
「あと少し経費を増やせば、納税額を減らせる」
「少しくらいなら領収書を改ざんしてもバレないだろう」
そんな誘惑に、決して負けてはいけません!
先には大きな落とし穴が待っているのです。
経費の水増しは、税務調査で高い確率で発覚し、重いペナルティを受けることになります。さらには、刑事罰や社会的な信用の失墜など、取り返しのつかない事態を引き起こす可能性は少なくありません。
経費の水増しは、必ずしも故意によって問題になるとは限らないことにも注意が必要です。不注意や勘違いなどの過失によって経費の水増しをしてしまった場合でも、ペナルティが課されます。
本記事では、経費の水増しが発覚する事例とともに、そのリスクや対処法について解説します。
目次
1.経費の水増しは脱税行為!
実際に負担した経費よりも過大に計上する水増しは、脱税行為であり、犯罪です。
法人が経費の水増しを行なう場合、納税額を減らすことが目的であることが多いため、節税と混同しがちです。しかし、経費の水増しと節税は、全く異なります。
節税は税法に定められたルールを守って、合理的に納税額を抑えることです。一方で、不当に経費を計上し、水増しをして納税額を減らす行為は、脱税であり、最悪の場合、刑事罰を科される可能性もあります。
経費の水増しは決して行ってはいけない行為なのです。
2.経費を水増しするリスク
経費の水増しは、高い確率で税務調査により見破られます。
税務調査では、経費が適切に使われ、正しく計上されているかを領収書の内容や取引先の状況、銀行口座の動き、業界の平均値との差異など、さまざまな観点から検討を行います。
調査官の目をごまかすのは、非常に難しいといえるでしょう。
水増しや架空計上が発覚すると、追徴課税として過少申告加算税もしくは、重加算税(最大40%)に加え、延滞税が課される可能性があります。最悪の場合は、刑事罰が科されるかもしれません。
3.税務調査で発覚した経費の水増しの事例
税務調査で発覚した経費の水増し3つの事例を紹介しましょう。
ケース1:実際には受けていないコンサルティング料を計上した
ケース2:経費を二重計上した
ケース3:従業員がカラ出張をしていた
ケース1:実際には受けていないコンサルティング料を計上した
知り合いの名を借りて、経営コンサルティングを受けていることにして経費を計上する行為は、税務調査で厳しくチェックされます。
昨今増えているのが架空のコンサルティング料を計上し、経費を水増しするケースです。形に残らないサービスであるため、架空の取引を行い、経費の水増しがしやすいのがその理由といえるでしょう。
領収書の確認だけでなく、その実態を調べられるなど、税務調査では厳しくチェックされる項目のひとつになっています。
コンサルティング料に関する詳細は、こちらをご覧ください。
税務調査においてコンサルティング料が指摘されやすい理由とその対策
ケース2:経費を二重計上した
「うっかり」であっても、同じ経費を2回計上するのは、経費の水増しとみなされます。
領収書とクレジットカードの利用明細の両方で計上してしまったなど、単純なミスによる二重計上の場合もあります。しかし、税務調査では厳しくチェックされるポイントです。
二重計上は、ミスしやすいポイントであり、経費処理の際には、注意しましょう。
ケース3:従業員がカラ出張をしていた
税務調査で従業員によるカラ出張が発覚した場合でも、税務上の責任を負うのは会社です。
従業員が私腹を肥やすためにカラ出張のような経費の架空請求や水増しを行なった場合、会社は被害者ともいえます。しかし、税務調査では、その事実を見抜けなかった会社が責任を負う必要があります。
会社側は、従業員が不正ができない環境をつくることが重要だといえるでしょう。
カラ出張の詳細は、こちらをご覧ください。
税務調査でカラ出張が見つかった場合のリスクは?対応と対策も紹介
4.税務調査で経費の水増しが発覚する5つのきっかけ
なぜ、経費の水増しは発覚するのでしょうか。
経費の水増しが発覚するきっかけについて解説します。
- 自社の税務調査がきっかけで発覚
- 取引先の税務調査による発覚
- 関係者から情報提供
- 資産状況の調査
- SNSで発信している情報
4-1.自社の税務調査がきっかけで発覚
税務調査が行われ、経費の水増しが発覚するケースが多くなっています。
税務調査では、帳簿と請求書や領収書などの証憑書類に整合性が取れているか、銀行口座の取引履歴、また取引実態の有無など、調査官は多方面から問題がないか詳細にチェックをします。
調査官は、ささいなお金の流れの違和感から不正を見抜きます。基本的に経費の水増しをごまかすことは難しいと考えたほうがいいでしょう。
4-2.取引先の税務調査による発覚
取引先に税務調査が行われたことがきっかけで、自社の経費の水増しが発覚することがあります。
取引先で実態のない請求書など、不自然な会計処理が見つかった場合、その相手先として自社に調査が及ぶこともあります。その結果、経費の水増しが発覚することになります。
4-3.関係者から情報提供
会社の実情を知る従業員や取引先などの関係者の通報により、税務調査の対象となり、経費の水増しが発覚するケースもあります。
関係先の不正を知ってしまった場合だけでなく、経費の水増しに加担している人が良心の呵責に耐えかねたり、会社自体に恨みをもって告発するなど、さまざまなケースがあります。
国税庁に告発されたところで、必ずしも調査の対象になるわけではありません。しかし、従業員や身内などの身近な関係者からの情報は、重要視される傾向があるようです。
