
税務調査では、調査官が納税者に対してさまざまな質問を行い、その回答を記録する「質問応答記録書」が作成されることがあります。
これは、調査結果の裏付けとなる資料であり、後の追徴課税や修正申告の根拠のひとつとなるため、作成してもらう際、あるいは署名する際には慎重に、内容に齟齬がないかを確認する必要があります。
しかし、「質問応答記録書の作成、あるいは署名を求められたが、拒否しない方がいいのか?」「どのような対処法がベストなのか?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
この記事では、税務調査における質問応答記録書の役割や内容、適切な対応方法などについて詳しく解説します。税務調査への不安を軽減し、適切な対策を講じるための参考にしてください。
目次
1.質問応答記録書(質問調書)とは
税務調査では、調査官が納税者の回答を記録するために「質問応答記録書(質問調書)」を作成することがあります。この書類は、調査官が事実関係を正確に把握し、税務判断の根拠とするために重要な役割を果たします。
調査の結果、納税者の申告内容に誤りや隠蔽の疑いがある場合は、応答記録書が重加算税の判断材料のひとつとなることもあるため、慎重に対応する必要があります。
この章では、質問応答記録書の基本的な概要や作成の目的などについて解説します。
1-1.税務調査官が重要事項の事実関係を正確に記録するために作成する
質問応答記録書とは、税務調査官が調査対象者の発言や回答を記録し、重要事項の事実関係を明確にするために作成する文書です。
税務調査では、納税者がどのような経緯で申告を行ったか、取引の実態はどうなのか等の確認を行います。その際、調査官は口頭でのやり取りだけでなく書面で記録を残すことで、後の調査結果の判断の根拠とします。特に、修正申告や重加算税の適用が検討される場合には、正式な記録としての重要性が増します。
質問応答記録書は、税務調査における証拠資料のひとつとなるため、納税者は慎重に対応することが求められます。
1-2.重加算税の可能性があると調査官が考えるときに作成されることが多い
質問応答記録書は、税務調査において調査官が「重加算税の適用が検討される」と判断した際に作成されることが多いです。
重加算税とは、意図的な隠蔽などの不正行為があった場合に課される税金です。追加で徴収される税額に通常35~40%の税率をかけて算出され、重加算税の処分が下された場合は、納めるべき税額の不足分と一緒に支払わければなりません。
例えば、架空の経費計上や売上除外などの意図的な不正が疑われる場合などにおいて、調査官は重加算税を課す具体的な証拠を固めるために質問応答記録書を作成することがあります。
1-3.質問応答記録書の作成は拒否することが可能である
調査官から質問応答記録書を作成するとされた場合でも、拒否することが可能です。
質問応答記録書は、国税通則法などの税法には規定されておらず、法令解釈通達や国税庁が外部に公表している事務運営指針にも規定されていないため、あくまで調査担当者が作成する行政文書という位置づけです。
したがって、質問応答記録書の作成は任意のものとなっています。
ただし作成を拒んでしまうと、調査官は他の証拠を基にして調査を進めることとなるため、再度の調査や、金融機関などへ範囲を広げて調査が行われることがあります。その結果として、税務調査が長期化するリスクもあるため、税理士に相談の上、質問応答記録書の作成の是非については判断を仰ぐことが理想的です。
なお、調査官は質問検査権という権利を持っているため、調査官からの質問に回答すること自体を拒否することはできません。
1-4.納税者からの回答を基に作成される
質問応答記録書は、調査官が納税者や関係者に対して行った質問に対する回答を基に作成されます。
調査官が一方的に作成するものではなく、納税者の発言が記録されるため、納税者の意図や状況が反映される文書となります。
例えば、ある飲食店のオーナーが「現金売上を一部記録していなかった」と発言した場合、その内容が応答記録書に記録されます。その後の税務判断で、この発言が売上除外の証拠として扱われる可能性もあります。
