【相続の失敗事例】配偶者贈与で思わぬ税金がかかり失敗

「贈与税の配偶者控除」を利用して、長年連れ添った配偶者へご自宅の贈与を検討されている方も多いのではないでしょうか。

「贈与税の配偶者控除(通称:おしどり贈与)」とは、配偶者へ居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与をした場合、基礎控除110万円と配偶者控除2,000万円の合計2,110万円まで贈与税が控除されるという制度です。
相続税の生前対策として検討される方法の一つですが、良かれと思って行った贈与が、思わぬ税金の負担を生む結果になることもあります。

本記事では、妻への感謝の気持ちから自宅を贈与した結果、思わぬ税金がかかって失敗してしまった事例を紹介します。

「なぜ失敗したのか」「どうしたら失敗を防げたのか」「他に方法はなかったのか」など、失敗事例をご自身に置き換えて、今後の相続税対策に役立てていただけますと幸いです。

1.事例の概要

Aさん夫婦は平均的なサラリーマンの家庭です。
決してゆとりのある暮らしではありませんでしたが、妻のやりくりのおかげで、子供たち3人を無事大学まで卒業させることができました。

1-1.知人からの話と自宅の贈与

昨年、知人が相続税対策のため妻へ自宅を贈与したという話をしていました。
どうやら20年以上連添った夫婦であれば、自宅を最高2,110万円まで贈与しても、贈与税がかからないというのです。

夫婦の間で居住用の不動産を贈与した時の配偶者控除の概要

婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除できます。
制度の詳細につきましては下記をご覧ください。
■辻・本郷相続ガイド 「結婚20年目のプレゼント」に自宅を贈与 ~贈与税の配偶者控除の特例~
■国税庁 
No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除

我が家に相続税対策が必要なのかどうかは全くわかりませんでしたが、どうせ贈与税がかからないのだからと思い、妻への愛情と感謝の気持ちをこめて、自宅をプレゼントすることに決めました。
調べたところ、土地の評価は4,000万円、家は木造住宅で築35年のため評価額は低く200万円でした。
そこで、土地と家屋、それぞれ2分の1ずつの持分(評価額合計2,100万円分)を贈与することにしました。

【贈与する不動産の評価額と持分】

  • 土地:評価額 4,000万円 → 2分の1の持分(2,000万円分)を贈与
  • 建物(木造・築35年):評価額 200万円 → 2分の1の持分(100万円分)を贈与
  • 評価額合計2,100万円分を妻に贈与

1-2.司法書士・県税事務所からの思わぬ請求

無事、贈与契約書を交わし、司法書士に名義変更手続きを依頼したところ、思わぬ説明をされました。
司法書士報酬は覚悟していましたが、他に登録免許税として42万円もかかるというのです。
さらに半年ほど経ったところ、県税事務所から不動産取得税として33万円もの納付書が妻に届きました。 私たち夫婦にとっては、思わぬ出費となってしまいました。

1-3.税理士からの指摘

翌年になり贈与税の申告※をしようと税理士に相談した際、思わぬ税金がかかってしまったという話をしたところ、税理士が「相続で不動産を移転した場合には、登録免許税は贈与の場合の5分の1ですし、また、相続であれば不動産取得税はかからないのです。しかもお客様の場合、自宅については小規模宅地等の特例を適用できるため、自宅を含めて相続しても相続税はかからなかったのですよ。今回は特に贈与をする必要はありませんでしたね」というのです。
妻に感謝の気持ちを伝えようと思ったのですが、妻のほうに思わぬ税金の負担を掛ける結果となってしまいました。

※贈与税の配偶者控除により贈与税がかからない場合であっても、控除を受けるには、財産をもらった年の翌年の2月1日から3月15日までに申告手続きが必要となります。

2.今回の事例が失敗となってしまったポイント

今回の事例で、良かれと思っておこなった配偶者贈与が失敗に終わってしまった主なポイントは以下の3点です

2-1.【ポイント①】贈与する前に、登録免許税や不動産取得税がいくらかかるか確認しなかった

失敗となってしまったポイントの一つ目は、贈与する前に、登録免許税や不動産取得税がいくらかかるか確認しなかったことです。

贈与により不動産を移転した場合には、贈与税が非課税であっても、登録免許税や不動産取得税がかかります。また、登録免許税や不動産取得税は相続による移転に比べて高くなります。
これらのコストを考慮しても生前贈与すべきかどうか、十分に検討することが必要です。

<所有権移転にかかる登録免許税の税額>

内容土地建物
相続による移転固定資産税評価額 × 4/1000
贈与による移転固定資産税評価額 × 20/1000

<不動産取得税の税額>

内容土地建物(住宅)
相続による
取得
非課税
贈与による
取得
固定資産税評価額 × 1/2(※1)× 3/100(※2)固定資産税評価額 × 3/100(※2)

