
「夫婦の口座間で高額な資金を移動させてしまったけど、贈与税の課税対象になってしまうのだろうか」
「長年、生活費の余りを妻名義の口座でコツコツ貯めてきたけれど、贈与と見なされてしまうのだろうか」
「夫名義の住宅ローンの返済を妻の預貯金からおこなったけど、贈与になってしまうのだろうか」
この記事をお読みの皆様は、そんな疑問を持たれているのではないでしょうか。
税務上、夫婦間であっても年間110万円という基礎控除の枠を超えれば、原則として贈与税の課税対象となります。「夫婦なのだから、お互いの資産をどう動かしても自由」と考えてしまいがちですが、税務上の考え方は異なります。
本記事では、夫婦間贈与で税金がかからない例外的なケースから、へそくりや高額なプレゼント、住宅ローンの繰り上げ返済など、多くの方が迷いがちな10の具体例を挙げて、夫婦間贈与についての疑問を徹底解説します。本記事が、夫婦間贈与についての正しいルールの理解と、円満な資産管理の一助となれば幸いです。
目次
- 1.夫婦間でも原則贈与税はかかる
- 2.【例外】夫婦間で贈与税がかからない3つのケース
- 3.これって大丈夫?夫婦間贈与で迷いがちなケース10選
- 3-1. 生活費の余りを「妻の口座」でコツコツ貯金(へそくり)している
- 3-2. 夫名義の預金から「妻名義の投資信託や株」を購入した
- 3-3. 夫婦間で多額の資金を口座移動させた
- 3-4. 夫婦間で多額の現金を手渡しで贈与した
- 3-5.専業主婦の妻が、夫からの預金移動だけで「1,000万円以上の資産」を持っている
- 3-6. 夫名義の住宅ローンの繰り上げ返済を「妻の貯金」から一括で行った
- 3-7.自宅を夫婦の共有名義にする際、資金を出していない側に持分を持たせた
- 3-8.収入のない配偶者が生活に使う車を購入した
- 3-9. 「生活費」として受け取ったお金で、高額な宝飾品や車を購入した
- 3-10.夫婦間で高額なプレゼントをした
- 4.夫婦間贈与は税務署にばれる
- 5.まとめ
1.夫婦間でも原則贈与税はかかる
夫婦間であっても、原則贈与税はかかります。
「家族だから税金はかからないだろう」と思われがちですが、法律上、夫婦間であっても特別な配慮は存在しません。
その根拠となるのは、贈与税の納税義務者について定めた相続税法 第1条の4です。この条文では、贈与によって財産を取得した「個人」は贈与税を納める義務があると規定されており、この条文の中に「配偶者は除く」といった例外規定は存在しません。つまり、たとえ夫婦間であっても、無償で財産が移転すれば、原則として他の第三者からの贈与と同じように課税の対象となるのです。
しかし、扶養義務者相互間の生活費は贈与税がかからないなど、例外がありますので、次章で確認していきましょう。
2.【例外】夫婦間で贈与税がかからない3つのケース
本章では、夫婦間で贈与税がかからない以下3つのケースについて解説します。
2-1.生活費・教育費
2-2.年間110万円以内の贈与
2-3.おしどり贈与の特例を活用した居住用不動産の贈与
2-1.生活費・教育費
1つ目は生活費・教育費です。
夫婦にはお互いの生活を支え合う「扶養義務」があるため、日常生活に必要な費用のやり取りには贈与税がかかりません。
(贈与税の非課税財産)
二 扶養義務者※相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの(相続税法 第二十一条の三)
※配偶者、直系血族(祖父母・父母・子・孫)や兄弟姉妹、家庭裁判所の判断によって扶養義務者となった三親等内の親族、三親等内の親族で同一生計の者
生活費や教育費とは、金額に上限は定められていませんが、日常生活を送るために通常必要と思われる範囲内、つまり諸々の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲内とされており、主に下記のようなものがあります。
・食費、光熱費、家賃、医療費
・子供の養育費、教育費(学費、教材費、文具費など)
注意が必要なのは、受け取ったお金の「使い道」と「渡し方」です。
生活費として渡されたお金であっても、それを貯蓄や金融資産、不動産投資など、別の用途に使っていた場合は、生活費とはみなされず、贈与税の対象となる可能性があります。