質問応答記録書は納税者自身の発言が記録されるため、不用意な回答を避けて内容を慎重に確認することが重要です。
1-5.納税者の署名や押印を求めることが一般的である
質問応答記録書では、内容が正確であることを確認するため、納税者の署名や押印が求められることが一般的です。署名や押印があることで、納税者自身が記録内容に同意したとし、後の調査結果の判断において証拠としての効力を持つことになります。
なお、質問応答記録書は1-3でお伝えしたとおり、あくまで調査担当者が作成する任意の行政文書です。
したがって、質問応答記録書に対し、納税者には法令に基づく署名押印を行う義務は存在せず、署名押印しないことで罰せられることはありません。強制的に署名させられるものではなく、納得できない場合には拒否することも可能となっています。
ただし、質問応答記録書の作成を拒んだとき同様、調査官の心象が悪くなったり、調査が長引く可能性はあります。
署名・押印は慎重に行い、不明点があれば税理士などに相談しながら対応し、必要に応じて記録書の内容の修正を求めることが重要です。
2.質問応答記録書に記録される内容例
質問応答記録書には、調査官が納税者や関係者から得た情報が詳細に記録されます。その内容は、納税者の基本情報から具体的な質問・回答まで多岐にわたります。
この章では、質問応答記録書に記載される主な内容について説明します。
2-1.回答者に関する情報(住所、氏名、生年月日、回答を得た日時や場所など)
質問応答記録書には、回答者の住所、氏名、生年月日、回答を得た日時や場所といった基本情報が記録されます。
これは、誰が回答したものかを明確にするためのものであり、後の「自分は発言をしていない」「内容が違う」といった反論によるトラブルを防ぐ目的があります。また、発言の信頼性を確保するために、調査を受けた日時や場所も記載されます。
例えば、企業の経理担当者が税務調査で質問を受けた場合は、以下のような情報が記載されます。
記録例
氏名:○○ ○○
住所:○○県○○市○○町○丁目○番地
生年月日、年齢:XXXX年XX月XX日生まれ、○○歳
調査日時:2025年3月26日 午後2時
本職は、XXXX年XX月XX日、東京都○○区○○町○丁目○番地の○○株式会社 本社応接室において、上記の回答者から、任意に次の通り回答を得た。
質問応答記録書に記載される個人情報は、後の税務処分の根拠となるため、間違いがないか確認することが重要です。
2-2.質問内容と回答内容
質問応答記録書には、調査官が行った質問と、それに対する回答者の発言内容が詳細に記録されます。
質問内容は多岐にわたり、事業内容や取引実態、経費の使途など、細かく尋ねられることがあります。
以下は、飲食店のオーナーが税務調査を受けた際の記録の一例です。
記録されるやり取りの例
質問:「日々の売上はどのように記録していますか。」
回答:「レジの記録を基に、毎日手書きで帳簿に記入しています。」
質問 : 「いつから、このように帳簿に記録していますか。」
回答 : 「事業を立ち上げた初月であるXXXX年XX月からです。」
質問:「計上していない売上金額がありますが、何に使っていますか。」
回答:「今すぐには、思い出せません。確認をしないと答えられません。」
質問調書への回答内容によっては不正の証拠とされる可能性があるため、慎重に発言しましょう。
2-3.回答者の署名と押印
1-5でも述べたように、質問応答記録書の内容が確認された後、納税者(回答者)は署名と押印を求められます。もし納得できない内容があれば、署名や押印をする前に修正を依頼しましょう。
署名欄は以下のようになっています。
記録例
(回答者)署名:__________
押印:☐(印鑑を押す欄)
2-4.質問者に関する記載(所属する税務署、役職、氏名など)
質問応答記録書には、調査を行った税務職員の所属・役職・氏名などの情報も記載されます。
調査官の身元を明らかにすることで、納税者が適正な調査が行われているかを確認できるようにするためです。また、後に問題が生じた場合に、どの職員が対応したのかを特定するための記録としても機能します。
記載例は以下のようになります。
記録例
