
「相続税が高すぎて現金で一括払いできないけれど、土地などの財産で納めることはできる?」
「物納財産はどんな物でもよいのだろうか?」
「物納の手続きは難しいのだろうか?」
本記事をご覧の皆さまはこんな疑問をお持ちではないでしょうか。
相続税は原則として金銭で一括納付です。
それがむずしい場合には、延納(分割払い)があり、それでも、なお納税が困難だと認められる場合に「物納(ぶつのう)」が認められます。
利用するには定められた厳しい要件を満たし、決められた期限内に正しい手続きを行う必要があります。
本記事では、相続税の物納の基本概要や満たすべき要件、物納できる財産の優先順位から実際の手続きの流れまでを分かりやすく解説します。
本記事が相続税の物納についてのお悩み解決の一助となれば幸いです。
■国税庁 No.4214 相続税の物納、相続税の物納の手引き~手続き編~
1.相続税の物納とは?
相続税の物納とは、相続税を金銭で支払うことが難しい場合に、相続した財産そのものを国に納めることで納税する制度です。
相続税は原則として「金銭で一括して納める」ことになっています。しかし、亡くなった方の財産のほとんどが土地や建物で、手元に現金がないというケースも少なくありません。
そのような場合に、例外的に認められているのが「物納」です。
(注)相続時精算課税の適用を受けた財産、非上場株式等についての贈与税の納税猶予の特例の適用を受けた非上場株式等および個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予の特例の適用を受けた事業用資産は、物納の対象とすることはできません。
1-1.相続税の物納は金銭納付が難しい場合の最終手段
相続税の物納は金銭納付が難しい場合の最終手段です。
納付すべき相続税額を納付期限までに、又は、納付すべき日に延納によって納付することが困難な場合に、その困難とする金額を限度として、一定の相続財産で納付すること(物納)が認められます。

最初から「手元に現金がないから土地で払おう」と物納を選ぶことはできません。
まずは手元にある預貯金や換価容易な財産等をすべて納税に充て、それでも足りない場合は分割払い(延納)ができないかを検討します。
延納を使ってもなお、どうしても払いきれない金額の範囲内でのみ、初めて物納が許可されます。
1-2.令和7年度の許可件数は日本全国でたったの40件
国税庁が発表したデータによると、令和7年度(2025年度)に日本全国で相続税の物納が許可された件数は、たったの40件です。
約20年前(平成17年度)には、年間2,730件もの物納が許可されていましたが、現在では激減しています。
以下のグラフが示す通り、物納の申請・許可件数はともに、近年低い水準で推移しています。
■国税庁 相続税の物納処理状況等より、辻・本郷 税理士法人が作成
物納がここまで激減した主な原因は、平成18年度に行われた税制改正です。この改正によって、物納が認められるための審査基準が大幅に厳しくなりました。
ほかにも、近年は歴史的な低金利が続いていることや、民間金融機関の「相続税ローン」が普及し、お金を借りて納税する選択肢が増えたことも理由に挙げられます。
物納は申し込めばすぐに許可されるものではありません。用意しなければならない書類は多く、物納財産が不動産の場合には、引き取れる土地かどうかの現地調査も行われます。
このように、データからも物納は簡単に使える制度ではないということが分かります。
2.相続税の物納を使うための4つの要件
物納を使うには以下の4つの要件を満たす必要があります。
2-1.延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること
1つめの要件は、「延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること」です。
「手元に現金がないから、相続税の全額を土地で納めたい」と思っても、その理由では原則として認められません。
また、物納が認められる金額の計算は、納税者が「いくらなら金銭一括、もしくは分割払いで支払えるのか」が厳密に審査され、どうしても払えない「不足分」の金額だけが物納の対象になります。
物納が認められる金額(物納許可限度額)は、基本的には以下の計算式で算出されます。
物納許可限度額 =
納付すべき相続税額 - 現金納付額 - 延納によって納付できる金額 + 延納終了後の生活等
上の式の通り、物納許可限度額は、「本来納めるべき相続税額」から、「現金で払える分」と「延納(分割払い)で払える分」を差し引いた上で、「延納が終わった後に必要な生活費や事業経費」を手元に残せるよう、その分をプラスして算出されます。
「現金納付額」や「延納できる金額」の計算にあたっては、相続財産だけでなく、納税者固有の財産や、現預金だけではなく換価容易な財産、今後の臨時収入なども加味され、厳密に審査されます。それらをすべて考慮しても「どうしても分割払いで払いきれない不足分」だけが、最終的に物納を許可される金額となります。