また、生活費や教育費が必要なタイミングで、その「都度」負担すれば、非課税と認められますが、仮に、今後必要になる資金だからと言って、事前に一括でまとめて高額な資金を渡してしまうと、特例などを使わない限りは贈与税が課税されてしまう可能性があるので注意しましょう。贈与税の特例については、以下の記事をご覧ください。
■辻・本郷相続ガイド 非課税で生前贈与できる6つの方法
2-2.年間110万円以内の贈与(暦年課税を選択した場合)
2つ目は年110万円以内の贈与です。
贈与税には、受贈者(受け取る人)1人につき年間110万円の「基礎控除」という非課税の枠があります。
| 概要 | もらう人ごとに、年間110万円までは贈与税が非課税 ※暦年贈与 |
|---|---|
| 非課税枠 | 110万円/年間 |
| おすすめのケース | 毎年少しずつ贈与を進めたい場合 |
| 注意点 | ・毎年贈与契約書を作ること ・令和5年度税制改正において、生前贈与加算の対象となる期間が3-7年に段階的に延長されていること |
もらう人ごとに、年間110万円までは、贈与税は非課税となり、申告も不要です。この制度を使って長年にわたり計画的に贈与を行えば、かなりの財産を無税で配偶者へ移すことができます。まとまった金額を一度に渡すよりは、老後のために着実に資産を分けておきたいという方におすすめの方法です。
注意すべきポイントは、贈与を行うごとに契約書を作っておくことです。例えば、毎年贈与契約書を作成するのがめんどうだからと言って、「今後10年にわたり、毎年100万円を贈与する」という契約書を作成してしまうと、10年にわたり100万円ずつの給付をするという定期金給付契約に基づく定期金に関する権利の贈与とみなされて、一括で課税されてしまうことがあります。
後の税務調査で贈与、あるいは名義預金を疑われないためにも、手間を惜しまず、毎年その都度契約書を作成することをおすすめします。
また、暦年課税制度には相続開始前の一定期間(3-7年)に行われた生前贈与は、相続財産に加算して、相続税額を計算するという制度がありますのでご注意ください。
なお、令和5年度税制改正により、生前贈与により取得した財産が相続財産に加算される期間が、相続開始前3年以内から7年以内に延長されています。(2024年~2030年の7年間は移行期間とされており、加算期間を段階的に延長する措置が取られています。)詳細は生前贈与加算とは?令和6年改正による期間延長の影響と対策を解説をご覧ください。
■辻・本郷相続ガイド 生前贈与の正しいやり方|相続専門税理士監修
2-3.おしどり贈与の特例を活用した居住用不動産の贈与
3つ目はおしどり贈与の特例を活用した居住用不動産の贈与です。
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産(またはその取得資金)の贈与が行われた場合、基礎控除110万円とは別に最大2,000万円までが非課税となる「贈与税の配偶者控除」という制度があります。長年連れ添った夫婦の貢献に報いるための制度で、通称「おしどり贈与」とも呼ばれます。
| 概要 | 婚姻期間20年以上の夫婦間で、自宅やその購入資金を贈与した場合の特例 |
|---|---|
| 非課税枠 | 最大2,000万円(基礎控除と合わせて最大2,110万円) |
| おすすめのケース | 自宅の名義を妻(夫)に変更したい場合、将来の相続財産を減らしたい場合 |
| 主な要件 | ・婚姻期間が20年以上であること ・贈与された翌年3月15日までに居住し、その後も引き続き住む見込みであること |
この特例を活用すれば、最大2,110万円分まで贈与税をかけずに自宅の名義を移転することができます。
また、この特例の大きなメリットは、贈与した後に相続が発生しても、その贈与分を相続財産に加算(持ち戻し)しなくてよい点にあります。通常、亡くなる前一定期間の贈与は相続財産に含めるルールがありますが、この特例を適用した分は、その対象外となるため、相続税対策としても非常に強力です。
注意点としては、贈与税は非課税になっても、不動産の名義変更に伴う「登録免許税」や「不動産取得税」などの諸費用は別途発生する点です。これらは通常の相続時に比べて割高になることが多いため、税金と諸費用のトータルバランスを考えて検討することをおすすめします。