質問者氏名:○○ ○○
所属税務署:○○税務署
役職:財務事務官
調査実施日:XXXX年XX月XX日
不明点があった場合は、この箇所に記載された調査官の情報を確認して質問することが重要です
3.質問応答記録書に署名を求められた場合は、税理士に相談して判断を仰ぐのが最善策
税務調査では税理士にあらかじめ立ち会ってもらい、質問応答記録書への署名を求められた場合は、この内容で署名をしても問題ないかを判断してもらうことをおすすめします。
1-5でお伝えしたとおり、署名することで納税者は内容を正式に認めたとされるため、誤りがないかどうか、慎重に確認する必要があります。曖昧な表現や誤解を招く記述がある場合、そのまま署名してしまうと、誤った事実認定につながる可能性があります。
また、署名の拒否も可能ですが、拒否すると調査が長期化したり、調査対象が広がるおそれもあります。
そのため、質問応答記録書の内容に不安がある場合には、事前に税理士に調査への立ち会いを依頼し、署名をする前に判断を仰ぐことが最善策です。
立ち会ってもらうことで、調査官の不適切な誘導質問に第三者として介入してもらえたり、納税者にとって不利な発言をしないようサポートしてもらえたりすることができます。
内容を税理士としっかり確認し、必要であれば調査官に修正を依頼するようにしましょう。
4.署名をしてしまった後で質問応答記録書の内容を修正したい場合
署名後に質問応答記録書の内容に誤りがあると気づいた場合は、調査官に質問応答記録書を一から作成しなおしてもらうという形で修正を依頼することができます。
質問応答記録書は、調査官と納税者の間で事実関係を確認するための文書であり、納税者が誤りを指摘すれば、調査官は訂正に応じてくれる可能性があります。
ただし、あまりに多くの修正・再作成を依頼してしまうと、「意見に一貫性がない」と調査官にネガティブな印象を与えてしまうこともあるため、注意しましょう。
5.質問応答記録書に記録される回答をする際に注意すべき4つのポイント
質問応答記録書を取られる際は、納税者の発言がそのまま記録されるため、回答の仕方には十分な注意が必要です。不用意な発言や曖昧な回答をすると、後に不利な税務的判断を受ける可能性があります。
この章では、質問応答記録書に記録される回答をする際に注意すべき4つのポイントを解説します。
5-1.質問された内容だけ答えるべき
税務調査では、調査官からの質問に対して必要最低限の回答をすることが重要です。
余計な情報を話してしまうと、調査の範囲が広がる可能性があり、不必要な疑いを招くことがあります。
また、誤った解釈をされるリスクもあるため、求められた内容に対して簡潔に回答することが望ましいです。
質問と回答の例
調査官:「この支出はどのような目的で行われましたか?」
納税者:「取引先との打ち合わせのための飲食費です。」(簡潔な回答)
NG回答 : 「よくあることですが、取引先と食事をすることが多く、時には個人的な付き合いもあります。」(不要な情報を加えると調査が広がる可能性あり)
聞かれていないことまで話さず、質問に対して簡潔に答えるようにしましょう。
5-2.記憶が曖昧な内容には「現時点では分からないためお答えできません」と答える
記憶が曖昧なまま回答すると後から訂正が難しくなるため、分からない場合は正直に「分からない」と答えることが重要です。
曖昧なまま答えると、後に矛盾が生じた際に「虚偽の説明をした」とみなされる可能性があります。確信が持てない場合は、後日資料を確認してから回答すると伝えるのが適切です。
質問と回答の例
調査官:「○月○日の取引の詳細を説明してください。」
納税者:「現時点では記憶が曖昧なため、後日、帳簿や資料を確認した上でお答えしたいと思います。」
5-3.すぐに答えられなくても沈黙は避ける(沈黙した旨を記録されるおそれがある)
回答に迷った場合でも沈黙せず、調査官に「少し考えさせてください」と伝えるようにしましょう。
沈黙が長引くと、「回答を避けた」「沈黙があった」などと記録される可能性があります。時間をかけて考えることは問題ありませんが、何も言わないままでいると不利に働くことがあります。
質問と回答の例