実際の計算は、物納申請書の別紙金銭納付を困難とする理由書を記入して行います。
詳細は下記をご覧ください。
■国税庁相続税の物納の手引き~手続き編~
【令和7年度税制改正】物納許可限度額等の計算方法が変わりました
高齢者の申請時は、平均余命を上限とすることで物納可能額が増えました。また、手元に残せる事業の運転資金も1カ月分から3カ月分へと拡充され、以前よりも利用しやすい仕組みとなっています。
改正にまつわる詳しい要件や具体的な計算方法の詳細は、下記をご確認ください。
■国税庁 物納許可限度額等の計算方法が変わりました
2-2.物納申請財産は、相続した「日本国内の財産」で、決められた種類や順位に従っていること
2つ目の要件は、物納申請財産は、相続した「日本国内の財産」で、決められた種類や順位に従っていることです。
2-2-1.物納申請者が相続により取得した財産であり、日本国内にあること
使える財産には「だれの持ち物か」「どこにあるか」という厳しい制限があります。具体的に「物納に使える財産」と「使えない財産」の違いを、以下の表で確認してみましょう。
| 物納に使える財産 ⭕ | 物納に使えない財産 ❌ | |
|---|---|---|
| 財産の元々の持ち主 | 今回の相続で亡くなった人から引き継いだ財産 | 申請者がもともと持っていた財産 |
| 財産がある場所 | 日本国内にある土地・建物・株式など | 海外(外国)にある不動産や海外株式など |
2-2-2.物納申請財産の種類及び順位に従っていること
物納財産は国が引き取ったあとに現金化しやすいものから順番に納めなければならない、というルールが法律で決められています。
ポイントは、「上の順位の財産があるなら、下の順位の財産を先に物納することは原則できない」という点です。例えば、「国債」と「非上場株式」を相続した際には、国債を優先して物納財産に選ばなければいけないということになります。
物納財産の種類と順位は以下の表で通りです。
物納申請財産の順位
| 第1順位 | ① 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等※1 ※1 特別の法律により法人の発行する債券及び出資証券を含み、短期社債等を除く。 |
| ② 不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの | |
| 第2順位 | ③ 非上場株式等※2 ※2 特別な法律により法人の発行する債券及び出資証券を含み、短期社債等を除く。 |
| ④ 非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの | |
| 第3順位 | ⑤ 動産 |
(注1) 後順位の財産は、税務署長が特別の事情があると認める場合および先順位の財産に適当な価額のものがない場合に限って物納に充てることができます。
(注2) 特定登録美術品(美術品の美術館における公開の促進に関する法律第2条第3号に規定する登録美術品で相続開始の時において既に登録を受けているものをいいます。)については、上記の順序にかかわらず一定の書類を提出することにより物納に充てることができます。
■辻・本郷相続ガイド 上場株式等の物納
2-3.物納に充てることができる財産は、「物納に不適格な財産」に該当しないものであること、「物納劣後財産」である場合には、他に物納に充てるべき適当な財産がないこと
3つ目の要件は、物納に充てることができる財産は、「物納に不適格な財産」に該当しないものであること、「物納劣後財産」である場合には、他に物納に充てるべき適当な財産がないことです。
2-3-1.物納に不適格な財産(管理処分不適格財産)でないこと
管理処分不適格財産とは、「国が引き取ったあとに、管理したり売却したりするのが大変な財産や、買い手がつかないような問題のある財産」という意味です。このような財産は審査で落とされてしまいます。
例えば、以下のようなものがあります。
- 隣の土地との境界線が決まっていない、所有権を争っている土地
- 他人の担保(抵当権など)がついている土地
- 法反社会的勢力が関わっている財産
管理処分不適格財産の詳細については以下をご確認ください。
■国税庁 No.4214 相続税の物納 概要「管理処分不適格財産」
2-3-2.物納劣後財産に該当する場合は、他に適当な価額の財産がないこと
「物納劣後財産」とは、物納できる財産の種類(順位)の中には入っているものの、他の財産に比べて管理・処分しにくいため、「他に財産があるなら、そちらを優先してください」と後回しにされる財産のことです。
同じ第1順位(不動産など)であっても、「普通の不動産」と「劣後財産」がある場合、普通の不動産を差し置いて劣後財産を物納することはできません。他に物納に充てるべき適当な価額の財産がない場合に限り物納に充てることができます。物納申請財産がこの「物納劣後財産」に該当する場合には、物納申請に当たって『物納劣後財産等を物納に充てる理由書』を提出してください。