なお、国税庁のホームページには、課税・徴収漏れに関する情報提供フォームが用意されており、匿名でも通報が可能となっています。
課税・徴収漏れに関する情報の提供|国税庁HP
4-4.資産状況の調査
所有している資産の状況に不自然な点があると、税務調査の対象になり、経費の水増しが発覚する可能性があります。
税務署は、銀行や信用金庫などの金融機関から口座の入出金状況を把握することができるほか、法務局から不動産購入の事実など、さまざまな情報を得ることができます。
金融機関の入出金の状況が不自然だったり、資産が会社の経営状態に合わないなど、不自然な状況がみられると、税務調査の対象になり、不正が発覚するきっかけとなります。
4-5.SNSで発信している情報
国税庁は、SNSも情報収集の対象としており、申告内容と発信している情報に整合性が取れているかをチェックしています。
会社の公式SNSの情報はもちろん、経営者個人のSNSの内容にも注意しましょう。申告した経費の内容と発信している情報の整合性のほか、あまりにも羽振りがいい私生活を発信してる場合は、不信感が持たれ、税務調査の対象となる可能性があります。
5.経費を水増しが発覚した場合のペナルティ
経費の水増しをした場合、行政処分として追徴課税が課されるほか、悪質度が高い場合、刑事罰が科される可能性があります。
5-1.追徴課税が課される
経費の水増しを行った場合、追徴課税として、本来支払うべき納税額との差額に加え、附帯税として、延滞税、過少申告加算税もしくは、重加算税の対象となる可能性が高くなります。
附帯税には、以下の種類があります。
附帯税の種類 | 内容 | |
延滞税 | 法定期限内に税金が納付できなかった場合に日数に応じて課せられる | |
利子税 | 延納申請を行い、認められた場合に、日数に応じて課される | |
加算税 | 過少申告加算税 | 税務申告した内容に問題があり、納める税金が少なかったり、還付される税金が多すぎた場合に課される |
無申告加算税 | 税務申告の期限内に申告しなかった場合に課される | |
不納付加算税 | 源泉徴収した所得税を納期限までに適切に納付しなかった場合に課される | |
重加算税 | 納税者による不正や隠ぺいなどの不正の事実が確認された場合に、過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税に代えて課される税金 |
①延滞税
延滞税は、法定期限までに税金を納付できなかった場合に、遅れた日数に応じて課される税金です。
納付が遅れるほど延滞税の金額も増加します。
延滞税の計算式
延滞税=(追加で徴収される税額×延滞税の税率×延滞した日数)÷365日
期間 | 税率 |
納期限の翌日から2ヶ月を経過するまで | 年「7.3%」と「延滞税特例基準割合+1%」のいずれか低い割合 |
納期限の翌日から2ヶ月を経過した翌日以降 | 年「14.6%」と「延滞税特例基準割合+7.3%」のいずれか低い割合 |
令和7年4月現在
参考:国税庁HP「延滞税の割合」
②過少申告加算税
過少申告加算税は、税務申告の内容に誤りがあり、納めるべき税金が少なかったり、受け取る還付金が多すぎた場合に課される税金です。
過少申告加算税の計算式
過少申告加算税=追加で徴収される税額×税率
過少申告加算税では、次の税率が適用されます。
基本的な税率 | 10% |
納税額が期限内申告税額と50万円のどちらか多い金額の超過部分 | 15% |
令和7年4月現在
参考:国税庁HP「No.2026 確定申告を間違えたとき」
③重加算税
隠ぺいや仮装など、不正行為が確認された場合には、過少申告加算税に代えて、重加算税が課されます。
重加算税の計算式
重加算税=追加で徴収される税額×税率
重加算税は、次の税率が適用されます。
過少申告加算税・不納付加算税の対象となるケース | 35% |
無申告加算税の対象となるケース | 40% |
令和7年4月現在
参考:財務省「加算税の概要」
なお、過去5年以内に重加算税を課されたことがあるなど、隠ぺい・仮装を繰り返す悪質なケースは、さらに税率が加算されます。
5-2.刑事罰が科されることもある
水増しをしていた額が高額であったり、悪質性が高い場合には、脱税として告発され、刑事罰の対象になります。
その場合、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはその両方が科されます。(法人税法159条1項)
なお、刑事罰が科された場合であっても、追徴課税は行政処分として独立したペナルティであるため、追徴課税と刑事罰は併せて課されます。
6.税務調査で経費の水増しに気がついたら、できるだけ早く修正申告をしましょう
税務調査で経費の水増しを指摘されたら、早急に修正申告することをおすすめします。
税務調査で経費の水増しが発覚した場合、税務署から自ら申告を行う修正申告をすることを打診されます。修正申告に応じない場合は、税務署により強制的に申告内容を修正される更正が行われ、修正額の納税が必要です。
もし、追徴課税を納税せずに滞納していると、最終的には財産の差し押さえが行われます。
「4-1.追徴課税が課される」で説明した通り、追徴課税の納税が遅れるほど、延滞税がかさんでいきます。税務調査の内容に納得した場合は、追徴課税の負担を軽減するためにも、できるだけ早く修正申告を行いましょう。
なお、税務調査で指摘された内容に不服がある場合は、不服申し立てを行います。
税務調査の流れの詳細は、こちらをご覧ください。
税務調査の流れを解説!スムーズに税務調査を乗り切るポイントとは?