■辻・本郷相続ガイド おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)とは?メリット・デメリットを解説
3.これって大丈夫?夫婦間贈与で迷いがちなケース10選
本章では、生活の中でよくある、夫婦間贈与で迷いがちなケース10選について解説します。
※本記事では、解説を分かりやすくするため「夫が主な収入を得ており、妻が専業主婦または扶養内で家計を管理している」というケースを前提に記載しております。収入状況や性別が逆の場合でも、税務上の考え方は同様となりますので、適宜読み替えてご活用ください。
| ケース | 判定 | 理由・注意点 |
|---|---|---|
| 3-1. 生活費の余りを「へそくり」貯金 | △ | 生活費のやりくりであり、原則贈与税は非課税。ただし将来「相続税」の対象になる可能性あり。 |
| 3-2. 夫の預金で「妻名義の株・投信」を購入 | × | 生活費ではなく「資産形成」が目的となるため、贈与税の対象。 |
| 3-3. 夫婦間で多額の口座移動 | △ | 管理目的のみなら贈与税はかからないが、将来将来「相続税」の対象になる可能性あり。 |
| 3-4. 多額の現金を手渡しで贈与 | × | 形式が手渡しであっても、年間110万円を超えれば納税義務が発生。 |
| 3-5. 妻が夫の収入だけで1,000万超の資産 | △ | 贈与税はかからずとも、実質「夫の財産(名義預金)」として将来相続税がかかる可能性あり。 |
| 3-6. 夫のローンを妻の貯金で繰り上げ返済 | × | 夫の負債を肩代わりしたことになり、妻から夫への贈与とみなされる。 |
| 3-7. 共有名義にする際、資金なし側に持分 | × | 出したお金の割合と名義の割合が異なると、差額分が贈与税の対象。 |
| 3-8. 収入のない妻が生活に使う車を購入 | 〇 | 常識的な範囲の「生活必需品」であれば、夫が支払っても非課税。 |
| 3-9. 「生活費」で高額な宝飾品や車を購入 | × | 生活費の枠を超えた「資産」の取得と判断され、贈与税がかかる可能性が高い。 |
| 3-10. 夫婦間での高額なプレゼント | × | 記念日でも例外なし。他の贈与と合わせて年間110万円を超えれば贈与税の課税対象。 |
3-1. 生活費の余りを「妻の口座」でコツコツ貯金(へそくり)している
1つ目は生活費の余りを「妻の口座」でコツコツ貯金(へそくり)しているケースです。

結論から申し上げますと、このケースは原則として「贈与税」の対象にはなりませんが、将来の「相続税」の対象になる可能性が非常に高いです。
夫婦間で生活費として渡されたお金の余りを貯金しても、通常、そこには「あげた」「もらった」という明確な贈与の合意(契約)がないため、贈与税の対象とはみなされません。家計管理の範囲内であれば、税務署から「贈与税を払いなさい」と言われることはまずないといえるでしょう。
最大の問題は、夫の相続が発生した時です。妻名義の口座であっても、その原資(もとのお金)が夫の収入であり、妻に独自の収入がなければ、それは税務上「名義預金(実質的には夫の財産)」と判断されます。その結果、夫の財産としてカウントされ、相続税が課されることになります。
【対策】
「名義預金」と疑われないようにするためには、以下の対策が有効です。
贈与を明確にする: 年間110万円の基礎控除の範囲内で、毎年「贈与契約書」を作成し、正式に「妻の財産」として確定させる。
生活費として消費する: 貯まったお金は家族の旅行や自宅の修繕など、家族のために使い切る(消費すれば資産にならないため問題ありません)。
妻名義の通帳・印鑑は妻が管理する: 自分の意思でいつでも引き出せる状態にしておくことが、自身の財産であることの証明になります。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
■辻・本郷相続ガイド 名義預金とは?相続税の対象になってしまうケースや対策を徹底解説
3-2. 夫名義の預金から「妻名義の投資信託や株」を購入した
2つ目は夫名義の預金から「妻名義の投資信託や株」を購入したケースです。

結論から申し上げますと、このケースは原則として「贈与税」の課税対象となります。
3-1の「生活費の貯金」とは異なり、その資金を使って妻名義の株や投資信託、金などの資産を購入した場合、それは日常生活で消費されるものではなく「個人の資産形成」とみなされます。夫の資金で妻個人の資産を増やす行為は、税務上「夫から妻への贈与」と判断されるのが一般的です。