具体的に以下のような財産があります。
- 過去に事件や事故があった土地
- 著しく狭い土地など法令の規定により建物の建築をすることができない土地
- 法令に違反している建物およびその敷地
物納劣後財産の詳細については以下をご確認ください。
■国税庁 No.4214 相続税の物納 概要「物納劣後財産」
2-4.物納しようとする相続税の納期限または納付すべき日(物納申請期限)までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して税務署長に提出すること
3つ目の要件は、物納しようとする相続税の納期限または納付すべき日(物納申請期限)までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して税務署長に提出することです。
申告期限は、相続税の納付期限である、「亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内」です。
ただし、物納申請期限までに物納手続関係書類を提出することができない場合は、物納手続関係書類提出期限延長届出書を提出することにより、1回につき3か月を限度として、最長で1年まで物納手続関係書類の提出期限を延長することができます。
準備には時間がかかるため、早めに動き出すことが大切です。
必要書類については、次章7.相続税の物納を申請するための必要書類をご覧ください。
3.物納を利用する際に注意すべきポイント
物納を利用する際に注意すべきポイントについて解説します。
物納には売却先の選定が不要など、メリットもある一方で下記のような注意点もあります。
「相続財産を売却又は自己の不動産を売却して現金で納税する」「金融機関からお金を借りて納税する」という方法も含めて、事前に税理士などの専門家へ相談し、納税方法について慎重に比較検討することをおすすめします。
3-1.相続税の物納申請財産は、市場価格(時価)よりも低い「相続税評価額」で評価される
物納申請財産は、原則として、市場価格(時価)よりも低い「相続税評価額」で評価されます。
国が引き取る際の価格(収納価額)は、原則として相続税を計算するときの基準である「相続税評価額」です。「時価(実際の取引価格)」ではありません。
一般的に土地の相続税評価額は時価よりも低いため、物納を選ぶと、普通に売却するよりも損をしてしまうケースが多くなります。
※「小規模宅地等の特例」を受けた土地を物納する場合は要注意
特に注意しなければならないのが、土地の評価額を最大80%下げられる「小規模宅地等の特例」を受けた土地を物納する場合です。
この特例を適用している土地は、「特例を適用したあとの低い価額」がそのまま国に引き取られる価額となってしまいます。
例えば、時価が5,000万円の自宅の土地を相続し、相続税評価額が4,000万円だったとしましょう。
小規模宅地等の特例を使って評価額を80%減額し、「800万円」として相続税を計算していた場合、この土地を物納しても「800万円分の税金」としてしか引き取ってもらえないということです。
売却すれば5,000万円近くの現金になる可能性がある土地が、物納だとわずか800万円分の納税にしか充てられないため、大きな損失になってしまいます。
3-2.審査期間中も費用がかかることがある
審査期間中も費用がかかることがあります。
物納の申請を出してから許可が下りるまでの審査期間は、原則3カ月、最長で9か月延長する場合がありますが、その期間にも様々な費用がかかることがあります。
利子税や延滞税の扱いは申請の結果によって以下のとおりです。
| 許可された場合 | 書類の訂正や財産収納の措置など、申請者側の対応にかかった期間のみ利子税がかかる(通常の審査期間は原則免除) |
|---|---|
| 却下、または取り下げとみなされた場合 | 納期限の翌日から却下(またはみなす取下げ)の日までの期間について、利子税がかかる |
| 自ら取り下げた場合 | 納期限の翌日から遡って、より重いペナルティである延滞税がかかる |
他にも、物納が許可されるまでの維持管理費用(例えば、固定資産税、建物の修繕費など)や、申請に必要な書類の作成費用(例えば、土地に係る登記関係費用、手数料のほか、境界標の設置や実測費用など)も申請者の負担になります。詳細は「相続税の物納の手引~整備編~」をご確認ください。
物納は申請中や準備段階であっても、相応の費用負担リスクがあることに注意しましょう。
利子税および延滞税については下記をご覧ください。
■国税庁 No.4214 相続税の物納、延滞税の割合
4.相続税の物納の手続き方法
相続税の物納の手続き方法について解説します。
相続税の物納は申請する財産や状況によって必要書類や審査期間が大きく異なります。