調査官:「この経費はどのような取引に関連していますか?」
納税者:「少し記憶が曖昧なので、思い出すために考える時間をください。」→ (熟考)
NG回答:(沈黙)→ 調査官の記録:「納税者は即答を避け、沈黙が続いた」
沈黙を避け、考える時間が必要であることを明確に伝えることが大切です。
5-4.迷うことや理解できないことがあれば改めて確認をする
調査官の質問が不明確な場合や、意味が分からない場合は、納税者はその場で確認することが重要です。
曖昧なまま回答すると、調査官が意図しない形で記録する可能性があります。質問の趣旨を正しく理解した上で回答することで、誤解を防ぐことができます。
質問と回答の例
調査官:「この費用は業務に関係していますか?」
納税者:「業務に関係しているとはどういう意味でしょうか?『関係』の具体的な基準を教えていただけますか?」
質問の意味が分からない場合は、遠慮せず確認し、誤った回答をしないようにすることが重要です。
6.質問応答記録書や税務調査で不安があるときには辻・本郷 税理士法人の税務顧問サービスをご検討ください
税務調査や質問応答記録書の対応に不安がある場合は、専門家に相談するのが最善の策です。
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税務顧問サービスの主なサポート内容
・税務調査が入らないための対策
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・調査当日の立ち会い(不安を感じやすい内容でも強気で対応、突っ込んでくる内容に先回りした対処)
・質問応答記録書の内容チェック
・税務署との交渉支援
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7.まとめ
税務調査において質問応答記録書は、納税者の発言を正式な記録として残す重要な文書です。
そのため、まず第一に作成を求められた際には税理士に相談し、作成すべきか判断を仰ぎましょう。
また、作成した場合、調査官から署名を求められた際には慎重に対応することが求められます。税理士に相談しながら内容を十分に確認し、不明点があれば修正を依頼することが重要です。
また、質問に対する回答の仕方によっては、調査の範囲が広がったり、不利な判断を受ける可能性があるため、適切な受け答えを意識する必要があります。
以下に、要点を整理します。
①質問応答記録書とは
・税務調査官が事実関係を正確に記録するために作成する文書で、納税者の回答を基に作成される。
・内容の確認のため、納税者の署名・押印を求められることが多い。
・作成は任意のため、拒否できるが、拒否した場合心象が悪くなったり調査が長引く可能性がある。
②質問調書に記録される内容
・回答者の氏名・住所・生年月日・回答日時・場所などの基本情報。
・質問と回答の詳細な記録。
・調査官の所属・役職・氏名などの情報。
③質問調書に署名を求められたときの対応方法
・税務調査には、税理士の立ち会いを事前に依頼しておく。
・税理士に相談しながら、署名してよい内容か判断を仰ぐのが最善策。
・内容に誤りがあれば調査官に修正を依頼した後に署名する。
⑤署名後に内容を修正したい場合の対応
・調査官に修正を依頼する。
・内容が大きく異なり不利な影響が懸念される場合は、税理士に相談するのが最善策。
⑥質問応答記録書に回答する際の注意点
・質問された内容だけ答え、余計な情報は話さない。
・記憶が曖昧な場合は「分からない」と答え、後日確認する。
・沈黙せず、「考えさせてください」と伝える。
・不明点があれば質問を確認し、誤解を防ぐ。
⑦税務調査や質問応答記録書に不安がある場合は、税理士に相談するのが最善策
・税務顧問サービスを活用すれば、調査対応のアドバイスや調査官との交渉支援が受けられる。
・事前準備や調査時の立ち会いにより、納税者が不利な状況に陥るリスクを減らせる。
税務調査では、発言が後の税務判断に大きく影響するため、慎重な対応が求められます。
不安がある場合は税理士に相談し、専門家のサポートを受けることで、適切な対応を取ることができます。冷静に対応していきましょう。