「夫婦共有の老後資金のつもり」であっても、名義が妻である以上、その購入資金(または購入した商品そのもの)が贈与とみなされ、基礎控除110万円を超えた分に贈与税がかかるリスクがあります。
【対策】
将来、運用益や元本を安心して自分(妻)のものにするためには、以下の手順を踏むことが大切です。
資金移動の前に贈与を完了させる:
まず、年間110万円の範囲内で夫から妻へ現金を贈与し(贈与契約書を作成)、妻自身の銀行口座に移します。妻の資金として投資を行う:
贈与を受けた後の「妻のお金」を使って、妻名義の証券口座で運用を開始します。「名義貸し」にならないようにする:
銘柄の選定や買い付けの手続きも妻本人が行い、投資のリスクも妻が負っている実態を作っておくことが重要です。
夫婦で資産運用を始める際は、まず「正しい手順で贈与を行う」というひと手間を加えることが、将来の税務リスクを回避する最善の策となります。
3-3. 夫婦間で多額の資金を口座移動させた
3つ目は、夫婦間で多額の資金を口座移動させたケースです。

結論から申し上げますと、単なる「管理目的」であれば贈与税はかかりませんが、「実質的な所有権の移転」とみなされると贈与税の対象になります。
例えば、夫の退職金1,000万円を「管理が楽だから」と妻の口座に移した場合、税務署はその目的を厳しくチェックします。もしそのお金を妻が自由に使ったり、妻名義の定期預金にしたりすれば、「妻が夫から1,000万円をもらった(贈与)」と判断され、贈与税が課されるリスクがあります。
銀行口座間の大きな資金移動は、税務署が把握しやすい情報のひとつです。特に、その資金を使って不動産を購入したり、将来の相続が発生したりした際に、過去の履歴まで遡って調査されることがあります。「一時的に預かっているだけ」という主張が通らないケースも多いため注意が必要です。
【対策】
多額の資金を安全に管理・移動させるためには、以下の考え方が重要です。
「預かり金」であることを明確にする:
もし管理のために移すのであれば、そのお金には一切手をつけず、生活費や夫のために使うという「代理管理」の実態を維持する必要があります。贈与なら贈与の手続きをする、もしくは、「特例」や「基礎控除」を使う:
もし本当に妻のものにしたいのであれば、贈与の手続きを踏む、もしくは、一度に移すのではなく、前述の「年間110万円の基礎控除」を何年もかけて利用するか、居住用不動産の購入であれば「おしどり贈与(最大2,000万円非課税)」を活用することを検討しましょう。移動の理由を記録しておく:
なぜその時期に移動したのか、メモや通帳への記載などで理由を明確にしておくことが、将来の疑念を晴らす一助となります。
「夫婦のお金だから移しても大丈夫」と過信せず、高額な移動には必ず「明確な理由」と「税務上の裏付け」を持たせておくことが大切です。
3-4. 夫婦間で多額の現金を手渡しで贈与した
4つ目は、夫婦間で多額の現金を手渡しで贈与したケースです。

結論から申し上げますと、手渡しであっても基礎控除額(110万円)を超えれば贈与税の対象になります。また、税務署は「お金の流れ」から贈与を把握します。
税務署は「現金が渡された瞬間」を見るのではなく、「出所(口座)」と「行き先(行動)」の両端をチェックします。例えば、夫の口座からまとまった現金が引き出された後、妻名義で高額な買い物をしたり、妻の口座に現金預金が増えたりしていれば、その間には「贈与があった」と合理的に推認されます。「通帳に振込記録がないから証拠はない」という理屈は、プロの税務調査官には通用しません。
手渡し贈与が発覚する主なきっかけは、主に2つあります。
不動産や高級車の購入: 収入のないはずの妻がキャッシュで不動産等を購入した場合、税務署から「お尋ね(資金調達方法の問い合わせ)」が届きます。
税務調査(相続時など): 夫の相続が発生した際、過去10年程度の通帳の動きを調べられ、使途不明の大きな出金があると、「現金手渡しによる贈与」や「名義預金」を疑われます。
【対策】
リスクのない、確実な資産移転にするためには以下の対策が有効です。
- あえて記録を残す: 贈与をするなら、むしろ銀行振込を利用し、贈与契約書を作成しましょう。「いつ、誰が、誰に、いくら渡したか」を明確にすることが、将来の自分たちを守る最大の防御になります。