7.経費の水増しでペナルティを受けないための4つの対策
経費の水増しでペナルティを受けないためには、故意に不正を行わないことが何よりも大切です。
不注意で経費の水増しをしないために、次の点に注意しましょう。
- 正しい経費処理を理解する
- 従業員が正しい経費精算ができる環境を整える
- 取引先の不正行為に加担しない
- 顧問税理士を持つ
7-1.正しい経費処理を理解する
まずは、経費処理の方法を理解し、正しく経費処理することが基本です。
不注意による経費の水増しをしてしまうことがないよう、経費処理のルールを理解し、日常的に正しい処理を心がけましょう。
7-2.従業員が正しい経費精算ができる環境を整える
従業員が経費の水増し請求をできない環境を整えることが重要です。
税務調査で従業員の経費の水増し請求が発覚した場合でも、税務上の責任は会社が負うことになります。会社のためにも、従業員のためにも、不正を行いにくい環境やシステム、チェック体制を整えることは重要といえるでしょう。
7-3.取引先の不正行為に加担しない
取引先から、不正行為の協力を持ちかけられても、きっぱりと断ることが大切です。
架空の領収書や請求書の発行、数値の改ざんなどは、不正行為です。不正に協力してしまうと、経済的なメリットを受けていなくても、法的責任が生じる可能性があります。
不正行為に加担することは、会社の信用を失墜させることにもなりかねません。状況によっては、契約の解除も検討することが必要です。
7-4.顧問税理士を持つ
正しい経費処理を行うためには、顧問税理士のサポートを受けると安心です。
経費の処理は非常に複雑です。専門家である顧問税理士のアドバイスを受けることで、日常的に正しい経費処理が可能となります。
また、顧問税理士から正しい方法で効果が高い節税効果のアドバイスを受けることも可能です。
8.合理的な節税対策は、辻・本郷 税理士法人にお任せください!
辻・本郷 税理士法人にお任せいただければ、税法にのっとった正しい方法で、より効果が高い節税の提案が可能です。
経費の水増しは不正行為であり、追徴課税が課される可能性があるほか、取り返しのつかない事態になりかねません。
正しい方法で節税をすることは、非常に重要です。
「節税は、どの税理士に依頼しても同じ」ではありません。辻・本郷 税理士法人には、蓄積している経験と知識に裏付けされた膨大な節税テクニックがあります。
ぜひ、辻・本郷 税理士法人にご相談ください。
詳細は、こちらをご覧ください
辻・本郷 税理士法人の法人税務顧問サービス
9.まとめ
本記事では、税務調査における経費の水増しについてまとめました。
経費の水増しは、脱税であり、決して行ってはいけない行為です。
もう一度、振り返ってみましょう。
- 税務調査で経費の水増しが発覚する5つのきっかけ
- 自社の税務調査がきっかけで発覚
- 取引先の税務調査による発覚
- 関係者から情報提供
- 資産状況の調査
- SNSで発信している情報
- 経費の水増しが発覚した場合のペナルティ
- 追徴課税が課税される
〇期間に比例する延滞税
〇金額に応じた過少申告加算税
〇不正の事実が確認された場合の重加算税 - 悪質な場合は、刑事罰が科される
- 税務調査で経費の水増しが発覚した場合は、早急に修正申告をしましょう。
自ら修正申告をしない場合は、更正になり、税務署から申告内容を修正されます。
なお、そのまま追徴課税を滞納していると財産の差し押さえが行われることになるので注意が必要です。
税務調査の結果に納得できない場合は、不服申し立てを行います。
- 経費の水増しでペナルティを受けないためには、何よりも正しい申告を行うことが重要です。
次の4つの対策が効果的です。
- 正しい経費処理を理解する
- 従業員が正しい経費精算ができる環境を整える
- 取引先の不正行為に加担しない
- 顧問税理士を持つ
繰り返し申し上げますが、経費の水増しは不正行為です。
正しく合理的な節税で、効果が高い方法はたくさんあります。
辻・本郷 税理士法人にご相談いただければ、より効果的な節税の提案が可能です。