和8年分まで)まで利用が可能です。
4-3.会計処理を外注する
人件費を抑える方法として、会計処理を外注することも検討しましょう。
会計処理の業務分担は、各歯科クリニック様で異なるため、具体的な数値の比較はできませんが、会計を外注することで必要な人員を減らしたり、残業手当を削減することにつながります。
特に歯科クリニックでは、歯科医師だけでなく、歯科衛生士も売り上げを生み出す存在です。歯科衛生士が会計業務などに時間を取られるのは、合理的ではありません。
会計処理を外注することは、人件費を抑えるだけでなく、従業員の業務負担の軽減にもつながります。
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6.まとめ
本記事では、歯科クリニックの人件費の考え方について解説しました。
もう一度、振り返ってみましょう。
歯科クリニックの人件費は、単に人件費率が低ければいいというわけではなく、経営状態・方針に適した人件費であることが重要です。
- 歯科クリニックの人件費には次の費用が含まれています。
| 項目 | 内容 |
| 給与・賞与 | 給与、賞与、残業手当など |
| 法定福利費 | 社会保険、雇用保険、労災保険など(事業主負担分) ※医師国保は、原則として事業主負担分はない |
| 福利厚生費 | 健康診断費用、シューズ代補助など、各クリニックの制度による |
| 通勤交通費 | 定期代、ガソリン代など |
| 教育費 | 研修代、資格更新・資格取得の補助など |
- 歯科クリニックでは、次の5つの視点で人件費を検討することが必要です。
①経年の人件費の変化
②予実管理でサービスの質にも注意する
③利益が確保できているか
④地域の歯科クリニックの給与水準とかけ離れていないか
⑤売上高人件費率の割合と一般的な数値の比較
- 歯科クリニックが検討すべき人件費対策は、以下の3つです。
歯科クリニックの人件費対策は、人件費負担の軽減とともに、スタッフの賃上げや業務負担の軽減の両立を目指すことが望ましいといえます。
- 業務改善助成金を利用する
- 賃上げ促進税制を利用する
- 会計処理を外注する
以上、人件費対策にお悩みの歯科クリニック様のご参考になれば幸いです。