タンス預金にしない: 夫の口座から出した現金をそのまま妻のタンス預金にしても、将来の相続時には「夫の財産」として課税される可能性が高いです。
贈与税を正しく申告する: 110万円を超える場合は、隠さずに申告・納税することが、結果として一番コスト(重加算税など)を安く抑えることにつながります。
「見えないだろう」という判断が、将来大きなペナルティを招くリスクがあることを覚えておきましょう。
■辻・本郷相続ガイド 生前贈与は現金手渡しでもOK?税務署にばれる?契約書の雛形も掲載
3-5.専業主婦の妻が、夫からの預金移動だけで「1,000万円以上の資産」を持っている
5つ目は、専業主婦の妻が、夫からの預金移動だけで1,000万円以上の資産を持っているケースです。

結論から申し上げますと、ただちに贈与税がかかることは稀ですが、将来の相続時に「夫の財産」として課税されるリスクが極めて高いです。
妻自身に収入がないにもかかわらず多額の資産がある場合、税務署は「生活費の残り(3-1のケース)」や「夫が自分の財産を妻名義の口座に分けて置いているだけ」と判断します。これを「名義預金」と呼びます。名義預金は、形式的には妻の口座にあっても、実質的な持ち主は「夫」であるとみなされます。そのため、贈与税はかかりませんが、夫が亡くなった時に「夫の財産」としてカウントされ、相続税が課されることになります。
税務署は、個人の収入(確定申告や給与記録)を把握しています。「過去20年間の妻のパート収入」と「現在の預金残高」を照らし合わせ、明らかに整合性が取れない(収入以上に貯金がある)場合、「このお金は夫が稼いだものですね」と指摘されます。特に、相続税申告の際には、家族全員の口座履歴が厳しくチェックされるのが一般的です。
【対策】
「名義預金」という不安定な状態を解消し、正真正銘の「妻の資産」にするためには、以下の対策が有効です。
「贈与」の実績を今から作る: 単に移動させるのではなく、110万円の基礎控除を利用して、毎年「贈与契約書」を交わしながら正式に妻へ資産を移していきます。
妻自身が通帳と印鑑を管理する: 夫が妻の通帳を管理していると、100%名義預金とみなされます。必ず妻本人が管理し、自由に使える状態にしておきましょう。
おしどり贈与(不動産の特例)を活用する: 不動産の特例(2-3参照)を使って自宅の名義を2,000万円分移し、税務リスクを抑えて確実に資産を移す。
「妻名義だから安心」と放置せず、将来の相続調査で指摘されないよう、今から少しずつ「正式な贈与」へと切り替えていくことが、一番の解決策になります。
3-6. 夫名義の住宅ローンの繰り上げ返済を「妻の貯金」から一括で行った
6つ目は、夫名義の住宅ローンの繰り上げ返済を妻の貯金からおこなったケースです。

結論から申し上げますと、このケースは「妻から夫への贈与」とみなされ、贈与税がかかるリスクが非常に高いです。
住宅ローンは、名義人である夫が返済すべき「負債(借金)」です。妻がその返済を肩代わりするということは、税務上「夫が払うべき借金を妻が消してあげた(経済的利益を与えた)」と解釈されます。つまり、夫が妻から返済額相当の現金をもらったのと同じ扱いになり、贈与税の対象となるのです。
「家の中のことだからバレない」と思われがちですが、不動産に関わるお金の動きは税務署が把握しやすいポイントです。例えば、夫の年収では到底不可能なペースでローンが減っていたり、完済後に自宅を売却して名義変更(登記)を行ったりするタイミングで、資金の出所を厳しくチェックされることがあります。
【対策】
税務リスクを避けつつ、妻の資金を住宅返済に充てるには以下の方法があります。
持分を移転する(名義変更): 妻が返済した金額に見合う分だけ、自宅の名義(持分)を夫から妻へ移転します。ただし、これには登記費用や、婚姻期間20年未満の場合は贈与税が発生するため、事前のシミュレーションが必要です。
夫への「貸し付け」にする: 贈与ではなく、妻が夫にお金を「貸した」ことにします。この場合、金銭消費貸借契約書を作成し、実際に利息を付けて返済を受けるなど、客観的に「借金である証拠」を残す必要があります。
おしどり贈与の特例を利用する: 婚姻期間が20年以上の夫婦であれば、2-3で解説した特例(最大2,000万円非課税)を利用して、自宅の持分を妻に移すことで、実質的に贈与税を回避できる場合があります。