少しでも不安がある場合には、相続専門税理士へ相談することをおすすめします。
4-1.相続税の物納を申請するための必要書類
相続税の物納を申請するための必要書類について解説します。
物納申請時に提出する主な書類は以下の通りです。
| ①相続税物納申請書 | 物納を申請する際の手続きの基本となる申請書 |
| ②物納財産目録 | 物納しようとする財産の明細を記載する目録 |
| ③金銭納付を困難とする理由書 | 金銭での納付や延納(分割払い)が難しい理由を説明する書類 理由書の作成にあたり使用した資料の写しの添付が必要 ※令和7年3月31日以前の相続開始分に係る申請については、様式が異なりますのでご留意ください。 |
| ④物納劣後財産等を物納に充てる理由書 | 物納申請財産が「物納劣後財産」に該当する場合に提出が必要となる書類 他に適切な価額の財産がない理由を説明する |
⑤物納手続関係書類 | 申請財産についての書類 ※提出期限までに提出できない場合は「物納手続関係書類提出期限延長届出書」の提出が必要となります |
上記①~④については6-4.で記載した物納手続関係書類の提出期限の延長の対象にはなりません。
必要書類はケースにより異なります。 詳細は下記をご覧ください。
■国税庁 相続税の物納の手引き~手続き編~p.31別表3物納手続関係書類の一覧表
なお、書類は■国税庁 様式集延納・物納申請書でダウンロード可能です。
4-2.審査期間は原則3か月以内
相続税の物納申請から許可・却下までの審査期間は原則3か月以内です。
物納申請書が提出された場合、税務署長は、その物納申請に係る要件の調査結果に基づいて、物納申請期限から3か月以内に許可または却下を行います。
なお、申請財産の状況によっては、許可または却下までの期間を最長で9か月延長する場合があります。
5.相続税の物納についてのよくあるQA
相続税の物納についてのよくあるQAについてわかりやすく解説します。
5-1.土地を売却して一括の納税するのと、物納どちらがいいですか?
A.土地の「市場価格(時価)」と「相続税評価額」のバランスによって異なりますが、多くのケースでは「売却して現金で納税する」ほうが得になります。
3章で記載した通り、物納申請財産は原則として「相続税評価額」となります。
相続税評価額は一般的に市場価格より低くなるため、売却したほうが高い価額で現金化できることが多いです。高く売れた分で相続税を支払い、残ったお金を自分の手元に残せることになります。
判断に迷う場合には、不動産会社に査定を依頼し、いくらで売れそうかを確認したり、仲介コストや譲渡所得税などのコスト等を細かくシミュレーションしたりした上で判断するのが良いでしょう。
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
相続財産を譲渡(売却)した場合、一定の要件を満たすことで、納めた相続税の一部を売却財産の取得費(購入費など)に上乗せできる「取得費加算の特例」があります。
適用によって、譲渡取得税を軽減することが可能です。要件等の詳細は下記をご覧ください。
5-2.却下されてしまった場合、物納の再申請・延納申請への変更はできますか?
A.物納の再申請や延納申請への変更は、申請が却下された理由に応じてそれぞれ可能です。
万が一、物納が認められず「却下」されてしまった場合でも、以下のルールに従って次の選択肢を選ぶことができます。
「管理処分不適格財産」という理由で却下された場合
却下された日の翌日から20日以内に限り、その財産に代えて「他の財産」による物納の再申請を1回に限り行うことができます。「金銭で納付困難とは認められない(延納で払える)」という理由で却下された場合
物納はできませんが、却下された相続税額について「延納(分割払い)」の申請へ変更することができます。
どちらの手続きも期限が非常に短いため、税務署から却下通知が届いた場合は、すぐに相続専門税理士へ相談されることをおすすめします。
5-3.相続税を物納すると譲渡所得税はかかりますか?
A.相続税を物納しても、譲渡所得税はかかりません。
通常、土地や建物などの不動産を売却して利益(譲渡益)が出た場合には、譲渡所得税が課税されます。
しかし物納の場合は、税金を納めるために国に財産を移転させる行為であるため、譲渡所得税は非課税(免除)と定められています。
6.まとめ
相続税の物納は、金銭一括や分割払い(延納)を検討してもなお納税が不可能な場合にのみ認められる「最終手段」です。
現在の年間許可件数が全国でわずか31件というデータからも分かる通り、満たすべき要件や書類準備のハードルが高く、決して簡単に使える制度ではありません。
「土地を売却して現金で払う」「金融機関からお金を借りて現金で支払う」という選択肢も視野に入れ、どの納税方法がベストかを慎重にシミュレーションすることをおすすめします。
少しでも不安がある場合には、早めに相続専門の税理士に相談されることをお勧めします。