(※1) 令和9年3月31日までに宅地等を取得した場合は、取得した不動産の価格に2分の1を乗じます。
(※2) 令和9年3月31日までの取得の場合。
(注) 新築住宅・一定の中古住宅の場合には、不動産取得税について軽減措置の適用があります。

2-2.【ポイント②】贈与する前に、相続税対策が必要かどうか確認しなかった

失敗となってしまったポイントの2つ目は、贈与する前に、相続税対策が必要かどうか確認しなかったことです。

Aさんは、「相続税対策が必要なのかどうかは全くわからないまま」に、「どうせ贈与税がかからないのだから」と、贈与をおこなってしまいました。結果として小規模宅地の特例を適用すれば相続税がかからなかったので、相続税対策は不要だったことがわかり、相続税対策どころか税金を多く払うことになってしまったのです。

相続税対策として生前贈与を行う場合には、事前に相続税の試算を行ったうえで、相続税対策が必要かを確認し、贈与を行うべきか慎重に判断する必要があります。
■辻・本郷相続ガイド 相続税の早見表

2-3.【ポイント③】知人の話を聞いて、税理士等の専門家に相談せずに実行してしまった

失敗となってしまったポイントの2つ目は、知人の話を聞いて、税理士等の専門家に相談せずに実行してしまったことです。

Aさんは、知人が「相続税対策のため妻へ自宅を贈与した」という話を聞いて、専門家に相談することなく、妻への愛情と感謝の気持ちから贈与を実行してしまいました。

置かれている資産状況や適用できる特例は家庭ごとに異なるため、知人のケースが自分にも当てはまるとは限りません。生前贈与や相続税対策を検討する際は、自己判断だけで進めず、事前に税理士などの専門家へ相談して最適な方法を見極めることが大切です。

3.解決策

今回のような失敗を防ぐための3つの解決策について解説します。

配偶者への不動産の生前贈与で後悔しないためには、事前にコストの試算と専門家への相談を行うことが大切です。

3-1. 相続と贈与、ご自身にとってどちらが最適かシミュレーションする

1つ目の解決策は、相続と贈与、ご自身にとってどちらが最適かシミュレーションすることです。

相続による移転と贈与による移転、どちらが最適かはケースにより異なります。

相続により被相続人の自宅を配偶者が取得した場合には、小規模宅地等の特例を適用することにより、土地の評価を最大330平米まで80%減額することができます。さらに、配偶者が相続により取得した財産については、配偶者の税額の軽減の特例を適用することにより、1億6,000万円または配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額までは相続税がかからない制度があります。
これらの特例を活用しても、自宅を生前贈与したほうが相続税の負担が低くなる場合には、贈与を検討するべきでしょう。 ただし、登録免許税や不動産取得税の負担額についても合わせて考慮する必要があります。
「贈与によって相続税がいくら減少するのか」、その代わりに「贈与によって登録免許税や不動産取得税がいくら増加するのか」を比較試算することが重要となります。

3-2. 贈与税以外のコスト(登録免許税・不動産取得税)を確認する

解決策の2つ目は、贈与する前に、贈与税以外のコスト(登録免許税・不動産取得税)を確認することです。

「贈与税の配偶者控除」を利用することで贈与税がかからない場合でも、登録免許税や不動産取得税といった不動産移転にかかる税金がかかります。

2-1.に記載の通り、これらの税金は、相続で取得した場合には贈与で取得した場合より安く済む、あるいは非課税になる可能性があるため、生前贈与すべきかどうかは十分に検討が必要です。

3-3. 贈与を実行する前に専門家に相談する

解決策の3つ目は、贈与を実行する前に専門家に相談するということです。

相続税やその他コストを試算した上で、相続と贈与どちらが最適なのかの判断を正確に行うには、専門的な知見が必要です。
不慣れな場合には、試算の誤りが生じ、思わぬ不利益につながる恐れがあります。

今回の事例のように、相続時に小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を適用すれば、そもそも相続税が発生しなかったというケースも少なくありません。
不動産の評価や税務上の判断には専門的な知見が不可欠です。判断に迷ったら専門家に相談し、事前に正確なシミュレーションを行うことで、予期せぬ税負担を防ぐことができます。

4.まとめ

本記事では、配偶者への居住用不動産の贈与で思わぬ税金がかかってしまった事例と、その失敗を防ぐための解決策を解説してきました。

「贈与税の配偶者控除」を利用した居住用不動産の贈与は相続税の生前対策として検討される方法の一つですが、登録免許税や不動産取得税など他の税金の負担を見落としてしまうと、結果的に税金の負担が増えてしまうリスクがあります。

「非課税だから」「知人がやっていたから」と自己判断だけで実行せず、事前に専門家へ相談してしっかりとシミュレーションを行ってから進めていきましょう。

本記事が、「贈与税の配偶者控除」の適用による生前贈与や相続税対策でお悩みの皆様の一助となれば幸いです。

辻・本郷 税理士法人の相続税申告サービス
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