家族を助けるための行動が、無駄な税金を生んでしまわないよう、ローンの肩代わりをする前に「名義」との整合性を確認することが大切です。
3-7.自宅を夫婦の共有名義にする際、資金を出していない側に持分を持たせた
7つ目は、自宅を夫婦の共有名義にする際、資金を出していない側に持分を持たせたケースです。
結論から申し上げますと、このケースは資金負担の割合と登記の持分割合が一致していない場合、その差額分が「贈与」とみなされます。

不動産を購入する際、例えば「夫が全額資金を出した」にもかかわらず、登記上の名義を「夫:2分の1、妻:2分の1」の共有名義にしたとします。この場合、税務上は「夫が妻に、自宅の半分の価値をプレゼントした」と判断されます。不動産は非常に高額なため、基礎控除の110万円を簡単に超えてしまい、多額の贈与税が発生する原因となります。
新築時だけでなく、リフォームの際も注意が必要です。夫名義の自宅を、妻の貯金でフルリフォームした場合、そのリフォーム代金分が「妻から夫への贈与」とみなされることがあります。建物の名義人と、代金を支払う人が異なる場合は、常に贈与税のリスクがつきまといます。
【対策】
税務署から指摘を受けないために、以下の対策を検討しましょう。
「出したお金の割合」で名義を分ける: 夫が3,000万円、妻が1,000万円を出したのであれば、持分を「夫:4分の3、妻:4分の1」といった具合に、支払った金額に正確に比例させて登記します。
おしどり贈与の特例を利用する: 2-3で解説した通り、婚姻期間20年以上の夫婦であれば、居住用不動産の贈与について最大2,000万円まで非課税となる特例が使えます。これを利用して、持分の一部を妻へ移転させる方法があります。
事前に税理士へ相談する: 不動産登記は一度行ってしまうと、後から修正(更正登記)するのに多大な労力と費用がかかります。契約前に持分割合が適切か確認することが重要です。
「せっかくのマイホームだから夫婦二人の名義にしたい」という気持ちは大切ですが、税務上は「お金を出した人が所有者」という原則があることを忘れないようにしましょう。
3-8.収入のない配偶者が生活に使う車を購入した
8つ目は、収入のない配偶者が生活に使う車を購入したケースです。

結論から申し上げますと、日常生活に必要と認められる範囲の車であれば、夫が購入して妻が使用していても贈与税はかかりません。
2-1で解説した「通常必要な生活費」には、日々の買い物や通院、子供の送迎などに使うための移動手段も含まれます。地方にお住まいで車が生活に欠かせない場合や、家事・育児のために必要とされる範囲であれば、夫の資金で買った車を妻が使っていても、それは「生活を共にするための道具」とみなされるため、原則として非課税です。
ここで重要なのは「社会通念上、適当と認められる範囲」かどうかという点です。例えば、生活に必要のない数千万円もする超高級スポーツカーや、何台も所有するコレクション用の車を妻の名義にすると、「生活費」の枠を超えた「資産の贈与」とみなされる可能性が高くなります。また、実態は妻が使っていても、名義(車検証の所有者)を誰にするかによっても税務署の視点は変わります。
【対策】
余計なトラブルを避けるためには、以下のポイントを意識しましょう。
名義を夫(資金を出した人)にする: 実態として妻がメインで使っていたとしても、資金を出した夫の名義で車を登録しておけば、贈与の問題はそもそも発生しません。
実用的な車種を選ぶ:家計の状況や用途に見合った車種であれば、贈与を疑われるリスクは極めて低くなります。
贈与にするなら基礎控除内にする: もしどうしても「妻の名義」にこだわりたい場合は、中古車などで評価額が110万円以下のものにするか、購入資金を年をまたいで少しずつ贈与する形をとりましょう。
車は高額な買い物ですが、あくまで「生活の道具」として常識的な範囲であれば、過度に心配する必要はありません。
3-9. 「生活費」として受け取ったお金で、高額な宝飾品や車を購入した
9つ目は、「生活費」として受け取ったお金で、高額な宝飾品や車を購入したケースです。

結論から申し上げますと、生活の範囲を超えた高額な資産を購入した場合、それは生活費とはみなされず、贈与税の対象となる可能性が高いです。
