
「姻族関係終了届というのがあると聞いたけど、どんな届出なのだろうか。」
「提出すると具体的には何ができるのだろう、提出によるデメリットはないのだろうか」
この記事をお読みのみなさんはそんな疑問をお持ちではないでしょうか。
本記事では、姻族関係終了届によって何ができるのか、そのメリット・デメリット、提出方法やよくある質問についてわかりやすく解説しております。
本記事が、姻族関係終了届について疑問を持たれている方、配偶者がお亡くなりになった後、配偶者の親族との関係性にお悩みの方の一助となれば幸いです。
1.姻族関係終了届とは
本章では、姻族関係終了届とはどのような届出なのか、届出によって何が起こるのかについて解説します。
1-1.配偶者の死後に、配偶者の親族と関係を切るための届け出
姻族関係終了届とは、配偶者がお亡くなりになった後、配偶者の親族との関係を切るための届け出です。「姻族」とは、配偶者の親族のことで、例えば、配偶者の父母や兄弟姉妹などがそれにあたります。
別名「死後離婚」とも言われている届出ですが、配偶者はすでに亡くなっていますから、配偶者との離婚ではありません。あくまでも、配偶者の親族との縁を切る手続きです。
1-2.提出すると戸籍に「姻族関係終了」と記載される
姻族関係終了届を提出すると、戸籍に「姻族関係終了」と記載されます。ですから、仮に姻族関係終了届を提出したことを、知られたくないと考えている場合でも、配偶者の親が死亡した子供の戸籍を取った場合には、知られてしまうということを知っておきましょう。
1-3.子供と亡くなった配偶者の親族との関係は変わらない
姻族関係終了届の提出によって、配偶者と姻族の関係は終了しますが、子供と配偶者の親族との間の血縁関係は変わりません。つまり、姑や舅が、子供にとって祖母・祖父であることは変わらないとうことです。子供には、祖母・祖父が亡くなった時に、亡くなった配偶者に代わって遺産を相続する権利がありますが、これも変わることはありません。(これを代襲相続と言います。)
自身や子供と姻族の関係性、子供の年齢にもよりますが、自身が縁を切ったことで、子供に影響がありそうな場合には、のちのトラブルを防ぐためにも子供に、姻族関係終了届を提出することについて、事前に伝えておく方がよいでしょう。
2. 姻族関係終了届のメリット
本章では、姻族関係終了届の主なメリットを3つ、解説していきます。
2-1.姻族関係から解放される
一つ目のメリットは、姻族関係から解放されるということです。姻族との関係により、精神的・肉体的・金銭的に負担があった場合には、姻族関係終了届を提出することによってそれらを解消することができます。
扶養を求められても断ることができる
民法は、扶養義務ついて下記のように定めています。
- 直系血族や兄弟姉妹は互いに扶養する義務がある(民法877条1項)
- 直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない(民法730条)
- 家庭裁判所は、特別な事情がある場合※は、3親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる(民法第877条2項)
※扶養を求めている人に長期間扶養されてきた場合など
本来であれば、扶養の義務があるのは、直系血族や兄弟姉妹ですから、そもそも姻族の扶養義務はありません。しかし、特別な事情がある場合や、同居している場合、昔ながらの風習等で、亡くなった配偶者の親の扶養を求められてしまうこともあるでしょう。そのような場合でも、姻族関係終了届を提出すれば、扶養を断ることができるようになります。
2-2.戸籍や姓(苗字)はかわらない
姻族関係終了届を提出しても、戸籍は変わりません。亡くなった配偶者の戸籍に残り、苗字も配偶者の姓のままです。「1-2.提出すると戸籍に「姻族関係終了」と記載される」で述べた通り、そこに、「姻族関係終了」と記載されるだけです。
婚姻前の苗字に戻したい場合には、復氏(ふくし)届を提出しましょう。
2-3.亡くなった配偶者の相続権・遺族年金の受給資格は変わらない
姻族関係終了届を提出しても、亡くなった配偶者の相続権・遺族年金の受給資格は変わりません。配偶者の遺産を相続していても、相続分を返却する必要はなく、そのまま受け取ることができます。また、遺族年金を受給する資格も変わりません。すでにもらっている場合も、引き続きそれまでどおりもらうことができます。 ただし、再婚するなど支給の要件を満たさなくなった場合には遺族年金の支給が停止されることがあります。
■辻・本郷相続ガイド 相続放棄とは|選択すべきケース、自分で手続きを行う時の流れを解説
3. 姻族関係終了届のデメリット
本章では、姻族関係終了届のデメリットを4つ、解説していきます。
3-1. 提出したら取り消すことはできない
姻族関係終了届を提出すると、取り消しはできません。本章で解説するデメリットが起こる可能性がないか十分に考慮し、のちに後悔することにならないよう、届出については慎重に行いましょう。