「生活費・教育費」が非課税になるのは、あくまで「消費」されることが前提です。一方で、高額なブランドバッグ、高級時計、宝石、あるいは日常用ではない高級車などは、買った後も価値が残る「資産」とみなされます。夫から受け取った生活費を貯めて、こうした「資産性の高いもの」に変えた場合、税務署からは「生活費を名目にした資産の移転」と判断されてしまいます。
税務署は、その購入品が「その家庭の生活水準に照らして、日常的な範囲内か」を重視します。例えば、一般的な収入の家庭で、妻が数百万円のダイヤモンドリングを夫からの生活費で購入した場合、それは「通常必要な生活費」とは認められにくいでしょう。特に、将来の相続時の税務調査などで、妻の持ち物に高額な貴金属が多いと、その購入原資が厳しく問われることがあります。
【対策】
将来的な指摘を防ぐためには、以下の考え方が大切です。
「社会通念上、常識的な範囲」の贈り物の範囲に留める: 3-10でも詳しく解説しますが、誕生日や結婚記念日などの「社会通念上、常識的な範囲」の贈り物であれば非課税となります。
基礎控除(110万円)の枠内で購入する: 110万円を超えるような非常に高額なものを購入する場合は、正式に「贈与申告」を行って納税するか、妻自身の固有の財産(パート収入や実家からの相続財産など)で購入するようにしましょう。
「あげる・もらう」という手続きを正式に行う: 高額な品物を買うときは、「生活費の余りで買った」という曖昧な形にしないことが大切です。年間110万円の枠内であっても、あえて「贈与契約書」を作って夫から妻へお金を渡し、そのお金で妻が購入するという手順を踏むことで、「生活費の不正流用」ではなく「正当なプレゼント(贈与)」として堂々と主張できるようになります。
「生活費として受け取ったお金だから何に使っても自由」というわけではなく、形に残る高価なものに変える際は、少し慎重になる必要があります。
3-10.夫婦間で高額なプレゼントをした
10個目は、夫婦間で高額なプレゼントをしたケースです。

結論から申し上げますと、プレゼントであっても「年間110万円」の枠を超えれば、原則として贈与税がかかります。
税法には「お祝い品などで、社会通念上相当なものは非課税」というルールがありますが、これはあくまで「常識的な金額の花束や食事、記念品」などを指します。高額なブランド品や貴金属の場合、それが誕生日プレゼントであっても、「その年の他の贈与と合わせて110万円」を超えた時点で、贈与税の申告と納税が必要になります。
税務署は「名目」ではなく「金額」を見る「結婚30周年の記念だから」「還暦のお祝いだから」という理由は、税務署には通用しません。税務署がチェックするのは、あくまで「その年にいくら資産が移ったか」という数字です。「プレゼントだから非課税のはず」という思い込みで、1,000万円の指輪を夫から妻へ贈ってしまうと、後に税務調査で指摘され、重いペナルティ(無申告加算税など)を課されるリスクがあります。
【対策】
大切な方への贈り物を、後悔のないものにするためのルールはシンプルです。
「年間110万円」を絶対のルールとする: その年に夫から妻へ渡したすべての資産(株の購入資金や現金など)とプレゼント代を合計して、110万円以下に収まるようにします。
超える場合は「贈与税」を払う覚悟を持つ: もし110万円を超える高額な品物を贈りたい場合は、隠そうとせず、正しく贈与税の申告を行いましょう。
妻自身の収入や貯金で買う: 妻自身がパート代などで貯めた「自分のお金」で購入するのであれば、夫からの贈与にはならないため、金額に関わらず贈与税の心配はありません。
「お祝いだから特別」という例外はないと考え、常に「110万円の枠」を意識して計画を立てることが、一番の安心に繋がります。
4.夫婦間贈与は税務署にばれる
夫婦間贈与は税務署にばれます。
「家族の間で資金を動かしただけなら、税務署にはわからないだろう」と考える方も多いですが、実際には税務署はさまざまなルートで資金の動きを把握していますから、ばれないことはありません。本章では、ばれるタイミング3つ、ばれた時のペナルティ、判断に迷った時の相談先について解説します。
夫婦間であっても贈与を行ったら、速やかに贈与税申告を行いましょう。判断に迷ったら、速やかに税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
4-1.夫婦間贈与がバレるタイミング3つ
夫婦間贈与がバレるタイミングは大きく以下の3つです。贈与をした瞬間にバレることは少なくても、数年後の「資産の動き」から発覚することがほとんどです。
不動産を購入したとき
1つ目不動産を購入した時です。
家を建てたり買ったりすると、法務局から税務署に通知が行きます。収入が少ないはずの妻が多額の資金を出していたり、夫のローンを肩代わりしたりしていると、税務署から「お尋ね」という文書が届き、資金の出所によっては、贈与と判断されてしまう可能性があります。税務調査(相続時)が行われたとき
2つ目は税務調査(相続時)が行われたときです。
実はこれが最も多いケースです。夫が亡くなった際、税務署は夫だけでなく家族全員の過去10年分ほどの預金口座の動きを調べることができます。ここで「夫の口座から出たお金が、妻の口座で増えている」といった不自然な流れが見つかり、贈与税あるいは、相続税が課せられる可能性があります。高額な資産を運用・売却したとき
3つ目は高額な資産を運用・売却したときです。
収入のない妻名義で多額の投資信託を買ったり、金地金を売却したりした際、税務署は、支払い調書などを通じてその事実を把握し、「購入原資はどこなのか?」を調査します。その状況によっては贈与税が課せられる可能性があります。
4-2.夫婦間贈与がバレたらペナルティが課せられる
夫婦間贈与がばれたらペナルティが課せられます。
税務調査で本来払うべき贈与税を申告していなかったことが判明すると、高い確率で追徴課税のペナルティが課せられることになります。贈与税の申告漏れが発覚した際にかかる主なペナルティは以下の4つです。
| 延滞税 | 納付期限までに税金を納めなかった場合 |
|---|---|
| 無申告加算税 | 申告期限までに申告をしなかった場合 |
| 過少申告加算税 | 本来納付すべき税額より少ない額で申告をした場合 |
| 重加算税 | 事実を隠蔽・仮装して申告したなど特に悪質とみなされる場合 |
追徴課税のペナルティについて詳しく知りたい方は、相続税を申告しない場合のペナルティを解説!税務署には見つかるの?をご覧ください。相続税のペナルティについて書かれた記事ですが、考え方やペナルティの税率は贈与税であっても変わりません。
さらに、令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税(贈与税も国税です)については、繰り返し行われる無申告行為に対する無申告加算税等の加重措置も適用されることになりました。なお、現行でも期限後申告や修正申告から遡って5年以内に同じ税目で無申告加算税又は重加算税を課されたことがある場合には、10%が加算されます。
4-3.贈与かどうか迷ったら専門家に相談しよう
贈与税申告をするべきかかどうか迷ったら、ペナルティが課せられてしまうリスクを避けるためにも、早めに専門家に相談しましょう。
一般的な回答であれば、税務署の無料相談を利用するのがよいでしょう。
■国税庁 税についての相談窓口
税理士に相談すれば、贈与税申告の判断はもちろん、夫婦の資産状況や家族構成を踏まえ、「どうすれば税務リスクを抑えられるか」という具体的な対策(オーダーメイドの助言)も含めたアドバイスや、贈与契約書の作成や申告の代行も依頼可能です。
5.まとめ
ここまで、夫婦間であっても原則として贈与税がかかること、例外として贈与税がかからない3つのケース、迷いがちな10のケース、夫婦間贈与は税務署にばれることについて解説してきました。
ご自身の状況において、どのやり取りが非課税で、どのケースに注意が必要か、ご判断いただけましたでしょうか。
4章で述べた通り、贈与税の申告が必要な場合には、それが夫婦間であっても、現金手渡しのような記録が残りにくい方法であっても、最終的には税務署に把握される可能性が非常に高いため、必ず正しく申告をしましょう。
■辻・本郷相続ガイド 贈与税の時効は原則6年|申告漏れに気が付いたら、申告すべき?
本記事をお読みになった皆さまが、正しい知識を持って税務リスクを回避し、最善の方法で夫婦間の資産管理を行うことによって、ご家族の皆さまが将来にわたって安心して豊かな生活を送られるための一助となれば幸いです。
※贈与税の計算方法やおおよその金額を知りたい場合には下記の記事をご覧ください。
■辻・本郷相続ガイド 贈与税の早見表付き|贈与税の税率・税額の計算方法を解説