3-2.姻族の援助が受けられなくなる
亡くなった配偶者の親に援助を受けていた場合には、姻族関係終了届を提出することによって、それらの援助を受けられなくなる可能性があることを考えておきましょう。提出されたことを知った姻族は良い気がするものではないでしょうし、扶養する必要がなくなるのはお互い様だからです。
例えば、以下のような場合には、それらの援助がなくなっても生活していけるのかどうか大丈夫なのか、十分に考えておくことが必要です。特に子供がいる場合には、子供への影響についても考えておきましょう。
- 亡くなった配偶者の親から経済的な援助を受けていた
- 亡くなった配偶者の親から、子供の面倒をみてもらっていた
- 亡くなった配偶者の親名義の家に住んでいた、あるいは同居していた
3-3. 亡くなった配偶者と同じお墓に入れない可能性がある
姻族関係終了届を提出すると、配偶者の親族が管理するお墓に入れなくなる可能性があります。配偶者がそのお墓に入っていた場合には同じお墓に入れない可能性があるということです。また、配偶者の親族が配偶者の法要を行う場合には、それにも参加できなくなってしまう可能性があります。
3-4.子供との間でトラブルになる可能性がある
「1-3.子供と姻族の関係は変わらない」でも述べた通り、姻族関係終了届を提出することで、自身と姻族との関係は解消できますが、子供と配偶者の親族との間の血縁関係は変わりません。
子供からみれば「親を亡くしたのに、さらに祖父母と縁を切るなんてひどい」あるいは「自分だけ縁を切って面倒な祖父母を押し付けた」と言われてしまう例もあるようです。トラブルを防ぐためにも、子供の年齢や関係性を考慮し、事前に子供と十分に話し合いをしておくこと大切です。
4.婚姻関係終了届の提出方法
姻族関係終了届は、自分の意思決定だけで出すことができます。姻族の承諾を得る必要はありません。
■春日部市ウェブサイトより 姻族関係終了届の記入例
入手方法と提出先 | ・届出人の本籍地または住所地の地区町村役場窓口 |
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届出ができる人 | ・死亡した人の配偶者 |
届出に必要なもの | ・姻族関係終了届 |
提出期限 | ・配偶者の死亡届を提出した後であればいつでもよい ・期限はなし |
費用 | ・かからない |
5.婚姻関係終了届についてのよくある質問
本章では、婚姻関係終了届についてのよくある質問についてわかりやすく解説していきます。
Q1.生存中でも提出できますか?
A.できません。
姻族関係終了届を提出することができるのは、死亡した人の配偶者です。配偶者がご存命のうちに、姻族関係を終了させる手続きはありません。
Q2.親族側から提出することもできますか?
A.できません。
姻族関係終了届を提出することができるのは、死亡した人の配偶者です。
Q3.姻族が提出されたことを知る方法はありますか?
A.あります。
姻族関係終了届を提出すると、戸籍に「姻族関係終了」と記載されます。ですから、配偶者の親が、死亡した子供の戸籍を取った場合には、それを知ることになります。
Q4.提出したら配偶者の法事には参加できないのですか?
A.主催者が誰になるのか、もしくは、姻族との関係性によります。
「3-3. 亡くなった配偶者と同じお墓に入れない可能性がある」でも述べた通り、亡くなった配偶者が、配偶者の親族が管理するお墓に入った場合には、法事についても、配偶者の親族が行う可能性が高く、それには参加できなくなってしまう可能性があります。しかしながら、法事には親族しか参加できないという決まりがあるわけではありませんから、参加の可否は姻族との関係性によると言えます。また、姻族が施主を務める法事に参加しにくい場合には、法事を別途行うことを検討しても良いでしょう。
Q5.義母・義父の相続の時になにか不都合が起きますか?
A.生存している配偶者は、義両親の相続人ではありませんから、そもそも相続には関係がありません。しかし、子供がいる場合には、子供は、亡くなった配偶者に代わって相続人になりますから、相続の際、嫌な思いをするかもしれません。
相続が起きた時には、相続人の間で財産の配分を決める遺産分割協議が行われることが多いです。子供が相続人として、それに参加する際には、姻族関係終了届が提出されていることで、気まずい思いをすることがあるかもしれません。しかしながらそれは、子供と祖父母の関係性によります。
6.まとめ
ここまで、姻族関係終了届の概要、そのメリット・デメリット、提出方法やよくある質問について解説してまいりました。
姻族関係終了届は、一度提出したら取り消すことはできません。提出を後悔することのないよう、メリット・デメリット・注意点などをしっかりと把握し、検討されることをおすすめします。
本記事が、姻族関係終了届について疑問を持たれている方、配偶者がお亡くなりになった後、配偶者の親族との関係性にお悩みの方の一助となれば幸いです。